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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十二章 魔法学校Ⅱ
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6

「いらっしゃいませー!」


 爺さんから指定された店に入ると、店員が元気よく挨拶をして出迎えてくれる。


「ただ……申し訳ございません。本日午後は臨時閉店でございまして……。」


 どうやら爺さんが気を利かして店を貸し切りにしてくれたようだ。これは都合がいい。エアル達に好き勝手やってもらえる。


「ミレンド商会長の指示でしょうか?呼んでいただけますか?この店に来るように言われています。」

「か、かしこまりした。アキ様でございますね。申し訳ございません。ただいま商会長を呼んで参りますので暫くお待ちください。」


 店員が慌てて爺さんを呼びに行ってくれた。


「アキさん!知り合いってミレンド商会長なの!?」

「え、うん。そうだけど。」


 ミリーが唖然としている。知り合いとしか言ってなかったので、店員と顔見知りとでも思ったのだろう。


「あ……もしかしてアイリーンベル王女殿下が言っていた白金貨35枚稼いだって本当なんですか……?」

「そうだよ?爺ちゃんと懇意にしていてね。ミレンド商会に商品を提供して得た収益だ。」

「ミレンド商会にアキさんの商品があるんですか!?す、すごいです!」


 エアルがあわわと口に手を当てて驚いている。


 そんなに驚く事かと思ったのだが、エアルの説明を聞いて納得した。なんでもミレンド商会はミレーでは相当有名らしい。大陸でみれば第3位の商会だが、ミレーだけでみると第1位なのだとか。そして服飾でのし上がった商会だからか、女性社会のミレーではもの凄く愛されていて、ミレンドの服を着るのが最高のステータスなんだとエアルが力説してくれた。


「まあ私じゃ買えないんですけどね……。」


 残念そうな顔で呟くエアル。


「まあまあ、大丈夫。割引頑張らせるから。ね?」

「は、はい!」


 そんな悲し気な表情をするのはずるい。店ごと買ってあげたくなってしまう。


 しかしさすがミレーでは大人気の商会というだけはある。この建物自体、かなり広い。こじんまりとしたコンビニ程度の個人商店が多い中、この店は4階建てで各階の敷地面積がちょっとしたデパートくらいの広さがある。そして1~3階が全て商品で埋め尽くされているらしい。圧倒的だ。あのジジイ、儲け過ぎだろう。独禁法に引っ掛かってしまえばいいのに。


 ミレンド商会の相変わらずの規模に呆れていたら、くだんの商会長のジジイがやっと姿を見せる。


「おお、アキ。待っておったぞ。その子らがアキの新しい恋人かの?」

「ちげえよ、ジジイ。開口一番に誤解招くこと言うな。」


 エアルとミリーが赤面しているのでやめてやれ。


「ほほほ、その子らは満更でもないようじゃがな。」


 爺さんに言われ2人を見ると、可愛らしく上目遣いでアキを見つめていた。そして目が合った瞬間、頬を染め、視線を逸らされる。おかしい。フラグを立てた覚えはこれっぽっちもないんだが……。


 とりあえずエスタートにエアル達を紹介する。


「エアルとミリー。俺の教え子だ。ほら、魔法学園で講師をしてるからな。」

「ほほ、なるほどの。よろしくな、嬢ちゃん達。」


 エアル達は丁寧にカーテシーをし、簡単に自己紹介をする。これで一応面通しは終わった。この子達も早く買い物をしたいだろうし、さっさと話を進めよう。


「この2人、ミレンドの服が相当好きみたいだから貸し切りは助かるよ。俺と爺ちゃんが話してる間、好きに店を見てもらってもいいか?」

「ああ、もちろんじゃ。イリアナを付けよう。」


 爺さんの後ろに立っていたイリアナが一礼する。


「アキさん、ごきげんよう。お久しぶりです。アリアさんを捨てて私に乗り換える覚悟は出来ましたか?」

「イリアナさん、こんにちは。そして何言ってんだこの駄メイドが。お前は絶対にいらん。」


 アリアにも勝るとも劣らない毒舌っぷりだ。「酷いですわ」とわざとらしく嘘泣きしているし、イリアナは相変わらずのようだ。


「やれやれ……。とりあえずこの子達が欲しい物、欲しそうにしてる物があったら集めておいて。そこからどれを買うか彼女達が厳選するから。イリアナさん、彼女達に遠慮させないよう頼むね。」

「かしこまりました。」


 イリアナは姿勢を正し、アキに一礼する。卒の無さも相変わらずだ。


「アキさん……本当にいいんですか?私そんなにお金ないですよ?」

「エアル、全部買うわけじゃないんだからとりあえず好きな物を選べばいい。せっかく貸し切りにしてもらっているんだしね。」

「そ、そうですね。買うかどうかは別ですもんね。頑張ります!」


 エアルはガッツポーズして気合を入れている。


「ミリーもね。選ぶだけならタダなんだし。ミリー達がどんな服が好きなのか知りたいからいっぱい選んでくれ。」

「そういうことね。それなら、うん。選んでみるね。」


 これで2人は大丈夫だろう。後はイリアナに任せておけば上手くやってくれるはずだ。






 アキは爺さんに連れられ、建屋の4階にある応接室にやって来た。おそらく商談などに使われる特別な部屋だろう。ここなら階下にいるエアル達にも話を聞かれる心配はない。


「やれやれ、からかわないでよ。」

「ほほほ、毎回違う可愛い子を連れてるんじゃ。からかいたくもなるわい。」

「ただの教え子だよ。後、彼女達を隠れ蓑にしてここに来る為だね。」


 言うまでもなく爺さんならわかっているだろう。


「じゃろうな。まったく罪な男よの。」

「埋め合わせはするさ。しかし1日しか経ってないのにさすが爺ちゃんだな。」


 さっさと本題に入ろう。あまりエアル達を待たせたくない。


「今回は結構強引な手を使ったからの。まぁ、金をばら撒けばすぐじゃよ。」

「かかった分は出すから言ってくれ。」

「構わん。どうせあっても使い切れない金じゃ。孫の為に使わせてくれ。」


 爺さんが孫を見るような目でアキを見つめてくる。こういう時は何を言っても無駄だ。それなら爺さんが最も言って欲しい言葉を言ってやろう。


「ありがとう。爺ちゃん。」

「うむ!それが聞ければ満足じゃ!明日からも頑張れそうじゃわい!」


 相変わらずの好々爺に苦笑するアキ。


「早速本題を頼む。」

「ああ。結論から言うと外套の人物と接触できると思うぞ。」


 さすが爺さんだ。まさかこんなに早く手を回してくれるとは思わなかった。


 どんな方法を使ったのかと聞いたところ、まずレスミアの貴族でアイリスの統治に反感を抱いてる者や野心が強そうな者がいないかを徹底的に調べたという。金をばら撒いて、足がつかないように。幸いにも数名そういった人物が見つかり、爺さん自ら商談を持ち掛ける振りをして接触したらしい。


 そしてその中の1人が単純で思慮の浅い人間だったらしく、現在はその人物が王家転覆を狙っているという噂をミレンド商会の人脈を使って街に流している。つまりその噂を聞きつけた黒幕が王家暗殺計画を持ちかける為に接触してくるだろうとの事。


「だからその貴族を見張らせておるのじゃよ。」


 爺さんは近日中に接触があると予想しているらしい。そして屋敷に不審者の出入りがあったらすぐに連絡が来る手筈にしてあるのだとか。さすが爺さんだ。


 外套の人物はおそらく王族襲撃を仄めかす為、ある程度の時間は交渉で屋敷にいるだろうから、出てくるところを押さえれば接触は確かに容易だろう。


「1日でそこまで出来るとかミレンド商会の力が怖いわ。」

「ほほほ、大商会ともなれば余裕じゃ。動かせる人間も大量におるでの。」

「ありがとう。連絡が来たらすぐに言ってくれ。俺が直接接触して話をする。」


 アキの言葉にエスタートは眉をひそめ、難しい表情を浮かべる。危険だからやるなと言いたいが言えないといった顔だ。


「俺じゃないと出来ない事だ。俺の予想が合っていて、話さえ聞いてくれれば説得出来る自信はある。予想の方は十中八九合っているだろうから、一番の問題はどうやって話を聞かせるかだな。」

「何か考えがあるのか。」

「爺さんにだけは言っておく。後、アイリス女王と俺のペットには計画上話す必要があるから伝える。だがそれ以外には言うつもりはない。」


 アキは計画の一部始終をエスタートに説明する。


「お主はまたそういうことを……はあ……知らんぞ?また怒られるぞ?」

「まあ今回は彼女達に手を汚させるわけじゃないから大丈夫だ。」


 アキはそう言うが、爺さんはやれやれと呆れ顔だ。


「わかったが、死ぬんじゃないぞ。死んだら許さん。絶対にな。」


 爺さんがいつになく厳しい口調だ。


「ああ、当然。ちゃんと手は打つ。アイリス女王だけじゃなくもう1人……頼りなる俺のペットがいる。今回この計画に彼女を入れているのは俺が死なない為の保険だよ。」


 勿論エリザの事だ。彼女なら快くアキの力になってくれるだろう。だから安心してこの計画を実行出来る。


「わしも出来る限りの手は回す。何かあったら言うがいい。」

「頼りにしているよ爺ちゃん。それじゃそろそろ下に戻ろうか。」


 アキとエスタートは話を切り上げ、エアル達のところへ戻る。彼女達は一体どんな服を選んだのだろう。今はそれを心行くまで楽しむ事にしよう。

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