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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第一章 異世界の観察
11/1143

9

「もう1つあるんだけど?」 


 アキの言葉を受けてレオが真っ先に反応する。


「多分もう何言われても驚かないよ、ぱぱっと言っちゃって。」

「オッケー。まぁ今の話に比べたら大した事じゃないんだけどね。レオ。」

「え?ぼ、僕?」


 レオが不思議そうな顔を浮かべる。


「うん、レオが男の格好をしてる。レオって女でしょ?」



「「「「なっ!」」」」



 4人が驚きの表情でアキを見る。


「な、な、何を言ってるの?僕は男だよ?」


 焦った様子でレオが反論する。だが尻尾が不規則に動いているのを見れば動揺しているのは丸わかりだ。そしてミルナが諦めたように認める。


「レオ、もう無理ですわ。諦めましょう。驚いてしまった時点で認めているようなものですもの。」

「よし!今回は私のせいじゃないわね!」


 エレンがほっとしたように言うが、呆れたソフィーがエレンの頭を叩く。


「よし!……じゃないでしょ。エレンは少し反省しなさい。アキさん私達また何か情報を与えるような話ししていましたー?」


 エレンを叱りつつソフィーがアキに問いかける。


「いや、してないよ。」

「ではなぜわかったんです?レオが女だと気づいたのはアキさんが初めてです。」

「強いていうなら筋肉の付き方。男はそういった付き方はしないし。あとは言動や仕草かな。話し方とか無理してるというか不自然な感じだった。ちゃんと観察すればわかると思うよ。」


 レオを見たとき服装に違和感を覚えたとソフィーに説明する。無理に地味にしている感じがしたからだ。もしかしてと思ったのはレオの戦闘を見た時だ。そして確信に変わったのが会話したとき。


「そして理由だけど、それはさっきわかった。レオが女だと指摘したとき4人とも驚きはしたけど、5人目の話をした時のような緊張はなかった。本当に知られたら不味い事なら言った瞬間に剣を突き付けられているだろうしね。つまりもっと単純な理由。おそらく女性冒険者だけのチームだと色々面倒な事があるんじゃない?男に言い寄られたり、依頼者に足元みられたり……いくらでも理由は考えつく。」


 アキが今まで見てきたチームも女性はいたが「女性だけ」というのは居なかったと付け加える。


「その通りです。理由も合ってます。さらに補足させて頂きますと、レオに男装させた分、全体的な面倒ごとは確かに少し減りましたが、レオに対する風当たりは増しましたわ。つまり根本的な解決にはなっておらずレオに負担をかけるだけになっております。で……この話をしたという事はアキさんがそれをどうにかすると?」

「さすがミルナ。大体そういうことだよ。」

「アキさんに褒められても嫌味にしか聞こえませんわ。でも少しくらい仕返しさせてくださいな。」


 調子を取り戻したミルナがくすくすと微笑む。


「ではアキさん、申し訳ないですが少し席を外させていただきますわ。一度私達だけでアキさんを仲間に迎えるか考えてさせてください。」

「了解。いい返事を期待してるよ。最後にひとつ。俺を使え。俺もミルナ達を使う。それともちろん一時的な仲間としてで構わない。皆の目的に俺が不必要と感じたらそれまでという条件で大丈夫。あ、それと断っても皆にあげたもの返せとか言わないから安心してね。」

「うふふ、わかりました。でも今更好感度あげようとしても遅いですわよ。」


 そう言い残してミルナ達はアキから離れる。





「さて、みんなの意見を聞いて正式にお答えする必要があります。」


 ミルナが3人に告げる。アキの要望は彼女たちにとって簡単に断ることが出来ないとわかっていたので改めて皆で話し合う必要があった。いわば彼女達の弱点を的確に補うように提案されており、いくらアキが戦闘的に役に立たなかったとしてもそれ以外の部分で彼の知識は大いに活用できる可能性が高い。


「ではまずエレンからお願いしますわ。」


 普段フランクに会話している彼女達だが冒険者として話す時は真面目モードに切り替わる。ミルナが司会進行をして各自報告や意見を交わす。公私混同していてはいつ命を落とすかわからない危険な仕事、それが冒険者。若き乙女たちと言えど上位の冒険者である彼女たちがそれを理解していないわけがない。勿論エレンも例外ではない。ある程度は。


「最っ低!のやつだけど、役には立ちそうなのよね。戦闘できないゴミだけどそれ以外では……まぁ役には立つかもね。最低!だけど!」

「あらあら、エレンが感情をそこまで出すなんて珍しいですわね。うふふ、それほど気に入いったんですか?」

「ち、ちがうわよ!ミルナ!あんなやついらないわ!」

「はいはい、冗談ですわよ。ではソフィー。」

「はい、ミルナさん。私としては賛成です。別に悪い人ではないようですし。戦闘力には難があるかもしれませんが問題ないと思います。それに交渉とかはミルナさんにまかせっぱなしでしたのでアキさんがいればミルナさんの負担も軽くなると思います。」

「配慮感謝いたしますわ。ではレオ。」

「僕も賛成かな。ソフィー同様今は戦力としては期待してないけど。それに彼を入れた方が利点のほうが多いんじゃない?戦略、知識と色々あるけど僕が賛成した理由は彼が僕を女と見抜いて提案してきた部分だね。弱音を吐くようで悪いけど男のふりするの結構大変だし。その点アキは本物の男だしね……。」


 レオがしゅんとして言葉を紡ぐ。彼女の尻尾も耳も垂れ下がっていてる。男の振りをして辛かった出来事を思い出しているのだろう。それみたソフィーがレオを優しく撫でる。


「ごめんね……レオ。あなたに辛い役を押し付けてしまって。」

「いいんだ、きっと誰かがやらなくちゃいけなかったし。それにアキをいれたら他の案を提案してくれるかもしれない。そしていつか振りなんてしないで本当の『私』でいられるかもしれないって思ったから。」


 レオが無理に作った笑顔を見せる。


「僕の理由はそんなとこ。じゃあミル姉、最後だよ。」

「はい。レオ、いつも本当にありがとうございます。私の意見ですが個人的にはとてもアキさんを気に入っていますわ。」

「ミルナさんが男性を気に入るというのは珍しいです。」


 ソフィーが驚いた様子でミルナを見る。アキが指摘したように、レオに男役をしてもらっている理由の一つが男からのアプローチだ。紳士的なものから野蛮なものまで沢山あり、彼女達は辟易していた。チームに男が1人もいないというだけで近寄ってくる男性の数は多く、少しでも緩和させるためにレオに男装して貰っている。だがその分ハーレム状態となっているレオに嫉妬や羨望の感情が注がれる。レオは気にしないように振る舞っているが、相当な負担を強いていることをミルナ達はわかっていた。そういった理由もあり彼女達は恐怖症とまではいかないが男性に対して一定の距離を置くようになっていて、ミルナが興味を示す発言をしたと言うのが非常に珍しかった。


「えぇ、あれほど洞察力や話術に長けている方は初めてですし。私も少しは自信あったんですけれど……とてもじゃないけど適いませんわ。だからこそ興味があるんですの。それにあまり不快感を感じない不思議な方です。どこかあの子に似ているような。皆もそう思っているんじゃありませんか?」

「はい、そうです。不思議なのは異世界の人だからですかね?」

「確かにね、いつもの男みたいに下心が見えないからかな。無いわけじゃないだろうけどさ。」


 ソフィーとレオがミルナに同意する。


「不快感しか感じないわよ!」


 エレンはプイと横を向いてぶっきらぼうに否定する。


「エレンの意見は無視するとして、レオの言う通りかもしれません。下心が無いわけではないでしょう、男性ですし。ただ彼には私達と同様目的がある。それが優先なのでしょう。だからこそ私達に対する視線に不快感がない。ソフィーのいう通り異世界から来たというのもあるかもしれませんわね。私達に見捨てられたら彼自身が困るでしょうし。それに加えて私達が不安に感じないのは私達よりもずっと彼が弱いから。いざとなったら余裕で対処出来るほどに。だからこそではないでしょうか。」

「無視するなー!」


 エレンが抗議の声をあげ、ソフィーとレオはミルナの意見に納得したように頷く。ミルナはひと息いれてさらに言葉を続ける。


「それに能力も申し分ないです。私よりも遥かに高い観察力。そしてその観察から導きだす予測。異世界の知識なども加われば私達の助けになることは間違いないと思いますわ。そして私達の目標であるあの子を見つける近道に間違いなくなります。それに対する対価がこの世界の知識と戦闘指導ですのよ?私達に損はない破格ですわ。よって私も賛成させて頂きます。」


 あの子ときいてソフィー、レオ、エレンの表情が懐かしいものを思い出すように柔らかくなる。


「ミルナさんのいう通り目的の達成が大事です。それに必要なものは全て使うべきです。あ……そういう意味で最後にアキさんは俺を使えと言ったのでしょうか。」

「あー、あれそういうことかー。アキに適わないなー。確かにアキを使って目的達成できるなら使わない手はないもの。」


 ソフィーとレオがなるほどと納得した表情を浮かべている。


「そうですわね。お互いの目的の為にお互いを使いましょう。そういうドライな関係を提案されてますね。だからこそ2人もあまり迷わず賛成した部分があるのでは?私もですけどね。」


 苦笑いを浮かべるミルナ。明確な答えを出していないのはエレンだけなので自然と3人の視線がエレンへと注がれる。


「わ、私は!」


 エレンが何かを言おうとする前にミルナがそれを制して優しく問いかける。


「エレン、貴方はからかわれたりしたことに腹を立てているだけで、意外に彼の事気に入ってるでしょう?大体あなたが男性と少しでも会話するだけで珍しいんですのよ。いつもは会話すらしないで短剣を抜くでしょうに。」

「そ、それは……そうだけど……。でもそれはソフィー達に止められたからで!」


 エレンはソフィーやレオがと訴えるがソフィーは首を横に振る。


「何言ってるの。確かに押さえつけはしたけどエレンが本気だしたら振りほどけたでしょ?」

「そうだよ、エレンもなんだかんだで相手にしてもらって嬉しかったんでしょ?いつもはエレンに威嚇されて力づくになるか逃げてくかだもんね。」


 レオもそれに続く。


「うぅ……」


 3人に指摘されエレンは恥ずかしそうに俯く。


「ほら、正直に言いなさい?ここには私達だけしかいないのですから大丈夫ですわよ。」


 ミルナが最後の一押しをする。


「わ、わかったわよ!あいつを入れるのに賛成するわよ!でも一時的よ!」


 エレンの最後のささやかな抵抗を聞いて、やれやれと言った感じで3人はアキの方へと戻り始める。


「そういうことにしておきましょうね。さぁアキさんのところに戻りますわよ。」

「ミルナ!違う!違うわよ!」

「そういうことにしようねー。」

「ソフィー!一時的!一時的って言ってるでしょ!」

「うんうん、そうだね。一時的だね。」

「レオまで!こら、ちょっと待ちなさい!」


 口ではそう言いつつもエレンも3人の後を追ってアキの元へと戻っていく。

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