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あれから1週間、アキはひたすら出立の準備に追われた。
先ずはベルとミレー王国はレスミアまでの警護、現地での対応などの打ち合わせだ。屋敷の件をベルに確認したら、用意させて欲しいとのことだったので、今回は爺さんではなくベルに任せることにした。一応、屋敷の大きさは指定した。彼女に一任させたらアホみたいな屋敷を用意しそうな気がしたからだ。
次に旅の支度だ。ただ基本的に必要な物は全てベルが用意するとのことだったので、私物の準備だけで済んだ。着替えや生活必需品などだ。1ヶ月程屋敷を離れるので、ちゃんと支度する必要がある。ただミレーでも生活必需品等はある程度調達出来るし、どちらかというと道中の準備といったほうが正しいだろう。それにアキにはアリアが居て甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるので、アキにとっては大した労力でもなかった。どちらかと言うと大変なのはミルナ達かもしれない。アリアは断固としてアキの世話しかしない困ったメイドだ。
とりあえずアキにとってはベルとの打ち合わせが中心の1週間だった。魔法組合の事もその時にベルに伝えた。魔素の研究をしているのに、大気魔素の利用を考えていないのはおかしいという話だ。
「あの時私に目配せをした理由はそれだったんですね。」
「ああ、魔法組合は何か隠している可能性がある。」
「確かに、アキさんの言う通りです。」
アキの説明を聞いてベルも納得してくれた。
魔法組合はもしかしたらわざと魔法を不遇職のままにしている可能性もある。大気魔素の直接利用に気づかれない為に。だが特殊な魔法を使うアキがどこからともなく急に現れた。組合はアキが大気魔素の直接利用に気づいていると考えるかもしれない。本当に大気魔素利用が出来るかどうかは別にして、この事実が知れ渡る事を組合は恐れるだろう。もしこの予想が全て正しい場合、最悪アキは消されるかもしれない。勿論ただアキの魔法に感銘を受け、依頼しただけという可能性も当然ある。どちらかというとその可能性のほうが高い。
「でもベルが知らないってことは組合も全く知らないかもしれないよね。」
「ええ、王家が知らなくて魔法組合がオリハルコンの事や大気魔素の直接利用に精通しているとは考えにくいです。ありえないとは言いませんが。」
考えられる可能性としては3つ。1つ目は、本当に何も知らなくて、単純にアキの魔法に感動して依頼してきた。2つ目は、大気魔素の直接利用方法やオリハルコンの事を知っていて、アキを消したいと考えている。そして3つ目は、オリハルコンの事などは知らないが、大気魔素の直接利用の可能性には気づいている。だが気づいているだけで実用化の目途が立っていない。
「このパターンだと3が可能性高そうだよね。」
「ええ、私もそんな気がします。」
3の場合、さらに2つ可能性が考えられる。1つは大気魔素の実用化を目指し、アキの知識を有効活用できないかと考え、依頼してきた場合。2つ目は、大気魔素の実用化の目途は立っていない、というかそもそもする気もなく、されると不味いと思いアキに接触を試みている場合だ。後者の場合だと少々厄介だ。
「私もそう思います。一応最悪を想定して動きましょう。この魔法組合の魔法学校講師依頼については王家として全力でフォローします。アキさんに危害が出ないように。」
ベルが任せてくださいと力強く頷く。
「助かる。ベルならそう言ってくれると思ったから相談したんだ。」
「皆さんには言ってないんですよね?」
「うん。確実な情報じゃないのに余計な心配させたくないからな。ベルだけが知っておいてくれたら問題はない。」
誰にも言わないとトラブルに巻き込まれる可能性がある。だがベルにだけでも話しておけば、最悪の事態は回避できる。とりあえず魔法組合を調べるのは確定事項なので、ベルに最大限協力してもらえるのは助かる。
「また2人の秘密が増えましたね。」
「まあ、ベルは信頼できるからね。権力という意味でも。知識という意味でも。」
「ふふ、最近アキさんの照れ隠しがわかるようになってきた気がします。」
ベルはくすくすと笑いながら見つめてくる。
「うるさい、ばーか。」
「もう、極刑にしますよ?」
照れ隠しを見抜かれるのは本当に恥ずかしい。昔のアキなら絶対に感づかれる事なんて無かったはずなのに、今ではすっかりこのざまだ。いつのまにかポーカーフェイスが出来なくなっている。まあ、出来なくなったのはベルやミルナ達に対してだけなので別にいいのだが。
「ベル、ありがとう。頼りにしてる。」
「はい!」
ベルが嬉しそうに微笑む。王女としてではなく、普通の、ただの女の子として、優しく微笑んでくれる。