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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十章 ミレー王国闘技大会
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「アキ、貴方は私の後ろで待機しなさい。」

「かしこまりましたアイリーンベル王女殿下。」


 ベルに丁寧に一礼する。

 現在ベルと闘技大会の王族貴賓席にいる。これから闘技大会を観戦する予定だ。






 公爵を始末した翌日は1日休日とし、屋敷でのんびり過ごした。街へ繰り出してもよかったのだが、ミルナ達が気を使ってくれた。おそらくここ2日連続で人を殺めているから心配してくれたのだろう。特にソフィーからは「絶対外に出たらダメです!」と1時間くらい説得された。うちの子達の過保護さには苦笑したが、皆の気遣いに感謝し、1日ごろごろさせてもらった。アキとゆっくり過ごせる時間はミルナ達にとっても久々だったようで、心行くまで楽しんでいた。


 ちなみにベルだけは国務があったので外出しており、その時にアキが闘技大会に同行出来るように調整してくれた。


「アキさん、私の護衛として貴賓席に同行出来るよう手配しました。」

「さすがだな。助かる。」

「普通は護衛でもダメなのですが、大切な友人、そしてSランクという事で特別に許可して頂きました。もしかしたら女王から接触があるかもしれません。」


 どうやらエスペラルドの闘技大会に来ていたミレーの王族は女王だったらしく、アキの事は知っているとの事。それはつまりアキの魔法について知っている事になる。魔法に力を入れているミレーだからこそ特別にアキの許可が貰えたのかもしれない。


「私は行けないのですかー!」


 ソフィーが必死に連れて行けアピールをしてくるがさすがに無理だ。当然ミルナ達も不満そうな顔をしている。だが王族専用の貴賓席に入れるわけがない。アキの場合はベルが特別に手を回してくれたからであり、そんな何人も例外を作ることは出来ないだろう。


「貴女方は1日アキさんと一緒にごろごろしていたのでしょう?我慢しなさい。」


 ベルがはっきりと拒絶をミルナ達に言い渡すが、「でもでも」と頑張って抵抗していた。皆も段々と王女であるベルの存在に慣れてきてくれたようでアキとしては嬉しい。


「今度埋め合わせするから。貴賓席は無理だけどみんなで闘技大会観戦しにおいで?ミレーのSランクや冒険者も見られるし、いい勉強になるんじゃないか?」


 アキがミルナ達を説得して何とか納得してもらった。アリア、セシル、エリスも行くと言っていたので単独行動はしないように命じた。アリアとセシルは戦闘が出来ないので、ベルの暗殺を企てた黒幕がいる以上、今はあまり出歩かせられない。エリスは実力はあるが頭が少し残念なので情報漏洩が心配だ。まあ普段言い合いをしていても、アキが言えばちゃんと従う子達なので大丈夫だろう。






 そして現在、アキは闘技大会の貴賓席でベルの側に待機している。


 アキはベルと王族専用馬車での移動だったので、ミルナ達とは別行動だ。そのせいもあり、彼女達はアキより大分早めに屋敷を出立した。なんでも「いい席を取るんです」と張り切っていた。おそらくミルナ達は既にこの闘技場のどこかに来ているだろう。


 というか左前方150M程先の観客席にいる。


「あいつら目立ち過ぎ。」


 闘技上のステージではなく貴賓席のアキの方しか見ていなければ注目を浴びるのは当然だ。そして全員が可愛い女の子なのだから尚更目立つ。


「それにこっちばっか見るな……。」


 この距離だけどわかる。ミルナ達の視線が「王女と変な事しないように見張っています」と言っている。どうやら彼女達にとっての「いい席」とは「アキの事がよく見え、監視できる席」の事らしい。


「うふふ、アキさん愛されてますね。」


 ベルが小さな声で話しかけてくる。各国の来賓も周囲にはいるが、結構席の間が空いているし、闘技場内の観声でアキ達が小声で話せば周りには聞こえないだろう。堅苦しい話し方をずっとしなくていいのは助かる。





 闘技場はエスペラルドで見たものと造りは大体同じ。円形の闘技場で中心にはステージがあり、それを囲うように観客席が配置されている。東京ドームのようなものをイメージすればわかりやすい。だがドームとは違い石造りで屋根もないので、古代コロシアムの方が説明としては正しいかもしれない。


 観客の数は1万人くらいで超満員だ。ただ貴賓席の対面の観客席には似たような格好の観客が大勢いる。エスペラルドでは見なかった光景だ。


「ベル、正面のアレ、もしかして?」

「はい。向かって左が魔法学校の生徒、向かって右は騎士学校の生徒です。」


 遠いのではっきりとは見えないが、騎士学校の生徒は全員が白と青の鎧を身に着けているようだ。対する魔法学校の生徒は赤と白が混ざった制服を着ており、スカートを履いている子がほとんどだ。やはりベルの言う通り、男が騎士学校、女が魔法学校に通うという事なのだろう。


 「しかし格好の話で言ったら今日のベルは……。」

 

 今朝彼女を見た時からずっと言おうと思っていた事だ。今日のベルは普段とは雰囲気が違う。服はいつものドレスだがどこか気品がある。いつもの「可愛い」ベルではなく「美しい」ベルだ。まさに王女様に相応しい美しさ。つい見惚れてしまい何も言えないくらいに美しい。

 

 おそらく彼女の髪型のせいだろう。いつもは後ろで軽く結んで背中に流しているだけなのに、今日は美しい銀髪にウェーブを掛け、編み込みカチューシャのようにセットしている。そして薔薇のような花の髪飾りを付けて華やかさを演出。まさに花の髪飾りで彼女の美しさに「花」を添えていると言っても過言ではない。



「綺麗だね。」

「ふふ、アキさんにしては褒めるのが遅いですよ?」


 ベルがくすくすと嬉しそうに微笑む。


「朝、直ぐに気づいたよ?でもあまりに美しくて、見惚れてしまったからね。」

「……っ!……も、もう!不意打ちは卑怯です……。」


 頬を染めてベルが俯く。


「王女としての正装ってやつか?でもエスペラルドの闘技大会ではしてなかったような。今回は他国の催しに来賓として参加するからか?」


 普段のベルも、王女としてのアイリーンベルも、アキは見ているが、口調が違うだけで外見にこんな劇的な変化はなかった。ベルと初めて会ったエスペラルド闘技大会の時だっていつもの彼女と同じ格好と髪型だった事を覚えている。


「他国というのもあります。で、でもそれだけじゃないです。この髪型にしたのは初めてですし……。」

「他に何かあるの?」

「な、内緒です!」


 教えてくれないらしい。ベルは頬を染めたままそっぽを向き、ボソボソと何か独り言を呟いている。


「アキさんに褒めて貰らいたかったから頑張っておめかししたんだもん……。」


 聞こえてるけど。


「ベルはおめかしなんかしなくても綺麗だよ?」

「ば、ばかー!だ、だから独り言聞くのやめなさい!」


 再び顔を真っ赤にするベル。聞こえない振りをするのが正しいのはわかっていたが、つい言ってしまった。


「普段の髪型もいいけど、今のもいいね。髪飾りも可愛い。まさに王女って感じだな。国務とかの時はこっちでもいいんじゃないか?」

「そ、そうですか?じゃあそうしよかな……?」





 ベルとそんな雑談をしていたら、急に横から声をかけられた。


「エスペラルド王国アイリーンベル王女殿下、よくいらっしゃいました。ところでそちらが王女殿下のご友人ですか?」


 声のする方に視線を向けると、豪華な赤と白のドレスを着た女性が立っていた。金色の装飾品を着けて、頭に王冠のようなものをのせている。おそらく彼女がこの国の女王、イアイリス・ミレーだろう。赤色の燃えるような髪と瞳。年齢は30台後半だろうか。凛々しく美しい。まさに若きカリスマ女王という感じだ。


「はい、ミレー女王陛下。本日はお招き頂きありがとうございます。アキ、挨拶なさい。」


 ベルは女王にカーテシーをした後、アキに指示する。自分なら問題ないと判断してアキ自身にまかせてくれたのだろう。だが女王はベルの発言に少しだけ目を見開く。もしかしたら、友人とはいえ護衛で来ているアキに、挨拶を任せるのは珍しい事なのかもしれない。


 だがアキとしてはこの程度はなれっこなので問題ない。顔色一つ変える事なく女王の前に立ち、丁寧に一礼する。


「ミレー王国イアイリス・ミレー女王陛下。私はSランク冒険者、メルシアのアキと申します。本日はアイリーンベル王女殿下の護衛として貴賓席に同席させて頂き誠にありがとうございます。この度はご無理を聞いて頂き申し訳ございません。ご迷惑をおかけ致しますが何卒ご容赦くださいますよう。」


 アキが挨拶を終えると女王は少しだけ微笑む。


「あら、アイリーンベル王女殿下。うふふ、良い御方を護衛にお持ちですね。」

「ええ、私の自慢の護衛で、大切な友人です。」

「それではアキ殿、闘技大会お楽しみください。」

「ありがとうございます、イアイリス・ミレー女王陛下。」


 それだけ言うと女王は踵を返し、ミレー王族専用の席へと戻って行った。彼女に悪い印象は与えなかったようで一安心だ。

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