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「これこそありきたりな話なんだけどね・・・」
エクレールが再び語り始める。ただ表情がさっきより険しい。
「何があったんですか?」
これは相当遺恨が残っていそうだ。一体サルサドールと何があったのだろう。まあエクレールはありきたりな話だと言っているし、もしかしたらサルサドールにお手付きにされたとかその類の話かもしれない。
「なんだと思う?」
「お手付きにされたとかですか?」
「されそうになったが正しいけど、まあ大体合ってるわ。」
やはりそう言う事らしい。
「なるほど・・・自分のところの『商品』に手を出すのはよくないですよね。」
「うーん、それは別にいいと思うの。」
「そうなんですか?」
では何故それ程までにサルサドールを恨んでいるのだろう。
「ええ、別に経営者が自分の店に客としてくるのは不思議な事ではないでしょう?」
「それはそうですね。」
「だからちゃんとお金を払って、客として来るのであればいいのよ。私は客が顔見知りでも、誠心誠意対応するわ。」
「プロ意識が凄いですね。」
「そうかしら?普通の事だと思うわよ?うちの娼婦達にも徹底させてるしね。」
なんでもない事のようにエクレールは言うが、知り合いが来て平然と対応出来るのは正直凄いと思う。それが娼館であれば尚更だ。アキだったら絶対に対応がぎこちなくなる。
「サルサドールは客としてではなく関係を迫ってきたって事ですか?」
とりあえずエクレールの話からすると、サルサドールは地位や立場を利用してエクレールに迫ったと言う事だろう。確かにそれで揉めたのであれば、エクレールが恨んでいる事にも納得がいく。
「そう言う事よ。『俺はお前達を好きにする権利がある』みたいな主張だったかしらね。私は拒否したけど、それを断れない子達は多いわ。」
まあ雇い主に脅されたら断れない子はいる。誰もがエクレールのように自分の意見をちゃんと主張できる子ばかりではないだろうしな。
「よく断ったのに高級娼館のトップにまで上りつめられましたね?」
サルサドールのように権力を利用する雇い主は、素直に言う事を聞く子に便図を図り、エクレールのようなタイプには嫌がらせをするイメージがある。
「そこは上手くやったわ。私は客受けがよかったし、どこの店に行っても稼ぎ頭だったの。サルサドールからしてみれば私の事を好きに出来ないから気に食わなかったでしょうけど、金は稼ぐから無視できなかったんだと思うわ。」
なるほど、実力で黙らせたわけか。
ただそんな関係がいつまでも続くわけがない。気に食わない者同士なのだから、どこかで必ずぶつかる。
「トップまでのぼりつめたからもう学ぶ事は無いってなったんですか?」
「そうよ。途中で投げ出しても行く当てなんてなかったし、我慢して働いてたの。でも十分にお金も稼いで、娼婦としてのノウハウも学んだ後に彼の元に残る理由なんてなかったわ。あのまま居ても誰も幸せになれないとはずっと思っていたから、独立して彼を失脚させてやろうと思ったってわけ。」
エクレールがサルサドールを潰したい動機はわかった。まあ納得のいく理由だ。きっとアキには想像出来ないくらいの精神的苦痛に耐え、頑張ってきたのだろう。これが全部エクレールの嘘なら大したものだが・・・彼女の雰囲気からして全部本当の事な気がする。
「なるほど。」
「この話はもういいでしょう。さあ、私も話したのだから貴方も何故サルサドールを調べにこの街へ来たのか教えて頂戴?」
「わかりました。」
ここまで事情を話してくれたのだから今度はアキの番だ。
ただこっちは半分嘘なので心が痛い。




