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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第九章 ミレー王国・王都レスミア
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 アキは別館に戻ると、アリア達が準備してくれていた風呂に浸かり、血の匂いを洗い流す。どうやらアリアとセシルはアキが血まみれになる事がわかっていたようで、全て準備していてくれた。相変わらず優秀すぎる2人だ。


 風呂から上がり、アキはリビングへと向かう。既にミルナ達とエリスは戻っており、リビングのソファーで寛いでいた。


 だが何故かアキの姿を見ると飛び上がるミルナ達。


「アキさんおつかれさまですー!」

「お疲れ様ですわ!」


 ソフィーとミルナが両側から抱き着いてくる。


「アキ!早くここに来なさい!膝枕してあげるわ!」

「そうだよ、アキ!ほら、ここ!僕の尻尾も触る?」


 エレンとレオが急かすようにアキをソファーに座らせてくる。そして無理矢理エレンに膝枕され撫でられる。レオは尻尾をアキのお腹の上に乗せて「触れ」と言ってきた。まあ、せっかくだし触るけど。やっぱりレオの尻尾は最高だ。


「それで、うちの子達は何故暴走しているの?」

「おそらく人を殺めて気持ちが昂ってるであろうアキさんを癒したいのでしょう。」

「ですね、前は王女様に取られていましたし。」


 アリアとセシルが教えてくれる。だから必死なのかと呆れる。まあ、うちの子達らしくて微笑ましい。


「腹黒王女なんかに負けませんー!」

「そうよ!王女だからって偉そうに!」


 ソフィーとエレンが勝利の雄叫びを上げる。止めようかと思ったがもう遅い。ベルは既にリビングの扉の所で微笑みながら立っている。


「あらあら?うふふ、いい覚悟ですね。極刑にしようかしら。」


 エレンとソフィーが一気に顔面蒼白になってアキに助けを求めてくる。完全に自業自得だが、この子達の頼みなので仕方ない。


 アキはソファーから立ち上がり、ベルの元へ行き彼女を撫でる。


「ベルは大丈夫?」

「はい。大方片付きました。」

「そっちじゃなくて、ベル『は』大丈夫?」

「あ……うん……。えへへ、大丈夫です。」


 2回目でアキの言っている意味を理解したのか、頬を染めて嬉しそうに頷くベル。これでソフィーやエレンの暴言は忘れただろう。なんだかんだでベルも単純だ。





 アキが公爵を始末した後、ベルは王女としての役割をきっちり果たしてくれたようだ。ベルや公爵の従者に事の成り行きを説明、公爵の死体の後始末、そしてミレーとエスペラルドに対して正式な文書を出したらしい。


「完璧だね。さすがベル。ありがとう。」

「いえ、お礼を言うのは私のほうです。」

「まあ、座って話そうか。」


 アキはベルに座るように促す。だが彼女は笑顔のまま動こうとしない。暫くにらめっこしていたが、埒が明かないので、アキはとりあえず空いているソファーに腰かける。すると頑なに動かなかったベルが待っていましたと言わんばかりに隣に座って抱き着いてくる。どうやらこれがお望みだったらしい。


「ベル、話しにくいから正面にお願いしたいんだけど。」

「イヤです。私は正式にアキさんの女になったんですからここにいます。」

「いや待て、あれは公爵を絶望させる為に言っただけだ。」

「ダメッ。言ったからには責任とってください。」


 凄いデジャブ感を覚えるアキ。ソフィーの時もエリスの時も確か似たような感じたった気がする。そして当然のようにうちの子達がカッっと目を見開いて、アキを睨みつけてくる。


「「「「アキさん!お話!」」」」


 言い訳する時間も貰えず、問答無用でうちの子達に「お話」された。特にソフィーからは「アキさんの女は私ですよね?何を考えているんですか?」と1時間くらい同じ事を言われ続けた。怖い。アリア、セシル、エリスは特に何も言って来なかったが、表情が明らかに拗ねていた。


「全く……。厄介な案件が片付いた事に喜ぼうよ。」

「『全く』は私達のセリフですわ!全く……。仕方なくですわよ?ほんっ

っっとうに仕方なくですが、特別に許してあげますわ。」


 ミルナが渋々と許してくれた。やたらと偉そうなのがなんか癪だ。とりあえずソフィー達もある程度文句を言えて満足気だ。


「アキ、1ついいか?教えて欲しい。何故誰かの差し金だとわかったのだ。」


 ミルナ達の説教が落ち着いたタイミングでエリスが聞いてくる。


「私も参考までに聞きたいです。」


 ベルも気になったようで、エリスに同意する。


「とりあえず最初から説明する。ミルナ達は何の事かわからないだろうしね。」


 ミルナ達とアリア、セシルは対談部屋にいなかったので、わからなくて当然だ。アキは先ず公爵との一部始終を彼女達に説明する。そして一通りの説明が終わったところで、アキは何故公爵の背後に別の人間がいると思ったかを教える。

 

「確かにあの公爵では国務を代行する事までは思いつかないでしょうね。納得です。ではオリハルコンの事を知らないってどうやって判断したんですか?」

「ああ、表情から読み取っただけだ。人間は嘘をつく時必ず表情や所作に変化が出る。」


 これは心理学の一つで、人間は嘘をつく時、特定の行動や表情を取る。それを知っていればある程度の虚偽を判断できるというわけだ。


「そうなんですか?」


 ベルが首を傾げる。いまいちわからないようなので実践してやろう。


「うん。そうだね……ベルの今日の下着の色って何?」

「な、な、なんでそれを今聞くんですか!」


 急に下着の色を聞かれたベルが慌てている。顔を真っ赤にしながら必死にアキに文句を言ってくる。相変わらず不意打ちに弱いベルだ。


「白?」

「違います!」

「水色?ピンク?」

「違います!」

「ライトグリーン?」

「ち、違います!いい加減にしなさい!」

「なるほど、ライトグリーンか。ベルらしいね。」


 ベルは何となく淡色系な色を好みそうな気がしたが、どうやら合っていたらしい。そして反応からして白、水色、ピンク等も持っているようだ。


「ば、ばかばかっ!違うって言ってます!」

「落ち着け。虚偽を見抜く方法を実践してみた。」

「だからって私の下着で確認する必要がどこにあるのですか!」


 ベルが涙目で殴ってくる。だが全く痛くない。ぽかぽかと言う擬音語がぴったりな可愛らしい暴力だ。


「まあ、聞け。例えば今下着の色を確認した時、ベルは思い出す為に目線を上、そして左に移動させた。人ってのは記憶を思い起こしている時は左上を見るんだ。逆に嘘をついている時は右上を見る。嘘を創造しているって言えばわかりやすいか?」

「ふんっ、しりません!」


 ベルがすっかり拗ねてしまった。


「そうなんですね、今度よく観察してみます。」


 セシルが兎耳をぴくぴく動かしながら呟く。あの動かし方は興味津々な証拠だ。せっかくなのでセシルでも実践しておこう。


「セシルは何色?」

「なんでぇぇ、私に聞かないでぇぇ!」

「黒、ピンク、水色……。なるほど水色か。」

「ばかー!アキさんのばかー!」


 正解のようだ。


 さらにはついでにエリスの事も見つめる。すると彼女は全てを察したらしく、ビクッと身体を震わせて焦り始める。


「エリス。」

「や、やめろ!私を見るなー!」

「青だね。」

「何故だ!何も言ってないぞ!目線も動かしてないのだ!」


 最期にミルナ達の方を見るが、全員が全力で視線を逸らしている。何とも寂しい事だ。


 すると急に隣に座っていたベルが頬を突っついてくる。


「ベル、どうした?」

「ばか!で、でもセシルさんとエリスさんのは何でわかったのか教えて?」


 ベルが拗ねながらも教えろと言ってくる。話題としては興味があるのだろう。相手の所作で虚偽を見抜く技術は王女として覚えておいて損はない。


「セシルは俺の話を聞いてたから目線に意識がいってた。でも結局それは判断要素の1つに過ぎない。他にも色々ある。1つだけ誤魔化しても見抜ける。」

「ではエリスさんは?」

「あれは元から知っていただけ。でもああいう風に言えば見抜いたように聞こえるでしょ?つまり「この人の前では嘘をついても無駄だ」と相手に思わせる事が出来る。事実、ミルナ達が必死に俺から目線を逸らしていたしね。」


 アキの解説に感心したように頷くベル。ただエリスは納得がいかないようで、文句を言ってくる。


「何故だ、何故知っていたのだ!」

「え、さっきカーテンに隠れたときに見えたから。」


 エリスを抱きしめていた時にチラッと見えたので知っていた。


「アキのばかー!」


 しかしここ数日で相当「馬鹿」って言われている気がする。人が1日に馬鹿と言われる回数の世界記録を更新したかもしれない。酷い。


「ミルナミアさん達のはやらないんですか?」


 少しは機嫌を直してくれたベルが思い出したように尋ねてくる。ちなみにエリスとセシルは拗ねたままだ。全然こっちを見てくれない。


「え、だって知ってるし。今日はミルナとリオナが白、ソフィーが黒、エレンが縞々だな。」


 あっさりと下着の色を暴露されたミルナ達が慌ててアキに詰め寄る。


「なんでですの!」

「アキさんのばかー!」

「なんで知ってるのよ!こ、この変態!」

「アキ、どうしてなのかな!かな!」


 ミルナ、ソフィー、エレン、レオが口々に非難を浴びせてくる。


「だって毎朝、聞いてもないのに教えにくるメイドがいるからだけど?」

「はい。皆さんの下着の色を確認して報告するのもメイドのお仕事です。」


 アリアが当然だと言わんばかりの顔で宣言する。相変わらずのど屑メイドだ。


「そんなわけないでしょうが!余計なことするんじゃないわよ!」


 エレンがアリアに突っ込むが、彼女はどこ吹く風だ。このままではアキに怒りの矛先が向きそうなので、先に言い訳しておく。


「大体、俺はそんな仕事まで依頼した覚えはないけどね。」

「あ、私は今日は黒です。」

「どうでもいいわ、このど変態メイド。」


 急に斜め上の話題をぶちこんでくるんじゃない。大体そんな喜色満面に自分の下着の色を報告されても全くときめかない。それに少しは乙女の恥じらいというものをアリアには持って欲しい。


「でも毎朝私の報告聞くじゃないですか。」

「まあ、知っておいて損はないし。」

「「「「アキのバカー!」」」」


 うちの子達が叫ぶ。つい正直に言ってしまった。これはまた「お話」コースだろう。だが美少女のプライベートな情報を教えて貰えるなら誰だって無条件で聞くと思う。だから仕方なかったのだ。

 

「何が『仕方なかったのだ』ですの!許しませんわ!」

「そ、そうよ!ぶっ殺してやるわ!こ、この変態!」


 ミルナとエレンが鬼の形相だ。どうやらちゃんと謝った方がよさそうだ。


「みんな、ごめん。お詫びにこれから毎日ベル、セシル、エリスの下着の色も確認するから。許せ。」

「し、しないでください!極刑にします!」

「やめてください!耳禁止にしますよ!」

「酷いのだ!やめるのだ!」


 ベルが全力で止めてくる。そしてエリスやセシルもそれに加わる。アキがその気になれば余裕で出来るのを知っているので、3人共必死だ。


 そして当然その後はアリア以外の全員からたっぷりと「お話」されたのは言うまでもないだろう。ちなみに今度は1時間半程されましたとさ。

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