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「お待たせして申し訳ありません、アキさん。」
戻ってきて開口一番にミルナが謝罪する。
「何やら楽しそうだったね。話は纏まった?」
ミルナは悪そうな笑顔を浮かべ、アキに事の顛末を報告する。
「えぇ……ついつい盛り上がってしまいましたわ。エレンがどうしても、どうしてもアキさんがいないと嫌だってごねるんです。」
「ちょ……ミルナ!何息するように嘘言ってんのよ!」
「そうなのか……エレン。そんなに俺の事を好いてくれてたんだな。でもごめんな……出会ったばっかりで君の気持には答えられないんだ。」
「ま、待ちなさい!違うわ!それになんで私が振られたみたいになってるのよ!」
アキと合流して早々にエレンを待ち受けていたのは2人におもちゃにされることだった。
「落ち着けエレン。」
「落ち着きなさい?エレン。」
「あんたらが言うなあああああ!」
「エレン、諦めよ。ミルナさんとアキさんには適わないって。」
「そうだよ、ミル姉だけでも適わないのにアキが加わって勝てるわけないよ。」
ソフィーとレオがやれやれといった表情でエレンをなだめる。
「エレンで遊ぶのは後にして、結局どうなったんだ?」
「そうですわね、エレンで遊ぶのは後にしましょう。」
アキとミルナのやり取りを聞いてエレンが何か叫ぼうとするがソフィーが口を塞ぎ、レオが押さえつける。2人に止められてエレンは渋々引き下がったが、静かにはしているものの口を膨らませ不満顔だ。
「それでは結論から申し上げますと、アキさんをお迎えするのに全員賛成です。今は一時的にという形になるとは思いますがお互いの目的達成の為にご助力頂ければ幸いです。私たちもアキさんに出来る限りのお手伝いはさせて頂きます。改めてよろしくお願い致しますわ。」
ミルナは姿勢を正し、提案を正式に受ける旨をアキに伝え丁寧に一礼する。
「ご提案を受けて頂き感謝致します。改めてお礼を申し上げます。時が許す限りミルナ達の力に慣れるよう非なる身の全力を持って協力させて頂きます。」
それを受けてアキも姿勢を整えて頭を下げる。TPOは大事だとアキは思う。一応「依頼」を受けて貰ったんだし正式な返礼は必要だ。
「ふふ、本当に何でも卒なくこなす方ですね。私としてはますます気に入りましたわ。是非よろしくお願いしますね。」
ミルナは少し驚いたもののすぐに表情を整えてクスッと笑う。そしてアキとミルナは自然に握手を交わす。ソフィー、レオ、エレンは目を丸くして驚いたように2人の様子を静かに見守っている。
「うん、よろしく。あと、ソフィーにレオよろしくね。」
アキはそういうとソフィーとレオに近づき2人に握手を求める。
「あ、はい!よろしくお願いします!」
「よろしくね、アキ!」
ミルナとアキのやり取りをぼーっと眺めていて呼ばれた事に気づかなかった2人だが、アキが自分達に手を出しているのに気づくとすぐに我に返り、握手と返事を返してれた。最後はエレンだ。アキは彼女の方へ近づいて声をかける。
「そしてエレン。ありがとう。」
「な、何よ!べ、別に認めたわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね!」
なんて模範的なツンデレ回答なのだろうか。現実でここまで見事なツンデレ発言ができる人など世の中いないだろうとアキは無駄に感心する。そしてエレンはチラチラっとこっちを見て手をブラブラさせる仕草を見せる。握手を待っているのだろう。
「あ、ごめんね、エレン。はい、お手。」
「わん。って犬扱いするなあああ!こいつやっぱり殺す!今すぐ殺すわ!」
エレンはふとももの短剣を引き抜きガルルと唸っている。しかしこの子「わんっ」て言った。ちゃんとお手してくれるあたりノリがいいのだろうか。
「エレン、獣人族である僕のアイデンティティ奪わないでよ。」
「アキさんもだめです。エレンをオチに使わないでください。」
レオもソフィーもそう言いつつも笑っている。
アキは思った。こんな楽しい会話ややり取り地球では出来なかった。やはり別の世界の人間、そして種族だからなのか。はたまた、前の世界では自分を殺して生きていたからなのか。もちろん異世界にきて右も左もわからない状況で誰かに接触してコミュニケーションをとらなければいけない状況など地球ではなかったので、今となっては何が真実かはわからない。ただ異世界に来て絶望した世界から抜け出した。まだ見ぬ新たなる世界への希望と期待に胸が膨らむ。そのおかげでアキも少し前に進む気になったのかもしれない。どちらにしろアキの異世界放浪はまだ始まったばかりだ。
「そういえばミルナ達ってチーム名とかあるのか?」
「あら、言ってませんでしたわね。」
ミルナはアキの方を向いて答える。話がひと段落してアキが物思いに耽っている間、ミルナは気を利かしてエレンで遊んでいたようだ。エレンにとっては迷惑この上なかっただろうが。
「では改めて、ソフィー、レオ、エレン。」
ミルナがそう呼ぶと3人が隣に並ぶ。
「私はミルナ、魔法職で武器は短剣を少し使えますわ。」
そう言うとミルナは杖を一回転させて魔法を放つ。光の粒子がミルナを包み、そして消えたように見えた。
「ソフィーです。エルフです!弓を中心に戦います。斥候、偵察などが得意です。魔法は少しだけ使えます。」
耳を見せるように横を向いてからくるっと一回転して屈託のない笑顔を見せる。
「レオだよ。両手剣使いで接近戦特化。アキにはもうばれちゃったから言うけど本当は女です。でも基本は男でお願い。あ、あと獣人族。尻尾は触らないでね。」
レオは獣人族特有の尻尾を振ってアキに見せてくる。
「エ、エレンよ。短剣使い、防御も攻撃もなんでもできるわ。大体見ればわかるでしょ!それに私は基本的に『バカ』で『チョロく』てみんなの『おもちゃ』よ……?ってアキにミルナ!勝手に言葉をかぶせて捏造するなぁああ!!」
エレンが激昂してミルナとアキを睨みつけ短剣を抜く。だが2人はどこ吹く風だ。そしてアキがエレンに指摘する。
「エレン、初めて名前で呼んでくれてありがとう。」
アキはそう言ってエレンの頭にポンっとほんの一瞬だけ手を置いた。
「え……あ……違うのよ!間違えたの!あんたよ!アキなんかあんたで十分よ!」
エレンは顔を赤くして叫ぶ。
「何はともあれですわ。アキさん、改めて……。」
ミルナがそういうとソフィーの背後でしゃがみこんで羞恥で悶えているエレンを除いた3人が声を合わせる。
「「「ようこそ、MERSIへ。」」」