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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第一章 異世界の観察
10/1143

8

「さていい加減本題だが、何故ミルナ達を助けたか。俺が頼みたい事とは何かについて話させて欲しい。」


 アキは三度話を本題へと戻す。さすがにもう脱線しないだろう。


「質問があったらその都度聞いてもらう感じで。ミルナ達にあのタイミングで接触したのは恩を売る為。そしたら俺の頼みを聞いて貰いやすいからね。」

「正直な方ですわね。普通そこは隠すところではなくて?」


 ミルナが袖で口元を隠しながら上品にくすくすと笑う。


「隠してもしょうがないだろう。最初からちゃんと伝えておけば後で話が違うとか揉めないからね。俺にも打算があって声をかけたのは伝えておくべきだと思った。」

「確かに聞いてなかったから揉め事に発展する事はよくありますわね。そしてアキさんは質問しろとおっしゃった。つまり何かあった場合は質問しなかった私達にも責があると言えますものね。」


 ミルナが納得したように頷く。アキの意図をちゃんと理解してくれているようだ。


「端的に言えばそういうこと。そして俺の頼みたいことは基本的に2つ。この世界のことを教えて欲しいっていうのと、俺に戦闘訓練を付けて欲しい。前者については戦闘に助言したお礼に教えてもらえるかなと思ったし、後者については今からする俺の説得次第の予定。」

「なるほど。確かに『戦闘に助言したお礼としてこの世界の常識を教えて欲しい』でしたら私たちにとっても大した手間ではないです。手頃なお礼という事ですわね?」


 ミルナが確認としてアキの言葉を復唱する。他の子達にも理解できるように言い換えてくれたのだろう。


「そういうこと。」

「あ、1ついいですかー?戦闘を観察していたって言ってましたけど、もし私達が水晶地竜を討伐できそうになかったら助けに来なかったんです?」


 今度はソフィーが元気よく手をあげて質問してくる。


「結論からいうと見捨てただろうね。厳しい言い方になって悪いが世の中ってそういうものだと思う。俺はこの世界について何も知らないわけだし、それに皆と話して交流持つ前なら情も何もないからね。」

「やっぱりあんたはろくでもないやつね!頼みなんか聞いてやるわけないわ!」

「エレン、少し黙って。確かに私もひどい……と気持ち的には言いたいです。でもアキさんの言う通りです。自分達の責任で受けた依頼だもの。助けて貰えるなんて考えは甘すぎます。アキさんに感謝することはあっても責める事なんてできないです。」


 ソフィーの言葉に納得したのかエレンは渋々と引き下がる。


「実はみんなに会う前に他の冒険者も何組か見かけているんだ。戦闘素人の俺から見ても4人戦闘力、そしてチームワークは段違いで飛び抜けていた。多少ピンチになったとしても撤退できると思っていたしね。だからそれほど心配はしてなかったよ。俺としても人が死ぬのを目の前で見るのはさすがに精神的に嫌だしね。それにソフィーも言ったように自分達で受けた依頼だから達成できる見込みがあったわけでしょ?」


 アキが聞くとレオやソフィーが頷く。


「なるほどね。確かに達成できると思ってた。それにアキが入って来なかったとしても、死ぬことまではなかっただろうね。でも説得するって言っておいて、多少なりとも不利になること言っていいの?少しでも僕たちの心象をよくしておこうとか普通はすると思うけど。」


 レオが不思議そうに尋ねる。


「そういう方法もあるが、俺は大して問題ないと考えているんだ。むしろ真実を伝えた上で交渉したほうが成功率が高いと思う。」

「なんで?」

「その理由こそが本当の本題。俺は君達に提供できるものがある。だからその対価として戦闘訓練をして貰いたい。どうかな?」


 そういってアキはミルナ、ソフィー、レオ、エレンを見つめる。


「戦闘力0のあんたに提供できるものなんてあると思ってるの?あんたバカ?それに自分でも言ったじゃない。戦闘力・チームワークともに飛び抜けてるって。あんたに出来ることなんてないわよ!」


 エレンが口早に捲し立てる。


「あるよ。君達のチームには大きな問題がいくつかある。」


 だがアキははっきりと告げる。


「ないわよ!」

「エレン。落ち着きなさい。アキさん、是非聞かせて頂けますか?もし本当にあるのであれば知りたいですわ。」


 ミルナがエレンを制してアキに続けるように促す。問題と聞いてミルナはいつもの優しい微笑みを消し、目を細め真剣な表情でアキを見つめる。内容次第では許さないといったところだろう。


「まず1つ目。水晶地竜に苦戦していた。あれ多分突然変異個体か何かじゃない?ミルナ達が驚いていたし、討伐したこと過去にあるんでしょ?だからこそ突然変異個体の行動パターンや弱点などを分析しきれず撤退寸前だった。」

「エレンに怪我させてしまいましたし、苦戦は認めます。それに確かにおっしゃる通り特殊個体ですわ。そして弱点に気づきませんでした。おそらく他のみんなも。」


 どこか悔しそうな表情を浮かべる4人。


「つまり俺は戦略を提供する。敵の行動パターン、分析方法、弱点の見つけ方など。そういうのは得意だからね。それによってみんなの戦闘も安定するし悪くはないと思うけど。」

「確かに貴方ほどの分析力を持っているメンバーは私達の中にはいませんわ。でも撤退は……多分できましたし問題と言い切るのは早計ではありませんか?」


 ミルナの表情は特に変わらない。説得する気ならまだ1歩足りないと言ったところだろう。


「そこで2つ目の問題につながる。撤退はできた、でも即座にしなかった。ミルナ達の会話が全部聞こえたわけじゃないけど、依頼達成率っていう単語は拾ったからね。つまり依頼を失敗できない理由があった。」


 アキは一度言葉を切る。特に質問などは上がらないのでそのまま続ける。


「ここからは俺の推測になる部分も多いけど、ミルナ達は冒険者としては相当腕が立つ。ランク付けというものがあるのであればかなり上位なんじゃないかな?」


 でもそれじゃ足りない。今の地位で満足しているのであれば即撤退していたはずだ。だからミルナ達には何か大きな目的があり、それを達成するにはもっと上を目指す必要があるとわかる。そしておそらく上を目指すのに重要になってくる要素の一つが依頼達成率なのだろうと考えた。


「間違っていても訂正はしませんわよ。続けてくださいませ。」

「それで構わない。戦闘の様子からするに相当焦ってるよね。このままでは目標達成できないと。撤退を躊躇したのもその証拠だ。」


 だからこそアキがその手助けになれるかもと思った。戦略や情報を提供することによってその目標に貢献できると考えた。さらに異世界の知識もある。きっとなんらかの形で彼女達の力になれるはずだ。


「大きく間違っているわけではないとだけ言っておきますわ。それでその私達の目標ってなんですの?」


 ミルナが試すように無茶な質問をする。見事に言い当てて見せろと不敵な笑みを浮かべている。


「さすがに目標まではわからないさ。この世界のことを何も知らない状態で大した推測なんてできない。」


 アキがそう告げると4人は少し安心した表情を浮かべる。彼女達の反応からするとあまり公けにしたくないのだろう。出来る事なら隠しておきたい事なのかもしれない。だがある程度の予測はついている。


「でもこう言わせてもらう……俺を6人目の仲間として迎え入れてくれないかな?きっと力に慣れると思うんだ。」

「あんたなんでそれを知って……!」

「エレン!黙りなさい!」


 言い終わる前にミルナらしからぬ強い口調でエレンを咎める。


「あ……。」


 そのやり取りをアキが聞き逃すわけもなく、推測が確証に変わった瞬間だ。ミルナは緊張が途切れたように真剣な表情を崩し、いつもの優しい表情に戻る。一方ソフィーとレオは黙ったままだが、軽い威圧感をアキに向けて放っている。どこで聞いた、なぜ知っているという表情だ。


「ほんとにもう……エレンはしょうがないですわね。アキさんに読まれないように色々と試行錯誤しましたのに全く意味がなかったですわ。」

「ミルナ……ごめん。」


 さすがにエレンも自分の失言に反省したようでしおらしい態度で謝罪する。ミルナ、ソフィー、レオは気にするなという感じでかぶりを振る。


「まぁ……大丈夫ですわよ、エレン。だっていざとなったらアキさんを殺してしまえばいいんですのよ。」

「そうよ、エレン。なんとかなるから大丈夫よ。」

「そうだよ、最悪殺せばいいんだよ。」

「そうだな、俺を殺せばいいんだ。」


 アキも加わる。


「あんたは少しは焦りなさいよ!何普通に自分を殺そうとしてる会話に入ってるのよ!」


 エレンが素晴らしい突っ込みを披露してくれる。こういう真剣な話をしている時のエレンのムードメーカー的存在は素晴らしい。適度に話の緊張感を下げて話しやすい空気を作ってくれる。ある意味一種の才能だと思うアキは思う。


「ふふ、アキさんは面白いですねー。」

「ほんとだよ。」


 ソフィーもレオもすっかり緊張がとけたようで笑顔が戻る。


「エレンのおかげだと思うよ。それにミルナにソフィー、レオと本当にいいチームだ。」

「何を言っているんですか。ああやって自然に私達の会話に入ってくることによってエレンに割り込ませ、緊張感をほぐす切っ掛けを作ったのはアキさんでしょう?」


 そのくらいはわかりますわ、とミルナが溜息を吐く。


「否定はしない。」

「全く、呆れてしまいわすわ。とりあえず話を進めましょう。そこまでわかっていらっしゃるなら隠す必要もありません。アキさん、どうしてわかったのか教えて頂けますか?」


 ミルナは観念したようでアキの推測を正式に認める。


「確証したのはエレンのおかげではあるけど、最初のほうから本当はもう1人いるんだろうとはわかっていたよ。」


 何故なら戦闘時の彼女達の立ち位置は明らかに5人を想定しているものだと感じたし、時折何かを待つような瞬間が本当に一瞬だけど見えた。多分チームの中で一番の実力者的な存在だろうか。4人で話をするときも何かが足りてない感じがして、もう1人いると想像するとしっくりきた。


「なるほど盲点でしたわ。自分達では気づきにくいことですわね。」

「うん。それで依頼達成率、撤退の躊躇などを考察にいれると、その人は死んでるわけではない。ただすぐ会えない場所にいる。そして会う為には冒険者として上を目指す必要があるのでは?」


 アキが考察を述べたところでレオがミルナに確認する。


「ミル姉、もう別に隠さなくてもいいんだよね?」

「ええ、構いませんわ。」

「じゃあ言うけど、大体アキの言う通りであってるよ。」


 レオが尻尾をぱたぱたと動かしながら教えてくれる。


「それはよかった。もう少し言うと、その目標にはある程度のタイムリミットがあって、早く達成しなければいけない。」

「うんうん、合ってますよー。」


 ソフィーも肯定してくれる。


「全く、あんたなんでそこまでわかるのよ……呆れるわ。」


 エレンが口を尖らせて毒を吐く。


「エレンがバ……素直なおかげだな。」

「あ、あんた今バカって言おうとしたでしょ!」

「気のせいだ。」

「こういう時だけうそつくなー!」


 エレンとそんなやり取りをしているとミルナがパンパンと手を叩く。


「それでは一度纏めますと、アキさんは私達の目標達成の為に知恵を貸してくださる。そして対価として戦闘指導をご希望。ということでよろしいですか?」

「そういうことだね。」

「なるほど。アキさんの推測通り私たちには5人目の仲間がいます。まだ貴方を正式にお迎えしたわけではないので詳細はご了承くださると助かりますわ。」

「構わないよ、それは当然だね。」

「ありがとうございます。」


 ミルナはそう言って軽く頭を下げ話を締め括ろうとするが、アキが待ったをかける。


「もう1つあるんだけど?」

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