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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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10

 1回戦の対戦カードが一番多いので休憩時間も長い。その間に少し仮眠でも取ろうかと思い横になった。だが何故かミルナに膝枕されている。


「うふふ、気持ちいいですか?」

「なんでこうなった?」


 アキが控室のベンチで横になろうとしたら、「ベンチは硬いし頭が痛くなるからダメです」とソフィーに何故か止められた。じゃあミルナが膝枕しますわと言った事を皮切りに、4人が何か言い争っていたとこまでは覚えている。ソフィーとミルナのやり取りは茶番だった気がしなくもないが、面倒だったので途中から皆の話を聞くのを放棄した。


「話し合いの結果、私が権利を見事に勝ち取ったのですわ!」

「そうですか。」


 嬉しそうに微笑むミルナとは対照的に、正面のベンチに座る3人は不満そうな顔でこっちを見ている。


「ミルナ、交代制にしてやれ。」

「私じゃ嫌なんですの?」

「いや心地いいよ。言わせるな。」

「ふふ、嬉しい。まあ、元からそのつもりですわよ。」


 彼女のふとももは柔らかいし、いい匂いするし心地がいい。実際そこまで言おうとしたのだが、ミルナが顔を真っ赤にし始めたので途中で言うのをやめた。


「リオナ、おいで。」


 寝転がったままアキが呼ぶ。


「なに?」


 レオが不思議そうに近づいてくる。


「尻尾、触っていい?」

「ええ!い、いま?」

「うん、ダメならいいよ。」

「い、嫌じゃない!アキなら……いい。ど、どうぞ。」


 レオは尻尾をアキの方へ向けてくれる。それをそっと撫でる。モフモフでとても触り心地がいい。毛並みも凄く綺麗だ。


「落ち着く、気持ちいい。」


 そういってアキはレオの尻尾を撫で続ける。彼女達には気にしてないといったが、やはり人を殺してどこか感情が昂っていたのかもしれない。


「ん……アキ……気持ちいい。」


 レオが煽情的な声を出す。きっと尻尾は敏感なのだろう。


「リオナ、ありがとう。落ち着いた。またそのうちお願い。」

「う、うん……いつでもいいよ?」


 気持ちが大分落ち着いたのか、アキはすぐにミルナの膝の上で眠りに落ちた。





 2回戦、対戦相手は4人。予定通りミルナ達が相手をする。どうやら相手は1回戦を見ていたらしく、アキに対して怯えている様子だ。それは好都合とミルナはほくそ笑む。自分達に対して無警戒なのであればやりやすい。


「では2回戦始め!」


 開始の合図と同時にエレンとレオが地面を蹴る。ミルナは風魔法を発動させ、エレンとレオを加速させる。2人は武器を構えて目標に迫る。


 ミルナ達がアキから受けた指示は簡単なものだ。まずエレンとレオには「開始と同時にエレンとレオは左の2人にそれぞれ特攻して一撃で意識を刈り取れ。殺さなくてもいい。」という指示が与えられた。そしてエレンとレオはアキの指示通り、左方向にいる剣士2人に向かって駆けている。


「アキは殺さなくていいって言ってくれた。でも僕は遠慮しない。本気で斬る。それで死んだらごめんね。」


 レオの呟きが聞こえる。彼女は全力の右薙ぎを払う。相手は必死に避けるが間に合わず、腕が1本飛ぶ。


「アキ、私は貴方についていく。必要ならいくらでも殺すわ。でも必要ないというなら殺さない。でも手加減はしないわ。本気で斬って死んだらそれはそれよ!」


 レオと似たような呟きをしてエレンも斬れ味抜群の短剣で袈裟切り、左薙ぎ、逆風の3連撃を放つ。エレンの相手も彼女の連撃を避けきれず、左薙ぎを脇腹に受ける。


「おおっと早速2人脱落だ!どうやら16番チーム、今回は男性は動かないようだ!」


 実況が状況を教えてくれる。エレン達は指示通り意識を刈り取った。即死はしてないだろうが放っておいたらすぐに出血多量で死ぬだろう。ミルナはそれを横目で確認すると、自分達の相手へと視線を戻す。


 ソフィーがノーモーションで矢を放ち続けてくれている。ミルナは彼女のフォローをする形で適宜魔法を撃ち、相手の動きを阻害する。彼らはミルナの魔法を決して受けようとはせず、全て回避している。多分初戦で見たアキの魔法が脳裏に焼き付いているのだろう。ミルナの魔法は彼程の威力はないのだが、相手にそれはわからない。


「アキさん、別に殺ってしまってもいいんですよね?私はもう怖くありません。貴方がいますから。」


 ソフィーの独り言がミルナの耳に届く。


 ミルナとソフィーがアキから受けた指示はレオとエレンが2人を始末する間に残りの2人を抑えておくこと。「動きを阻害しろ。」ただそれだけだ。だがソフィーは阻害するだけは満足しなかったのか、すでに致命傷となる矢を何本か命中させている。相手の動きが鈍くなっているのが目に見てわかる。


「さすがあの子達、本当によくわかってますわ。私も負けてられません。誰よりアキさんの事をわかっているのは私です!……隙あらば殺りますわ。覚悟してくださいませ。私達だけ綺麗な世界にいるのは嫌です。最後までアキさんと共に。全てを燃やせ、ファイア!」


 ミルナも遠慮なく殺傷力を極限まで高めた魔法を全力で打ち込む。アキと訓練して身に着けた魔法だ。詠唱と詠唱破棄を織り交ぜて魔法を行使していく。それがいいフェイントにもなっている。アキの言う通りこれはこれでいい技術なのだろう。


「まだまだアキさんのレベルには達していないし、詠唱破棄も完全に出来ません。でももう人を殺す事に躊躇はありません。Sランクになる為です。全部アキさんが教えてくださいました。だから……そんな私を、私達を、褒めてくださいますよね?」


ミルナが小さく呟く。






「やれやれ……。しょうがない子達だ。」


 アキは苦笑する。彼女達は無理に相手を絶命させようとはしてないが、別に殺さないように攻撃を手加減もしていない。ただただ全力で攻撃して、死んだらしょうがないという感じだ。


「エレン、レオ、残りの2人を。ミルナ、ソフィーはそのフォローに回れ。」


 最後の指示を指向性風魔法で声を増幅させて全員に飛ばす。彼女達は軽く頷き、行動を開始する。ソフィーとミルナは矢と魔法の攻撃速度をわずかに落としてエレンとレオが突っ込める隙を作る。的確にそのタイミングで2人が対戦相手に飛び掛かり、剣を振い、意識を刈り取る。


「試合終了!2回戦も16番チームは快勝です!」


 アキは倒れている敵4人を改めて確認する。全員致命傷、だが今から手当てをすれば死ぬことはないだろう。少しほっとする。


「アキさん?今ほっとしましたね?」

「そうですわ、まったく……。私達を甘やかしすぎです……。」


 ソフィーとミルナが的確に見抜いてくる。


「気にしなくていいっていったでしょ!う、嬉しいけどね!」

「うんうん、それがアキのいいところだよね。」


 エレンとレオにも見抜かれているようだ。


「やれやれ、うちの子達は頼りになるよ。」

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