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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
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 魔法学校の正門についたので気を引き締める。ちょっと雑談が過ぎたようだし、緊張感を高めて身を引き締める。魔法学校に遊びに来たわけではない。これは仕事だ。アリアとセシルもわかっているのか、アキの後ろに一歩下がり、主人の後を付き従う形をとる。


 正門には守衛らしき人物がいたので依頼書を見せ中に入れてもらう。正門をくぐると広大な庭が広がっていた。学生のための憩いの場なのだろう。ちらほらと制服姿の女学生が散見できる。


 アキ達は少し注目を浴びているようだ。メイドと秘書のような服装をした従者を付き従えて構内を歩いていれば目立つのも当然かもしれない。ちなみにアキの格好はいつものラフな私服だ。ソフィーが以前に選んでくれたシャツとズボン。ミレーは暑いので外套は羽織っていない。そして太刀の月時雨は特に隠さず、普通に腰にぶら下げている。闘技大会で得物は見せたし今更隠す意味もないと判断した。


 校庭と思われる広場の先には立派な学舎が聳え立つ。学舎は石材やレンガらしき物で造られており、窓にはステンドグラスのような装飾ガラスがはめ込まれている。立派な塔も建っていていかにも魔法学校という感じの風貌だ。イメージ的にはイギリスにあるヨーロッパ風の校舎。個人的には欧米の建築物は風情があって好きだ、この校舎もかなり気に入った。ミレーの建築家はかなりいいセンスをしているなと勝手に満足する。


「さて、どうするかな。依頼主にどうやって会えばいいものか。」


 アキが悩んでいると、校舎の方から見た事のある女子生徒が2人出てくる。闘技大会で見かけたSランクのミリーとエアルだ。これは助かると思い、2人に声を掛ける。


「ミリー、エアル。こんにちは。」


 急に声かけられて驚いたのか、彼女達は焦ったように振り向く。急にというよりは男性に声を掛けられ事に驚いたのかもしれない。魔法学校は9割近くが女性なのだから当然だろう。


「あ、アキさんだ!こんにちは!」

「アキさん、ごきげんよう。先日ぶりです。」


 以前闘技大会で彼女達に会った時は、Sランク冒険者として参加していたからか、防具を着用していたが、今日は学校の制服を着ている。闘技大会で見かけた魔法学校の生徒達が着ていたものだ。白のシャツに薄い赤色の上着、そして赤に白のストライプがはいった可愛らしいスカート。


「それがここの制服?2人とも似合ってるね、可愛い。」

「そ、そうですか?」


 エアルが少し照れながら上着やスカートの裾を摘まんで自分の姿を確認している。


「闘技大会の時の服もかっこいいけど、やっぱり女の子だし、そっちのほうがずっといいと思うよ?」

「それは、嬉しい。ありがとう。」


 今度はミリーが返事をし、小さく微笑む。


 後ろでアリアとセシルが「早速ですか」と言う視線を浴びせてくる。だがこれはあくまで挨拶だ。社交辞令だ。だからその人を殺しかねない冷淡な視線を向けるのは止めて欲しい。


「講師依頼の打ち合わせで来たんだけど、どこに行けばいいかわからなくてね。ちょうどミリーとエアルを見かけたから声を掛けたんだ。」


 挨拶はこのくらいでいいだろうと、本題を切り出す。


「なるほどです。それでは学園長のところに案内しますね?」

「そうだね、エアルの言う通りそれがいいと思う。」


 2人がこちらですと言って構内へと案内してくれる。


 学舎に入ると、欧米の学校らしい雰囲気がさらに漂っており、お洒落な内装が目に飛び込んでくる。大きなステンドグラスからは太陽光が燦燦と降り注ぎ、光彩陸離たる輝きに思わず目を細めた。柱や廊下、そして天井などの装飾もとても美しく、見ていて飽きない。


「建築がお好きなのですか?」


 学舎の内装を色々と観察していたのにエアルが気づいたのか、可愛らしく首を傾げながら聞いてくる。


「建築が好きというよりはこの建物の雰囲気だな。かなり好き。アリア。」


 アキの後ろを粛々と歩いている我がメイドに指示を出す。


「はい。」

「この学校欲しい。」

「わかりました、手に入れましょう。とりあえず学園長とやらを脅して譲渡契約書に捺印を押させては?」


 アリアが何でもないように淡々と答える。


「なるほど、さすがアリア。いい案だ。」

「「いやいやいやいや。」」


 エアルとミリーが呆れたような顔でアキ達の会話に突っ込んでくれる。


「私達の学校に来て早々物騒な会話はやめてください……。」

「アキさんなら普通に出来そうだからやめて……。」


 構内に入ったからか、生徒の数も一気に増えた。ベルの言っていた通り、女子生徒がほとんどで、未だに男子生徒は1人も見かけていない。女子校はきっとこんな感じなのだろう。汗臭くなく、女性特有の甘い香りが校舎内に漂っている。ただかなり色んな香りが混ざり合っているので、慣れないと逆に気分が悪くなりそうだ。


「今、何人くらい生徒いるの?」

「全部で500人くらいかな。」


 ミリーが思い出すように人差し指を顎にあてて答えてくれる。この世界で果たしてそれが多いのか少ないのかはよくわからないが、3年制の学校で各学年166人前後と考えればそこそこなのかもしれない。


 しかし構内に入ってからさらに注目を浴びている気がする。


「やっぱりSランクのミリーとエアルに案内されているから目立つのかね。」

「何言ってるんですか……闘技大会でアキさんの活躍を知ってるからみんな見てるんです。」


 エアルが呆れた表情をする。


「全員闘技大会は見てたのか?」


 一応ベルから話は聞いているが、知らない振りをして、彼女達との会話の切欠にする。


「あ、なるほど知らないんですね。魔法学校、騎士学校の生徒は闘技大会を観戦するのが授業の一環なんです。私達はSランクとして別行動でしたが。」

「そうなのか、なら俺の事知っているだろうな。でも俺なんか見るよりこのセシルの兎耳でも見ていたほうが有意義な時間を過ごせると思うんだがどうだろう。」

「いえ、私に聞かれても困ります……。」


 エアルが真面目に困った顔をするので、ちょっとおかしくなってしまう。


「アキさん!私の話題を変なタイミングでぶちこまないでください!」


 セシルの兎耳がぴくぴく動いている。やはりこれを見ているほうが有意義だと思うアキ。


「そうか、ごめん。」

「目!目を見て言ってってば!絶対耳に話しかけてるよねぇぇ!」


 そんなアキとセシルのやり取りを見て、ミリーとエアルはくすくす笑っている。


「アキさん達面白い。見てて楽しいよ。」

「ええ、ほんとに。女王陛下も気に入るはずです。」

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