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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十二章 魔法学校Ⅱ
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1

「おはよう、俺の猫。今日も尻尾は元気か?」


 学園長室に入って爽やかな朝の挨拶をする。


「来て早々何言ってるのよ!大体、貴方の猫じゃないから!尻尾は元気!」


 何故かちゃんと律儀に答えてくれるエリザ。




 


 魔法学校講師生活2日目。アキは魔法学校に到着し、学園長室へ来ている。昨日と同じように、午前中はエリザと魔法談義、午後は授業という予定だ。


 今日からはいよいよ本格的な生徒達への講義。何をどう生徒達に教えるかはこれからエリザと決める。おそらく燃焼などの物理現象、基本的な原子論になるとは思うが、あまり複雑な化学物質や物理法則についてはエリザでも理解しきれないかもしれない。つまりその辺りをどう噛砕いて生徒達に教えるかが鍵となる。


 まあ……まずはエリザに教えてみてから考えるか。


「アキ君、早く教えて頂戴!今日から私も無詠唱の使い手よ!」


 エリザは待ちきれないようで、尻尾をばったばたと荒々しく振ってはしゃいでいる。朝っぱらから元気な猫だ。


「出来なくても落ち込むなよ?」

「大丈夫よ!これでも私は学園長よ!皆のお姉さんなのよ!私の威厳みせてあげる!」


 自信満々のようだが本当に大丈夫だろうか。エリザは決して馬鹿ではない。ミルナよりは魔法の理解力もあるとは思うが果たして。


 とりあえず原子論からなる燃焼の仕組みをエリザに説明してみよう。この猫さんは「お姉さんの威厳」とやらを無事見せつけることが出来るのか。乞うご期待だ。


「じゃあまず炎に関する現象理解から説明する。」






 出来るわけがなかった。


「お姉さんの威厳とやらはどうした。」


 エリザが半泣きでいじけている。元気だった尻尾もすっかり意気阻喪のご様子。


「わ、わからない……?この私が……?」


 エリザは俯いてぶつぶつと何かを呟いている。燃焼に必要な4つの要素に加え、基本的な原子論を教えただけなのに……このざまだ。


 しかしもう時間はお昼前。生徒達に教える内容の打ち合わせも出来ていない。つまりこの猫にはさっさと復活して貰わないと困るのだ。


「おい、バカ猫。さっさと復活しないと思いっきり尻尾引っ張るぞ。」


 反応がない。いつもならアキの暴言にはすぐに食って掛かってくるのに、その元気すらないらしい。少し強硬手段を使うしかないだろう。あまりやりたくない方法だが……いや個人的にはもの凄くやりたい。だから遠慮なくやろう。


 アキは手をそっと伸ばして、エリザの尻尾を掴み、軽く引っ張る。


「にゃああああ!?な、な、な、なにするのよ!」


 あ、今「にゃ」って言った。やっぱり猫だから驚いたら言うのだろうか。とりあえずせっかく掴んだのだし、そのままエリザの尻尾を愛でる。レオの尻尾とは違う触り心地で、これはこれで気持ちがいい。レオのはもふもふしているが、エリザのはふさふさという感じだ。


「ア、アキ君!ダメ・・!し、尻尾はダメよ!やめて……っ!」


 エリザは正気には戻ったが、反応が可愛いし、もう暫くこの尻尾を堪能しよう。やめてとエリザが懇願してくるが気にしない。それに尻尾を触られると力が抜けるのか、あまり抵抗してこない。ただ意外に気持ちよさそうにしているので、もしかしたら抵抗出来ないのではなく、しないだけかもしれない。


 そろそろいいかとアキは尻尾から手を離す。十分に彼女の尻尾を堪能し、満足した。


「うむ、素晴らしきかな。やはり俺のペットはいい尻尾をしていなければ。」

「ペ、ペットじゃないわよ!何勝手に触ってるのよ!アキ君!」


 今度は頬を染めながらぎゃーぎゃー文句を言ってくるエリザ。いや、にゃーにゃー文句を言ってくるエリザ。


 しかしさっきまで意気消沈していたのに忙しい猫だ。とりあえず大事な事聞こう。


「『にゃ』って言ったな。もっかい言って?」

「言ってないし、言わないわよ!それのどこが大事な事よ!」


 この猫が復活はしてくれたのはいいが、今度は落ち着かせないといけないらしい。まあ原因は自分にあるのでしょうがないだろう。


「もう昼前なのに午後の話が出来てなかったからな。尻尾触ったのは……ごめん。でも触り心地はやっぱり最高だな。気持ちよかったよ?」

「そ、そんな感想は聞いてないわよ!」


 余計な事を言い過ぎた。


「嫌だった?」

「べ、別に。私も悪かったから特別、特別に許してあげるわよ……。」


 尻尾の揺れ方から彼女の言葉を翻訳すると……。


「つまり『気持ちよかったので偶になら触っていいわよ。』ってことだな。」

「ち、違うわよ!こ、この尻尾!勝手に動くんじゃない!」


 エリザが自分の尻尾を掴んで動かないようにと必死に抑えている。図星を言われ、動揺しているのを必死に隠そうとしているようだ。ただ結局は尻尾が手の隙間でぴくぴく動いているのであまり意味はない。


「さすがみんなのおねーさんですねー。」

「棒読みで言われても嬉しくないわよ!」

「わかったから落ち着け、エリザさん。」


 少しやり過ぎたか。いい加減エリザで遊ぶのはやめよう。


「ご、ごめんなさいね。ちょっと取り乱したわ。」


 今の取り乱し方をちょっとって表現するエリザはある意味凄い。しかし腹も空いて来たし、とりあえず話を進めよう。


 生徒達に教えるのは今と同じ内容でいいのかエリザに確認する。勿論さらに噛砕いて簡単にしたものを丁寧に教えるつもりだが。


「エリザさんだから特に考えないで教えたけど、さすがに生徒には難しいと思うんだよね。もう少しわかりやすく、簡単に説明すればいいかな?」

「え、ええ!確かにそうね!私だから理解できたけど!生徒には難しいわ!」


 お前も理解で出来てないだろうがと突っ込みそうになったが、これ以上話をややこしくしても仕方がないので言わないでおいた。しょうがない猫だと呆れる。


 そんなエリザは手を顎に当て、悩むように「あれをさらに簡単に?」などとぶつぶつ呟いている。だがアキが見ている事に気付いたのか、エリザはハッと顔を上げ、慌てて体裁を取り繕うように宣言してくる。


「教える事はアキ君にまかせるわ。この私でも完全には理解しきれないものだから私は判断できないと思うの。ま、まあ大体は!大体は理解したけどね!」


 意地でも全くわからなかったと言いたくないらしい。まるでミルナを見ているようだ。ともかくエリザが判断をアキに任せると言うのであれば、それに異論はない。生徒達には現象理解を教えつつ、無詠唱へ繋がる手順や魔法の使い方を指導する方向でいいだろう。


「じゃあ今日はエリザさんに教えた燃焼原理にするよ。」

「わかったわ。それでいいわよ。今日から多分見学する生徒や教師もいるだろうから気にしないであげてね。」


 確かにエリザはそんな事を先日も言っていた。まあ別にそれは問題ない。


「じゃあお昼にするわよ。昨日と同じく食堂でいいかしら。」

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