22
翌朝、予想通りリビングで全員に囲まれている。ちなみにソフィーは床に座らせられている。アキは普通にソファーだ。彼女達の良心なのか、今まで床に座らされた事はない。アキが意地でも床に座らないのを知っているだけかもしれない。
「さて、アキさん?言い訳があるならききますわよ?」
ミルナが真っ黒な微笑みを浮かべる。
「一緒に寝ただけ。ソフィーからのご褒美。」
「それはわかってますわ……恋人じゃない人とアキさんはその……そういうことしないって……。」
ミルナが顔を真っ赤にする。
「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。」
「言わないで!今怒られてるのはアキさんなの!」
ミルナが恥ずかしさで限界なのか、エレンとレオが会話に入ってくる。
「こ、この変態!」
「アキ?見損なったよ!」
「え、これ俺のせいなのか?」
真面目な顔で尋ねると、エレンとレオは口籠る。
ソフィーと寝ていたのを朝アリアに発見され、全員に報告されて今に至る。一応ソフィーが夜這いに来た事は説明した。だから床に座らされている金髪エルフがそこにいる訳なのだが。
「みんなわかっています。アキさんが悪いわけではないと。そこの駄エルフが元凶だと。ただただみんな羨ましいだけです。そうですよね、エリスさん、セシルさん?」
アリアがエリスとセシルに話を振る。
「ああ、その通りだ!アキ!私はアキのものなのだ!私とも寝てくれ!」
それ絶対に屋敷の外では言うな。誤解しか招かない。
「わ、私は別に……その……!でもアキさんが言うなら……!」
セシルは恥ずかしそうにしているが言いたいことはなんとなくわかった。それからも皆から色々と文句のようなものを言われる。ただ明らかに「文句」ではない。全員アキが悪いわけじゃないとわかっているので、愚痴が微妙過ぎて可愛い。エレンで例えると「こ、この変態!で、でも本当にそう思ってるわけじゃないんだからね!」という塩梅だ。
黙って彼女達の話を暫く聞いてあげた。全員すっかり満足したらしく、大分落ち着いてくれた。話がひと段落したところで今度はアキが切り出す。
「とりあえずお話は終わり?」
「ええ、今日はこれくらいで許して差し上げますわ。」
ミルナがうふふと上から目線で言ってくるので頬をおもいっきり抓る。
「ひゃめて……!いきなり何するんですの!」
ミルナの文句は無視し、無言でエレンとレオの頭を思いっきり叩く。
「った……・なにするのよ!」
「アキ……僕までなんなの!」
そしてセシルの耳を強めに引っ張り、エリスとアリアの頭も殴っておく。
「なんで耳……!痛いからああああ!優しく!優しく!」
「なにをするのだ!」
「アキさん、何故叩くのですか。」
「お前らソフィーの隣に座れ。」
セシルの耳を掴んだまま全員に告げる。
「な、なんでよ!」
エレンが食って掛かってくる。ソフィー以外の全員が叩かれたり抓られたりで不満そうな目をしている。
「言って欲しいのか?俺の本見たんだろ?」
そう言い終わった瞬間、全員が素直に床に座っていた。セシルの耳はアキが掴んでいるのでセシル以外だが。
「アキさん、好きなだけ耳どうぞ。好きに引っ張っていいです。」
まさかの手の平返しだ。セシルも従順な態度に急変した。
「ミルナ?」
「あ……その・・あの……。」
「許してあげるから読んだ内容を俺に説明して?」
凄まじいセクハラ発言だと思うが、彼女達にはこれくらいが丁度いい。
「や、やだ!アキさんゆるして!無理!」
涙目で本気で許しを乞うミルナ。
「エリス?」
「うう・・勘弁して?アキ、お願い?」
乙女なエリスで謝罪してくる。
ちなみにレオとエレンは首を必死に左右に振っている。ごめんなさいと目で必死に謝っているのがわかるのでとりあえずはいいだろう。
「では僭越ながら私が説明します。」
アリアなら本気で説明し始める気しかしないので、近くに置いてあったいつもの銀トレーで殴っておく。
「アキさん、痛いです。」
何事もなかったかのように返事をするアリア。多分このメイドは毒舌なくせにどMなのだろう。
「アリアはさらに既成事実とかの話してもしていたらしいな。」
「あ……いや……。」
アリアの冷淡な表情が崩れ、アキから目線を逸らす。
「それ聞いた時、本気でポイしようかと思ったぞ。」
「それだけは!それだけは!お願いします!余計なことしてすいません!」
必死に謝るアリアの姿は貴重だ。
「まあ、これくらいでいいか。ちなみに1つだけ言っておく。あれは鍵が掛けてあった。わざわざそこの駄エルフが勝手に解除してみんなに見せたんだからな?」
「アキさん、なんでそれバラすんですかー!」
今まで静かにしていたソフィーが声を上げる。当然ロックされていたとまでは知らない皆が彼女に詰め寄る。
「ソフィーが余計な事するから私達まで怒られたんですのね?」
「それなのにソフィーはアキの部屋で寝たんだ?」
ミルナとレオが駄エルフに説教を始め、他の皆もそれに乗っかるように文句を言っている。暫く黙って聞いていたが、ソフィーが助けてとアキを見てくる。しょうがないなと思いつつ口を挟む。
「まあ、みんなも見た責任あるんだし、そのくらいでやめておけ。」
「あ、はい……。」
ミルナが返事をする。他の子達も「わかりました」と引き下がる。
「あ、あの……その……。」
話は終わりかと思ったが、何か言いたそうにしているミルナ。
「まだ何かある?いいから言いなさい。」
「はい……ソフィーから聞いたんですが、いっぱい撫でてもらったって……。最近全然撫でてくれないので、たまにでいいので前のように撫でたりぎゅってしたりして欲しいですわ。今はセシルさんにしかしていませんよね……。」
ミルナが俯いたままアキに告げる。
「あれは、あの計画に必要だったからで無暗やたらに女性にそういう事するのはダメかなと思って控えていたんだけど。あとセシルは俺の癒し。特別。」
アキがそう言うと、今度はレオが発言する。
「やだ!ずるい!僕もアキに撫でて貰いたい!好きなだけしてもいいから!して欲しいんだもん!」
自分から言うのが恥ずかしいのだろう、レオも顔を赤くしている。
「エレンは?」
「して……ほしいわ。」
素直に可愛らしくお願いしてくる。
「じゃあエリス。」
「して欲しい……のだ。」
「一応聞くけど……アリア。」
「蹴って殴ってくださるとさらに最高です。」
「黙れ、このど変態メイド。」
アキはアリステールを出てからは彼女達とのスキンシップを控えてきた。する意味もなかった。ミルナ達を撫でていたのは計画の為だし、「これからも撫でたり抱きしめたりしていい?」なんて男のアキからは聞けない。昨晩のソフィーの時は特別にちょっと撫でただけだ。ただ皆が望むなら、アキがするのは吝かではない。うちの子達は可愛くていい子達だから撫でたくなる時もある。
「じゃあたまにね。俺の気が向いた時に。」
さすがに「俺も撫でたかったから嬉しい」と言うのは恥ずかしかったので言葉を濁した。だが彼女達にはそれでも十分だったようで、嬉しそうにしているのでいいだろう。その様子が少し可愛かったからちょうど隣にいたミルナを撫でる。久しぶりだからなのかちょっと顔を赤くしているが、幸せそうに笑っている。その後当然全員を撫でる羽目になったのは言うまでもない。
「あ、大事な事を言い忘れてた。」
アキは思い出したようにミルナを見る。
「え、私ですか?なんですの?」
「ミルナ。誘惑、ソフィーの方が数百倍上手かったぞ。」
ミルナが笑顔のまま固まり、すぐに顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ばかー!和んだのに!せっかく和んだのに!なんで最後に絶望を叩きつけるんですの!アキさんのばかー!」