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「アキさん、貴方のこの街での目的はなにかしら。」
たっぷりと獣人の娼婦達をもふもふして満足したあたりで、エクレールが見計らったように聞いてくる。
ただアキとしてはもっと可愛い獣人達と戯れていたかった。まだ30分くらいしか楽しんでいない。まあエクレールもすぐに話を進めるつもりだったはずなのにアキが歓談し終わるのを30分も黙って待っていてくれたのだから、これ以上待たせるわけにもいかないか。
ちなみに娼婦の子達とは色々と話してすっかり仲良くなった。営業トークなのかもしれないが、滅茶苦茶アキに懐いてくれているしな。勿論尻尾や耳も「好きなだけどうぞ!」ともふもふさせてくれた。以前、リオナやセシルから「獣人の耳や尻尾は大切な人にしか触らせないんだよ!」と言われた事があり、ほいほいと触らせる人は貞操観念がないとかなんだと教えられた。その辺はやはり娼婦と言う事で、一般人とは感覚が違うのかもしれない。まあこの子達は終始「よければ身請けを・・・」とアキに永久就職しようと口説いてきたので、もしかしたらそれが狙いだったのかもしれないが。アキが獣人好きで大事にしているというのはさすがに娼婦達にも伝わったのか、最初に会った時よりアピールが必死だったしな。
だがその企みはうちの猫によって見事に阻止された。エリザが事あるごとに「下がりなさい!」「この人は私のよ!」「この泥棒猫!」と娼婦達に睨みを利かせていたし、アキに対しても「変な事言ったら引っ掻くわよ!!」と威嚇してきたので、変な口約束をする羽目にはならなかった。娼婦達はエリザを鬱陶しそうに見ていたが、正直エリザがいなかったら不味かっただろう。アキ1人だったら多分「身請けしてくれない?尻尾もついてくるよ?」と言われ誘惑に負けていた気がする。
まあ娼婦達との交流はそんな感じだった。一言でいうなら色々カオスだったが・・・至福の時間だったと言えよう。だが楽しんでいたのは勿論全て演技だ。
「目的を話す前に・・・改めて自己紹介をしませんか?」
アキがどういう立場の人間なのか、まだ明言はしていない。噂では聞いているはずなので改めて言うまでもないかもしれないが、一応はっきりと言っておいた方がいいだろう。
「ええ、構わないわよ。」
「では・・・私はアキ・シノミヤ。エヴァグリーン王国の侯爵でしがない商人です。そしてご存知かと思いますが、ユーリロキサーヌ第一王女殿下と懇意にさせて頂いており、現在は王女殿下専属の商人として商売をさせて頂いております。」
「その若さで大したものね?」
「ありがとうございます。王女殿下のお目に止まったのは本当に偶然で幸運な事でした。奇跡の出会いに感謝しています。」
「あら謙遜しなくてもいいのよ。運も実力の内だもの。」
「そう言って頂けると光栄です。」
とりあえずこれでアキは侯爵であり、王女殿下と繋がりがある事をはっきりと宣言した事になる。つまりエクレールも「知らんなかった」では済まされない。アキが貴族だと言った以上、不敬罪を適応できる権力があると言っているのと同義なので、いい加減な対応は出来ないからだ。
ちなみにアキへの態度はそのままでいいと言ってある。今更懇切丁寧されても不気味だし、ある程度フランクな方が腹を割って話せるからな。
「ちなみに王女殿下御用達の商人というのは何を扱っているのかしら?」
「様々です。王女殿下がお望みの品をどんな手段を使っても手に入れる事が仕事。悪く言えば王女殿下の小間使いですが・・・王女殿下にお仕えできるというのは光栄な事ですし、あのお方が支払いを渋る事はありませんので、確実に多大な利益をあげられます。商人としては非常にありがたいことです。」
「それは羨ましいわ。貴方と絶対にお近づきになりたいと思うほどにね。」
まあそれは当然の事だろう。アキが王家に仕えて甘い汁を吸っているとみられるのは間違いない。貪欲な商売人なら少しでもあやかりたいと思うはず。
「それは今後のお話次第ですね。」
「ふふ、その気にさせる情報を提供できるように頑張るわ。それで・・・貴方のこの街での目的をそろそろ聞かせてくれないかしら?」
「はい。」
前置きはしっかりしたし、下準備は問題ない。ここからがいよいよ本題だ。




