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「あら、おかえりなさい。急にいなくなったから吃驚したわ。それで・・・ちゃんとその子達との話し合いは終わったのかしら?」
全てを察しているかのような顔で聞いてくる。まああのタイミングでエリザやイリアに連れていかれたら誰でも何があったかは想像が付くだろう。
「はい、なんとか。」
「では行きましょうか。あ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は元娼婦で、今は娼館を経営しているエクレールよ。よろしくね。」
エクレールが思い出したかのように自己紹介をする。
さっきから会話の主導権を握られている気がしてもしかしてとは思っていたが、やはりエクレールは元娼婦だったようだ。娼婦というのは男を上手く扱う事に関しての専門職のようなものだと思っている。色んなタイプの人と接してきたはずだし、人生経験も豊富だろう。
「私はアキ・シノミヤ。一応爵位持ちの貴族です。以後お見知りおきを。」
人生経験で勝てない相手に会話を優位に進めるのは難しい。というわけで腹の探り合いは諦めてここは素直に地位を利用する事にした。自己紹介はいいタイミングだと思い、貴族だと言う事を明かす。
「あら、そうなのね?私は跪いた方がいいのかしら?」
「・・・しなくていいです。」
「ふふ、ありがとね。」
エクレールが悪戯が成功した子供のようにくすくすと笑う。王女御用達の商人が平民というのはおかしいので、エクレールもアキがある程度の地位を持っている事はきっと予想はしていたのだろう。しかしやはり手玉に取られている感が拭えない。
「まあその辺の話はお店についてからでいいでしょう?それよりエクレールさんのお店はどこにあるんですか?」
「すぐそこよ。さあこっちへいらっしゃい。」
そう言いながら踵を返すエクレール。
そんなエクレールの後についていく事約5分、彼女の経営する娼館「もふもふパラダイス」に到着した。
「これがうちの娼館よ。中々に立派でしょ?」
「ええ・・・想像以上に立派です。」
エクレールの言う通り、彼女の娼館は4階建ての木造と石造りのかなり立派な建物だ。周囲と比べても、豪華さが頭一つ抜けている。もしかしたらエクレールの経営する娼館は高級な部類に入るのかもしれない。まあ王女御用達の商人であるアキに近づいて上手くやる算段があるのだから、経営者としてそれなりに稼いでいてもなんら不思議ではないが。というか道すがらに教えてくれたのだが、エクレールはこの街で、一般人向けの娼館から高級娼館まで複数の娼館を経営しているらしい。この「もふもふパラダイス」はその中の店の1つというわけだ。
「ここは高級店なんですか?」
「そうよ。うちの店舗の中では一番よ。勿論売り上げもね。」
どうやらこの「もふもふパラダイス」がエクレールの旗艦店舗のようだ。しかし建物は立派だが、店名などの看板が一切ないのは何故だろう。娼館だと言われなければ、これが店だとはわからない。他の店はでかでかと看板を出してアピールしているのに何か意図があるのだろうか。
「看板が無いのは何でです?」
「ああ、それは出す必要が無いからよ。金額的に気軽に立ち寄れるような店でもないしね。それにこの方が品格があるように見えるでしょ?」
例えるなら会員制レストランのような感じだろうか。「選ばれし者しか通えない店」というのは確かに一種のステータスだ。
「そういうものですか?」
「らしいわよ?お金持ちの考える事はよくわからないわ。」
エクレールはそう言って肩を竦める。
彼女曰く、最初は普通の高級店だったらしい。だが常連客に色々と言われ、今の形に落ち着いたのだとか。
「今となっては余裕のある生活が出来ているけど、私は元々庶民の出だからね。」
「そうなんですね。」
エクレールは娼婦としてこの街へ来て、身一つでここまで上りつめたのだろう。一種のサクセスストーリーだ。
「色々苦労したけど・・・ふふ、ごめんね。人に話す事じゃないわね。それよりいつまでも店の前で立ち話しているのも目立つわ。中へ入りましょう。」
「はい。ところでなんで『もふもふパラダイス』なんですか・・・?」
正直ずっと疑問に思っていた。この世界の夜の街の価値観はしらないが、店名だけ聞くとどう考えても高級店には聞こえない。こういう耳に残るような独特な店名は大衆店がつけるイメージだしな。
「ああ、それは・・・まあ入ればわかるわよ。後で説明してあげるからまずは見て見なさい。うちの店、そしてうちの自慢の子達をね?」
「わかりました。楽しみです。」
そこまで煽られると、さらに期待感が高まる。どんなもふもふな子達が娼婦をやっているのだろう。




