37
「私の目的ですが・・・エクレールさんは既にご存知なのでは?」
もうここまで来たら腹の探り合いなどせず素直に話してもいいのだが、それはなんか癪だ。そもそもアキの情報を知っているとエクレールは近づいて来たのだから、まずはその情報源を明かすのが筋というものだろう。
「何の事かしら?」
よくわからないわとわざとらしく首を傾げるエクレール。
「今更とぼける意味はないでしょう?」
「ふふ・・・そうね。貴方の心証を悪くするのは得策ではないし、素直に話すわ。」
「それでお願いします。」
「まあ貴方はもうわかってると思うけど、貴方の情報はかなり出回っているの。」
まあ聞くまでもなかったが、やはりそうか。
「誰が情報を流してるんですかね?」
「貴方が接した人全員が流してると思った方がいいわね。」
「なるほど。」
「驚かないの?」
「いや誰かわからないより、全員を疑えばいいだけなので楽だなと。」
全員が情報を流しているのであれば、対応も対処も楽だ。会う人会う人に対して変に疑心暗鬼にならずに済むし、逆にそれを利用してやればいいと開き直れる。
「まあそれもそうね。ただ誤解しないでおいて欲しいのが全ての人が貴方を調べようとしてるわけではないわ。一部の商人や貴族が情報を集める為にお金で情報を買ってるのよ。」
「ええ、わかります。見ず知らずの私の情報を渡すだけでお金が貰えるのであれば誰でもそうするでしょう。恨んではいませんよ。ただ宿屋の人間や門兵がそう言う事をするのはモラル的にどうかと思いますが。」
偶々街で見かけただけ、話しただけの相手であれば、別にいい。アキが彼らの立場でも何も考えずに情報を売るだろう。だが個人情報を扱う仕事をしている門兵のような人間が情報を売るのは流石によろしくないと思う。
「そうなのよ。だからそういう人から情報を買う時はかなりのお金を渡さないといけないのよね。お金がいくらあっても足りないわ。」
やれやれと肩を竦めるエクレール。
そう思うなら止めればいいのにと思わなくもないが、まあ情報は武器だから仕方ない。金で有益な情報を仕入れられるのであれば、誰でもそうする。特に商人なんかは情報に敏感でないと、拾える利益を逃してしまうかもしれない。優秀な商人であればある程、それを毛嫌いするはずなので、情報の売買は仕方ない事だ。だからエクレールがアキの情報を買っていたとしてもそれを責めるつもりは一切ない。
「あとは自分の部下を直接そういう場所へ送り込むパターンもあるわ。宿屋の従業員として働かせて情報を集めさせるのよ。」
「むしろそっちのが合理的でしょうね。」
自分の部下であれば手綱を握りやすい。アキが情報を集める時、いつもルティアを使っているのと一緒だ。見ず知らずの人間から買うより情報の精度も信頼できる。
「そうよ。」
「で、エクレールさんはどこへ送り込んでるんです?」
「内緒よ。そんなほいほい手品の種を明かすわけないでしょ?」
そう言って不敵な笑みを浮かべるエクレール。まあアキも教えてもらえると思って聞いてはいないので問題ない。教えてもらえたらラッキーくらいの気持ちで聞いてみただけだ。
それにエクレールの情報収集の方法なんてある程度予想はつく。娼館を営んでいるのだから、娼婦を使って男から情報を聞き出しているのはまず間違いない。それに加えて街に部下を放ち、情報を収集させているはずだ。
「それで?私の何を知ってるんです?」
「ああ、その話だったわね。まず貴方が王女殿下の御用達の商人で侯爵位を持っていることは知っていたわ。」
まあ宿屋や街の入り口で商人証やユキの書状を見せているのだから、それは知られていても不思議ではない。想定の範囲内だ。だがエクレールは「アキがサルサドールの事を調べている」事もわかっていた。アキはサルサドールを調べているとは誰にも言っていない。まあエクレールがサルサドールの事も調べていて、アキの情報と照らし合わせて予想したのだろうが、一応はっきりさせておきたい。
「ではサルサ―ドルを調べているという情報はどこで?」
「あら、認めるの?」
「貴方のお店にまで来たんですから今更隠すつもりもないです。」
それにこちらからも情報を小出しにしなければ、相手も教えてくれないだろう。それにアキとしては別に隠している事でもないので、話したところでなんら不都合はない。ベルフィオーレの事がバレていないのであればなんでもいいしな。
「ふふ、いいわ。サルサ―ドルと私の関係性、そして何故貴方に近づいたのか・・・全部教えてあげる。」
「エクレールさんこそあっさり認めるんですね?」
「そりゃそうよ。私としては貴方と協力関係を築きたいのだから変に隠し事する気は元からないもの。だから腹の探り合いもこの辺にしない?」
「私もそう思っていたところです。」
これで「お互い腹を割って話してもいい」という舞台が整った。ただ本当にエクレールを完全に信用したわけではないし、エクレールもアキの事を信用しているわけではないだろう。この腹の探り合いは、お互いに「これで腹の内を話せるよね」という建前を作る為にやった事だ。
「では私の事情を言うわね。」
そう前置きしてエクレールが語り始める。




