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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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 アキ達の2回戦が終わり、現在は残りの2回戦の試合を消化中だ。だが十数分程ですぐに3回戦が始まるらしい。勝ち残っているチームも少なくなってきたので出番が早い。さすがに控室に戻っている時間はなかったので、闘技場の端で待機していた。


「いよいよ3回戦です!1チーム目はメルシア!今注目を浴びまくりの16番のチーム!その対戦相手はブレイブ!男2人女性1人のチームです!」


 実況がチーム名を紹介してくれるようになった。ここからはチーム名に加えて個人の名前まで実況されるらしい。とりあえずそんなことはどうでもいいとして、対戦相手は3人。好都合だ。予定通りアキ1人で戦う。


「アキさん、すいません。」


 ミルナが申し訳なさそうに謝る。


「こら、今度は俺の番だろ?ちゃんと休憩してなさい、気にしなくていい。」

「う、うん……。」


 そう言ってミルナの額をコツンと小突く。ソフィー達もアキの言葉を聞いて心配そうな表情を消す。どうやらちゃんと気持ちを切り替えてくれたようだ。


「では、行ってくる。」

「アキさん怪我、怪我はだめですー!」


 相変わらずソフィーの過保護ぷりは群を抜いていると苦笑する。


 ソフィーのおかげで肩の力も抜けた。アキは戦闘位置に着く。どうやらアキが出てきた事で相手は怯えてくれているようだ。やはり1回戦の戦闘風景が彼らの脳裏にも焼き付いているのだろう。


「ではメルシア対ブレイブ……はじめ!」


 実況から開始の合図が入る。


 Sランク戦まであまり手の内は晒したくない。だが戦闘時間を短くしたいので、今回は初戦とはちょっと違う戦術を使う。あれだけ怯えてくれているなら……おそらく1分で終わる。


 アキは地面を蹴り、風魔法で加速しつつ男の剣士へと一気に迫る。魔法を警戒していたのだろう、アキの突進に意表を突かれたようで、剣士は立ちすくむ。


「おおっと、メルシアのアキ、今度は魔法ではなく接近戦かー!」


 剣士の男は何とか自身の硬直を振り払い、アキの接近に対して剣で右薙ぎを払う。だがフェイントも何もないただの右薙ぎだ。視覚強化をいれているので動きは予測しなくても見えるし、反応も間に合う。訓練でエレンやエリスの剣を受け続けたおかげだ。アキは右薙ぎを太刀でしっかりと防御。そして左手を相手の胸元に当て、氷魔法を発動。空気中の水分を液化して剣士の周りに水の膜を作り、瞬間冷却させる。剣士が一気に氷漬けになる。実際に体自体を凍らしているわけではないので死んではいない。だがすぐに酸素がなくなり窒息死するだろう。


「なんと!今度は燃やすのではなく氷漬けにしてしまいました!」


 アキは残りの2人に対して剣を構える。


「ギ、ギブアップだ!いいな?」

「え、ええ!ギブアップします!」


 もう1人の男性剣士と女性短剣使いが即座にリタイアを宣言。


「3回戦終了!なんとアキ、1分で決着をつけました!」


 アキは実況の終了宣言を聞くと指を鳴らす。氷が砕け、剣士が解放される。意識を失っているようだが息はあるようだ。別に死んだら死んだでいいが、殺さないで済むならそれに越したことは無い。アキはそう思いつつ、皆の元へと戻る。


「お疲れ様です。素敵でしたわ。」


 ミルナが労ってくれる。


「ねえ、アキ。最後指を鳴らす必要ってあったの?」


 レオが聞いてくる。


「ないね。」


 指なんて鳴らさなくても氷を解かす程度の熱量を魔素で飛ばせばいいだけだ。ただパフォーマンスというのは意外に大事で、あれでさらにアキの魔法が印象付けられる。人間は見たものをそのまま信じる。だから無意味な動作で安易に騙すことが出来るのだとレオに簡単に説明する。


「さすがアキ……難しくてよくわかんない。」

「いいんだよ、レオはわからなくて。レオに俺やミルナみたいな暗黒物質は似合わない。」

「ちょっと!アキさん!さり気なく私を巻き込まないで!」

「あ、ごめん。暗黒の癒しの光の天使よ。大気燃やせそう?」

「やめて!久しぶりだからって色々混ぜないで!謝るから!」


 ミルナの必死な姿を見てレオは楽しそうに笑う。


「アキさーん!おつかれさまですー!」

「な、なかなかよ!」


 エレンとソフィーの労いにもありがとうと礼を言う。

 ひとまずこれでメルシアは3回戦も無事勝ち抜いた事になる。






 決勝戦である4回戦……のはずだったがまさかの不戦勝らしい。どうやらアキ達と戦うのが相当嫌だったらしく、対戦相手が棄権したとのこと。アキ的には嬉しい誤算だ。これで優勝は確定したから後はSランク戦をこなすだけだ。それに何より万全の状態でSランク戦に挑めるのが素晴らしい。


「しかも1時間休憩とかラッキーだ。」

「あはは、僕達が無茶しすぎただけかも?」


 レオが苦笑交じりに言う。


 確かにレオの言う通りかもしれない。なんせ10時スタートでまだ14時過ぎなのだ。このままだと早く終わり過ぎて困るので、1時間休憩を挟むことにしたのだろうとアキは予想した。実際はSランク同士で誰が出るか揉めているという理由があったのだが、そんな事はエリスに後日聞かされるまでアキ達には知る由もない。


「今は休もう。何も考えなくていい。考えるのは闘技場に立ってから。」

「はい!アキさん遊びましょー!」


 とりあえずソフィーの頭をぶっ叩く。


「うぅ……なんで……叩くんですかー!」

「休む言ってるのに遊ぶとか言うからだろ。エルフは耳いいんじゃないのか。」

「だってー!」

「バカね、ソフィー!ちゃんと言われた通り休まないとダメよ!」


 エレンが胸を張って偉そうに宣言する。

 その姿を感心したように見つめる。


「な、なによ……そんなに見られると恥ずかしいわ。」


 少し頬を赤くするエレン。


「いや……無い胸を張ってもやっぱり無い胸なんだなって。」

「ど、どこみてんのよ!ぶっころすわよ!」


 エレンが両手で自分の胸を隠しながら烈火のごとく怒る。


「怒るな。ほらミルナ、見本見せてやれ。そしてエレンを絶望させてやれ。」

「そこで私を巻き込まないでくださいませんか!」


 アキがわざとらしくミルナの胸を凝視したので、ミルナは顔を赤くして叫ぶ。


「アキ!あんた喧嘩売ってるのよね!そうよね!」

「しょうがない、ソフィー見本を見せてやれ。」

「はいー!エレンどうだ!えっへん!」


 素直に胸を張ってエレンに見せつける。ミルナほどではないが十分な破壊力だ。張り出した2つの双丘が見事に揺れている。


「やらなくていいわよ!このバカエルフ!」

「バカじゃないもん!」


 エレンがソフィーに絡んだことでギャーギャーと言い合いが始まる。


「あはは、結局休んでないよね。」


 その様子を少し離れたとこで見ていたレオが呆れた表情で呟く。


「そうだな、困ったやつらだ。リオナといるのが落ち着くよ。」

「えへへ、そう?やった。」


 アキもやれやれと言った顔でレオの隣に移動して寛ぐ。レオも嬉しそうに尻尾を振ってくれている。


「なんで火をつけたあんたが寛いでんのよ!ぶっころす!」


 いつのまにか傍観者となっていたアキが気に食わないらしいエレン。


「ミルナ、早くなんとかして。」

「だから私を巻き込まないでください!」


 ミルナは文句を言いつつも「しょうがないですわね」と呟いてソフィーとエレンに注意してくれる。


「2人共、駄目ですわよ?Sランク戦の為に精神を無にして休息しましょう。」


 残念ながらそれは違う。

 アキはミルナの肩に手を置く。そして「違うぞ」と首を振る。


「ミルナ……無なのはエレンの胸だ。」

「ほんところす!今すぐぶっころす!」

「アキさん!仲裁させておいて余計なこと言うのやめてくださいませんか!」

「余計なのはミルナの胸の大きさだと思うんだがどうだろう?」

「知らないわよ!アキさんのばかー!もう知りません!」


 拗ねてそっぽを向いてしまうミルナ。


「アキ、覚悟しなさい!今日という今日は許さないわ!」


 エレンがアキに突進してくるので受け止める。この猛獣はアキの腕の中だとすぐに大人しくなる。落ち着かせるまでもなく静かにしている。


「こうやってみんなでバカな話をしているのが一番の休息だよね。」


 アキが落ち着いたと、笑顔を見せる。


「ばーか……。」


 エレンがアキの腕の中で心地よさそうに呟く。


「ふふ、まったくアキさんらしいですわ。でも確かに余計な事考えずに済みました。」

「はい、楽しいですー!」


 ミルナも肩の力が抜けてリラックス出来たようだし、ソフィーはいつもの笑顔だ。


「僕達らしい休憩だね。」


 レオも皆が騒ぐのを見て和んだように微笑む。

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