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アキ達は5日目の午後にミレー国はレスミアに無事到着した。あれから魔獣の襲撃が一度程あったが、それ以外は平穏な旅路だった。
レスミアはベルの言った通り、ミスミルドとは結構雰囲気が違う。建物は全体的にアジアンテイストで、植生は亜熱帯に生息するような物が多い。街の構成は、商業、居住、工業、農業と別れていてエスペラルドと似ているが、魔法学校や騎士学校があるので学業地区なるものがあるし、服飾地区などレスミア独特の地区も存在している。色々と見て回るが楽しみだ。アキは各地区の散策に胸を膨らませる。早く用事を片付けて皆で出掛けたい。爺さんもすぐに到着するだろうから案内してもらうのもありだ。
アキ達を乗せた馬車はレスミアの正門を潜り、商業地区と幾つかの居住地区を抜けて目的の屋敷へ辿り着く。エスペラルド王家所有の屋敷はかなり広く、爺さんの本宅くらいは敷地面積がありそうだ。むしろあの爺さんが王族並みの屋敷に住んでいると言った方が正しいのかもしれない。
「あほか、あのじじい。」
屋敷はしっかりと高い塀に囲まれており、守衛も入り口に常駐している。門を抜けると、広大な庭が広がっていた。庭の雰囲気もエスペラルドのものとは大分違う。バリのリゾート地に来ているような感じだ。庭の先にある屋敷はミレーの雰囲気に合わせた造りになっており、街中で見かけた建物と同じような建築様式だ。タイの古式住宅に近いと言ったほうがわかりやすいかもしれない。個人的にはこういう木造建築は嫌いじゃないので大歓迎だ。
馬車は屋敷のエントランスで停車した。さすがに王女の来訪というだけあり、使用人やメイド全員で出迎えている。ベルは彼らを労い、アキ達の事を紹介する。
「今回の依頼を受けて頂いている方々です。私の友人でもあります。国賓と同等の扱いを皆さんにはお願いします。決して失礼のないように。もし私への面会を希望されている場合は無条件で通しなさい。」
アキ達が動きやすいようにとベルが指示を出してくれた。一応アキも使用人達に挨拶をしておく。暫く滞在するわけだし、追々親交を深めてもいいかもしれない。
「それでは仕事に戻りなさい。彼らの屋敷は私が案内します。後、暫くしたらブレスレルド公爵の来訪があります。それまでには戻りますが、もし早めに到着した場合は客間に通しておきなさい。」
ベルの言葉を聞いた使用人達は一斉に動き出す。ちなみにブレスレルド公爵への使いはミレーに到着した時点でベルに出させた。ベルは従者に馬車を1台預け、公爵を呼びに行かせていたので直ぐに来るだろう。王女の呼び出しともあれば即座に応じるだろうし、殺したと思っている人物からなら尚更だ。
「荷物を屋敷に置いたらベルの屋敷に行こう。そこで最終確認だ。」
使用人達が散開してアキ達だけになったので、呼び方はベルでいいだろう。
「ではアキさんのお屋敷はこちらです。」
ベルが案内してくれる。彼女がアキ達に用意してくれた屋敷は本当にベルの屋敷の隣にあった。ミスミルドのアキ達の屋敷と同等くらいの大きさだ。おそらく客人を泊める為の別館なのだろう。
「いいとこだね。ありがとう、ベル。」
ベルが用意してくれた屋敷は彼女が滞在する本館を小さくした感じで、同じような木像建築。とても気に入った。2週間楽しく快適に過ごせそうだとベルに感謝する。
「アキさんのお屋敷だと思って好きに使ってくださいね。あ、でもこれはあくまでアキさんと従者の皆さんのです。」
ミルナ達が不可解な表情でベルを見る。
「ミルナミアさん達のお屋敷はあちらです。」
ベルが指差した先には小さな掘っ立て小屋のような建物がある。
「馬小屋でしたけど皆さんの為に空けておきました。雨水飲み放題、藁食べ放題の特別待遇です。気に入っていただけました?」
ミルナ達が唖然とした表情を浮かべている。そして文句を言いたいが言えないと恨めしい顔でアキを睨んでくる。理不尽だ。自分のせいじゃないのに。まあ、何とかしろという事だろう。アキはとりあえずベルを引っ叩く。
「痛っ……こら!アキさん、王女叩いたらダメなんですよ!」
ベルが頬を膨らませて拗ねる。
「うちの子達を苛めるなって言っているだろうが、この腹黒王女。」
さっき「アキ達の屋敷」ではなく「アキと従者達の屋敷」と言ったのはこの為だろう。相変わらずうちの子達には冷たいベルだった。一応アキが代わりに怒った事でミルナ達は満足したのか、不満の色は消えている。
「じゃあさっさと荷物だけおいて本館の方へ移動するぞ。ベル、案内してくれ。後、対談部屋だが汚しても問題ない部屋にしろ。そこで始末するからね。」
「それでしたらあまり使わない奥の客間にしましょう。」