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ショルダードの街の印象を一言でいうなら、「物々しい」だ。
「にゃー!!」
街は活気には溢れているが、決して華やかな雰囲気とは言い難い。街並みも美しいといった感じではなく、建物が秩序無く雑然と並んでいるだけ。アキが本拠地にしているベルフィオーレのエスぺラルド王国の王都ミスミルドは、地球で言うところの中世時代の美しい街だったが、それと比べるとショルダードは雲泥の差だ。まあショルダードも中世の街の雰囲気はあるのだが、何かが違う。端的に表すなら、ミスミルドは様々な人種が快適に暮らす為、景観にも気を配りながら作られた街。そしてショルダードはいつ戦争が起こってもいいよう、兵士達の実用性を重視した要塞。そんな感じだ。
まあベルフィオーレのような平和な世界とショルダードを比べる事自体が間違っているのかもしれない。だがエヴァグリーンの王都であるイニステラですらある程度秩序だって建物は並んでいたし、裏路地やスラム街などの貧困地域は酷いものだったが、それでも美しい街だと言えた。
「にゃ!にゃー!!」
だがこのショルダードは、国境付近に面した辺境の軍事都市だからなのか、お世辞にも「美しい街並み」とは言えない。先も言ったが街全体が要塞と言った雰囲気で、生活感が全くない。そして道行く人に綺麗な服を着た貴婦人や楽しそうに談笑する平民などはおらず、ほとんどが兵士だ。
なんというか・・・非常に物々しい。ショルダードが紛争地域の最前線だと言われても信じるだろう。まあユキから「現在戦争は起っておらず、平和な街」だと聞いているので、これがこの街の日常なのだ。正直、この雰囲気はアキには違和感しかないが。まあもしかしたら住めば都なのかもしれない。たださすがにここに住むのは遠慮したいところだ。
ただアキはまだこの街のもう1つの顔を見ていない。そう、花街だ。ショルダードでは一大産業らしいので、きっとそこは想像が出来ないくらいに華やかな場所なのだろう。だから一概にショルダードが住みにくいとは言えない。そういった場所を好む人にとっては天国と言えるだろう。とはいえさすがにエリザやイリアを連れて花街見学と洒落こむわけにもいかない。
まあそう言った場所の見学はいつか1人でするとして、とりあえず今はルティアと合流するとしよう。
「にゃ!にゃ!にゃ!!!」
うん、そろそろ鬱陶しくなってきた。敢えて無視していたが・・・さすがにもう我慢の限界だ。
「おい、猫。いい加減うるさいぞ。」
「や、やっと反応したわね!ずっと無視するなんて酷いじゃない!私はおねーさんなのよ!!あと猫っていうな!!!」
エリザが不機嫌そうに文句を言ってくる。どうやらまださっきの門での出来事を引きずっているらしい。あれは赤の他人に言われた事なんだし、気にする事でもないだろう。いい加減機嫌を直して欲しいものだ。
「まだ気にしてるのか?」
「べ、別に気にして何かいないわよ!私はおねーさんだから心が広いし、ちょっとやそっとじゃ拗ねたりしないんだから!」
さっきまでにゃーにゃー騒いでいたのに、よくそこまで拗ねてないとか堂々と宣言出来るな。逆にその図太さに感心する。
「じゃあいいだろ。」
「よくないにゃ!!」
これは多分「ちょっとくらい甘やかして」と言っているのだろう。まあ普段なら甘やかしてやるのだが、こんな人の往来が激しい街中で出来るわけがない。しかもここは今日初めてきた街だ。エスぺラルドのようにアキ達の事が知られている場所ならともかく、右も左もわからない場所でエリザとイチャイチャなんてしていたらどんな面倒が起こるかわからない。大体さっきも街の入り口で「娼婦が~」とか言われたばかりだ。
「エリザ。」
「なにかしら!」
「あとで。」
「・・・わかった、うん、約束だからね。」
それならと渋々頷くエリザ。とりあえず彼女の留飲を下げる事には成功したようだ。
「あはは・・・それでアキ、これからどこ行くのかな?」
イリアが「やっと喋れた」と言わんばかりの表情で聞いて来る。多分エリザがもの凄い剣幕で騒いでいたからずっと話しかけ辛かったのだろう。
「街を見て回りたい・・・ところだけど、まずはあの子と合流しようか。」
当然あの子とはルティアの事だ。
「私もそれでいいと思うよ。で、どこにいけばいいのかな?」
「あー・・・そうだな、どこだ?」
ルティアからは街に入ったら合流地点はすぐにわかると言われたが、どこにあるのかさっぱりわからない。
「街の中央にある大きな石造りの建物の裏路地・・・だっけ?」
「うん、そうだったと思う。でもどこが街の中央なのかな・・・」
「わからん。」
もう少しルティアの言葉をちゃんと思い出すとしよう。




