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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十一章 魔法学校I
170/1143

3

「じゃあ魔素の現象理解をエリザさんに教えたいんだけど……。」

「ほんと!やった!」


 子供の様に喜んで尻尾を激しく振るエリザ。学園長とは思えないくらいのはしゃぎっぷりだ。


「でも適当に教えても無駄だと思うから、まずエリザさんの理解がどのくらいで、どんな魔法を使えるのか知りたいんだ。それに応じてエリザさんに合った方法で俺の現象理解を教えていきたい。」

「うん、確かに一理あるわ。ならどうしましょ……私の魔法みる?」

「いいね、それは見たいかも。学園長の凄い魔法楽しみだ。」

「やめてよ……アキ君に敵わないから依頼しているのに、いじわる。」


 エリザは可愛らしく頬を膨らませる。本当に年上に見えない。だからこそあの演技していたのかもしれないなと苦笑する。


「うちにも魔法使いの子がいて、詠唱破棄を教えているけどやっぱりなかなか上手くいかないんだよね。でもうちの子以外の魔法職をちゃんと見るのは初めてだから楽しみだよ。」 

「なるほどね……学園長としてその子には負けられないわ!」


 エリザのやる気が出るようにミルナの話題で発破をかけてみたが、上手くいったようだ。この猫さんは意外に負けず嫌いらしい。


 とりあえずエリザには火魔法を使うようにとお願いする。先ずは彼女の魔法詠唱、発動規模などを確認。その後にエリザがどのような現象理解をしているのかを説明して貰おう。そしたら丁度お昼くらいにはなるので、明日まで話は引き延ばせるだろう。ベルの事だからどうせ今日、明日にはアイリスとの対談を手配してくれるはずだ。


「い、いくわよ。『世界の理を持って、炎を顕現することを願わん、ファイヤ。』」


 ミルナより厨二な詠唱だなと心の中で笑う。帰ったらうちの「癒しの光」でまた遊んであげよう。


 たがその前に新しいおもちゃを見つけたので、先ずはこの猫さんからだ。


「へえ、うちの子の魔法よりは炎の範囲も広い。さすがだね。」


 エリザの火魔法は、ミルナより顕現も早く、規模も大きく、温度も高そうだ。さすがはミレー魔法協会の組合長、そして魔法学校の学園長だ。


「で、エリザさんはどういう現象理解で炎を顕現してるの?」

「えっと……こう物体の温度が上がって、ある温度に達すると炎がボンッて出る感じよ……。へ、変かしら?」


 やはり現象理解を他人に説明するのは恥ずかしいのだろうか。ミルナの同様、エリザも顔を赤くして俯いている。


「ふむ……エリザさんはこれがやりたいんだね?」


 アキはエリザと同等サイズの炎を無詠唱で掌に顕現さえる。


「そう!それよ!それがやりたいの!」


 無詠唱での魔法を間近で見て、テンションがあがるエリザ。尻尾も大興奮だ。猫耳もぴくぴく動いているし、本当にこの猫さんは可愛い。


「アキ君はなんで無詠唱が出来るのかしら。そもそも何故無詠唱をしようと思ったの?」

「え?『世界の理よ~』とかあんな恥ずかしいセリフ言いたくないからだけど?」


 正直に答えてみた。


 エリザの顔が引き攣る。ぎこちない笑顔を浮かべ、頬をひくひくさせている。何気なくした質問の回答でまさか自分が辱められるとは思わなかったのだろう。


「え、えっと……聞き間違いかしら……?アキ君なんて?」

「詠唱ってダサいし、格好悪いし、恥ずかしいから言いたくない。」

「ア、アキ君のばかっ!言って良い事と悪い事があるんだからね!」


 エリザが顔を真っ赤にして涙目で叫ぶ。


「うぅ……考えないようにしてたけどわかってるわよ……自分の詠唱が恥ずかしいってことくらい……。ばかぁ……意識しちゃってもう言えないじゃない。」


 どうやら改めて自分の詠唱を思い浮かべたらしい。そしてその猫は今、羞恥に悶えている。「ミルナ、ここにも恥ずかしがっている人間がいたぞ、よかったな」と心の中で伝えてやる。


「冗談だ。ついうちの子を苛めるいつもの勢いでやってしまった。」

「やめてあげて!その子が可哀そうよ!」


 同じ魔法職としてミルナに同情したのだろうか。確かにうちの子はアキに相当遊ばれているとは思う。まあ本気で嫌がっていたらやってない。なんだかんだミルナはアキに構って貰えて嬉しそうにしているからやっているだけだ。


「でもおかげで無詠唱の覚えは早い。悪いとは思うけどね。それに詠唱を恥ずかしがることはないよ。自信を持って言えばいい。」

「そ、そう?それならなんとか……でも結局アキ君は言わないじゃない。」

「だって恥ずかしい。」

「ばかー!」


 今の一言がとどめになったようで、エリザがすっかりしょげてしまった。さっきまで逆立っていた尻尾も今やすっかり意気消沈してしまっている。


「ごめん、エリザさんが話しやすいから、ついね。でもやっぱり今みたいな可愛い学園長がいいと思うよ?あと詠唱は俺が恥ずかしいってだけで、エリザさんのは本当に格好いいと思っている。嘘じゃない。」

「ほ、ほんと?」

「ああ、それに無詠唱が出来たとしても詠唱は止めない方がいい。うちの子にも言ったが、詠唱と無詠唱を混ぜれば戦闘パターンが増えて相手は混乱するだろ?俺みたいに無詠唱だけだと常に警戒され戦略を考えるのも面倒だ。」


 以前ミルナにも説明した詠唱破棄と詠唱を混ぜる技術だ。完全無詠唱のアキには使えない。まあアキも詠唱すれば使えるんだが、単純に詠唱したくない。それに今更詠唱を使い始めたところでと言った感じだ。


「あ、確かにそうね!それはアキ君の言う通りだわ!」

「だからこれからもエリザさんのカッコイイ詠唱を楽しみにしているよ。」

「やめて!変にカッコイイとかつけないで!余計恥ずかしいわ……!」


 まだ少しだけエリザの頬が赤い。やはり「自分で考えた詠唱」だからこそ恥ずかしいんだろう。他人が考えた物であればそれほど気にならないのかもしれない。


「あとアキ君お願いがあるんだけど……それ生徒には言わないで。私ですらバキバキに心折れられかけたんだもの。うちの生徒なら多分明日から詠唱言えなくなって学級崩壊しちゃうわ……。」


 エリザが本当に辞めてねと懇願してくる。生徒の事を気遣えるいい学園長だ。しかし、確かに生徒に言ったら講師として失格だ。心配しなくても言う気はない。


「それは言わないから大丈夫。うちの子みたいに信頼してる子じゃないと言わないよ。あとは仲良くできそうな相手くらいだよ。エリザさん、魔法職同士仲良くしてね。」

「ふふ、ええ。もちろんよ。」


 エリザが優しく微笑んでくれる。魔法バカのエリザとしては、自分より魔法知識があるアキと交流出来るのが嬉しいのかもしれない。「魔法バカ」は見方を変えると「研究バカ」とも言えるし、ある意味アキに通ずるところがある。それに研究者という生き物は基本的に好奇心旺盛だ。自分の知らない事を知っている人物の事は尊敬するし、尻尾も振る。まあエリザの場合は言葉通り本当に自分の尻尾を振っているが。


「あと尻尾を触らせろ。そして語尾に『にゃ』ってつけて。」

「それは嫌。尻尾はともかくなんでそんな変な語尾つけないといけないの『にゃ』。」


 エリザの尻尾が激しく揺れる。また勝手に語尾を付け足してみたが……エリザは怒っているのか照れているのか……どっちなのだろうか。


「だから人の語尾に勝手に変なもの付け足さないでよ!」


 頬を染めて叫ぶエリザ。どうやら両方らしい。


「結構可愛いと思うんだが。どうかな、生徒の前でもつけてみたら。」

「頭おかしい人だと思われるだけよ!学園長の威厳もなにもないわよ!」


 フシャーと猫のように威嚇してくるエリザ。まあ……「ように」じゃなくて実際に猫なんだが。しかしやっぱりこの猫はうちに欲しい。レオやセシルもいいけど、アキの癒しには猫が足りない。年上のお姉さんなのに反応が可愛いこの猫が欲しい。


「エリザさん……俺のペットにならない?」


 つい本音が出てしまった。


「はああぁぁあ!?一体なんの話よ!」

「いや、うちには最高の狼と兎はいるんだけど、猫という癒しが足りない。わかるだろ?」

「わかるわけないわよ!大体ね、私はおねーさんなの!あなたよりおねーさん!そして学園長!敬いなさい!」


 さらに威嚇してくるエリザ。そろそろ引っ掻いて来そうな勢いだ。でもこの猫、お姉さんには全く見えない。感情制御下手だし、なんだかんだポンコツっぽいし。ミルナと仲良くやるんじゃないだろうか。


「敬ってるよ?」

「そんなわけないでしょ!それにペットってなによ!せめて恋人とかならまだわかるわよ!なんでペットなのよ!」

「え、じゃあ恋人って言えばよかった?」

「な、なんでよ!そ、そんなわけないわよ!」


 エリザが顔を真っ赤にして必死に否定してくる。さっきまでの威嚇が嘘のようだ。まさかとは思うがこの猫は奥手なのだろうか。


「エリザさんって結婚してないの?美人だしいくらでも相手いるでしょ。」

「だ、だって……魔法一筋だったし……。気づいたらもうこんな歳だし……。」


 今度はちょっと拗ねたようにいじけている。本当に感情豊かだなと苦笑する。しかしどうやらエリザは恋愛経験はないらしい。勿体ない、綺麗な人なのに。


「いや、まだまだ若いし、可愛いし、いくらでも言い寄られるでしょう。」

「そういうのよくわからないもん……。しらないもん……。」


 猫は気分屋で人見知りだと聞くが、猫獣人であるエリザもそうなのだろうか。懐いたらもの凄く甘えてくるタイプなのかもしれない。しかしそう考えるとうちの子達も猫のようだなと苦笑する。


 あれ……?でもこのまま本当に連れて帰る羽目になったらミルナ達になんて説明しよう。昨日も今日も散々言われたし、不用意な事言うのはやめようと先日決めたばかりだ。こういう話で脱線させたのは、本格的な魔法談義に入らせない為だったのだが、もっと他に方法があったんじゃないかとちょっと反省した。


「自信持っていいと思うよ、エリザさんは素敵だから。それよりそろそろお昼だ。ちゃんとした魔法談義は明日にしよう。明日までに教え方整理しとくよ。」


 適当にフォローを入れて話を終わらせよう。これ以上続けると三日三晩ミルナ達に説教されそうだ。


「え、ええ、そうね。取り乱してごめんなさい。でもアキ君が悪いんだからね?全く……とりあえずお昼にしましょう。食堂でいいかしら。いつも1人で食べるから偶には誰かと食べるお昼も悪くないわ。」

「それでいいよ。むしろ俺も嬉しい。明日からも昼食はエリザさんとご一緒したいな。エリザさんとの会話は俺にとっても有意義だ。」


 散々苛めたので、最後くらいはちゃんと褒めておく。うちの子達のように扱えばきっとすぐに懐いてくれそうだ。


「ええ、いいわよ。むしろこっちからお願いしたいくらい。」


 なんとか魔法の現象理解の解説に入ることなくお昼まで乗り切れた。上出来だろう。






 食堂へ向かうからついてきてとソファーから立ち上がるエリザ。


「よし、ここまでよ。ここからは学園長になるのよ。」


 扉の前でエリザは何回か自分の頬を叩いて気合を入れる。どうやら学園長室から出たらあの偉そうな猫に戻らないといけないらしい。


「いい学校ですね。エリザさんのような学園長で生徒達は幸運だと思います。」


 アキも口調を敬語に戻す。学園長の仮面を被ると彼女が言うのなら付き合ってあげるべきだろう。


「感謝するよ、アキ君。こんな私だがちゃんと学園長出来ているかしら?よく心配になっちゃうのよね。」

「口調戻せてないですよ。」

「コホン、心配なのだよ。」


 アキに指摘され、慌てて咳払いをして口調を正すエリザ。不器用なんだろうなと少し微笑ましくなる。ただなんか面白いので、さらに褒めて動揺させてみた。


「ちゃんと学園長出来ていますよ。私はそんなエリザさんを心から尊敬します。」

「そ、そう?嬉しいわ……。」

「だから口調戻せてないです。」

「コホン!な、なんかアキ君といると調子狂うのだよ。さあ、お昼へ行こう。」


 大丈夫かこの学園長、と思ってしまうが、きっとこれがエリザなのだろう。背伸びして頑張っている素晴らしい若き学園長。朝礼の時に壇上から見た生徒達もいい顔をしていた。それもこれもエリザの学園長としての努力の賜物なのだろう。

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