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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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13

 ミルナ達がギブアップしたことにより3対1となった。


「おおっと!メルシアはアキ以外がギブアップ!これはSランクの勝利で決まりか!」


 実況の言う事はさっきから無視している。聞いていても精神衛生上良い事なさそうだし。


「エリス。」

「なんだ!」

「一回仕切りなおそっか。向こう終わったし。」

「別にこのままでもいいぞ?」

「いや、あいつら間違いなく邪魔してくると思うけどいいのか?」

「それはヤダ!わかった、アキの言う通りにする!」


 エリスが了承したので、アキは一旦攻撃を止め一息つく。


「ミルナ、2人の治療を。後はのんびりしてていいからね?」


 リタイアしたミルナに声をかけて優しく微笑む。


「みんなもお疲れ様。よくやった。さすが俺の自慢のミルナ達だよ。」


 それだけ言うとSランクの方に向き直す。ミルナ達が泣きそうな表情をしていたのでこれ以上見ていたくなかった。ついつい駆け寄って慰めたくなってしまう。


「さて、仕切り直すのはいいんだけど、どうする?」

「もちろんやるぞ!」


 エリスが元気よく叫ぶ。だがアキが言いたいのはそう言う事じゃない。


「やるのはいいんだけど、3人同時にくるの?1人ずつ?」

「む……それは確かに……。」


 エリスが手を顎にあてて悩む。


「考えるの面倒だし俺は好きにいくぜ。」

「ひひひ、私も好きにやらせてもらいますわ。」


 バルトとルーカスは好き勝手に襲い掛かってくるそうだ。


「いいんじゃない?エリスはどうする?」

「う、うーん……アキとは正々堂々とやるのが楽しいんだが……。」

「じゃあエリスは待ってれば?この2人倒したら本気でエリスの相手をするからさ。見せたこと無い技も出すよ。」

「ほんとか!じゃあそうするのだ!」


 エリスは嬉しそうに答えると、闘技場の端まで下がる。


「くくく、俺らに勝つこと前提に話しているのが気に食わんな。」

「こっからは本当の本気でいきますよ?」


 バルトとルーカスは剣を構える。


「おおっと!どうやらエリスは一度下がるようだ!しかしアキはSランクを2人同時に相手できるのか!」


 実況が会場を盛り上げようと色々喋っているみたいだが、アキの耳には届かない。Sランク1人なら魔法で半永久的に牽制し続けることも出来るだろう。だが2人になると魔法の手数が分散されるので接近を許してしまう可能性がある。エリス相手なら接近されても癖がわかっているので体力がなくなるまでは防御出来るが、彼ら2人については全てをわかったわけではない。ミルナ達のおかげで大体はわかったが。それにここで体力を使うわけにはいかない。それはエリスとの一戦で必要だ。


 アキは王都に来てから魔素で練習し続けていた事がある。魔素の数値化だ。それを実践する。元々アキは研究者として「正確」を必要としてきたので、大体とかおおよそというものが嫌いだ。だからこそ「呼吸で大体このくらい魔素が回復する」「炎を使うとおおよそ半分くらい魔素が減る」という感覚がどうしても我慢できなかった。そこで体内魔素が満タンの時の数値を100とし、各魔法に使用する魔素量や呼吸で回復する魔素量を検証して数値化した。


 今からそれを使うつもりだ。ただ魔素計算にはかなり集中力を使う。それに計算だけしていればいいわけでもない。当然これは実戦なので、相手の動きを観察し、予測しなければならない。つまりそれ以外の余計な情報は排除する必要がある。ミルナ達の事、イリアの事、エリスの事、闘技大会の事。アキは全てを頭から追い出して目の前のSランク2人と魔素計算にだけ集中する。


 バルトとルーカスが剣を構えたのを見て、アキは視力強化魔法を発動。魔素使用量5。常時使用だが、5を消費するのは5分に1回程度、つまり持続が5分。呼吸して魔素を100まで回復。ちなみに呼吸で回復する魔素は20。彼らが突進してくる前に氷矢で牽制。バルトとルーカスに5本ずつ。魔素使用は生成と射出含めて30、1本あたり3。残り魔素は70。続いて氷刃を5本ずつ生成して射出。こちらも30。残り魔素が40だが呼吸を2回挟み80まで回復。次に火球を3つずつ、計6個を発射。魔素使用は40。残り魔素40、再度呼吸を2回して80。


「くっ……これは確かに厄介……。」

「……・確かに。」


 少し2人の言葉数が減ったように思える。魔素をぎりぎりまで使えばもう少し手数は増やせるが、現状がアキの限界だと相手に刷り込ませたいのでこのままの手数を維持。それに加えて魔法をただ打つのではなく、相手が好んで避ける方向に寄せて打つ。すると相手は逆に回避するしかない。好まない方向への回避行動は若干だが反応が遅れる。癖に逆らって魔法を打つことにより効果的に抑え込める。


「あいつ……わかっていて避けさせているのか。左に。」

「私の場合は右……ですね。」


 さすがのSランクも避ける方向を誘導していたのに気づいたようだ。だが逆にそれのほうが好都合。気づいたら気づいたらで、今度は好んで避ける方向にも避けさせるように攻撃する。これでさらに混乱するだろう。


 魔素の残量も問題ない。順調だ、このまま近づけさせないで終わらせる。


「クソが、めんどくせえ!」

「なんとか突っ込めれば……。」


 2人が段々と苛ついてきた。アキに接近出来ない事に苛立ちを覚えている。だがやはり無理矢理近づいてくる気配はない。わかっているのだろう、近づいた瞬間に全力の魔法を叩き込むという事を。


「そろそろ行けるか。」


 アキがそっと呟く。避ける方向を誘導されているのに相手が気づいており、さらに苛ついている。まさにこの状況を作りたかった。ここでエリスにも使ったことがない魔法を2つ混ぜる。先ほどの連続魔法は、魔素残量が40から80で推移している。まずは呼吸を増やし魔素の推移を60~100に上げる。


 追加で使用する魔法1個目は風。風を火球の後ろに発生させ速度を上げる、使用魔素は10。2個目は「アルミを魔素で生成し、粉上にしたものを飛ばす」魔法。以前ミルナに魔法を教わった際の検証では、金属などの生成と維持には魔素が多く必要で、実戦使用は難しいと結論づけた。だがあれから色々な金属を試したら、意外にも生成・維持に魔素使用量が少ない物質がいくつも見つかった。何故そうなのかはわからなかったが、実戦使用出来そうな物質はかなり把握できた。アルミはその中の1つだ。生成や維持にそれほど魔素を使わない。5分程度であれば余裕で維持できる。アルミ粉の生成と維持に必要な魔素は50。これで使用魔素は合計180まで跳ね上がる。満タン値は100だが、180を一気に使うわけではないので問題ない。氷矢、氷刃、火球、風魔法、金属魔法の間に呼吸を挟み、累計で180回復するように調整する。一連の発動の間に9回呼吸をすれば問題なく魔法が回せる計算になる。


「くそ、炎魔法の速度あげやがった!」


 火球自体の速度を上げたのではなく、風魔法を追加使用しているのだが、彼らにそれがわかる術はない。そして2人は回避に集中している上、苛ついているのでアルミの粉を飛ばしているのに気づかない。アルミ粉は2人の間に数分前から徐々に飛ばしており、そろそろ下準備は全て完了だ。アルミ粉を維持できる時間、つまり最初にアルミを飛ばしてから5分以内に決着をつけなければならない。


「おい、一斉に襲い掛かるか!」

「それもいいですね……。」


 危ない、あと少し遅かったら突進されていたようだ。避ける方向を誘導して左右に分かれていた二人を真ん中に寄せる。同時に炎魔法を一時的に止め、氷矢と氷刃の量を増やす。2人が中心に寄ったのを確認して左右に火球を放ち、中心に回避せざるを得なくする。


「そろそろ終わらせる、悪く思うな。エレンとレオに怪我を負わせたんだからお前らにも痛い目は見てもらう。」


 そう言ってアキはアルミ粉に向かって炎を放つ。さらに氷刃と氷矢も併用して火球の意図に気付かせない。中心にアルミ粉、つまり金属粉、が漂っていて酸素も十分にある。そこに熱源を与えれば、起るのは粉塵爆発。


「な、なんだと!」

「くっ……これは!」


 火球が2人の間に近づいた瞬間、金属粉の熱源となり爆発を起こした。バルトとルーカスは当然巻き込まれる。激しい爆発が闘技場の中心部を包む。まあ、腐ってもSランクだし、死にはしないだろう。


「おおっと!闘技場で激しい爆発だ!アキが何かをしたのか!」


 観客、実況者共に唖然としているようだ。爆発が収まるのを待つ間、エリスの方を見ると、なんか楽しそうにはしゃいでいる。さすが戦闘狂(バトルジャンキー)と呆れる。


「生きてるか?」


 爆発が収まったので、風魔法でアルミ粉や煙を追い払う。バルトとルーカスが片膝をついた状態で現れる。よくもまあ意識保っているもんだと尊敬する。正直普通の人間なら死んでいてもおかしくない。どうやって防御したのかはわからないが、さすがに無傷とは行かなかったようだ。


「まだやる?」


 無理だろうが、一応確認する。


「いや。今日はやめておく。命を削ればやれない事もないが、まだ死にたくないんでな。また今度な……。」

「私も同じくですわ。今日はここでやめておきます。そのうちリベンジしますわ。」


 二人は笑いながらリタイアを宣言。


「いいよ……。面倒だしもう挑んでこないでくれ。」


 アキもやれやれと苦笑交じりに答える。


「なんと初期位置から全く動くことなくSランク2人に快勝!後はエリスのみだ!」


 実況が相変わらず好き勝手言ってくれている。快勝どころか辛勝だろうが。


「頭が疲れた……。」


 体力は減っていないが頭がただただ疲れた。


 とりあえず癒しを求めてうちの子達の方を見る。ミルナ達は喜んでくれているようで、万歳してはしゃいでいる。さっきまで負けて凹んでいたのに相変わらず立ち直り早いなと可笑しくなる。


「アキさーん!がんばってください!勝ったらご褒美あげまーす!」

「アキ、勝ったら尻尾触っていいよ!」


 ソフィーがいつもの笑顔で、レオが尻尾をぶんぶんと振って、応援してくれている。


「アキさん!エリスさんは殺してもいいですわよ!」

「そうよ!殺すのよ!」


 ミルナとエレンはあとでお説教しておこう。

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