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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十一章 魔法学校I
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9

「今まで話した事は事実や提案でしたが、ここからは全て俺の推測になります。多分1つは凄くエリザさんの興味を引くと思うよ。そして今まで以上に不味い話も入ってきますので……本当に口外無用で。」


 まずはオリハルコンの役割が大気魔素の直接利用である可能性が高い事を説明する。さらには大気魔素で出来る事、そしてその力をアキなら容易に引き出せる事を、アキが迷い人であるという事実と併せて伝える。アイリスとエリザであれば明かしても大丈夫だとアキは判断した。


「だからアキさんはこれだけの知識を……凄いですね。」

「確かに口外できないわね……。いくら魔法バカの私でも。」


 アイリスとエリザは驚き、そして大気魔素の可能性に顔を強張らせる。エリザの尻尾が逆立っていることから相当緊張しているのだとわかる。


「エリザさん、気づいてた?朝の話し合い、わざとエリザさんを動揺させて現象理解や魔法談義の話に入らなかった事。アイリス女王と話をしてからじゃないとどこまで話すか決められなかったんだよね。」

「あ……そういう事だったのね……私もまだまだだわ。でもアキ君の判断は正しいわね。確かに魔法組合の事がわからない以上、そんな情報を私に与えるわけにいかないもの。」


 エリザは一切怒る事なく、アキのとった行動に納得してくれた。魔法組合を疑っていたことも全く気にしていないようだ。寧ろ「大丈夫、組合は私が抑えるし、問題ないわ。情報統制も私のほうでしておくから組合の事は気にしなくていい。」とまで言ってくれた。もう組合の事は完全にエリザに任せてしまえば大丈夫だろう。


「じゃあ次、ベルとアイリス女王が襲われた件について。」


 黒幕が王家を狙っている理由、それは魔獣政策をよく思っていないから、というアキの推測を伝える。勿論アキがその人物に接触したいと考えている部分は省いたが。


「なるほど、筋は通っていますね。私達の性格や人間性を知らないのであればその手段も納得いきます。そもそも王家が不甲斐ないせいです、狙われても仕方がない。」


 アイリスが目を伏せてどこか悲しそうに呟く。


「わかるわアキ君。もし私が女王陛下の事を知らないで魔獣政策の事だけ聞いたらきっと王家には負の感情を抱いたもの。女王陛下……申し訳ございません。」

「いいえ、エリザ。貴女の感情は正常な物、不敬ではないから安心しなさい。」


 この人達はやっぱり真面目で立派な統治者、指導者だ。地球の政治家達も彼女達のような人間ばかりだったらもっといい世界になっていた気がする。まあ今となってはどうでもいい事だ。


「ここまでの話しを踏まえると、イリアの件を調べる、というのが次の行動として最適だと思うんです。勿論うちの子達の目的の為というのもありますが、改革を進めるにあたり、この件は避けて通れないでしょう。彼女の依頼には不可解な点が多い。」


 イリアについてアイリスとエリザに説明する。イリアがミルナ達に告げた事、爺さんやベルが調べた事。そして何故自アキ達がミレーに来たか。


「アイリス女王。教えてください。ミレー王国はイリアに依頼しましたか?」


 最重要の確認事項をアキは尋ねる。この話し合いではこれさえ聞ければ問題ないとすら思っていた程だ。これで色々と謎が解ける。アイリスの答えは果たして……。


「……いいえ、していません。協会が勝手に何らかの討伐依頼を発行している可能性は0ではないですが、そもそも月夜の森で強大な魔獣発生したとの報告は一切受けていません。つまり月夜の森での依頼をミレーが発行していないのは確実です。」

「やっぱり想像通りか。イリアの依頼はやはりサルマリアかリオレンドだろうね。それか冒険者協会。ベルはどう思う?」

「ええ、私もそう思います。」


 ベルが小さく頷く。


「俺の勘だけど鍵は冒険者協会な気がする。何か知ってそうだな。」

「はい、その可能性が高いと私も思います。」


 やはり一番手っ取り早いのは、くだんの外套の人物に接触し、協力を取り付ける事だ。黒幕であればアキが知らない情報を知っている可能性も高い。ただそれが出来るとは限らないので、接触出来なくても問題のない計画を考えておく必要もある。


「とりあえず現段階で出来る事……ミレー、エスペラルド王家から冒険者協会を調べる事かな。ミレーはアイリス女王、エスぺラルドはベルにお願い出来るかな?後は魔法組合からも各国の情報は得られるか……。エリザさん頼める?そして俺達は爺さんと連携しつつイリアの情報を街中から収集というのが現実的か。」


 アキの提案に3人は問題ないと同意してくれた。これで大体必要な事は話せただろう。今後の方向性もとりあえずは決まったし、上々だ。

 

 そろそろ話を締めくくろうかと思ったが、1つ聞いておくべき事を思い出した。このメンバーなら聞く意味はある。丁度いい。というよりベルにはとっくに聞いておかなければならなかった事だ。


「アイリス女王陛下、ベル。大事な事を聞いていませんでした。エスペラルド、ミレーからオリハルコンが消失したという記録はここ最近、又は290年以内にありますか?俺の世界に転送されたオリハルコンがあるという事はこの世界から消えているはずです。各国の紋章が入ってる時点で間違いないでしょう。」

「確かに……我が国ミレーではそのような報告はありません。」

「失念していました。アキさん、ごめんなさい。エスペラルドでもそのような史実はありません。」


 ベルは謝るが、アキが忘れていた事だ。彼女に落ち度はない。


 ただやはり両国ではそのような事実は無いらしい。王家が把握しているオリハルコンの所在は全てわかっているとのことだ。


「となると残りの2ヶ国か……。それかアイリス女王やベルが把握してないオリハルコン。冒険者協会所有のものとかね。考えにくいけど可能性は0じゃない。」


 まあそこはベルやアイリス経由でうまく探りを入れて貰えばいいかもしれない。


「探りをいれてみます。」


 アキの思考を読んだのか、何も言わずともアイリスが提案してくれた。


「ありがとうございます。じゃあその方向で行きましょうか。とりあえずどんな小さな情報でも共有していきましょう。イリアの件を調べつつ、どうやって魔獣制度を廃止させるのがいいのか決めます。邪魔が入ってもあれなので、まずは王家襲撃の件を片付けないと駄目でしょうけどね。」

「異論はありません。」

「私もないです。」

「ええ、私もないわ。」


 アイリス、ベル、エリザが頷く。これで重要な話は大方終わりだ。


「じゃあこの話はここで終わりとして、エリザさん……。」


 最後にエリザには確認しておくべきことがある。超重要な事を。


「何かしら?」

「尻尾触っていい?」

「な、なんでいきなり!?だ、だめよ!それのどこが超重要なのかしら!」


 本当は別の事を聞きたかったのだが、気づいたら口に出てしまっていた。でもしょうがないだろう。エリザの尻尾がずっと可愛くぱたぱた揺れていて気になっていたのだから。


「アキさんのばかっ!」


 ベルにおもいっきり脇腹を抓られた。


「いきなり斜め上の話に飛ばないでください……。」


 アイリスはアイリスで完全に呆れている。


「エリザさん、ごめん、つい。本当に聞きたいのは魔法学校と組合について。」

「ま、全くもう……それで、何を聞きたいのかしら?」

「オリハルコンの話を聞いたエリザさんはどうしたい?」


 魔法バカのエリザにしてみれば、喉から手が出る程に欲しい知識だろう。


「そうね……うん、大気魔素の直接利用は封印すべきね。もちろん使えるに越した事はないわ。でもそれをするとこの世界が終焉を迎えるかもしれない。そんなリスクを背負ってまで私は知識を欲しくないもの。でもアキ君の現象理解の理論や魔法技術だったら問題ない。そっちは教えて欲しいわ。ダメかしら……?」


 エリザならそう言ってくれるだろうとは思っていた。予想通りの回答で安心するアキ。この猫さんは大丈夫だ、信頼出来る。ならば明日からは遠慮なくエリザが知りたいことを教えてあげればいいだろう。


「ダメじゃない。エリザさんが知りたい事ならなんでも教えるよ。」

「やった!また今日も寝られなさそうだわ!」

「でもエリザさん、俺はこの現象理解の知識、生徒にはどこまで教えるべき?」

「ああ、その問題があったわね……気軽に依頼しちゃったけど思ったより大きな話だから悩むわ。どうしようかしらね……。」


 オリハルコンの部分さえ除けばアキの知識は全て教えても正直問題ないだろう。何故なら、生徒達がアキの魔素知識を全て吸収したとしても、体内魔素で出来る事には限りがある。もし大気魔素の直接利用の可能性に気付いたとしても何も出来ない。出来るならとっくに魔法組合がブレイクスルーを起こしているはずだ。


 単純にアキが危惧しているのは、生徒達がどこまで話について来られるのかという点だ。現象理解の授業したとしても原子理論なんて理解出来るわけがない。1週間という限られた時間で生徒達に何を教えるべきか……それが何よりの難問だ。


「ベル、アイリス女王はどう思います?」

「魔法の事はよくわからないので……アキさんに任せます。いつも頼ってばかりでごめんなさい。ごめんね?」


 アキは何気なく尋ねただけなのに、ベルは申し訳なさそうに上目遣いで見つめてくる。これはずるい。めっちゃ可愛い。


「私もその辺りは疎いのでエリザと話して決めてはどうでしょうか。」


 アイリスも特に良案はないらしい。だが確かに彼女の言う通り、エリザと話して決めるが一番だろう。


「エリザさん、じゃあ明日の午前中に教える情報の取捨しようか。それより良案ないよね、今のところ。」

「ええ、そうね。とりあえずその方向でいいと思うわ。」

「よし、じゃあ今日はこれくらいで解散しようか。エアルとミリーをあまり待たせるのも悪いからね。」


 アキは話を締め、ソファーから立ち上がろうとしたのだが、袖口をベルに捕まれ、無理矢理座らせられる。


 そして小さく呟くベル。 


「アキさん……?どういうことですか……。」


 いつものように優しく微笑んではいるが、目が笑っていない。めっちゃ怖い。うちの王女様怖い。でも誤魔化しても仕方ないので正直に告白する。


「屋敷に連れてく約束した。」

「ふふ、初日で2人も落としますかそうですか。」

「違う違う。Sランクの2人をうちの子達の訓練相手にと思ってね。それにエリスともやらせればエアル達の実力も伸びるだろ。ミレーのSランク冒険者との交流を深めておくのも悪くないと思ったんだけど……ダメですかベルさん。」

「あらあら、言い訳はそれだけですか?」


 駄目らしい。これはもう何を言ってもうちの王女様が納得するとは思えない。諦めてお話に応じてやるしかないか……と思ったのだがアイリスがくすくす笑いながら口を挟んできた。


「ふふ、アイリーンベル王女殿下は本当にアキさんの事が大好きなんですね?」

「ち、違います!こ、これはその!その!ち、違うんです!」


 顔を真っ赤にして慌てて否定するベル。助け船がまさかのアイリスからくるとは思わなかった。まあアキを助けると言うよりベルを揶揄う為に会話に入って来た感じではあるが。


「ベル、他意はない。わかってるだろ?」

「知ってます……ちょっと、ちょっと拗ねて見ただけだもん!」


 ベルが可愛らしくそっぽを向く。エリザとアイリスはベルの乙女らしい一面に苦笑いだ。


 しかし今度こそ本当に帰ろう。


「俺にはベルやあの子達がいる。だからこれ以上いらない。この猫以外は。よし帰るぞ。」


 アキはそう宣言し、エリザの腕掴み、屋敷へと連行する。


「ち、ちょっと待って!なんで引っ張るのよ!なにするのよ!」

「うるさいぞ!俺のペットを連れて帰るだけだ!」

「誰がアキ君のペットよ!ペットじゃないわよ!なんでアキ君は尻尾とかの時だけやたらと感情的になるのよ!もっと他に力をいれるところあるわよね!こらっ!や、やめなさいってば!」


 エリザが頬を染めながら必死に抵抗してくるので、聞き分けの無い猫を優しく諭してやる。


「エリザさん、癒しって大事なんだよ?」


 そんなこともわからないとはしょうがないなこの猫は。大事な事を本当に何もわかっていない。癒しの大切さを小一時間ほど語る必要がありそうだ。


「しらないわよ!女王陛下!助けてくださいませ!」


 アイリスに助けを求め始めるエリザ。だが肝心のアイリスは指を顎に当て、考え事をしている。そしてなにやら妙案を思いついたのか、柏手を1つ打ち、提案してきた。

 

「そうですね。エリザでよければ女王権限でペットに差し上げましょうか?命を救って頂いたお礼もまだでしたし、いかがでしょう?」

「さすがアイリス女王、ありがたく頂戴します。」


 確かに襲撃者を退治した礼くれると言っていた。アイリスの素晴らしい提案に感謝し、アキはさらに強くエリザの腕を引っ張る。女王の許可を貰えたからにはちゃんと連れて帰るしかない。ペットの面倒は飼い主が最後まできちんとみなければならないのがこの世の摂理だ。


「なんで!?女王陛下!そんな!いやよ!私はおねーさんなの!おねーさん!ペットじゃないの!」


 エリザがいやいやと必死に叫ぶ。


 結局最終的にこの茶番を止めたのはベルだった。


「アキさん?やはりいい度胸してますね?今日のお話は長いですよ。覚悟しなさい。私は怒っています。」

「えー、お話されるんならこの猫持って帰る。」

「持って帰ったら捥がれますよ?」


 それもそうだ。一理あるどころか間違いない。癒しが捥がれるのは嫌なので、アキは諦めてエリザを離す。残念だがこの猫さんを持って帰るのは無理だ。


「捥ぐ!?捥ぐってなによ、何を捥ぐの!」

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