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「んー・・・まあ、いいですよー?」
女店員は少し考え込んだ後、了承する。
これはもしかしたら何か見返りを要求される事になるかもしれない。まあ多少の謝礼くらいなら払っても構わないが、無茶振りや面倒事は勘弁願いたいところだ。とはいっても虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うし、とりあえず話を聞かせてもらうのが吉だろう。面倒な頼み事をされそうなら逃げればいいしな。
「ありがとうございます。」
「うんうん、というかお客さんはあれですよね?今噂になってる王女殿下御用達の商人さん御一行ですよねー?」
なんとまさかこんな食事処の店員にまでアキの情報が知られているとは思わなかった。というかアキの情報が出回り過ぎだろう。アキもある程度目立つようにしていたので仕方ない事だとは思うが、さすがに一般人にまで知れ渡っているのは予想外過ぎる。
「よくご存じですね。」
だが変に隠しても無駄な気もするので、ここは正直に言った方がよさそうだ。この店員もある程度確証があるから言ってきたんだろうしな。
「やっぱり!この街は情報が出回るの速いですからねー!あ、でも気を悪くしないでくださいね?お客さんが有名人だからですよ?普通の人なら話題にもあがらないので安心してください!」
フォローのつもりで言っているのかもしれないが、全く安心出来ない。アキがただの一般人として街を訪問する事はほぼないしな。というかユキやベルと付き合いがある時点で普通の生活は不可能だ。
「まあ確かに他の街でも多少は噂されるな。」
「でしょう?この街はちょっとだけ情報に機敏なだけですよー!」
ちょっとだけという割には個人情報の流出が酷い気がする。まあ今更そこを責める気はないのでどうでもいいが。
「それで俺の事はどこまで知ってるの?」
「あ、やっぱり気になりますー?」
「そりゃまあ。」
「ですよねー!といっても王女殿下御用達の商人で、侯爵位を持った貴族様としか知らないですよー!」
なるほど、どうやら最低限の情報くらいしか知られていないようだ。
「あー・・・あとは・・・」
そう言って女店員はチラッとイリアとエリザの方を見る。
「秘書と護衛がやたらと美人さんでー・・・その2人を妾にしている好色な方とは聞いてますね?そこんとこどうなんです?」
エリザ達の方を見た時点でちょっと嫌な予感がしたが、やはり2人はそういう評価か。だがエリアやイリアとの関係性についてアキに聞いて来たところを見ると、多分あやふやな情報しか出回ってないのだろう。
これは利用できるかもしれない。幸いにもこの娘はアキ達の情報を探りに来ている。まあ特に深い意味はなく、興味本位なだけな気がするが・・・とにかくここでエリザやイリアの関係性、そしてアキの情報をさり気なく教えておけば、上手い具合に噂が広まってくれるかもしれない。
問題はどういう風に伝えるかだ。エリザとイリアを手籠めにしていると言った方がいいだろうか。ただエクレールのようにアキに取り入ろうとしてくる連中はいるはずで、アキが女好きと下手に広まれば、色仕掛けしてくる連中が出てくるに違いない。そして逆にエリザ達とは何もないと言ったら、それはそれで2人に言い寄る連中が出てきそうではある。そう考えるとどっちもどっちな気がするな。ならば間を取って真実を話すべきか。
「間違ってはないね。でも妾というより、2人は俺の婚約者だよ。」
「な、なるほど!そうなんですね・・・!」
それなら親しげなのも納得ですと頷く店員。
多分これがベストだろう。婚約者と言っておけば変に色仕掛けされる事もないだろうし、エリザ達に言い寄る輩も減る。まあ「第三夫人に~」とどこぞの娘を売り込まれるかもしれないが、そのくらいならまだ許容範囲だろう。
「さて・・・俺の話もしたし、そろそろこの街の事を教えて欲しいな。」
「あ、そうですね!ではまず自己紹介からします!お客さんの素性を探っておいて自分の事を話さないのは駄目だと思うので!」




