7
「今度こそ話の続きだ。といってもミレー王国の事については大方聞けたしな……どうするか……。そうだ、ベル。建造物とか特産品とかそういう一般的なミレーの特徴教えてよ。エスペラルドと違う部分が知りたい。」
実際行ってみればわかる事ではあるが、どうせ時間もあるし聞いてみるのもいいだろう。
「そうですね……建物の建築様式はエスペラルドとは違います。多分気候のせいでしょう。」
ベルが手を顎に当て、遠い記憶を呼び起こすかのように呟く。
気候が年中同じなのはエスペラルドと一緒だが、どうやらミレーはエスペラルドより平均気温が高いらしい。その影響か、ミレーの建物は太陽光を遮るように設計されていると言う。窓や扉も大きく取られていて、熱が籠らない風通しのいい造りになっている。イメージ的にはバリやタイのアジアンテイストな木造住宅といったとこだろうか。
「服も薄着です。これも気温が高いからですかね?」
やはり服装も熱帯に適した物になっているらしい。当然だろう。暑いのに厚着する意味はない。
「よかったですね、アキさん。露出が多い女性を沢山みられますね?」
袖で口元を覆いくすくすと上品に笑うベル。
「どうでもいいな。けどベルもミレーに行ったらその格好するのか?俺はそっちの方が気になる。ベルが着るなら見たい。」
「え……あの……その……。アキさんが見たいなら……。」
ベルが頬を染めて俯く。アキの切り返しが予想外だったようだ。どうやら彼女も不意を突かれるのが弱いらしい。
「アキさん!私します!しますよー!」
ソフィーが手を挙げて必死にアピールしてくる。エレンとレオもするするとやる気満々だ。そんなに自分に見せたいのかと苦笑する。だが彼女達がどんな服装をしてくれるのか楽しみではある。まあエレンの普段の格好は元々露出が高いのでそんな変わらなさそうだが。
「でもそんな格好したら普段のミルナみたいな露出狂になるけどいいの?」
一応確認しておく。
「アキさん!さり気なく私を貶さないでくださいませ!まるで私が普段から……エ、エッチな格好しているみたいじゃないですか!」
「え、違うの?」
「違います!違うんだから!清楚!清楚な格好って言ってくださいませ!」
ミルナが必死に否定する。しかし説得力は皆無だ。確かに普段着はエレンのほうがミルナより露出がある。だがエロくない。変な色気を出してなくて可愛い。ミルナの場合は何故かただただエロい。
「まあ、ミルナの露出癖は仕方ないとして……ベル、続き。」
「アキさ……んー、んー!こ、こらっ、エレンにレオ離しなさ……んー!」
納得のいかないミルナがさらに文句を言おうと口を開くが、このポンコツお姉さんの文句を聞き始めると永遠に話が進まなくなるので、エレンとレオに合図して押さえつけてもらった。口も塞がれたミルナが何かもごもごと呻き声をあげている。その姿が既にエロい。さすがミルナ。
「は、はい。とりあえず建物や服装についてはそんな感じです。人種についてはエスペラルドとそれほど大差ありません。獣人族の割合が少し多く、エルフ族が少ないくらいです。特産品は服や装飾品が中心です。やはり女性が活躍している国だけありますね。」
女性が活躍する社会を作るという事は、自然と服飾等が盛んになるのかもしれない。地球でもアパレル系で働いている女性は多かった。服が主力商品の爺さんの商会もミレーでかなりの売り上げを上げているらしい。
「それは買い物が楽しみだね。時間作って皆で行こうな。」
女性陣はアキの提案に大賛成のようで、行く行くと騒いでいる。特に買い物が大好きなミルナは満面の笑みだ。露出狂と弄られた事はもうすっかり忘れたらしい。
「そのくらいでしょうか。あまり各国間の違いがないので説明するのも難しいです。」
ベルはもう思い出せませんと頭を振る。
「あれ?でもミレーは魔法と音楽の国って言ってなかった?」
確かベルが以前にそう言っていたはずだ。
「あ……すいません。そうでした、ミレーは音楽を好む人が多く、どこへ行っても音楽が聞こえてくると言われてますね。」
「それはいいな。そうなるとそれが一番楽しみだ。」
この世界の音楽を実はまだ聞いたことがない。エスペラルドではそれほど普及しておらず、耳にする機会が全くなかった。結局自分のタブレットに入っている音楽を楽しむ毎日だった。
「アキさんは音楽が好きなんですか?」
「それはもう。」
ベルの質問に肯定で答える。音楽は大好きと言っても過言ではない。そしてうちの子達も結構好きだと最近わかった。最初はソフィーとだけ音楽談義をしていたのだが、ミルナ達が興味を示したので音楽を聴かせてやった。そしたらすっかり気に入ったらしい。アリアやセシルも同じで、素敵ですと言ってくれた。気づいたらいつの間にか全員が地球の音楽を聴くようになっていた。
今ではタブレットや音楽プレーヤーを誰が借りるかで毎朝揉める程だ。ただ彼女達らしく、両方借りようとは絶対にしない。どちらかは必ずアキの手元にある。そして残りの1個を誰が持つかで壮絶な戦争が行われているのだ。あまりにも収集がつかないので、自分の分はいいからと言ったのだが、全員が口を揃えて「それはダメ!」と頑なに譲らなかった。結局、アキは毎朝音楽プレーヤー争奪戦バトルを見守る羽目になっている。
「うちの子達、アリアやセシルも好きだよね。ベルもせっかくだし俺の世界の音楽聴いてみる?」
「はい!是非お願いします!」
ベルが目を輝かせる。異世界の音楽に興味があるのだろう。どうせ移動中は馬車の音しかしないので、音楽を流すのも一興だ。アキは適当な音楽をタブレットから再生する。ちなみにソフィーとセシルはアップテンポの邦楽を好んだ。ミルナとアリアはクラシックやバラード、エレンはアイドル系、レオはアニソン系の曲が好きだった。音楽の嗜好が彼女達の性格通りでアキとしては興味深かったのを覚えている。
「声と音を合わせるのですね、素敵。」
「『歌』って言うんだ。俺は好きなんだけどね。」
ベルの反応を見るに、やはりこの世界では声を音に乗せる習慣がない。ミルナ達の言う通りだ。ベルがどれを好むのか気になったので、アキは色々な曲を彼女に聴かせた。
「ベルはどれが気に入った?」
「全部です!どれも素敵な部分があり、一番とか決められないです!」
「ベルは俺と同じか。その日の気分だよね。」
アキはどのジャンルの音楽も好きで、何でも聴く。特にこれと言ったのはない。どちらかというとその日の気分やテンションによって聴き分ける。
「ちなみにエリスは?」
エリスにも地球の音楽を聴かせたのは初めてだ。彼女の豪快な性格からしてハードメタルとか言っても不思議ではないが、果たしてどれを気にったのだろう。
「私は……その……3番目のが好きだったのだ。」
3番目に流した曲は確か恋愛系のバラードだったはずだ。とりあえずそれと似たような恋愛系の曲をエリスに再度聴かせてみる
「そう、そういうのだ!」
乙女だな……と苦笑するアキ。まさか恋愛ソングを好むとは思わなかった。だが同時に納得もした。エリスはSランクで男勝りな冒険者だが、やはり素は可愛い女の子なんだろう。
その後も色々な音楽と共にミレーまでの旅路を楽しむ。音楽はやはり素晴らしい。会話がなくても音楽を流しているだけでどこか楽しい気分になれる。だからこそミレーではどんな音楽が聞けるか楽しみだ。
それにどんな楽器があるのかも凄く興味がある。アキはピアノやギターなどは少し嗜んだ事がある。1人で楽しめる趣味だったからだ。当然1匹狼のアキがバンドを組んだり、演奏会に出たりはあり得ないので、誰かに聴かせた事はない。それはさておき、せっかくだしこの世界でも何か弾けるような楽器があれば欲しいと考えている。そういう意味でもミレーが楽しみだ。今は読書するか音楽を聴くくらいしかする事がないので、1人の時間に楽しめる趣味が他にも欲しい。ただ趣味に時間を使うのが勿体ないくらいミルナ達と居る時間が楽しいので、今のままでも特に問題はないのだが。
そんなことを考えていたらベルが首を傾げながら尋ねてくる。
「アキさん自身は歌ったりはしないのですか?」
「しないよ、下手だしね。」
アキは歌うのは別に嫌いではない。どちらかというと好きな方だ。ストレス発散にもなるし、楽しい。だが上手いかどうかと聞かれると、人様に聴かせるものではないと断言できる。ミルナ達にも絶対に聞かれたくない。音楽を聴きながら歌ったりしないように細心の注意を払っているくらいだ。そして絶対に誰にも聞かれないであろう風呂場で歌うようにしている。というのも、ミルナ達が常にアキの側にいようとするから、風呂くらいしか1人になる時間がないのだ。自室で歌ったりなんかしたら、ソフィーあたりが飛んで来る。間違いなく突撃しに来る。
「え、アキさん下手じゃなー……・。」
ソフィーが何かを言いかけた瞬間、ミルナやエレンが咄嗟にソフィーの口を塞ぐ。だがアキが当然それを聞き逃すわけがない。むしろ嫌な予感しかしないので、逆に聞き逃したかったが……。
一応念の為、念の為に聞いておく。
「何故知っている。」
うちの子達を睨む。場合によってはお仕置きだ。
「な、なんのことかしら!」
「ええ、言ってる意味がわかりませんわ……!」
「ぼ、僕も知らないよ?」
どうやらうちの子達はしらばっくれる気らしい。
「アリア。」
「はい、ミルナさん達はアキさんがお風呂に行くと脱衣所に忍び込んでいました。あ、セシルも。」
とりあえず無言でセシルの兎耳を掴む。こいつらは相変わらず余計な事しかしないと頭が痛くなる。こうなると本当に1人の時間がない。
「ちがうの!アキさん!ね?聞いて?お願いだから耳を引っ張らないでえええ!」
セシルが必死に弁解しているが、とりあえず耳を掴んでおく。
「違うんですの!そう、これには理由が!ありますの!」
ミルナが言い訳を始める。仕方がなかったのだと、必要な事なのだと訴えてくる。だが間違いなく必要な事ではない。ミルナの支離滅裂な言い訳に呆れる。
「いやいや、怒ってないよ?」
「嘘よ!絶対怒ってるわ!」
エレンが怯えている。この子達はアキより全然強いのに、自分が怒ると本気で怯える。それが彼女達の可愛らしいところとも言える……が今はそういう事ではない。
「いやいや、大丈夫。今からみんなにも歌ってもらうから。」
「えええええ!無理、無理ですー!」
ソフィーがぶんぶんと首を横に振る。
「え、文句あるの?ないよね?なぁ、ベル。」
「はい、歌わないならSランク剥奪しましょう。ついでに極刑にしましょう。」
ベルが素晴らしい提案をしてくれる。
「許可する。もちろんセシルにも歌ってもらうからな。」
「耳!私の耳を好きなだけ引っ張ってもいいからああああ!イヤッイヤッ!」
非常に魅力的な提案だが却下する。
「ダーメ。じゃあまずリオナから。」
「許して……?アキ?ね?」
尻尾を垂れ下げて、上目使いで懇願してくるレオ。可愛い。レオにお願いされるとつい許してしまいそうになる。
「さっさととやれ。」
だがアキは心を鬼にする。レオは尻尾を逆立てて怯えているが、絶対やらせる。何故ならこの子達の歌を聴いてみたい。そして何より歌わせる方が絶対に面白そうだから。