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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十一章 魔法学校I
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8

 アキはエリザに各国がひた隠しにしてきた魔獣制度の説明をする。


 まずはアキが何故この機密に気付いたのかを語る。エリザに犯罪者が存在しない矛盾を指摘、そしてそれに対するSランクの役割、さらには魔獣と冒険者の関係性を各国の歴史と共に伝えた。


「言われてみれば確かにそうね……アキ君よく気づいたわね。」

「そういうのは得意だし、うちの子達の依頼だったからね。とりあえず次。ここからは王家か閲覧禁止文献を見た者しか知りえない情報だ。」


 イリア関連の情報を収集している過程で、魔獣の秘密は立ち入り禁止エリアに繋がるという事をアキは突き止めた。そしてベルと出会い、全ての真実を知る事になる。魔獣が存在する意味、立ち入り禁止エリアの意味。さらにはオリハルコンの役割やSランクの存在意義。


 そこまで説明してアキは一旦言葉を区切る。エリザはかなり驚きつつも、神妙な面持ちだ。まあこんな話を聞いたら当然の反応だろう。尻尾も緊張しているかのようにピンッと直立している。


「この情報を知る為だけにSランクになった。それと同時にベルとも出会い、彼女の考えを聞いた。」


 言い終わると同時にベルの方をチラッと見ると、彼女は静かに目を伏せた。全て話して問題ないですよという合図。アキはベルの魔獣制度に対する考えを口にする。


「ベルはこの制度をよく思っていない。そしておそらくアイリス女王も。闘技大会で見た限り、サルマリアやリオレンドも多分そうだ。だがどの国も、変化を恐れて廃止の一歩が踏み出せない。」

「そうです。アキさんの言う通り。女王として何とかしたいのですが、出来ません。私自身の手で平和を壊すのが怖いのです。情けない話ですが……。そこにアイリーンベル王女殿下が未来の話をしてくださいました。だから私はここに居ます。」


 アイリスは悔しそうな表情を浮かべ、アキの言葉を肯定し、補足してくれた。


「それでエリザさん、ここからはアイリス女王にも未だ伝えてない話になるけど、その前に質問はある?現段階でわからない事があれば聞いて欲しいな。」

「いえ、大丈夫よ。アキ君の説明は的確だから問題ないわ。ちょっと驚いてはいるけどね。私の感想だけど、女王陛下と一緒よ。アキ君側に立つつもり。いえ、立つわ。学園長として生徒達をそのような制度に巻き込みたくない。あと私自身も納得いかないもの。」


 エリザもアイリス同様、味方になってくれるようだ。これは心強い。この2人の協力を得られるのは渡りに船だ。これでエスペラルド王国第一王女のベル、ミレー王国女王のアイリス、魔法組合ミレー支部長で魔法学校学園長のエリザ、そしてミレンド商会長のエスタート爺さんが、アキの味方についた。アキ1人では到底不可能な事をいとも容易く可能にできる人達ばかりだ。


「むしろその人脈を2か月程度で作り上げたアキさんが一番凄いんですよ?」


 ベルが口元を袖で隠しながら上品にくすくす笑う。


「ベルのおかげだね。」

「いえ、アキさん自身の魅力です。私はちょっと手を貸しただけ。」

「そのちょっとが何より助かっているんだよ、ベル。」


 アキはベルと顔を見合わせ、小さく微笑み合う。


「あの、夫婦漫才はそのくらいで。」


 アイリスが苦笑交じりに止めてくる。


「夫婦って言わないでください、ベルが暴走するので。」


 アキはベルの頭を引っ叩いて、お花畑に旅立った彼女を呼び戻す。隣でぶーぶー文句を言ってくるが、それが「撫でろ」という事なのはわかっているので、彼女の希望通りに撫でてやる。すると満足したのか、ベルは嬉しそうに微笑んで直ぐに静かになる。


 やれやれと思いつつも、アキはとりあえず話を続ける。


「ではアイリス女王、エリザさん、ここからの情報は口外無用でお願いします。」


 2人が「もちろんです」と頷いてくれたので、アキは書類を取り出し彼女達に手渡す。


「まず俺がベルに提案した代替政体の草案です。」


 女王に説明する必要があるだろうと思い、以前ベルに見せたのと同じ物を昨日の内に文書化しておいた。今回はうちの優秀な兎秘書の手伝いもあり、数時間で終わらせる事が出来た。セシルには感謝だ。前回は1人だったので苦労して徹夜で仕上げたのを覚えている。


 とりあえずアイリスとエリザが読み終わるのを待ち、2人が書類から顔を上げたタイミングで声を掛ける。


「理解できますか?」

「なるほど……凄いですね。」

「難しいわ。でもなんとかわかるわ。」


 アイリスは地球の政体の事でもちゃんと理解したようだ。エリザも何とかついてきている。さすが女王と学園長と言ったところか。特に捕捉説明は必要なさそうなので、アキは次の文書を渡す。


「それはあくまで政体の草案で、こちらが魔獣制度の代替案です。」


 また2人が目を通し終わるまで、暫くベルと雑談をして時間を潰す。ベルがここぞとばかりに甘えてくるので苦笑してしまう。本当に仕方のない王女様だ。


「うん、素晴らしいです……アイリーンベル王女殿下がアキさんを信頼する理由がわかります。本当に考え抜かれている。」

「ええ、こっちは私でもすぐにわかるわ。」


 どうやら一通り読み終わったようで、アイリスとエリザが声を掛けてくる。


 しかしそんなに褒められるのはむず痒い。そもそも地球の政策を参考しただけだし、アキが考えたものではないのだから、そんなに絶賛されても困る。


「2人の意見を改めて聞かせてください。」


 アイリスとエリザに念の為に再確認する。2人が意見を変えるとは思えないが、ちゃんと彼女達の言葉で聞いておくのは大事だ。


「もちろん、変わりません。むしろこれを見て尚更私の国でも採用したいと思いました。私は全面的にアキさんを支持します。貴方の不利益になる事はしませんのでどうか我が国にも力をお貸しください。」


 アイリスが丁寧に頭を下げる。やはりアイリスもベルと似たような考えのようだ。


「アキ君、私も女王陛下に同じよ。魔法学校の生徒の為にも、改革を支持するわ。学園長として、魔法組合支部長として、貴方を支援する。アキ君の敵に回る事はないから安心して頂戴。」


 エリザも大丈夫だ。よかった。


「アイリス女王、エリザさん、ありがとうございます。私に出来る事なら全力で。」


 これで一つ肩の荷が下りた。ベルも隣でホッとした表情を浮かべている。


「で、これは燃やしてしまってもいいですか?」


 アキは代替案の書類を指差し、破棄を提案する。せっかく書き出したのを処分してしまうのはもったいないが、どこに敵がいるかわからない現状、残しておくわけにもいかないだろう。


「そうですね、存在しない方がいいです。問題ないです。覚えました。」

「私も大丈夫よ。わからない事はまたアキ君に聞けばいいもんね?」


 2人の了承も得たので、アキは早速火魔法で書類を燃やす。いつも通り無詠唱でやっただけなのだが、その光景にエリザが目を輝かせていた。この魔法バカの猫さんはいちいち可愛いなと苦笑してしまう。やはりペットにしなければ……と考えた瞬間、ベルに睨まれた。


 相変わらずうちの王女様は勘がいい。

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