4
小休止が終わり、アキ達は再びミレーへ向け移動を開始する。女性陣はどこかさっぱりとした顔をしている。休憩中に水浴びをしてどうやらすっかりご機嫌になったらしい。ベルはまたくっついてくるし、アリアとセシルもアキの側で嬉しそうに座っている。ミルナ達はアキの隣をまた占領されて少し不満顔だ。
「ベル、まだ髪濡れてるよ?」
アキにもたれかかるベルの髪がまだ濡れているのに気づく。
「あ、ごめんなさい。なかなか乾かなくて。」
申し訳なさそうにアキから体を離すベル。不快にさせたと思ったのだろう。やはり髪が長いとなかなか乾かないのだろう。
アキはベルの綺麗な銀髪に手を伸ばす。
「ひゃ……アキさん何を。」
急に髪を触られてびくっとするベル。
「いいから、じっとしてなさい。濡れたままだと風邪ひくよ。」
アキは風魔法に火魔法を混ぜ、ベルの髪に温風を送る。いわゆるドライヤーの原理だ。ベルの髪を手櫛で梳くようにして乾かしていく。ベルの銀髪はとても柔らかく、さらさらで触っていて気持ちがいい。しかし魔素はやはり便利だ。色々と応用が利く。どこかの小説の魔法のように1呪文=1魔法でないのが素晴らしい。
「あ……これ温かくて凄く心地いいです。」
ベルが目を閉じて気持ちよさそうな表情をしている。
「王女の髪触ってごめんね。」
「今はベルだからいいんです。」
自由奔放な王女様にはいはいと返事をして、引き続き彼女の髪を乾かす。ふと何かが近くで動いた気がした。横を見るとソフィーが頭から水を被ろうとしている。
「アリア。そこの馬鹿エルフを止めろ。」
アリアは命令されるのがわかっていたようで、アキが言うのとほぼ同時に、手元に置いてあったいつもの銀トレーをソフィーに投げつける。トレーは見事に彼女の額にクリーンヒットし、綺麗な金属音が馬車内に鳴り響く。
「うぅ……痛いですー……。」
ミルナ達、そしてエリスやベルまでもが呆れた表情でソフィーを見つめる。
「ソフィー、羨ましいのはわかるけどさすがにそれはどうかと思うよ……。」
「ええ……さすがの私も引いたわ。」
レオが心底呆れた顔でソフィーに苦言を呈す。エレンもドン引きだ。妹分2人に指摘され落ち込むソフィー。完全に自業自得だとは思うが、何故かソフィーは甘やかしたくなる。
「ソフィー、次の水浴びの時はやってあげるから。」
「やったー!じゃあそれまで我慢しますー!」
一転して大喜びするソフィーが微笑ましい。そんなソフィーを眺めていたら袖を引っ張られる。横を見るとアリアだ。恥ずかしそうに視線を逸らしている。珍しい事もあるものだと苦笑する。まあ、ソフィーだけにやるのも不公平だろう。
「はいはい、アリアもね?」
「す、すいません……。」
従者なのに図々しいお願いをして申し訳ないという表情を浮かべるアリア。だがアキとしては彼女にも我儘を言って欲しいのでこれくらいは大歓迎だ。
「いいよ、あと他のみんなもな。ミルナ以外。」
「なんでですの!いつもはエレン以外なのに!なんで私なんですの!そこはエレンでいいですわ!」
「こらっ!なんてこというの!この馬鹿ミルナ!」
勢いで失言してしまったミルナに食ってかかるエレン。最近は意外によく見る光景だ。
「だってミルナは自分で出来るだろ。」
「そ、そんな……・!そ、そうですわ!出来ません!恥ずかしい詠唱を言わないと出来ないので出来ません!やってください!」
ミルナはとうとうプライドまで投げ捨てたらしい。自ら「恥ずかしい詠唱」とはっきりとは宣言した事がなかったのに、こんな事の為にそのプライドを捨てるのかと呆れる。ソフィー達も呆れた様子でミルナを見つめている。
「ミルナ、今自分で言ったことよく考えてみて?」
「え……?あ……ち、ち、違うの!今のは違うの!」
自分の言った事に今更気づいたのか、必死に弁解するミルナ。
「ちゃんとミルナのもやってあげるから……。どんまい。」
「アキさんのばかー!」
ミルナが顔を真っ赤にしながら怒鳴る。
「ふふ、本当に仲がいいんですね。」
ベルが羨ましそうに笑う。
「まあな。ベル、雑談はこれくらいにしてミレーの事教えてくれない?」
「はい、喜んで。」
ベルの髪を乾かしながらではあるが、今から訪れる国の情勢や国事を聞いておくことにする。国境を超える前にミレーの情報は知っておかないと不味いだろう。