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「第一回メルシアカラオケ大会。拍手。」
アキが宣言する。
「カラオケってなんですか?」
「音楽に合わせて歌うことだよ。」
「なるほど。」
ベルは納得したのか一緒に拍手してくれる。エリスとアリアもしている。ソフィー達とセシルはする気力がないようで、必死に許してと懇願してくるので無視した。
「じゃあリオナ。」
「うう……アキの意地悪。」
今回は完全に自業自得だと思うので助けてあげない。まあ、さすがにちょっと可哀そうなので少しくらいは励ましておいてやる。
「リオナ、歌って欲しいな。聴いてみたい。」
「う、うん……わかった、アキの頼みならいいよ。が、頑張るね。」
相変わらず素直でいい子だ。アキはレオが好んで聞いていたアニソンを流すと、彼女は頬を染めながらも歌ってくれた。予想通り普通に上手かった。可愛らしい声だし、音程もしっかりとれている。間違いなく下手ではない。
「上手いな。さすがリオナだ。」
「えへへ、そ、そう?」
無事に終わって安心したのかレオに笑顔が戻る。
「じゃあ、ソフィー。その次はセシル。」
「が、頑張りますー!」
許して貰うのを諦めたのか、レオの様子をみて安心したのかはわからないが、やる気を出してくれたようだ。ソフィーとセシルにも彼女達が好きなアップビートの邦楽を流してやる。
「2人も上手だな、俺は好きだよ。」
当然歌手になれる程の歌唱力なんて求めていない。それに間違いなくアキよりは上手い。
「やったー!」
「よ、よかったです。」
彼女達の歌声は綺麗で聴いていて心地よかった。それに2人共楽しそうに歌うから、見ているこっちも楽しい気持ちになる。これからもちょくちょく皆で歌う時間を作るのもいいかもしれない。
「エレン。」
「が、頑張るわ……。」
ガッツポーズをして気合をいれるエレン。アイドル系の曲の中で彼女がよく聴いていると言っていた曲を流す。
「おお。エレン凄い。」
めっちゃ上手い。
「あら、これは……確かに。」
ベルもそう思ったのか、驚いている。しかしエレンがここまで上手いとは思わなかった。いや、もう上手いとかいうレベルじゃない。地球なら余裕で歌手になれるレベルだ。声も透明感があって綺麗だし、音程も完璧。それにエレンは見た目も可愛い美少女だから間違いなくアイドルになれる。
「エレン、凄いな。俺の世界なら間違いなく音楽で暮らしていけるレベルだよ。」
「ほ、ほんと!?」
「ああ、歌も上手くて、可愛い。エレンの歌ならずっと聴いていたい。」
「た、たまにならいいわよ!し、仕方なくだけどね!」
口では素直じゃないエレンだが、表情は満面の笑みだ。本当にわかりやすい。しかも後ろ向いて「やった」と喜んでいる。隠すの下手か、と苦笑する。しかしエレンの意外な才能が見れた。
「じゃあ、アリア。」
「わ、私は!」
「え、アリアも共犯でしょ?絶対そうでしょ?」
「はい、一緒に聞いていましたよ。」
セシルがあっさりとアリアを売ったので、さっさと歌えと脅す。観念したアリアは恥ずかしそうに歌ってくれた。普通に上手かった。なんか悔しい。
「なんだ、アリアも上手いな。」
「あ、ありがとうございます。」
まだアリアの顔が赤い。でも気持ちはわかる。人前で歌うのは恥ずかしいものだと思う。それをこの子達にやらせているアキが一番のど畜生なのはわかっているが、今回はお仕置きなので仕方ない。そう仕方ないのだ。決して彼女達で遊びたいわけじゃない。
「えーっと、エリス。」
「何故なのだー!私は関係ないのだ!」
エリスが涙目だ。確かに彼女は関係ない。完全な巻き込み事故だ。
「ついでにエリスでも遊んでお……いやエリスの歌声が聞きたい。」
「遊ぶ!今遊ぶっていったのだ!アキー!」
しまった、口が滑った。
「冗談だ。本当に聴きたいんだ。それにエリス多分絶対上手いよ?」
なんとなくだけどそう思う。エリスは美声だし、歌えば間違いなく上手いだろう。だから聴いてみたい。うちの金髪碧眼美少女騎士が歌っているところを見たい。
「うぅ、わかったのだ。アキだから特別。」
そう言うと、エリスは恋愛系の曲を歌ってくれた。そして想像通り、彼女は上手かった。エレン並みに上手かった。ずっと聴いていたくなるような優しい歌声だ。
「うん、やっぱり。エレン並みに上手い。」
「そうですね、アキさんに同意です。」
ベルも素晴らしいと同意してくれる。
「ほんとか!」
「うん、本当に上手い。綺麗な歌声だよ。」
「えへへ、よかったのだ!」
歌ってよかったと楽しそうに笑うエリス。
実際、カラオケは楽しいものだと聞く。確かにこういうのも悪くない。アキは友人とカラオケに行った事など無かったので、こんなに楽しい物だとは思わなかった。まあ、歌っているのがミルナ達だから余計楽しく感じるのもあるだろう。
「また、皆でこういうことしようか。結構楽しい。次はベルもどう?」
「ちょっと恥ずかしいですが……楽しそうです。はい、次は私も。」
ベルも案外楽しんでくれたようだ。
「うん、意外に悪くないわ。」
エレンも同意する。他の子達も頷いている事だし、時折カラオケ大会でも開催しよう。
「よし、カラオケ大会終了。みんな、おつかれ。」
「あ、あのー!……私は?」
ミルナが「まだ歌っていませんわ」と手を挙げる。忘れられていると思ったようで、不満気だ。
「もちろん、覚えてるよ。オチでしょ。よし歌え。」
アキは耳を塞ぐ。
「なんでですの!せめてちゃんと聞いてください!オチにしないで!」
「ミルナ、世の中には流れというものがあってだな。このままいくと間違いなくミルナは下手だというオチが待っていると思うんだ。」
「そんなことないですわ!私、これでも自信あるんですのよ!」
確かにアキが「歌え」って言った時、ミルナだけは嫌がってなかった。だが今までのミルナのポンコツぶりから察すると、結末は想像に容易い。間違いなく下手な気がする。
「みんな心して聴くように。無理だとおもったら直ぐに耳を塞ぎなさい。特にセシル、ソフィー、レオは耳がいいんだから。」
アキは念の為に注意する。そしてミルナを除く全員がアキの言葉に「わかりました」と神妙な面持ちで頷く。この子達も何となく嫌な予感がするのを感じているのだろう。
「ちょっと、アキさん!失礼ですわよ!大丈夫です。さぁ……私の美声に酔いしれるといいのですわ!」
何を言ってもこの暗黒物質は歌うと言って聞かないだろう。もうとりあえず歌わせよう。そしたらきっと満足してくれるはずだ。アキがミルナが好きな曲を流してやると、彼女は気合を入れて本人の言う「美声」を響かせる。
案の定の惨劇が待っていたのは言うまでもない。
「ベル、大丈夫か?」
アキはベルの耳を塞いでやる。ミルナをけしかけたのはアキなので、自分くらいは犠牲になろう。セシル、ソフィー、レオは既に耳を塞いでいるし、アリアとエリスは虚空を見つめて耐えている。
「どうでしたか!」
ミルナがドヤ顔で胸を張って尋ねてくる。よくもまあそんな自信満々な顔が出来るものだと呆れる。
「え?見てわからない?」
セシルとレオはぷるぷると可愛く震えているし、ソフィーは顔色が悪い。アリアとエリスも未だに虚空を見つめている。アキは騒音には多少慣れているので鳥肌くらいで済んだ。ベルもアキがかなり早い段階で耳を塞いでやったので大丈夫そうだ。
「え……?いやアキさん、私上手でしたわよね……?」
「ミルナ……その……ごめんな。」
「本気で謝らないでくださいませ!逆に凹むから!」
ミルナが「嘘ですよね、本当の事言ってください」って哀願してくる。残念ながら嘘も何もついてない。ミルナでオチを作ろうと思っただけなのに、想像を遥かに通り越して凄惨な事件が起きてしまった。
「ベル、『ミルナ歌うの禁止』法でも作ろうか。」
「ええ。本当に作りましょう。これは人類を滅ぼせます。」
ベルがおぞましい物を見た表情で頷く。
「ミレーに行ったら石投げられるんじゃない?」
「私だったら投げます。」
2人の会話を聞いていたミルナが絶望の表情を浮かべている。やっとアキが言っている事が嘘じゃないと理解したようだ。
「アキさん!私これ以上ポンコツなりたくないんですの!お姉さん!しっかりしたお姉さんになりたいんです!アキさんたすけて!お願いだから!」
ミルナが涙目で抱き着いてくる。子供の様に愚図るミルナを優しく撫でながら慰めるアキ。さすがにポンコツ過ぎて可哀そうになって来た。何とかしてやろう。
「わかった。まかせろ。歌は歌う程上手くなるっていうから、練習しよう。だから大丈夫だ。」
ソフィー達もさすがに同情の表情を隠せないようだ。
「ミル姉が段々可哀そうになってきたよ。」
「ええ……優しくあげないと駄目ね。」
エレンとレオに哀れまれるレベルで可哀そうと思われているミルナ。普段毒舌なアリアも、この事に関しては何も言わないでおこうと心に決めたような表情をしている。
ある意味ミルナのおかげでうちの女性陣が初めて1つになった瞬間かもしれない。