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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第二章 魔素
14/1143

2

「ミル姉、おなかすいたー。」


 レオが周囲にあった手頃な岩に腰を下ろす。


「私もですー。休憩ついでに食事にしょませんか?」


 ソフィーも少し疲れたように地面に座り込む。


「やっぱり先行偵察って疲れるのか?」


 アキが尋ねると2人は何故か恥ずかしそうに頬を染める。


「違いますわよ、アキさん。偵察は確かに神経を使いますが、ソフィーとレオは私達の会話も聞いていたんですのよ。」


 ミルナがアキに教えてくれる。だから2人を呼び戻す際、ミルナがちょっと声をあげるだけで2人は気が付いたんだなと納得した。それに確かにアキ達の話を聞きながら周囲警戒なんてしたら2倍疲労が溜まるのは間違いない。


「やっぱり興味ありますし……。」


 ソフィーが呟く。


「それは悪かったね。じゃあ偵察してもらったお礼に俺のいた世界の食事でも作ろうか。」


 それを聞いたソフィーとレオはやったーと喜んでいる。ミルナも興味ありますので是非と言ってくれる。エレンに至ってはしょうがないから食べてあげるわとのこと。アキは異世界渡航セットの中に調味料もいくつか持ってきている。間違いなく必要になると思っていたからだ。いずれは調味料も自分で作ればいいと考えていたが、それまでは日本の味が恋しくなるのは小説ではよくある展開だったので、想像に容易かった。


「何か食材ある?」


 アキが尋ねるとソフィーが鳥を出してくれる。


「さっき周囲警戒していたついでに狩りました。使えますー?」


 ついでで狩れるのが凄いと思うアキ。警戒しつつ、アキ達の会話を聞きつつ、弓を射っているわけなのだから。


「ありがとう、ソフィー。じゃあ少し待っててね。」

「はい!お願いします。」


 ソフィーが嬉しそうにアキに鳥を渡す。そして地面に座り込み、アキのほうをじーっと見つめてくる。他の3人も興味津々のようで、背後から視線を感じる。地味にプレッシャーだなとアキは思うが、気にしないようにして鳥を捌いていく。見たことない鳥だったが、地球の鳥と似たような生体構造をしていたので助かった。サバイバルや料理関連の本は異世界に来ると決めてから読み漁ってあったし、タブレットの中にも大量に入れてある。地球で事前に練習もしたので問題ない。ミルナ達と出会うまでずっと携帯食料しか食べていなかったのは、単純に獲物を狩る技術がなかったのと、食用できる生物や植物の見分けがつかなかったからだ。


「ミルナ、短剣かして。」


 サバイバルナイフも持っているが、あのレベルの武器を見せるのにはまだ早いと思った。あとそんな武器を鳥を捌くのに使ったら何か言われそうだ。ミルナから先ほど見せてもらった量産品の短剣を受け取ると、アキは手際よく鳥を捌き、適当な木の枝を削り鶏肉を刺していく。作れる鳥料理は色々あるが、今は鳥と調味料しかないので必然的に料理は絞られる。時間もかからずお手軽に食べられる焼き鳥を作ることにした。


「火をおこしてもいいかな?」


 念の為に確認をする。火をおこすと目立つので勝手にやるわけにはいかないだろう。


「この時間でしたら問題ありませんわ。魔法を使いましょうか?」


 ミルナは大丈夫だと言ってくれる。さらに魔法も使うと提案してくれるが、遠慮しておく。せっかくなので魔法ではなくアキの技術を見せてあげたい。


「いや、ライターを使うよ。エレンやレオに見せたいしね。」


 そう言うとアキは手頃な枝を集め、中に着火剤を入れる。そしてライターを使って着火剤に火をつける。


「これで火が回るまで待てばオッケー。」

「すごい!魔法使ってないのに火が付いたよ!」


 改めて見た火をおこす技術にレオは凄い凄いと嬉しそうに炎を見つめている。エレンは声には出してないが、表情が笑顔で楽しそうなのが丸わかりだ。ただアキの視線に気づくと慌てていつもの仏頂面に戻り、ぷいっとそっぽを向いてしまう。


「アキさん、さっき中にいれたのなんですー?」


 ソフィーが不思議そうに尋ねてくるので、アキは着火剤を見せて用途を説明する。さすがのミルナも感心したのか、ソフィーの隣で感嘆の声をあげている。


「それがさっき言ってた技術ですのね。魔法がない世界だからこそ辿り着けた文明の利器。聞くと見るとでは大違いですわ。」


 ある程度火が回ったのを確認したアキは焼き鳥を両手で数本ずつ掴み、炎の上で炙る。しばらくすると肉の焼けるいい匂いがアキ達を包む。


「アキ、まだ?まだ?」


 獣人族のレオは尻尾をブンブン振りながら催促する。やはり狼族だけあって肉食なのかなとアキは思う。


「落ち着けレオ。もうちょっと待って。」

「早く!早く!」

「はしたないよ。レオ。気持ちはわかるけどね。」


 ソフィーが注意するが、そんな彼女の口元にもわずかに涎が見える。


「ソフィー口、口。」

「ち、違います。これは、そう涙です!」


 アキが注意するとソフィーは恥ずかしがりながらも必死に取り繕う。その言い訳は無理があるだろうと全員が思ったが、彼女の面子の為、誰も何も言わなかった。


 少ししていい具合に肉も焼きあがったので、まずはレオとソフィーに渡す。


「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね。」


 2人は嬉しそうに焼き鳥を受け取り頬張り始める。その様子を羨ましそうに見てるエレンにも渡す。


「エレンもどうぞ。」

「し、しょうがないわね、勿体ないから嫌々だけど食べてあげるわ。」

「ふーふーしてあげようか?」

「ぶっ殺すわよ!」


 そういいつつも嬉しそうに受け取るエレン。


「あらあら、私は最後ですの?」


 ミルナがわざとらしく悲しそうな表情をする。


「俺たちは会話していただけだからね。さすがに労働してくれていた3人が先だ。それに俺より先なんだから最後じゃない。」

「うふふ、冗談ですわ。ありがとうございます。」


 ミルナもそう言って焼き鳥を受け取る。


 アキも味見の為に食べてみるが悪くはない。ソフィーが狩ってくれた鳥はそれほど癖がなく普通の鶏肉に近い。絶品には程遠いが及第点だろう。みんな無言で食べているので舌に合わなかったかと思ったが、全員幸せそうな顔で必死に食べているので問題なさそうだ。


「レオあたりがお替りといいそうだし、次を焼いておくか。」


 結局アキは最初の1本以外は食べる暇もなく、ずっと焼く羽目になっていた。結構大きな鳥だったので50本くらいはあったはずなのだが……。


「おかしい、俺のはどこにいった。」


 アキがそう呟くと全員が申し訳なさそうな顔をする。


「ソフィー食べすぎ。」

「レオもでしょ。美味しかったんだもん。アキさん、ごめんなさいです。」


 そう言ってもらえるのは嬉しい事なので気にするなと2人に伝える。


「まぁまぁね!また食べてあげてもいいわ!」


 ゴンッとエレンの頭の上にミルナが容赦なく杖を落とす。


「何がまぁまぁですか。エレン、貴方が一番食べていたでしょう?」

「いいって、ミルナ。」


 エレン的には褒め言葉なのはわかってるのでアキはミルナを諫める。


「まぁ……アキさんがそうおっしゃるなら。私もいっぱい食べてしまいました。すいません。御馳走さまですわ。」


 全員が満足して貰えたなら問題ない。移動中はミルナと話してだけなので、少しは役に立っておきたいという気持ちがアキにもあった。それに無い物に文句を言っても仕方ないのでアキは携帯食料を適当に頬張る。ただこの一件のおかげで今後の食事はすべてアキが作ることになり、後々頭を悩ませることになるのだが、そんな事を今のアキは知る由もない。

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