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「この街には初めて来たんだけど・・・」
「あはは、びっくりしましたよねー?」
メアリが苦笑いを浮かべる。
「そうだね。」
彼女の言う通り、この街は特殊だ。軍事都市というものが一般的にどんなものなのかは知らないが、ショルダードが異常なのは明白。兵士達がそこら中にいて、花街が盛んで、貴族や商人しか立ち入れない地域がある。それらを見て驚かない人間はいないだろう。
「ふふ、王女殿下御用達の商人とはいえ、案外普通の人なんですね?」
別にアキの事を馬鹿にしているわけではないだろう。メアリは単純に思った事を言っているだけだ。
「中身はこんなもんだよ。それよりこの街・・・何をして楽しめばいいのかわからないんだけど?」
「あれ?お仕事で来たんじゃなかったです?」
「そうだけど、王女殿下からは『いい機会だから息抜きに観光もしてきなさい』と言われてるんだよ。普段休んでないから王女殿下の心遣いだね。」
まあ実際にそんな事はユキに一言も言われてないが。
「そうなんですね?王女殿下はお優しい方なんですね!」
そして全然優しくはない。アキを気遣うどころか、むしろ「私が休みたい!旅行行きたい!貴方だけずるい!!!」と我儘を言われた。まあなんだかんだでユキはいい子だとは思うが。
「そうそう。だからショルダードを楽しまないと王女殿下に申し訳ないからね。」
とはいえ話の流れとしては自然だ。これでショルダードの事をメアリに聞いても、「この人なんか怪しい」とは思われないだろう。
「なるほど・・・それなら・・・うーん・・・この街の見どころ・・・」
メアリが顎に手を当てながら唸る。この街の観光名所で真っ先に浮かぶのは花街だ。だがアキは先程エリザやイリアを婚約者としてメアリに紹介した。そんなアキに花街勧めるわかにはいかないのだろう。
「言わなくてもわかってるとは思うけど花街以外で頼む。」
「さすがにそんなところを紹介しませんよ!私だって乙女なんですからね!」
メアリが頬を膨らませながらぷりぷりと怒る。
「乙女・・・?誰が?」
「もー!お客さんは意地悪ですね!!そう言う事言うなら教えませんよ!?」
「ごめんごめん。謝るからメアリ一押しの観光スポットを教えてくれよ。」
さすがにちょっと意地悪が過ぎたか。でもそこまで言うからにはさぞかし素晴らしい観光スポットがあるのだろう。
「・・・えーっと・・・美人さんが沢山いると噂の娼館とかどうです?えへへ?」
「おい、乙女。」
「し、しょうがないじゃないですか!この街に観光名所なんてあると思います!?ないんですよ!!花街くらいしかないんですよ!!!おかげで普段から遊ぶところが無くて困ってるんです!お洒落なカフェとか雑貨屋とかないんだから!王都に出ていった幼馴染から自慢の手紙が届くんですよ!そんな私の気持ちがわかります!?」
壊れた蛇口から水が溢れ出すかのようにメアリの愚痴が止まらない。どうやら触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。
まあ気持ちはわからなくもない。メアリのような普通の女の子に、ショルダードは生き辛い街だろう。年頃の女の子が楽しめる娯楽なんてないだろうし、下手したら娼婦に間違われる事だってあるはずだ。
「落ち着け。悪かった。」
「だからですね!・・・はっ!?す、すいません!つい!」
我に返ったメアリが恥ずかしそうに頬を赤くする。
「気にしなくていい。つまりメアリから見たらショルダードはやっぱりそういう街って事なんだね?」
おかげでメアリの本心が聞けた。これならもう少々ショルダードの詳しい事情を聴けるかもしれない。
「・・・はい。」




