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「私がサルサドールと出会ったのは偶然だったの。」
エクレールが語る。
彼女がベルやミルナくらいの年齢だった頃、サルサドールと出会ったらしい。ショルダードで生まれ、この街で育ったエクレール。そのせいで花街の事は小さい頃から知っており、女が身体を売ってお金を稼ぐ場所だとちゃんと認識していたのだとか。
そんなエクレールの家は裕福な家庭ではなく、父親は兵士、母親は酒場で働いて、日々の糧を何とか稼いでいた。エクレールも少女から立派な女性へと成長し、お金を稼げる年になった。そして両親に少しでも楽をして貰おうと仕事を探していたら、街でサルサドールに出会って娼婦としてスカウトされたらしい。さすがに声をかけられた時は自分を商品とする事に抵抗はあったらしいが、破格の給料を提示され、迷う事なく即決したのだとか。
娼婦として働くのは「それもう大変だったのよね・・・」と語っていた。まあさすがに何がどう大変だったのか詳しくは聞けなかったが、ただ働けば働くだけお金が稼げる完全実力社会だとわかり、滅茶苦茶死に物狂いで頑張ったらしい。そして気付いたら高級娼館で一番人気を誇る娼婦にまで上りつめた。
うん、これだけ聞くと、ただのサクセスストーリーだ。
だが問題はその過程にあった。
娼婦として大成していったエクレールはサルサドールとぶつかる事が多くなったと言う。彼女は「娼館に来る客は誰もが大切なお客様」で、1人1人を丁寧に、心を込めて接客するようにしていた。目先の利益率を上げる事より、客の心を掴むことに重点を置いたのだ。そうすることで客は気持ちよく店に来れるし、何回も来てくれる。そして長期的にみれば、店もその方が儲かるはず。客も店も自分も幸せになれるWINWINな方法だと思い、彼女はそれを実践していた。
だがサルサドールの考えは違った。彼はあくまで目先の利益が最優先。客がどうなろうと、金を稼げればよかった。例えば男をとある娼婦の虜にさせ、大金を貢がせるとかだ。それで客が破滅しようがおかまいなし。そんな事をすれば大事な客が1人減るし、長期的に見れば損失にしかならないのだが、サルサドールは「客はいくらでもいる」と言って主張を変えなかった。
つまりサルサドールはあくまで娼館の経営者だったと言う事だ。それに本人は当然娼婦の経験もないので、娼婦達の気持ちがわからなかったのだろう。客を破滅させたり、満足させなかったりで客から恨まれるのは娼婦の子達なのに、その精神的苦痛が彼には理解できなかったのだ。だからエクレールはサルサドールと揉めた。
「まあ・・・経営者として正しいと言えなくもないわ。客や従業員を消耗品と見る経営方針で成功する例もあるしね。」
確かにそういう会社は地球にもあった。顧客や従業員の満足度は高くないが、それならそれで入れ替えればいいという力業だ。まあ短期的に莫大な利益を出すのが目的なら有効的な手段かもしれない。従業員や客のケアをしなくていいからその分無駄な投資を省ける。だが長期的に商売を継続させたいのであれば、間違いなく成功しないだろう。これで幸せになるのは経営者1人だけだからな。
「エクレールさんとは正反対ですね。」
「そうよ。だからサルサドールには失脚して貰わないと困るの。彼がこの花街を牛耳っている限り、客・・・そして何より娼婦の子達は絶対に幸せになれないからね。」
なるほど、どうやらエクレールは娼婦の未来を憂いているようだ。客が満足しなければいつかこの花街は廃れると考えているのだろう。そしてそうなったら路頭に迷うのは娼婦達。別の仕事に転職出来ればいいが、娼婦は特殊な仕事だからそれも中々難しいのかもしれない。
つまりエクレールはこの花街でさらに成功する為、そして娼婦達の未来を守る為、商売敵であるサルサドールを潰したいのだ。
「理解しました。別に個人的な恨みで彼を失脚させようとしているわけではないんですね。」
「いいえ?それもあるわよ?」
・・・あるらしい。




