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「皆に口外するなって言った理由はわかった?」
アキは皆に改めてこの話の機密性を伝える。
「はい。これは私もお父様やお母様、勿論各国にも話すつもりはありません。そんな事になったら私は嫌です。」
ベルなら必ずそう言うと思っていた。だからこそ安心して話せた訳なのだが。
「それでベルはこの国をどうしたい?今のシステムをどうしたい?俺が手伝えることなら手伝うよ。」
アキがベルに尋ねる。
「私は現在の犯罪抑制方法からの脱却を目指したいです。その為にアキさんが提案してくださった法律・法案に興味があります。とても筋が通っていて犯罪抑制に繋がると思います。」
つまりベルの願いは、魔獣召喚やオリハルコンの使用を止めて欲しいという事だ。
「各国の立ち入り禁止区域を潰す必要があるね。実際に立ち入り禁止区域を回るのは非現実的なので、どうにかしてオリハルコンを手に入れ原理を解明して、転移元を調べ阻害するのが現実的かな?」
「確かにそうですね。各国のエリアを潰してオリハルコンを回収しても、すぐにアキさんの代替案が施行出来る訳ではありません。結局王家が保有している予備のオリハルコンを各区域に再設置するだけになるでしょう。」
ベルもアキに同意する。
「その辺りはイリアの情報を探っていけば何か打開策が出るかもしれないな。ベルとは密に連絡し合って連携していこう。もしオリハルコンが必要なら、エスペラルド王家所有の物を最悪拝借してもいいわけだしね。」
大気魔素の直接利用を検証する為、ベルからオリハルコンを貸して貰う事も考えている。現在の犯罪抑制システムを壊すのに、オリハルコンは間違いなく必要になるだろうし、いつか手に入れる必要はありそうだ。ただ何にどう使うかを明確にしてからでないとさすがに貸してとは言えない。ちょっと炎魔法を光速で撃ってみたいから貸してと言えたら楽なんだがとアキは苦笑する。
「ふふ、そうですね。とりあえずイリアさんを追って、その過程でわかった事を元に次の動きを考えていきましょう。魔獣制度が無くなればきっともっと住みやすい国に出来ると思うんです。」
ベルが王女の顔になる。さすがに王女が発する言葉には重みがある。兎にも角にも全てはミレー王国でイリアの情報収集をしてからだ。
「そうだな。それに魔獣政策廃止の何よりのメリットは、魔獣がいなくなる事だ。魔獣がいなくなれば街も発展する。人々が自由に、そして安全に、街や国を行き来できるようになる。つまり人口流動が起こる。文明が発展するには流動がないと駄目だ。人々が旅行や移住する事なく、同じ場所の同じ地位にしかいないとなると、全てが停滞してしまうからね。」
「なるほど。だから民主制は定期的に人員の流動を行っているんですね。新しい人間が入れば視点も変わる。常に最善が行われるかはわかりませんが、新しい風は入ってくる。そして常時改善をしていって、最終的に完璧な為政を目指す。」
「完璧な為政なんてありえないけど、それに近づける事は出来る。だから停滞はよくない。常に流動させないと前へは進めないと俺は思う。」
「それが君主制を取り入れているこの国の難点ですね。ミレー、サルマリア、リオレンドも同様ですが。君主も世襲制じゃなければいいかもしれませんけど。」
「確かに。世襲じゃないなら君主が流動する。改革等が進み、文明の発展にも貢献するだろう。ベルは君主制のままを望むのか?」
「ちょっとそこは悩んでおります。どのみち現状の君主制をすぐに変えることは不可能ですから、徐々に民主制の政体も取り入れていければいいなと思います。例えば、君主として王がいる。ただ決定権は元老院にも持たせる。元老院は選挙で選出し、民の声も混ぜる……とかでしょうか。」
「さすがベル。混ぜるのはいいね。いきなり君主制の廃止は難しいだろうから、少しずつ体制を組み替えていく改革がいいだろう。この世界、この国には、君主制と民主制が混在している方が合うかもしれないな。」
「はい!アキさん、私を手伝ってくださいね?アキさんの案を見たときからの私の新しい夢なんです!」
ベルが可愛らしくガッツポーズする。
「ああ。俺に出来る事なら何でもさせて頂きます。アイリーンベル様。」
「だからベル!ベール!」
「はいはい。」
「もお……。」
拗ねるように口を尖らせているが、ベルはどこか嬉しそうに微笑んでいる。彼女は楽しそうにしているからいいのだが、他の子達が静かなのが気になる。ベルと話している間、誰も会話に入ってこないので不思議に思っていた。
「みんなどうした?」
ベルとの会話がひと段落したタイミングでアキが尋ねる。
「2人の言ってることがわかりませんー。頭が痛いですー……。」
ソフィーがうんうん唸っていたのはそういう事かと苦笑する。どうやら他の子達もそうらしい。エレンやレオは頭からぷすぷすと煙を出しているかのような表情で虚空を見つめている。アキは2人の頬を引っ張って正気に戻す。
「エレン、リオナ、大丈夫か。」
「う、うん。なんとか大丈夫よ。」
「僕も……だ、大丈夫。」
ちなみにエリスは考える事すら放棄して空を見つめて「綺麗なのだ」とか呟いている。この子はとりあえず放置しておこう。
「セシルとアリアは?」
「うーん、半分以上はわかりませんでした。」
「私もですね。まだまだ従者として勉強不足です。」
セシルとアリアだけはある程度話についてこれたらしい。流石だなとアキは2人を撫でてやる。最近はセシルだけでなく、アリアの事も偶に撫でるようにしている。凄く幸せそうにしてくれるので、アキとしても嬉しい。
「で、なんでミルナは泣きそうなんだよ。」
ミルナだけは何故かアキの方を涙目で見つめている。
「アキさん!私!私!」
「うん、どうした?」
「言っている事がわかりませんわ!私のお姉さんキャラが!かしこい設定が崩壊していますわ!どうすればいいんですか!暗黒物質ってことくらいしか残りませんわ!」
設定とか言ったら駄目だろ。ただ今までミルナは頑張って皆の前では凛とした態度で「お姉さん」を演じていたのだからしょうがないのかもしれない。本当の彼女は計算高いわけでもないし、素直で可愛くてちょっとポンコツな女の子だ。
「ベルのほうが数十倍暗黒だからそれも残らないな。」
「そ、そんな!私はどうすれば!私のアイデンティティが!」
ミルナが必死にアキに縋る。
「大丈夫だ。ミルナのアイデンティティとして豊満な胸が残ってる。」
「確かに胸はそこまでないです。」
ベルが自分の胸とミルナの胸を見比べながら呟く。すぐに悪乗りする王女様だ。
「そんなのいや!アキさん、お願い!私を!私を出来るお姉さんにしてください!」
ミルナが珍しく壊れているなと苦笑する。
「ミルナはミルナだからそれでいいんだよ。俺は今のミルナがいい。でも変わりたいというなら俺の知識を教える。それに魔法の詠唱破棄が出来るのはこの世界の人間だとミルナだけなんだが?十分凄いと思うよ?」
ミルナが抱き着いて来てアキの胸に顔を埋めてくる。仕方ないなと優しく撫でてやる。
「うん……アキさんが……今の私がいいなら、私このままがいい。」
久々に素のミルナが見れたのはちょっと嬉しい。
「やっぱり素のミルナが俺は一番可愛いと思う。」
「うん、うれしい……。」
暫く好きにさせてあげるとしよう。
アキはミルナに抱き着かれたまま、ベルに謝る。
「うちの連中が騒がしくて悪いな。」
「いえいえ、ほんと大変ですね。でもみんながちょっと羨ましい。」
ベルが一瞬だけ寂しそうな顔をしたのをアキは見逃さなかった。
「ベルもとっくに俺の仲間だから。同じだよ。」
「は、はい!じゃあ困った時は傍にいてくださいね?」
アキがわかったと頷くと、ベルは両手を胸の前で結び、花のような満面の笑みを浮かべてくれる。
「一応彼女達に言っておきましょう。みなさん、私とアキさんの会話はわからなくて当然です。むしろ理解出来るアキさんがおかしいんです。貴族でもわかる人間はそうはいないでしょう。だから恥じる事はありません。」
「それは本当なので御座いますか?アイリーンベル王女様。」
アリアが姿勢を正し丁寧に尋ねる。さすがにアリアは礼節に関しては卒がない。
「ええ、為政についてこれほど詳しく話せる人なんて各国の王家くらいです。お恥ずかしい事に王家の人間でも理解してない者もいます。だからこそ私はアキさんとお話するのが楽しいのです。これだけ真面目に語れて、歳も近い相手なんて他にいませんもの。」
ベルの意見は至極当然だ。君主制国家の民がそこまで為政を理解することは難しい。民主制が広まっている地球であれば、アキ程度の知識を持っている人間なんて大勢いるが。
「ありがと。」
アキはぶっきらぼうに返事をする。大したことじゃないのにそこまで褒められるのは少し照れ臭い。
「ふふ、本当に私のとこに来ません?アキさんなら私のお嫁さんにしてあげます。」
「俺が嫁なのかよ。」
「ええ、私が養って差し上げます。」
ベルが本当に楽しそうに笑う。こういう会話をしているとミルナ達、特にソフィー、から邪魔が入るのだが、ベルの時だと本当に誰も何も言ってこない。やはり王女補正があるのだろう。今も横からソフィーやエレンが悔しそうな表情でベルを見ているのが何よりの証拠だ。
「ソフィー、エレン、言いたい事あるなら試しに言ってみれば?」
「ええ、是非是非。」
さっきはエレンを止めたが、案外言わせてみても面白いかもしれないと思い立つ。ベルもアキに乗っかってくるが、ソフィー達はぶんぶんと頭を振っている。
「もしソフィー達がベルに暴言はいたらどうするんだ?」
一応ベルに聞いてみる。
「そうですねー……。Sランク剥奪して国外追放とかどうでしょう?全員してしまえばアキさんを私が独占できますし。」
ベルは少し逡巡した後、さらっと凄い提案をしてくる。やはりミルナ達には何も言わせない方が賢明だろう。この女なら本当にやりかねん。
「さすが腹黒王女。」
「うふふ、最高の誉め言葉ですね。」
エレンが少し寂しそうな目でアキを見てくる。彼女に尻尾がついているならきっと垂れ下がっている事だろう。
「エレン、そうなったとしよう。俺がエレン達にそんな事をした相手に尻尾を振ると思うか?」
「あ……うん、思わないわ……。うん、そうよね。アキなら間違いなく私達と一緒に来てくれるわ。」
アキの言葉に納得したのかエレンが力強く頷く。
「そうなんです。アキさんならそうするのはわかってるから私は何も出来ないんです。世の中そう上手くは行きませんね。」
ベルがわざとらしく溜息を吐く。




