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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
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13

 セシルとアリアを連れ、王都レスミアの商業地区へと向かう。


「アキさん、あのポンコツ4人組と会わないように気を付けましょう。」


 相変わらず毒舌なうちのメイドだ。確かにミルナ達も情報収集で街に出ているはずなので、もしかしたらどこかで鉢合わせる可能性もある。でもその時は合流して一緒に買い物すればいいだけのような気もするが、アリアとセシルは断固として嫌だという。


「今日は私達がアキさんを独占するんです。」


 セシル曰く、そういう事らしい。


「まあ、いいけどね。商業地区のんびり散策しつつ、2人の服でも買いに行こうよ。」


 セシルは相変わらず受付嬢時代の服を着崩しているだけだし、アリアもずっとメイド服だ。2人はもっと私服を持つべきだ。というより単純にアキが見たい。


 そして買い物ついでに爺さんの店にも顔を出せれば一石二鳥だろう。


「はい、じゃあ選んでくださいね。」


 セシルが兎耳をぴくぴく動かしている。楽しみにしていてくれてるようだ。


「そして何より音楽だよ音楽。早く聴こえてこないかな。」

「仕方のないご主人様です。」


 興奮気味に呟くアキに、アリアが苦笑している。





 期待に胸を膨らませて、レスミア商業地区へと入る。しばらく散策してみるが、ミスミルドの商業地区とは少し雰囲気が違うと感じた。建造物のデザインが違うのは当然なのだが、店の種類がエスペラルドとは大きく異なる。まず、女性服や雑貨系の店が大量にあり、カジュアルな物からフォーマルな物まで選り取り見取りだ。エスペルドでは男性向けと女性向けの店は半々くらいだったが、レスミアは大きく女性に偏っている。


「だが……そんな事どうでもいい……嘘だろ、なにこれ。」


 アキは蹲っていじけていた。しゃがみこんで地面に「の」の字を書いてる状態だ。まさかこんなアキの姿を見るとは思わなかったアリアとセシルが珍しく焦っている。どうアキに声をかけていいのかわからないようだ。


「アキさん、だ、大丈夫ですよ!」

「ええ、気を落とさないでください!」


 必死に励ましてくるセシルとアリア。彼女達に心配をかけるのは申し訳ないので、アキは渋々とだが立ち上がり、2人にいじけていた事を一応謝る。


 だがしょうがないだろう。


「だって、音楽じゃない、あんなの。」


 アキが凹んでいたのは、街中で鳴り響いている音楽についてだ。歌が無いのは聞いていたが、だからこそ楽器は充実していて、この世界ならではの音楽が聴けるものだとばかり思い込んでいた。


 確かに楽器はあった。ピアノのようなもの、ギターのようなもの。様々な弦楽器や打楽器が散見できた。もちろん楽器店もあった。


「肝心の演奏者が……嘘だろ……。誰か俺に嘘だと言ってくれ。」


 そんな異世界の楽器が奏でていたのは雑音ともいえるような音。奏でるという言い方すら失礼になるレベルだ。秩序も何もないただの音。和音なんてもってのほか。音を合わせるという考えがないのか、全て単音だし、スケールの理解もない。せめて短調、長調くらいは何とかして貰いたい。曲によっては転調などはあったりもするが、基本的にちゃんと1つの調を守れば、ある程度聴ける曲は作れる。だがそれを守らないとこの惨状だ……。


 何が音楽の国か。


「もうこの国滅ぼそう。」


 そうだ、そうしよう。こんな音楽とも言えない雑音を垂れ流している国は滅ぶべきだ。存在してはいけない。


「アキさん、待って!待って!落ち着いて!ほら耳、耳を触りましょ?ね?」


 セシルが兎耳を強引に押し付けてくる。突如目の前に可愛い兎耳が現れたので、つい無意識に愛でてしまう。


「耳やっぱいいな……癒される。」


 気付いたらいつの間にか強制的に落ち着かされていた。さすがうちの兎、侮れない。


「セシルさんさすがです、素晴らしい機転です。」


 アリアがホッとした表情でセシルを褒める。


 どうやらこのままでは本当にアキがミレーを滅ぼすとアリアですら思った程にアキは冷静ではなかったようだ。危ない。うちの優秀な2人に感謝だなと、深呼吸しつつ気持ちを落ち着かせる。


「ごめん、取り乱した。まあ、音楽は諦める。自分で楽しめばいいしね。せっかくだし楽器買っていい?いっぱい特注していこう。多分ここでしか作って貰えないだろうし。」


 自分の屋敷にピアノやギターを置いて皆で楽しむのも悪くない。周りの音楽文化に期待出来ないのであれば自分達で楽しめばいい。エレンやエリスの歌声は最高だし、また今度歌ってもらおう。いや、帰ったら歌って貰おう。あの天使の歌声を聞いたらこの陰鬱な気分も少しは晴れるかもしれない。


 しかしアキには1つの疑問が浮かんだ。ベルは何回もミレーに国務で訪れているはずだ。間違いなくこの国の音楽事情については知っている。だがベルは何も言わなかった。アキがこの国の音楽を楽しみにしていると言った際、彼女は何も言わなかった。アキが聴かせた音楽を素晴らしいと褒めてくれてた後も何も言わなかった。多分、アキの楽しみを潰すのが嫌で、本当の事が言えなかったのだろう。何ともベルらしい可愛い理由だ。


 ただ疑問はそこではない。


 その後アキは、ミルナの歌に対して「ミレーに行ったら石投げられるんじゃない?」と言った。それに対してベルは「私だったら投げます。」とはっきり答えた。そう、はっきりと断言した。


「え、つまりミルナの歌はこのレベルの人達にすら石を投げられるって事?」


 アキの呟きを聞いていたアリアとセシルがスッと視線を逸らす。この2人がアキから視線を逸らすというのは相当気まずい時だけだ。


 本当にうちのミルナが不憫になって来た。今日はいっぱい優しくしてやろう。


「ミルナの歌の練習、付き合ってやるか……。」

「ええ、そうしてあげてください……。」


 アリアに同情されるミルナ、本当に可哀そうだ。

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