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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
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「まったく、アリアのせいで屋敷を出るのが遅くなった。」

「アキさんの自業自得かと思いますが。」


 あの後、「お話」が続き、解放されるまで30分くらいかかった。


 そしてやっとミルナ達のお話から解放されたアキは、アリアとセシルをつれて魔法学校がある学業地区へと歩いて向かっている。依頼書には「学校で打ち合わせ後、依頼を開始」とあるので、急に行っても追い返されたりはしないだろう。


「アキさん、魔法学校ってどんなとこなんですかね。」

「気になるのか?碧瑠璃へきるりのセシルよ。」

「青じゃないからあああ!変な渾名で呼ばないで、違うからあああ!」


 ついついセシルの反応が可愛いので苛めてしまう。素直にごめんと謝り、優しく耳を撫でてやる。目を細めて気持ちよさそうにしているので無事許してくれたようだ。


「セシルは学校行ったことないのか。」

「大抵の人はないと思います。エスペラルドにはありません。」

「俺の世界では全員が7歳から18歳までは行かなきゃいけないんだ。さらにそこから4年学校行って22歳から働き始める人が多いよ。」


 日本では義務教育は中学までだが、海外では高校まで義務教育の国も多い。現在の日本も9割以上は高校に行くようなので説明としては間違っていないだろう。


「凄い!どんな事を勉強するんですか?」


 セシルが興味津々なので、魔法学校に着くまでの間に教えてやる。


 計算、歴史、言語に関する勉強から始まり、大学では自分が仕事にしたい専門分野の研究をする事をかみ砕いて、セシルやアリアがわかるように、この世界の事柄に例えつつ説明した。


「ちょっとうらやましいです。良い世界ですね。」

「私も行きたいです。妹も行かせてあげたい。自分で人生を選べるっていいですね。」


 2人はどこかちょっと寂しそうな顔をしている。


「うん、この世界だと家庭環境、経済状況、親の職業で結構進路が決まっちゃうもんね。ミレーはその辺りを改善しようとしているみたいだけど。」


 セシルは母親が冒険者協会の支部長だから受付嬢をしていた。アリアは妹と2人で毎日を必死に生きてきたのでメイドしか道がなかったのかもしれない。


「セシル、アリア。今の自分に後悔してる?」

「「いいえ。」」


 2人が即答でアキの質問に答える。学校は行けなかったけど、アキに出会えて、色々勉強できて、旅もできて、最高の人生を歩めていますとはっきりと言ってくれた。


「ありがとう。その言葉は嬉しいよ。でももしこの先2人がどうしてもやりたい事が見つかったら遠慮なく言って。それが出来るように俺が全力で手伝って送り出すから。」


 セシルとアリアはそんなことはあり得ませんと必死に否定するがそういう事じゃない。今はそう思っていても、本当に心からやってみたい道がいつか出来るかもしれない。その時はその道に進めるようにサポートしてあげたい。だからもし出てきたらちゃんと言う様にと2人に伝える。


「ありがとうございます。でも私達アキさんと従者登録しているの忘れていませんか?」

「ですです。だからどのみちずっと一緒だし、アキさんの従者は辞めないですよ?」


 アリアとセシルに言われて思い出す。従者登録したからには主人か従者が死ぬまで解除されないんだった。今更ながらに早まった事をしたかなと思ってしまう。


 そんな事を考えていたら、どうも表情に出ていたようで、2人に怒られる。


「早まった事したとか思っていませんよね?私は後悔なんてしたことないです。これからもずっと側でメイドとしてお仕えさせて頂きますので覚悟してくださいね?」

「謝ったりなんかしたら怒りますよ。アキさんの考えていることなんかすぐわかります。私も従者登録できて幸せです、最高です。後悔なんてしたことないです。」


 全く、優秀過ぎる2人だと苦笑する。大体顔に出ていたといっても絶対に気づかれないレベルだ。そのくらいの感情のコントロールは出来ている。それなのにこの子達は確実に気付いてくる。それだけ自分の事を想って、見てくれているという事なのだろうが。


「ああ、感謝している。これからも頼りにしているから。」

「「はい、どこまでもアキさんと共に。」」


 セシルとアリアが優雅にお辞儀をする。


 アリアは元から従者としてついて着てくれた。でもセシルは元々冒険者協会の受付嬢で、あくまで一時的な秘書のつもりだった。でもいつの間にかすっかりアキの専属になってくれている。以前セシルに「それでいいの?」と聞いたら「それがいいんです、私はアキさんの専属受付嬢です」とはっきりと答えてくれたのを覚えている。だからセシルには感謝をしている。当然アリアにも。きっとこの2人はどこまでもアキの従者として自分を助けてくれることだろう。不甲斐ない主人と思われないように、これからも力戦奮闘していかなければならない。見限られないように頑張ろうと改めて心に決める。






 アリアとセシルと楽しく雑談していたら、何時の間にか学業地区に入っていた。2人とのんびり話すのも久しかったので、ついつい話し込んでしまっていたようだ。


「学校での打ち合わせが終わったら3人で買い物いかない?」

「「いきます!」」


 思ってもみなかった提案だったのか、2人は目を見開いて驚いた後、嬉しそうに笑ってくれた。まだアリアとセシルとは買い物に行った事がなかったのでいい機会だ。2人は我儘なんて全く言わないし、贅沢も言わない。いつもアキの為だけを考えて動いてくれる。だから今日くらいは我儘を言わせようと思い、誘ってみたのだが、大正解だったようだ。


「それに音楽を聴きたい。まだミレーの音楽に触れてない。」


 ベルがミレーは街中から音楽が聴こえるような国ですと言っていたが、まだ聴いた事がない。さすがに住宅地区では音楽は聴こえなかった。そもそもベルの屋敷の敷地が大きいので、中に居れば周囲の喧騒は聴こえない。だから商業地区に行く必要があったわけだが、ミレーに入ってからはどたばたでその時間もなかった。何回も抜け出そうと実は思ったのが、さすがに自重して耐えた。だからこそ今日は是非商業地区で音楽を聴いてみたい。


「ふふ、アキさん好きですもんね。」


 セシルがアキの気合の入った様子を見て笑う。アリアもしょうがない主人を見るような優しい目でアキを見つめてくる。だが楽しみな物はしょうがない。


「ああ、本当に楽しみ。付き合ってね?」

「「ご存分に。」」


 楽しそうにしている自分達の主人を見て、アリアとセシルも本当に楽しそうだ。彼女達とは本当に良い関係だなと思う。一緒にいて疲れないし、助かる。何より安心できる。


「まあ、とりあえず終わってからだな。学園はもうすぐか?」

「はい、あの角を曲がった先にあります。」


 アキはうろ覚えだったが、セシルがちゃんと場所を把握してくれている。やはりさすがアキの秘書だ。


「よし、じゃあ気合を入れていくとしよう。」

「気合を入れて女性を落とすのです?」


 セシルがアリアらしい事をほざくので兎耳を無言で引っ張る。


「あ、だめ……!引っ張らないでえええ、ごめんってばあああ。」


 アリアはアリアで自分のセリフを取られ、ちょっと複雑な表情をしている。


「あれが、正門か。とりあえず誰か捕まえるか。」

「新しい女ゲットですね。」


 さっきはセシルにお株を奪われたからか、ここぞとばかりにアリアが毒を吐くので、とりあえず殴っておく。


「まったく。よし、じゃあ行こうか。」

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