56
「正直なところ、私にとってショルダードはあまり住みやすい街とは言えません。というか大抵の女の子にとってはそうだと思いますよ。」
そう前置きしてメアリが語り始める。
ショルダードには女の子が好んでいくような店がないらしい。可愛い服とか雑貨を買いたいのに、店がないのだとか。ちなみにお洒落な服を買える店は一応ある。だがそのほとんどは娼婦の子達が使う店。つまりそういう店に置いてある服は客の為に娼婦の子達が着飾る服で、「男から見て可愛い服」しかない。
そういう派手な服を着れば、多少のお洒落は出来る。ただそんな店に出入りしていれば娼婦と間違われるので、それはそれで面倒らしい。そうでなくても街を歩けば娼婦なのかと聞かれて大変なのだとか。
やはりメアリのような子にとってこの街は生き辛いようだ。
「大変なんだな。」
「そうなんですよ・・・!ほんとにもう!」
色々と苦労してるんだろうとは思ったが、やはり想像通りらしい。
「メアリも娼婦にならないかと勧誘されたりしたのか?」
「それはもうされましたよー・・・サルサドールさんがしつこくて困りました!」
その時の事を思い出したのか、深い溜息を吐くメアリ。
しかし偶然にもメアリがサルサドールの名前が出してくれた。これならサルサドールの事を聞いてもおかしくはない。
「そのサルサドールって名前・・・良く耳にするけど、そんなに有名な人なの?」
「あっ!・・・えっと、すいません!お客さんはこの街初めてだから知らないですよね!サルサドールさんは・・・その・・・凄い偉い人なんです!」
「そうなんだ?」
「は、はい!サルサドールさんは花街の全てを取り仕切ってるんです!なんでもあそこで起る事は全て把握してるらしいですよ!凄いですよね!」
どこかわざとらしくサルサドールの凄さを褒めるメアリ。しつこく娼婦に勧誘されて辟易していたと言っていたのに、これはもしかしてそういうことなのだろうか。
「でもしつこく勧誘されたんでしょ?」
「あー・・・えへへ?」
メアリは笑って誤魔化す。どうやら不用意にサルサドールの話題を出すのは不味いらしい。先程の「しつこかった」という発言もメアリからしてみれば失言だったのだろう。
「誰にも言わないから教えてよ。」
「んー・・・」
困った表情でこっちを見つめてくる。やはりこの反応を見るに、サルサドールを敵に回すような発言をするのは駄目なのだろう。エクレールははっきりと「潰す」と宣言したが、彼女はそれなりに立場も力も持っている。それと比べるとメアリはただの一般人だ。下手にサルサドールを敵に回したらこの街では生きていけなくなると言う事なのだろう。
「何かあったら俺が何とかするから教えてくれない?」
「ほんとに・・・だ、大丈夫なんです?」
「これでも王女殿下御用達の商人で侯爵だよ?」
なんとかメアリに話して貰えないかと説得する。ただ正直サルサドールくらいならなんとでもなる。「今度ベルフィオーレで美味しい物食べさせてあげる」とかユキに言えば一瞬で処理してくれるだろうしな。
「そうでした!」
「いざとなったら王都へ招待してあげるよ。」
「やったー!・・・と言いたいところですけど、このお店があるのでそれはちょっと困ります!」
そう言えばそうだった。メアリの身に危険が迫るような事があったら王都へ連れて行って保護しようかとも思ったが、彼女はこの街を離れられない理由があったんだった。
「わかった。ならメアリも店もちゃんと守るよ。」
「それならお話します!でもほんとにちゃんと私とお店を守ってくださいね!?」
「任せとけ。」
ちょっと不用意に面倒事に足を突っ込んだ気がしなくもないが、メアリのような街娘からの情報は大事だ。聞けるなら聞いておきたい。




