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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第八章 真実
127/1143

9

 大方話は纏まったので、アキは出立までの予定を伝える。


「では皆、1週間後に出発する。各自必要な物を買っておくように。この1週間は自由行動だ。お金も好きに使っていいから。」


 アキが改めて宣言すると、全員が「はい!」といい返事をしてくれる。遠足の引率をする学校の先生になった気分だ。ただし、うちの金髪剣士を除いて。


「あの……アキ……?」

「エリスも来るんだろ?」

「うむ、行きたいのだ。でも……その……。」


 言いづらそうに口籠るエリス。彼女が何を言いたいのか、アキは既にわかっているので代わりに言ってやる。


「エリスは極貧Sランクだからな。」

「なななな、なんでそれを!」


 エリスはアキに懐事情を知られていた事に焦る。とりあえずこの金髪碧眼剣士の頬を抓る。


「あひ《アキ》……?」

「爺ちゃんから聞いてるぞ。Sランクなのに金が無いこと。あの体質のせいで指名依頼が来なかったんだってね。まあ、それはいい。しょうがない。でもたまに来る依頼で稼いだ金を全部騙し取られたとも聞いたぞ。」


 体質を改善する薬とやらを売りつけられて、全財産搾り取られたと爺さんからあらかじめ聞いていた。。エリスはSランクなので、特権で食事や宿が無料になるから金がなくてもなんとかなるだろう。だがいざという時の金銭が無いのは心許ない。


「ち、ちがうのだ!あれは!あれは!」

「ふーん?何が違うんだ?」


 アキが軽く威圧すると涙目になるエリス。


「うう……だってー……。」


 エリスが目に涙を溜め、上目遣いでアキを見つめてくる。


「行きたい……でもエスタートの爺さんはお金貸してくれないし……どうしようアキ。連れてって欲しいのだ……。」


 この子達は強い癖にみんな泣き虫なんだからと苦笑する。


 アキはポケットから袋を取り出し、エリスに渡す。エスタートに新商品の情報を提供したらすぐに渡された。あの爺さんの性格だ。どうせエリスの話をした時点でアキがこうすると予想して、あらかじめ用意しておいたんだろう。


「白金貨が5枚入ってる。つまり5000金だ。ミルナ達に渡した金額と同じ。」


 エリスは袋の中を確認して戸惑いの表情をみせる。


「アキ・・?あの、お金?貸してくれるのか?」

「いや、あげる。」

「だめだ!そんなのだめだ!」


 エリスがお金の入った袋を突き返してくる。


「エリスはどうせこれからもずっとついてくるんだろ?」

「うん……そのつもりなのだ。」


 小さく頷くエリス。きっと彼女はここにこれからもずっとずっと居たいんだろう。ならこれくらいの甲斐性は見せなければ駄目だ。


「俺を守ってくれるんだろ?だから給金だと思っておけばいい。好きに使え。」


 エリスが満面の笑みで抱き着いてくる。抱き着くなんて昔の彼女では考えられない行動だろう。でももう以前のような臭いはしない。女の子らしいとても甘くて優しい匂いだ。


「ありがとう!私はアキの物だからな!守る!ずっと守るぞ!」

「また騙されたらお仕置きするからな。」

「そ、それは気を付ける……でももう大丈夫かな?」

「そうだな。今度一緒に買い物でも行くか?」

「うん、いく。」


 アキの腕の中で嬉しそうに頷くエリスを優しく撫でてやる。


 エリスの成り行きを見守っていた皆は懐かしそうな目をしている。きっと自分達の時の事を思い出しているのだろう。しかしこの子達は本当に揃いも揃って貧乏だった。うちの子達生活力なさすぎるだろと呆れる。


「あらあら、アキさん。正式に騎士をゲットですね。しかもSランク。そして美人。」


 唯一、貧乏とは程遠いベルが皮肉交じりにからかってくる。


「そうだな、エリスはとびっきりの美人だな。」


 事実だし特に否定はしない。アキに抱き着いたままのエリスが嬉しそうにしているし、水を差すのも野暮だろう。


「まったく……皆さんの気持ちが少しわかった気がします。私ともお話します?」

「したいなら聞くけど?」


 ベルは諦めたように微笑む。きっと何言っても暖簾に腕押しだと思ったのだろう。


「さっき皆さんに白金貨5枚ずつ渡したって言いましたよね?つまり金貨35枚は稼いでいるということですか……。1ヶ月ちょっとで。」

「そうだな、自分用にも白金貨2枚くらいは持ってるけど。」

「誤差程度ですね。しかし甲斐性まであるとは……みんなが慕ってついて行くのも当然ですね。庶民が人生数百回は遊んで暮らせる金額ですよ?」


 やれやれと肩をすくませるベル。


「まあ、最低限は渡しておかないと。」

「だから最低限って金額じゃないです。私の1年分のお小遣いじゃないですか。」

「それはそれで頭おかしい金額だな。」

「うふふ。私、王女ですから。」


 ミルナ達が会話に出てくるお金の桁が根本的におかしいと遠い目をしている。まあ、確かにアキの金銭感覚は少しおかしいかもしれない。この世界だと、異世界の知識のおかげで、いくらでも稼げるから、つい大したことではないと勘違いしてしまう。


 だがそれを言うならベルも大概だ。さすが王女様。


「でもベルは使ってる暇なさそうだよね。」

「そうなんですよ……日用品やドレスなどは専属の側仕えが用意してくれるので自分のお金を使いません。そもそも買い物なんていけないし……。だから貯まる一方です。」

「その私財がベルの夢に必要になる時期がきっと来るから大事にとっておけ。」

「はい。でも機会があったら私とお買い物行ってくださいね?」

「その時はエスコートしてやるさ。ミレーで時間あるといいな?」

「作ります!ふふ、アキさんは女性の扱い方をよくわかってます。」


 ベルは女性の扱いが上手いと褒めてくれるが、このレベルじゃ地球では通用しないだろう。むしろ上手どころか下手な方だとアキは思う。まあ、皮肉を言っていたベルの機嫌もいつの間にか直って楽しそうに笑っているし、これはこれでいいのかもしれない。

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