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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第二章 魔素
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1

「アキさん、これからの予定をお話してもよろしいですか?」


 そう前置きしてミルナが話始める。街までの距離はおよそ徒歩で半日程度。ただ遠回りをしつつ3日かけて向かうという。理由としては、その間にアキにこの世界の説明、そして簡単な戦闘指導をしたいとのこと。すぐに街に向かうと説明する時間がほとんど取れないので、何も知らないアキを街に案内する前に出来る限りの事はしておきたいというミルナ達の配慮だ。


「助かるよ、ミルナ。」

「いえいえ、こちらこそ光栄ですわ。ではずっとここに留まっているのもあれなのでまずは移動しましょう。ソフィーとレオは周囲の警戒をお願いします。エレンは私とアキさんの傍で不測の事態に備えてください。歩きながらになりますが私はアキさんにこの世界の事を説明いたしましますわ。」


 ソフィーとレオは頷き散開する。ミルナが歩き始めるのでアキはそれに続く。エレンは後ろで周囲を警戒しつつ2人の後をついてくる。





 ミルナの説明によると、アキが降り立ったこの国の名前はエスペラルド。広さは日本でいうところの本州程度の大きさのようだ。エスペラルドの南は海に面しており、北と東西は別国に囲まれている。ミレー、サルマリア、リオレンド王国だ。その3国の面積も大体エスペラルドと同程度らしい。それらの各国も1辺は海に面しており、基本的にこの大陸はこの4国で構成されている。政治体制はどの国も国王が統治する君主制国家、つまり王国だ。昔はミレーとサルマリアが1つでミレマリア帝国の時代もあったようだが、現在はこの4国に分かれ4人の国王が各国を統治している。


「地図ってある?」

「はい、少々お待ちを。」


 ミルナはそう言って地図を広げる。アキはミルナの側に移動して横から地図を覗き込む。ふわりと彼女からいい香りがして少しドキっとしてしまうが、表情には出さない様に注意する。


「これがエスペラルドですわ。」


 ミルナがそういって地図の中心より少し下にある場所を指差す。そのまま西へと指を移動させミレー、そして北を指しサルマリア、東にリオレンドがあると説明してくれる。大陸としては日本の北海道が4分割されていると思い浮かべればわかりやすい。ただ大きさは日本の本州4個分くらいと巨大だ。そして地図を見る限り、確かにミルナが言った通り大陸の周りには海が広がっている。


 アキは海の先を指差して尋ねる。


「ミルナ、ここって何があるの?」

「海ですわ。」

「この先は?」

「海ですわ。」

「ずっと先は?」

「海ですわ。」

「誰か確認したの?」

「え……?どういうことですの?」

「この海をずっと行くと別の大陸があるとか、西のミレーからさらに海を越えて西にずっと行くとこっちの東のリオレンドにいずれ辿り着くとか……はわからない?誰か実際に確認した?」


 アキは自分の世界の事を説明する。地球は球体であり、一方向に真っ直ぐ進み続けるといずれは同じ位置に戻ってくるということ。そして幾つもの大陸があり、幾つもの海があるということ。昔の偉人達が船で世界中を冒険して、地球の形を見つけたことをミルナに語る。


「正直、驚きですわ。でも言われてみたら当然のことですわね。なぜ今まで考えなかったのでしょう。」


 ミルナ曰く、おそらく確認した人はいないとのこと。少なくともミルナが知っている範囲ではいない。だが小さい頃からそのように言われてきたので、特に疑問に思ったことはなかったらしい。


「船はないのか?」

「ありますわ。でも大陸から一定の距離離れると二度と戻ってこられないらしいです。風向きが急に変わるとか。あとは討伐不可能なレベルの海獣がいるとのことです。」


 この世界の船はアキの世界ほど発展しておらず、基本的に動力は風頼みのようだ。地球の昔の偉人達も風頼みの船で航海していたのだから、実際に船での開拓は不可能ではないだろう。だがこの世界には魔獣や海獣がいる。そんな神話のような化け物が海にいるのだとしたら開拓が進んでいなくても確かに不思議ではない。


「俺の世界には人間を脅かす海獣などいなかったからね。」

「多分そこが海を冒険できないこの世界との大きな違いなのでしょうね。」

「でも誰も開拓していなのであればいつか行ってみたいな。」

「あらあら、戦闘できないのにですか?」


 ミルナがうふふと笑う。


「強くなれてから……。」

「なれなかったらどうしますの?」

「ミルナについてきてもらう。とか?」

「でしたら頑張って私の好感度稼いでくださいね?」

「そうだな、頑張るよ。」


 そう言ってアキは地図に目を落とす。海の先の事も興味あるがまずは目の前の事だ。今いる大陸、今いる国のことが先決だろう。まずはエスペラルドの事から理解しなければならない。


 アキの雰囲気を読み取ったのか、ミルナが説明を続ける。


「ではエスペラルドの事を少し説明いたしますわ。」


 エスペラルドは王国なので当然王が存在する。エルミラ・エスペラルド・5世。それがこの国の王の名だ。名前にある通り5世程続いている王家のようで、基本的には平和主義者。そして善政を敷く王であるらしい。ミレー、サルマリア、リオレンドとの関係も悪くない。だがそれは、どの国も魔獣の討伐に忙しく、単純に人間同士で争っている暇がないのではないかとアキは推測する。小説でもよくあったように、共通の敵がいると人間同士の争いは起こりにくい。


「アキさんのおっしゃる通りかもしれませんわ。魔獣の歴史についてはよく知りませんが、国同士のいざこざは過去にはあったようです。ちなみに現代の各国は平和主義者のようですわ。」

「そうだとしたら世知辛いね。でも今の各国が善政ならまだよかったね。」

「はい、複雑な気分ですわ。平和なのが魔獣のおかげだったのだとしたら……。」


 人間同士の争いは地球でもよくあったが、醜いものがほとんどだった。政治や宗教など理由は様々だが、ハッピーエンドを迎えた争いなんてないだろう。基本的に誰かが、何かが犠牲になる。人間同士の争いが魔獣によって抑制されているのであれば、魔獣に感謝するべきなのかもしれない。だがミルナの言う通り、討伐対象の魔獣に感謝しなければいけないなんて複雑に感じてしまうのも仕方がない。


「まあ、それは今はいいとして、国境は自由に行き来できるの?」

「いえ、さすがに国の許可証がいりますわ。」


 さすがに自由な往来は許されていないようだ。正当な理由があれば許可証は発行してもらえるらしいが、国境を越えなければいけない理由なんて一般人には基本的には無い。日常的に国境を超える必要があるのは貿易商人くらいだとミルナは言う。だがこれにも例外はある。


「例外か……。冒険者とか?冒険者ってだけで許可証の発行を簡単に出来たりするのか?」

「ええ、その通りですわ。詳しくは冒険者について話す時にさせて頂きますが、例外=冒険者と考えて頂いてもいいかと。」


 そうなると、この世界の物見遊山を望んでいるアキにとって冒険者になることは必須だろう。





 その後も異世界情報交換という形をとりつつミルナからこの世界について教わる。


「通貨は万国共通ですわ。」


 どの国も同じ金銭を使用しており、貨幣は下から順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨。銅貨1000枚で銀貨1枚。銀貨1000枚で金貨1枚。金貨1000枚で白金貨1枚とのこと。基本的な流通貨幣は銀貨と銅貨だ。一般市民は金貨をあまり日常的に目にすることはなく、商人や上流階級の間で使われる場合が多い。白金貨については国同士のやり取りレベルで、一般人は一生目にすることすらないらしい。


 次にこの世界の技術レベルだが、アキの世界に比べてかなり遅れている。やはり魔法という便利なものがあるのが原因のようだ。火を起こすのに火打石を使ったり、水を用意するのに川から重いバケツに水を汲んで運んだり、面倒臭い手順を踏む必要がない。魔法があれば一瞬で用意できる。そして魔法があるから人間が楽をする為の技術開発をせず、魔法に頼り切りになってしまった結果がこの世界の現状なのだろう。


「確かにアキさんの世界のように魔法がなければ色々開発されていたかもしれませんね。」

「そうだね。例えば俺の世界だと水を井戸や川から汲むのが重労働だからと自動で汲む装置がつくられた。そうすると今度は汲んだ水を家まで運ぶのが重労働になり、川の水を街中に配置しようと水路を作った。さらに水を綺麗にする為にろ過装置がつくられ、最終的には家についてるレバーを回すだけで飲水可能な水が際限なく出るようになった。」

「考えられませんわ、夢のような凄い世界ですわね……。」

「俺にとっては魔法が夢のようなものだけどね。」


 建築についての話もミルナに確認したが、基本的にすべての建物は石や木で作られるらしい。やはり鉄筋コンクリートなどは存在しない。鉄などは一応存在するが、量産出来ないし、純度も低く、かなり不純物が混ざっていて強度に欠けるそうだ。武器に使う程度ならともかく、建築などに使うには不向きという事だろう。


「ミルナ、この世界の一般的な武器って見せてもらえる?」

「はい、構いませんわよ。エレン、ちょっと短剣を貸してくださる?」


 ミルナがエレンから短剣を受け取る。そしてミルナ自身もどこからか作りが荒い別の短剣を取り出す。


「どこから出した。」

「ふふ、乙女の秘密ですわよ。」


 アキはため息を吐くとミルナが両手にもった短剣を見比べる。


「私が出した短剣が一般的なものです。いわゆる武器屋で大量生産されているもの。エレンから借りたのが腕のいい職人に作っていただいた短剣。素材は両方鉄になりますわ。」


 量産品を見るとかなり純度の低い鉄で出来ている。日本刀で言うところの数打ちというやつだ。エレンのほうはそこそこに純度が高いようで名刀クラスかもしれない。もしかして鋼の製法などは伝わっていないのだろうか。一度鍛冶屋で確認したい。


「なるほど、武器の素材は基本的に鋼だけなのか?」

「鋼……?」

「ああ鉄のこと。」

「なるほど。基本鉄です。レアな素材もあるにはありますが簡単に手に入るものではありませんので。」

「ミルナ達クラスでも?」

「はい、私達でも見た事はありませんわ。」


 改めて2つの短剣を見比べる。この程度の鉄であればすぐにアキの知識で技術革命を起こせるだろう。脱炭させて鋼を作って剣にすればかなり良い武器になると思う。そこまで刀製法に精通しているわけではないが、地球から持って来たタブレットに銑鉄関連の書籍も入れてある。それを優秀な鍛冶屋にみせればなんとかしてくれるのではないだろうか。


 まあ、こんな技術を異世界に流出をさせるつもりはない。タブレットには他にも物理や化学の知識等、大量に持ってきた電子書籍が入っている。それ使えばこの世界でもある程度は地球の技術を再現できるだろう。だが広めるのは慎重に検討しなければならない。下手に流出させると文化破壊に繋がりかねないからだ。当分は控えたほうがいいだろう。さすがに自分の武器を作ったり、ミルナ達に対してであれば提供するつもりだが。


「そうか、ありがとう。街についたら武器が欲しいな、腕のいい信頼がおける職人っているのか?」

「いますわ……でもいきなりそんなレベルの武器をご所望なのですか?」

「というより考えがある。みんなの為にもなると思うから是非連れて行ってほしい。」

「わかりました、アキさんがそうおっしゃるなら喜んで案内させていただきますわ。」


 快く承諾してくれたミルナに礼を言っておく。これで彼女達に数段階良い武器を用意してあげられるだろう。戦闘訓練をしてもらうせめてものお礼だ。


「大体基本的な世情はお話しましたし、後はその都度という事で大丈夫だと思いますわ。一旦休憩にしてその後は別のお話にいたしましょう。」


 ミルナはアキにそう告げると、先行して警戒にあたっているソフィーとレオを呼び戻した。

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