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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
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16

「じゃあ今度こそ、今日集めた情報を共有しよう。」


 ここからは真面目な話だ。


「まずはミルナ達から報告して。」

「はい、わかりましたわ。」


 レスミアの街中や冒険者組合で得た情報をミルナが総括して説明してくれる。


 ミレー王国内での女王の評判は上々のようだ。魔法学校でエアル達が言っていた「女王は大人気」との話とも合致する。女王は男女問わず人気があり、優秀な統治者として民に慕われている。やはりアイリスはアキが観察した通りの人間だったということで間違いないだろう。


 次にミレー王国Sランク冒険者、エアルとミリーについて。この2人も女王に劣らぬくらいの人気があるようだ。見た目麗しいだけでなく、冒険者としても最高ランク。さらには人当たりもよく、誰にでも優しく、いつも笑顔。これで人気が出ないわけがない。レスミアの人達の評価も妥当なものだ。


「エリス、一応聞くがミリーとエアルの実力はどう見る。」


 単騎でSランクまで登り詰めたエリスに2人の評価を聞いておく。


「そうだな……実力は申し分ない。正々堂々と模擬戦などで戦ったら私と互角くらいだと思うのだ。だがアキには敵わないだろう。彼女達は経験が足りない。搦め手などに弱い。だからいくらでもやりようがあるし、命のやり取りをしたら私も負ける気はしないのだ。」


 普段はアホの子なのに戦闘の事になると饒舌になるエリス。そして意見も的確で的を得ている。さすがうちの戦闘狂美少女だ。 


「俺と同じ意見だね。エリス、ありがとう。」


 経験が少し浅いなというのは今日の学園での出来事を見てもわかった。だが2人ともSランクになった今でも魔法学校にわざわざ通って研鑽を欠かさいないくらい真面目だし、いずれはエリスを超える存在になるかもしれない。


「では最後の報告内容ですわ。」


 ミルナ達はエスペラルド出身者のミレー王国での活動についてもちゃんと調べてくれていた。だがどうやらイリアに繋がるような情報は特に無かったようだ。レスミアの人達はいつも見かけるエスペラルドの貿易商人くらいしか見てないとの事で、特に変わった人物はいないと口を揃えて言っていたらしい。エスペラルドのSランクであるミルナ達を珍しがっていた事から間違いないだろうとの事。


「何もわからずすいません……。」


 申し訳なさそうにミルナが謝る。


「ミルナ、それは違う。何もわからない事がわかった。これは重要な情報だ。なあ、ベル。」

「ええ、それも情報の1つです。何もわからないという事がわかる。大事なことですよ。」


 さすがベル。無価値な情報など無いと、ちゃんと理解している。ミルナ達はそういう考え方もあるのかと感心しているようだ。


「みんなお疲れ。うちの子達は優秀だから助かるよ。他は特に問題はなかった?」


 アキはちゃんと労いの言葉を掛けるのを忘れない。ミルナ達はやる気がすぐに左右される気分屋さんなので、こうやって構っておかないと直ぐに拗ねてしまう。下手したらストライキにまで発展する。今まで散々「お話」されて来たのだから嫌でも理解している。


 特に問題がなかったのであれば、次はベルの報告に移ろうと思ったのだが、ミルナが言いづらそうに、街で在った出来事を付け加える。


「あ……その……いっぱい声をかけられましたわ……。」

「まぁ……ミルナ達は美人だしね。」


 ミルナ達曰く、食事やデートのお誘いがひっきりなしにあったという。レオは少年の振りをしているし、エレンは直ぐに威嚇する猛獣だから、基本的にはミルナとソフィーに対してだけだろうが。


「そっかー……。」


 うちの子達が声を掛けられるのはちょっとだけ嫉妬する。これだけ美人なのだから、しょうがない事なのはわかってはいるが、なんか嫌だ。


「アキ!やきもち妬いてるのね!」


 エレンがそれはもう嬉しそうに指摘してくる。


 しかしまさか自分が嫉妬する日が来るとは夢にも思わなかった。自分には無縁の感情だと思っていたが、これもきっとミルナ達のおかげなのだろう。


 だがエレンに弄られるのは癪だ。ミルナやソフィーも嬉しそうな顔でにやにやとこっち見てくる。いつものように「断崖絶壁」とか言って仕返ししてやろうとも思った。でも偶には素直になってみてもいいかもしれない。


「妬いてるよ。そいつら全員殺すか。」


 アキが素直に認めると思わなかったのか、ミルナ達が慌てて必死に弁解してくる。


「アキさん!ちゃんと全部お断りしておりますわ!」

「だ、大丈夫です!指一本触れさせてないですー!」

「そ、そ、そうよ!アキ以外には興味ないから安心しなさい!」

「うんうん!僕もアキにだけ見て貰えればいいからね!」


 うちの子達の言葉を聞いて少し安心している自分がいた。いつの間にか自分も彼女達に依存している部分があるようだ。自分が変わったという事は、何回も自覚したし理解はしているが、改めてこういう出来事に直面すると、自分自身の変化に戸惑う。理解はしていても、感情や気持ちでは未だわかっていないという事かもしれない。


「俺も変わったな。」


 アキの呟きが聞こえたのか、ミルナに即座に否定された。


「いいえ。出会った頃にも言いましたけど、アキさんは変わってないですわ。元からアキさんは今のアキさんです。感情を表に出すのが少し下手だっただけ。でも……私達が一緒にいる事で感情を見せてくれるようになったのであれば、それは私達にとって何よりの、最高の、ご褒美なんですよ?」


 ミルナの言葉に他の子達が「その通りです」と力強く頷いている。彼女達にとってアキはずっと同じ人間で、何も変わっていないらしい。地球にいた頃の自分では考えられないくらいに変わったと思うのだが……。ただ向こうの世界では他人と接するのを意図的に避けて生きていたのだから、アキの本質は元からこうだったのかもしれない。もし地球でも彼女達のような人と懇意になっていれば、今と同じような自分になっていたのかもしれない。それを確認する術はもう無いが、今となってはどうでもいい事だ。


「そうなのかもな……。でも今の俺があるのは間違いなくみんなのおかげだ。きっと他の人じゃこうはなってなかった。だからみんなには感謝しているよ。」


 そう、彼女達と居るこの世界が今のアキの現実だ。地球の事はもうどうでもいい。やきもちを妬いていたはずなのに、何時の間にか、どこか心地のいい晴れやかな気分だ。まさに心平らかに気和するという表現が今の自分にはぴったりかもしれない。


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