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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
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「アキさん……なんていうか凄いですね。」


 学園長室から退出し、エアルが呆れた声で感想を述べる。


「そうか?」

「学園長が取り乱しているのを見たのは初めてでした。それに本当に学校をくれって言うとは思いませんでした。最終的に会話の主導権もアキさんが全て持って行きましたし。」


 そこに気づくかと少し感心した。さすがSランク。だが一歩足りない。ミリーとエアルはまだ若いから少し思慮が浅いのは仕方のない事だろう。いや、自分もまだまだ若いけど。それにセシルとアリアも若いが、彼女達もちゃんとわかっている。


 その後ミリーとエアルに校舎を一通り案内してもらった。実技を行う中庭、憩いの広場、エアル達の教室。あとは食堂など、学園生活に欠かせない場所を教えてもらったら終了だ。これで明日来ても迷うことはないだろう。


 しかし、構内を歩いているだけなのに、本当に視線を感じる。闘技大会でのパフォーマンスが効いているのか、悪意のある雰囲気ではないが。


「今、アキさんは大人気なんですよ?」


 エアルが教えてくれる。


「さっきも言っていたな。闘技大会で目立ったからと。」

「いえ、確かにそうなんですが、本当のところは女王陛下を助けたからです。」


 どうやらエアル曰く、女王は魔法学校の女子生徒に多大なる人気があるらしく、その命を救ったアキは、現在生徒の間で人気爆発中なのだと言う。なるほど。女王は人気があるとベルも言っていたし、女性の頂点である女王は憧れの的なのかもしれない。なんにせよ、生徒に悪く思われていないのであれば、明日からの講師依頼は滞りなく行えるだろう。






 学舎案内も終わったので、エアルとミリーに礼を告げ魔法学校を後にする。十分に学校から離れたのを確認したセシルが声を掛けて来た。


「アキさんのバカ。お話はしますからね?」

「ああ、もちろん。セシル助かった、ありがとう。流石だよ。」

「しりませんっ。拗ねていたのは本当です。」


 先ほどの学園長室での茶番は全部セシルとアキの即興だ。そもそも従者であるセシルがあの程度の事で殺気を放つわけがない。アキもそれを見たくらいで驚いた表情をするわけがない。


「まあ、尻尾は触ってみたいけどね。そんな事より大事なことがあるしな。」

「やっぱり触りたいんじゃないですかっ!」

「まあね、でも俺にはセシルがいるし、別にいらない。」


 アキはセシルの兎耳を優しく撫でる。


「もぉ……でも気持ちいから……いいけど。」


 大事な事とは勿論、魔法組合を探る事だ。それには明日以降もエリザとの会話の主導権を握る必要がある。エアル達はあの場限りの主導権としか思っていなかったようだが、むしろあの場はどうでもいい。重要なのは明日以降だ。女王程ではないが、学園長ともなれば、さすがにそう簡単には会話を有利に進めさせてもらえない。


 エリザを見た瞬間、耳と尻尾は使えるかもしれないと判断し、タイミングを見てあの提案をした。案の定、動揺し、取り乱してくれた。尻尾を凝視していたのは、アキの言動にどういう反応をするかを見極める為だ。レオやセシルは獣人の特徴である耳や尻尾にすぐに感情が出る。きっとエリザもそうだと予想し、アキは敢えてエリザの動揺を誘う発言をした。


 さらにセシルがアキのその意図を察知し、わざと取り乱してくれた。アキが本気であの要求を望んでいると見せかける為にだ。それにアキも乗っかり、表情をわざと表に出して、自分の感情をエリザに観察させた。知られたくない情報を隠し、会話を誘導する為、自分の嘘の姿を見せた。仕上げにアリアに話を振って、自分が始めた適当な会話の終着点を見つけさせる、という茶番だったわけだ。


 最後に敢えて学舎を要求したのは、自分の観察が正しいかどうか、実際の会話とエリザの反応で、確認する為。これで明日以降の会話を有利に進めることが出来る。今日中に彼女の観察を無事終わらせられたのだから。尻尾の話題を所々に入れて相手を動揺させ、組合の探りを入れていくだけの簡単な作業。


 それに、茶番を演じ、嘘の姿を見せた事で、エリザはアキが本気であのアホみたいな提案を望んでいて、あの場で少しばかりの痴態を晒した、と勘違いしてくれるはず。アキが何かを探ろうとは等微塵も思っていないはずだ。


「俺とセシル達の関係、みんな甘く見過ぎだわ。どれだけ俺がアリアとセシルを信用していると思っているんだ。そして2人の優秀さをみんなわかってないよね。馬鹿で助かる。」


 セシルとアリアはアキに信頼されている事が誇らしいのか、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。


「じゃあ買い物行こうか。大事な午後の予定だな。」

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