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「と、とりあえず・・・貴方はこの子達でいいのね?」
動揺を隠すかのように、エクレールが聞いてくる。
「はい、この子達がいいです。」
「そ、そう、それならいいわ。じゃあ貴女達、一旦下がって準備して来なさい。」
そう言って獣人の娼婦たちを部屋から追い出す。
一体何の準備だろう。おもてなしをしてくれるとの事だが・・・まあ楽しみにしておこう。なんせもふもふだしな。
「それにしても予想外だわ・・・おかげで予定が狂ったじゃない。」
娼婦達がいなくなり、アキ達だけになったタイミングでエクレールが文句を言ってきた。彼女の様子から察するに、エクレールの計画ではきっとアキに娼婦を紹介し、骨抜きにしたところでユキの情報を聞き出そうとか考えていたのだろう。そして獣人の娼婦達はあくまでかませ犬。アキが人気どころの人族の娼婦達を選ぶと思って裏で色々と指示をしていたに違いない。ただアキが予想外に獣人に反応してしまったのでエクレールはペースを乱されてしまったというわけだ。
アキの予想はこんなところだが、多分当たらずといえでも遠からずと言ったところだろう。
「もしかして色々と仕込んでたんですかね?」
「ええ・・・そんなところね。貴方を誘惑して情報を引き出したかったのよ。あ、でも貴方が選んだ獣人の子達は何も知らないわ。あの子達には『貴族様が来るから上手く気に入られれば将来安泰かもね』って煽ったくらいよ。」
なるほど。エクレールの計画のせいで人族の娼婦達は自分たちが選ばれると思い込んでアピールしてこなかったんだろう。遠巻きに見ていたのはアキをどう手籠めにしようか作戦でも練っていたに違いない。その反面、何も聞いていない獣人娘達は素直にアピールしてきた。
これはエクレールに感謝しなければならないだろう。彼女が色々と画策してくれたおかげで、可愛いもふもふ達にアプローチされたのだからな。
「まあいいわ。計画通りにはいかなかったけど、あの子達にはいい薬になったでしょ。うちの看板娘達が軒並み貴方に拒否されたんだからね。最近天狗になりかけて困ってたし、丁度いいわ。」
「どっちに転んでもエクレールさんには得しかなかったんですね。」
どうやらアキが獣人を選んだ場合もちゃんと想定していたようだ。まあそのくらい強かでないと競争が激しいこの花街で成功するなんて無理だろう。
「でも貴方も喜んでたからいいでしょう?」
「そうですね。」
「じゃあいいじゃない。それより話しを進めましょう。」
上手く言い包められた気がしなくもないが、もふもふに囲まれて幸せだったのは事実なので何も言い返せない。
「はい。その前に少々お待ちを。」
エクレールに一言断りを入れ、アキはエリザの頭を引っ叩く。
――パシーン!
「ふしゃー・・・に、にゃ!?」
「いつまで威嚇してんだ、馬鹿猫。」
この猫、娼婦たちが出ていった後も、扉に向かってずっと威嚇し続けていた。面倒なので放置していたが、そろそろ正気に戻してやろう。
「急に叩かないでよ!?大体アキ君が悪いんでしょ!!」
「え?なんで?」
「白々しいわよ!わかってるわよね!?」
今度はアキに向かってふしゃーと威嚇してくるエリザ。
「いや、あれは全部演技だ。エクレールさんの企みを暴く為のな。」
「そんなわけないでしょ!息をするように嘘を吐くのはやめなさい!!!」
適当に誤魔化してみたが、やはり駄目らしい。
ちなみにイリアはもう諦めた表情で我関せずと言った感じだ。まあ「後で覚えておくといいよ」と恐ろしい事をボソッと呟いていたので、帰ってから色々言われそうな気がする。
まあとりあえずここでこれ以上揉めても良い事はないので、問題を先延ばしにする事にしよう。まあどうせベルフィオーレに帰ったらいつものように全員に説教されるだけだろうしな。もう慣れたもんだ。
「わかった、わかった、エリザ後でな?」
ぽんぽんとエリザの頭を撫でてやる。
「にゃ・・・」
すると気持ちよさそうに目を細めるエリザ。
「・・・やっぱり面白いわね、その子。」
「可愛いでしょう?」
「そうね・・・まあうちでは絶対雇わないタイプだけど。」
エクレールがうちの子のチョロさを見て苦笑いを浮かべる。多分皮肉を言われているだけだと思うが、アキにしてみたら褒め言葉だ。エリザはこういうチョロいところが可愛いからな。
「それよりいい加減話を進めてもいいかしら。あ、その前に一つ確認だけど・・・貴方が選んだ獣人の子達が飲み物を準備してそのうち戻ってくるわ。彼女達に話を聞かれてもいいかしら?」
そう言えばそうだ。もふもふがおもてなしをしてくれるのだから当然エクレールとする話は聞かれるだろう。
さてどうするか。




