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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十一章 魔法学校I
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10

 とりあえず猫さんを持って帰るのは諦め、ベルを連れて学園長室から退出する。うちの王女様がどうしても一緒に帰ると言って聞かなかったので、アイリスとはここで別れる事にした。


「いいのか?国務は。」

「ええ、アイリス女王ならわかってくれます。さ、帰りますよ?アキさんと2人きりじゃないのがちょっと不満ですが……。」


 ベルが後ろをチラッと見て小さく溜息を吐く。


 そう、アキ達の後ろにはエアルとミリーがいる。アキとベルの後を追うように、エアル達が気まずそうな表情でついてくる。彼女達は約束通りアキを待っていてくれたのだが、流石にエスぺラルドの王女と帰る事になるとは露程も思っていなかったらしく、さっきから表情が硬い。まあ当然だろう、アキもベルがいるとは思わなかったのだから。


 しかしこうなったからには仕方ない。エアル達には申し訳ないが、ベルを今更1人で帰らすのも嫌なので、とりあえず4人で帰ることにする。


 アキ達は学園前に停まっていたベルの馬車に乗り込み、屋敷へと出発した。さすがにベルが一緒なので徒歩ではない。ベルの馬車に相乗りさせて貰う。ただ馬車に乗ってからも、エアル達の緊張は中々解けないようで、居心地が悪そうにもじもじしている。


「2人共、この腹黒王女の事は気にしなくていい。ただの人形だと思え。性格の悪い我儘な人形だと思えばたいして気にならないぞ。」


 アキは気にするなとアドバイスをするが、効果は無いようで、エアルとミリーは「無理です」と必死に首を左右に振っている。今日から屋敷で訓練する事になるのだからベルの存在にも慣れておいてもらいたいが、やはり直ぐには難しいのだろう。ちなみに闘技大会の時に王女ではないベルの姿は既に彼女達に見せているので、ベルは王女の仮面を被る気は一切ないらしい。


「ばか!ばか!」


 アキが余計なアドバイスをしたばかりに、ベルがすっかり拗ねてしまった。


「でもちょっと我儘ですぐに拗ねる、可愛いベルが俺は好き。」


 そう言ってベルを優しく撫でる。こうやってちょっと甘やかすだけで直ぐに機嫌が直るのだからチョロい王女様だ。


「えへへ、そうですか?ならこれからもいっぱい拗ねますね。」


 やっぱり直った。







 そんな話をしていたら馬車が屋敷に到着した。早速別館の玄関を入り、リビングへと向かう。ミルナ達が当然のように全員揃っている。


 リビングに入った瞬間、アキが帰って来たのを見て嬉しそうな顔をするミルナ達。だがエアルとミリーの姿も見つけ、完全に目からハイライトが消える。


「アキさん、お話ですー!」

「ふふ……初日で本当に2人も落としてくるとはさすがですわ。」

「ほんとにほんとに!死ね!こ、この変態!」

「アキ、僕は本当に悲しいよ?」


 うちの子達が定形文と化したセリフでアキを出迎えてくれた。いや、罵ってくれた。


「まあ、とりあえず話を聞け。」


 アキはとりあえず言い訳する。この子達が納得するとは到底思えないが、一応ダメ元で、彼女達を屋敷に連れてきたのは訓練と交流の為だと伝えてみる。


「アキさん、見苦しいです。言い訳ですか?」

「言い訳は男らしくないのだ!」

「もう本当に耳禁止……!1時間だけ禁止!」


 今度はアリア、エリス、セシルが口々に文句を言ってくる。やはりこれはもう諦めるしかない。まあしばらくお話に付き合ってあげれば満足するだろう。


 エアルとミリーにまた少し待っててくれと伝える。この2人は客人だからあまり待たせたくないのだが、仕方ないだろう。こうなったうちの子達はもう止まらない。エアルとミリーはミルナ達のただならぬ気配に驚いていたが、彼女達のアキを見る目で全てを察知してくれたらしい。さすがSランクの洞察力。というより乙女としての洞察力かもしれない。エアル達の目が何故か輝いている。


「待ってください。アキさんは本当に皆さんの為だけに彼女達を連れてきたのです。皆さんも他意が無い事はちゃんとわかっているのでしょう?ちょっと拗ねたいだけなんですよね?」


 ベルが女神に見える。まさかベルがお話回避してくれるとは思わなかった。彼女に言われてうちの子達も不承不承ながら納得しているし、さすがうちの王女様だ。


「ただ生徒は落とさなかったようですが、学園長を落とす……というかペットにしようとしていましたね。尻尾をやたら見ていましたし。」


 やっぱりベルが悪魔に見える。余計な事を付け加えないで欲しい。やめなさい。それは別に言う必要ないだろう。


「おいベル、やめろ。」

「アキ、ちょっと待ってね?」

「です。王女様に最後まで言わせてあげてくださいね。」


 ベルを何とかして止めようとしたのだが、レオとセシルに両腕を掴まれ、捕獲された。必死の抵抗むなしく、アキは2人の威圧感に屈してしまう。普段大人しい子達が怒ると怖い。しかもレオなんかは静かに怒るからめっちゃ怖い。


「ええ、アキさんはエリザ学園長にペットになれと言ったそうですよ?なんでも兎と狼はいるけど猫はいないからと。猫は俺に必要だと。それに女王陛下から命を救ったお礼に学園長をあげると言われ、欣喜雀躍しながらあの猫を連れて帰ろうとしていましたね?」


 ベルの言葉を聞いたうちの狼と兎が、掴んだままのアキの両腕を、潰すと言わんばかりの力で握り締めてくる。痛い。そして2人の尻尾と耳の動きが荒々しさを増しているし、相当お怒りのようだ。レオとセシルは獣人が増える可能性がある時だけやたらと不機嫌になる。困ったものだ。


「ふふ、アキ?何が『困ったものだ』なのかな?ちょっと座ってね?」

「そうですよ?アキさん、座ってくださいね。」


 ミルナやソフィーが入ってこられない程の迫力を獣人組が放っている。普段なら逆なのに、今日ばかりはレオやセシルの威圧感が凄い。


 もちろんアキが何を言っても許してもらえる訳もなく、30分くらいエアル達を待たせる羽目になってしまった。まあでもレオとセシルだからこの程度で済んだとも言える。最終的には「アキのバカ、でも尻尾撫でてくれたら許してあげる」とレオには言われただけだった。そしてセシルもなんだかんだアキには甘い。「2時間耳禁止!その後に兎耳を愛でてください!」だけでいいらしい。罰どころかアキにとってただのご褒美になっている。結局2人はただただ文句や愚痴を言いたかっただけらしい。相変わらずちゃんとお説教がすることを知らない狼と兎さんだ。


「でもなんか疲れたよ……。エアル、ミリー訓練しておいで……俺は少し休むよ……。」


 とりあえずエアル達には先に訓練してくるようにと伝える。アキは一息入れてから合流するつもりだ。


「大体アキさんの自業自得な気がします。」

「そうよ……でもみんなアキさんを慕っているのね。」


 エアルとミリーが「お話」疲れしているアキを見て楽しそうに笑っている。


「光栄なことにね。」


 やれやれとアキも苦笑する。しかしこれで今日の「お話」も乗り切れた。あとはいつも通り訓練してだらだら過ごすだけだ……と気を抜いた瞬間、エアルがまさかの爆弾を投下してきた。


「あっ……アキさん、講義中に私の下着を見た事は黙っていたほうがいいですか?」


 このやろう。何が「あっ」だ。絶対わざとだ。エアルの顔がにやにやしている。ここで深紅と呼んだ事への仕返しをしてくるとは。


 覚えておけよと睨むが、知りませんとどこ吹く風のエアル。


「「「「アキー!」」」」


 うちの子達が烈火のごとく怒る。当然「お話」はアディショナルタイムに突入、さらに数十分間拘束された。

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