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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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20

 やっと「お話」から解放され、自室に戻る事が許された。彼女達も今日は疲れただろうし、もう寝るだろう。アキは久しぶりに我慢していた珈琲を入れて自室のソファーで寛ぐ。窓を開け夜風を感じつつ、少しだけ考え事に耽る。


 ベルと繋がれたのは嬉しい誤算だ。言い方は悪いが彼女は使える。彼女の事が気に入っているのは本当なので利用して弄ぶつもりはないが、王家の人間でアキが調べている事に同様の関心を示している。しかも不満を。


 やはり大っぴらに動いていたら各国を敵に回していたかもしれない。もし各国が現状に不満を持っているのであれば、ベルはプライベートで接触はしてきていない。正式な謁見などを通しただろう。秘密裏に話すという事は各国は無理して現状を変えようとはしていないと言える。


 だがベルのように不満を持っている王族がいるのも事実。彼女がアキを頼っているという事は、アキがある程度動いても、ベルが各国を抑えてくれるだろう。懇意にしておいて損はない。さらに王女という立場を考えると、各国への根回しなども可能になる。イリアを追うにしても、ベルにミレー王国内での適当なSランク依頼をでっち上げてもらえばいい。王家であれはSランク指名依頼を出せる。Sランクの特権を使ってミレーへ渡るのは何か疑われるかもしれないし、いいカモフラージュになる。


 ただ明日得られる閲覧制限区域の情報次第だが、ミレーに行く必要があるかはわからなくなって来た。ベルを通してイリアの情報に探りを入れる事もできる。もし生きている事が確認出来たのであれば、ミレーの月夜の森ではなく、エスペラルドの立ち入り禁止エリアである弦月の山に行くのもありだとアキは思う。とりあえずこの辺りは明日、ベルと相談すればいいだろう。


 しかし気を付けなければならない事が1つある。ベルに与える情報だ。彼女はあくまで王家の人間。アキと国を天秤にかけた時、アキが国に害をなすとわかれば彼女は国側につくだろう。だからこそ与える情報に気を付けなければならない。現状に不満を持っている事からイリアの件に関しては問題ない。アキが異世界からきた話や知識は共有すべきではないだろう。彼女に何か提案するにしても、異世界の知識ではなく、アキが独自に考えたという形にしなければならない。


「ベルが欲しがりそうな情報を纏めておくか。」


 おそらく現状を改革するにあたり、地球の為政を教えればいい。アキの出身がバレない為にも、提供できる情報を事前に取捨選択しておく。


「いつかは話すことになるかもしれないけど。」


 もしベルがアキをミルナ達のように慕ってくれ、国よりアキを取ると言い切るようならば全て話してもいい。ただ敢えて懐かれたり慕われたりするように行動するつもりはない。こればかりは自然の成り行きに任せようとアキは思う。


「王女に惚れてもらうのも有効な手段ではあるが、無理にする必要はない。」


 現段階ではそこまでする必要もない。懇意にするだけで情報を得るには十分だ。それに自分がそれを許せない。気持ちを利用するのはミルナ達だけの1回で十分だ。


「俺も変わったな。」


 地球にいた頃であれば、何回でも遠慮なく気持ちを利用し、弄んだりもしただろう。だがミルナ達と出会い、慕ってもらい、そういう事をするのに少し抵抗を感じるようになった。ミルナ達やアリア達はとても素直で純粋でいい子達だ。だからこそ利用した時、物凄い罪悪感がある。少しでも彼女達に黒い部分があったなら気にならなかったのかもしれないが、あの子達は自分に対して本当に真っ直ぐに接してくれる。それがアキには眩しすぎた。ベルもアキに対して話している時、ミルナ達同様に真っ直ぐな人間だと思えたから、気持ちを利用するのに躊躇した。


「そこの観察はさすがに間違えない。見ればわかる。」


 勿論ベルは国や王家の為であればいくらでも黒く打算的にもなるだろう。アキに接触したのもそういう計算があったと思う。でもあの子は結局黒くなり切れていない。アキとの会話を、本当に楽しそうに、年相応の女の子のように、楽しんでいた。


「俺が出会ったこの国の人達はみんな汚れてないよな。まあ、地球で暮らしていた人間、特に俺、が真っ黒なだけでこの世界ではあれがデフォなのかもしれないが。」


 アキは冷めてしまった珈琲に口をつけ、今日はもういいだろうと、考える事を止めタブレットに入っている本を読むことにする。

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