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「じゃあ買い物?」
アキがミルナとエレンに確認する。
「はい!まずは私ですわ!」
「次は私よ!」
ソフィーやレオと同様に行きたいところが山ほどあったらしく、色んな店に連れていかれた。というか昨日と大体同じ店だった。店員には「こいつ昨日の今日で別の女連れてやがる」的な視線を浴びていた気がしなくもないが、その感想は当然だろう。自分でもそう思う。
やはりミルナもエレンも服がメインだったようで、アキに選んでと言ってきた。まあ、見た目麗しい彼女達に服を選べるのはアキとしても楽しい。
ミルナは露出の多い服を選びがちなので、敢えて露出を抑えた服を中心に選んだ。
「ミルナはもともと色気があるんだから、少し抑えたほうが可愛いと思うよ。」
「そ、そうですの……?」
口ではそうは言いつつも買うのに躊躇がなかった。選んでもらえたのが嬉しいのか、いつもとは違う服が嬉しいのかはわからない。ただ単に買い物が楽しいだけかもしれない。彼女達の中でミルナが一番の買い物好きだ。
エレンには逆に大人の女性が着るような服を中心に選んだ。胸はないかもしれないが、女性としての魅力は間違いなく持っているので似合うはずだ。
「エレン、胸がなくても着れるの選んだから。」
「バカ!でも、嬉しいわ。ありがとう。」
エレンは憎まれ口を叩きつつも、アキが選んだ服を嬉しそうに買っていた。
その後は彼女達の選んだ食事処で昼食をとり、引き続き連れ回された。
ただいつもと違ったのは、エレンがやたら素直でずっとアキにくっついてくることだ。「アキ、どこ行きたい?」「ねえ、アキ食べさせて?」「嬉しい、ありがとう。」「えへへ、楽しいわ!」などいつものエレンでは考えられないくらいに素直だ。弄っても「ばーか!」くらいですぐに笑顔になってアキに懐いてくる。それだけ今日を楽しみにしていたという事なのだろうか?いつものエレンも可愛いが、今日のエレンは女性らしくて凄く可愛らしい。ギャップの破壊力かもしれない。
ただエレンに対抗してミルナも同じことをしてくるので買わなくていいヘイトをやたらと街中で稼いでしまった気がする。
「だからミルナ胸当たってる。」
「ふふふ、当ててるんですのよ?」
街中だと相変わらずの暗黒物質ぶりだ。屋敷の中だと普通なのに。彼女の中で何かスイッチでもあるのだろうか。それに彼女のエロのボーダーラインがよくわからない。胸を当てるのは平気らしいが、Tシャツ一枚の格好を見られるのは相変わらず恥ずかしいらしい。どう考えても前者のほうがエロいし襲えと言っているようなものだが、ミルナの中では前者はセーフで後者はアウトと認識されているようだ。
「まあ、ミルナとエレンが楽しいならいいんだけどね。」
「はい!楽しいですわ!」
「うん、楽しいわ!」
「で、もう夕方だけどどうする?帰る?」
そろそろいい時間なので帰ってのんびりしたいなとアキは思う。だがどうせ帰らせてもらえないのはわかっている。
「ま、まだですわ!次はあそこですわ!時計塔!」
「そうよ!時計塔よ!」
まさか2日連続で時計塔に行く羽目になるとは思わなかった。確実にソフィー達の話を聞いている。そして何を考えているかも大体わかる。
「じゃあ行こうか。」
別に嫌がる理由もないので時計塔に行き、最上階まで登る。昨日と同じように、やはりアキ達しかいない。アキはベンチに腰掛け、夕日に染まった街を綺麗だなと眺める。悲しい事に2日目ともなればある意味流れ作業だ。
「アキさん、眠くないですの?」
「眠いなら寝てもいいのよ!」
こいつら下手か。と突っ込みたくなるアキだったが、面倒なのでもう最初に全部言っておく。
「眠くないから寝ない。後ミルナ達には別になんも買ってない。」
絶望した表情になる2人。ソフィー達から「アキが寝たからくっついた!プレゼントも貰った!」と自慢されたんだろう。だからエレンとミルナもそれを実行しようとここにアキを連れてきた。もうちょっと自然にやればいいのに……まあこういう不器用な2人だからこそ余計可愛いと思うんだが。それにミルナとエレンはすぐ反応してくれから弄るのが楽しい。
「はいはい、冗談だからそんな顔しないの。2人ともほんと下手だね。」
「だ、だって……。」
「私のしっかりお姉さんキャラが……。」
「でも2人はそれくらい不器用な方が愛嬌あって俺は好き。」
あとキャラとか言うな。それにミルナに関してはどう頑張ってもここから立て直すのは不可能だから諦めた方がいい。
とりあえず2人にも用意していたプレゼントを渡す。
「はい、これが2人の分ね。店でチラチラとこっち見るな。買いづらいわ。」
ミルナとエレンにはずっと店に入ってからの行動を見られていた。明らかに期待してるのがわかったから、絶対に気づかれるものかと意地になってしまった。2人が服を試着している間に店員を呼んでお金を渡して素早く処理してもらった。試着室の前から動いてないから間違いなくばれていないだろう。
「ばれてましたのね……恥ずかしいですわ。」
ミルナが顔を赤くして照れる。でも受け取ったプレゼントを大事そうに両手で抱えている。エレンもアキの隣でプレゼントを抱きかかえるように握りしめている。
「まあ、開けてみてよ。」
エレンが紙袋を開ける。エレンは美しいオッドアイと綺麗な銀髪をしており、顔立ちも整っていて誰もが振り向く美人だ。乱暴だし、胸はないけど。そんな彼女にはレオと同じネックレス。ただシンプルなものではなく、青色の宝石のような石をあしらえた光り輝くネックレス。少し派手かもしれないがエレンの銀髪と瞳の色に合うと思いこれにした。
「綺麗……私に似合うかしら。」
「エレンの髪と瞳に合うと思って選んだよ。ますます綺麗になるね?」
「そ、そう?ありがとう。ね、アキ。つけて?」
昨日のレオと同じようにつけてやる。やはりとても似合っている。自分のセンスもなかなかのものじゃないかと自画自賛する。
「私の方は……これはブレスレットですの?」
ミルナは美しいから、着飾る必要なんてない。むしろ着飾るとそれが邪魔をしてしまう気がした。アクアブルーの髪と瞳。それだけで十分に美しいからアクセサリーを選ぶのが大変だった。色々考えた結果、ブレスレットにした。アクアブルーの石を足らえた銀のブレスレットだ。
「ミルナは何もつけないほうが絶対綺麗だからね。腕に着けるものにしてみた。」
ミルナが視線を逸らして無言でブレスレットを手渡してくる。つけてと言うのが恥ずかしいのだろう。アキはそれを受け取り、彼女の腕に通してやる。
「に、似合いますか?」
「うん、俺は好き。」
こちらも予想通りとても似合っている。
「うふふ、よかった。大事にしますわ。」
2人とも気に入ってくれたようで、満足気にアクセサリーを見つめている。
「とりあえず横に座りなよ。くっついてもいいからさ。」
アキがそう言うと、嬉しそうに隣に座るエレンとミルナ。当然のようにアキにもたれかかってくる。
「ミルナとエレン、いい匂いする。」
「はい、アキさんが下さった香水ですわ。」
「うん、私も。私の為に作ってくれたやつよ。」
心地のいい香りに気分が落ち着く。香水を作った際、うちの子達には特別に専用のやつを作ってあげた。勿論アリアやセシルにも先日あげた。
日も落ちて肌寒くなってきたけど、2人がくっついてくれているので温かい。アキは目を閉じて2人の温かい柔肌と心安らぐ甘い香りを楽しむ。
「あれ、寝ないって言っていませんでした?」
「アキ?本当に寝ちゃったの?」
ミルナとエレンは顔を見合わせて苦笑する。
「ごめんね、アキ。」
「そうですわね、我儘言い過ぎました。」
2人はアキが寒くないようにとさらに体をアキに密着させる。
「今日はありがとう。素直な私、変だった?」
小さく呟くエレン。久々にアキと出かけられるのが凄く楽しみだった。最近はまったく弄ってもらえなかったし、構ってもらえなかった。撫でてもくれない。それがたまらなく寂しかった。何でもいいから意地悪されたいって思った。意地悪されるとついつい反論しちゃうけど、アキは本気で言ってないってわかるからいい。それにアキになら何を言われてもムカつかない。逆に嬉しいくらい。
「やっぱり不思議な人よ。」
エレンは自分がどうしようもない人間だってわかっている。短気だし、思った事はなんでも口に出してしまう。ミルナやソフィーみたいに女の子っぽくない。それでも彼はエレンの事を可愛いって言ってくれる。綺麗な髪、美しい瞳が好きだって。その言葉が凄く幸せ。だからもっと綺麗になりたい、可愛くなりたい、女の子らしくなりたいって思った。
「今日は頑張ったのよ?」
アキの為になら頑張れると思った。素直な自分で接すればもっと可愛いって言って貰えると思った。凄く恥ずかしかった。普段だったら恥ずかしくて言えない事も今日だけは頑張って言ってみた。
「素直な私、好き?可愛い?」
エレンはそっと呟き、彼の肩にもたれかかって目を閉じる。
「あら、エレンばっかり密着しすぎですわよ。」
ミルナが負けないとばかりにアキにくっつく。胸が思いっきり当たっている。アキはミルナが胸を当てるのは恥ずかしくないと勝手に勘違いしているみたいだけど、本当は顔から火が出るくらいに恥ずかしい。それでもアキにはくっついていたいから恥ずかしくない振りをしている。
「暗黒物質な私どこいったんだろ……。」
ミルナも静かに呟く。アキが来てから、アキを慕うようになってから、自分の腹黒いと思っていた部分がどこかに消えてしまった気がする。今までは計算して「こう話せば相手はこう動く」とか考えていた。でもそれはもうアキが全部やってくれるし、ミルナがする必要はない。それにアキに対しては何故かそれができない。意識してしまってついついすぐに素が出てしまう。
「こうなっちゃったの、アキさんのせいなんだからね?」
いつでもミルナ達の事を一番に考えてくれている。毎日一生懸命に寝る間を惜しんでミルナ達の為に色々してくれているのも知っている。彼自身の目的なんて忘れているのではないかと思うくらい。それなのに自分達は我儘を言う。ダメだとわかっていても言ってしまう。こんなの自分じゃないのについつい言ってしまう。少しでも気を引きたいって一心で。彼はそんなミルナを怒る事は絶対になく、困ったような顔で優しくしてくれる。それが泣いちゃいそうなくらいに嬉しい。
「誰にも渡しません。アキさん、大好きですから。」
これからも我儘をいっぱい言って困らせてあげるんだからと呟くミルナ。彼にならもっと素を見せたいし見て欲しいと思った。恋愛やエッチな事に不器用な自分も、魔法詠唱を恥ずかしがる自分も、部屋が片付けられなくてだらしない自分も、アキになら全部を見てもらいたい。そしてもっと可愛い、綺麗って褒めてもらいたい。彼の前では計算高い自分はいらない。
「アキさんの前だけは暗黒物質やめてもいいかな?いいよね?」
ミルナもエレンと同じように彼の肩にそっと寄り添って目を瞑る。
「よし帰るぞー。」
アキが急に目を開き、2人に宣言する。驚いたように飛び退く2人。まさか起きていた?聞かれていた?と焦った表情を浮かべるミルナとエレン。
「アキ、寝てたのよね!よね!」
「そうですわよね!寝息立ててましたものね!」
「何をそんなに焦ってるんだ?」
アキは不思議そうに首を傾げる。それを聞いたエレンとソフィーはほっとしたようになんでもないと伝える。あれを聞かれていたら恥ずかしさで死ぬしかなないと2人は心の中で密かに思う。
「エレン、素直なエレンは可愛いぞ。俺は好きだ。」
「ちょ!」
「ミルナが暗黒物質だなんて一度も本気で思った事ないから安心しろ。可愛くて年相応の女の子だ。」
「や、や、やめて!」
2人が顔を真っ赤にしながらやめてと懇願してくる。
「ここはソフィー達も隠していたのかな?昨日も寝てないよ。そして同じような事になって2人とも取り乱していたな。今日もそうなるかなって目を瞑ったら同じことするんだもんな。俺的には面白かったぞ。」
最後の最後まで昨日のデジャブとは本当に仲のいい4人だ。
「ソ、ソフィー!謀ったわね!」
「レオもわかっていて黙っていましたわね!」
2人の矛先がソフィーとレオに向く。
アキは呆れた顔してミルナとエレンに伝える。
「ソフィー達同様、ミルナとエレンの呟きも全部聞いてたから安心しろ。」
「聞かなくていいわよ!聞かなかったことにしなさい!」
「忘れて!お願いだから忘れて!」
そして案の定、昨日と同じようにぎゃーぎゃー騒ぐ2人を連れて屋敷へと戻った。2日目の休日も、同じ事しかしてなかったなと思いつつ、無事終わりを迎えるのだった。
その後、当然レオとソフィーはエレンとミルナに問い詰められていたらしい。