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2月 冷や汗・・・ペンギンとドタバタ学校生活

1月24日(水)

 クーを学校に連れてきた。早速のことだったけど、かなり緊張した。クーがまた変なことをしでかさないか、学校にいてる間中、気が気ではなかった。でも、なんとか、今日一日は無事に過ぎていった。


1月29日(月)

 昼放課のことだ。

「お前さあ、なんか最近変じゃない?」

 突然、加藤君に言われ、ドキッとした。でも、勘違いしないで欲しい。何も加藤君のことが好きとか、そういうのではない。単純に、クーのことがバレたかも、と心配になっただけだ。

「絶対、何か隠してるだろう」

 加藤君は鋭く切り込んでくる。正直、こんなに勘が鋭いとは思っていなかったので、余計ドキドキした。

「何も隠してないって」

 そう言って無意識のうちに机の下をかばってしまっていたみたいだ。加藤君は目ざとくそれを見つけ、下をのぞいてきた。

「うわぁ」

 驚きの叫び声を挙げて、加藤君は反り返る。遂にクーが見つかってしまったのだ。

「おまえ、ペンギンなんて飼ってたのか。すげーな」

 そっちかよ、と拍子抜けする気もしたけど、ほっとしたのが正直な気持ち。だって、先生に言うぞ的なことを言われたらどうしよう、と思っていたのだもの。ところで加藤君はいつも声が大きい。その声を聞いて、何人かがわたしのところにやってきた。

 もう、こうなってしまっては仕方がない。いっそ開けっぴろげにしてやろう、運を天に任せて、みんなにクーを紹介した。

「きゃー、かわいい」

 女子たちが騒ぎまくる。クーも現金なもので、まるでアイドルになったかのような顔をして、ペタペタ歩き回る。これには、わたしも苦笑いするしかない。と、さっちゃんとばったり目が合った。さっちゃんは少し離れたところから手招きをしている。

「どうしたの?」

「クーのことだけど、みんなにばれて大丈夫?」

「仕方ないよ。先生にばれないように口止めをしておけばいいんだし」

「できるの?」

 任せて、とは言ったものの、確信があるわけではなかった。

 そして、とりあえず今日については、先生にばれなかった。良かった良かった。


2月2日(金)

 今週は何とか先生にばれないように過ごすことができた。周りの子もみんな、クーのことは黙ってくれてたし。何より、クーが変なことをしでかしそうになったりしたら、みんなでかばってくれた。本当にわたしはいい友達を持ったと思う。


2月3日(土)

「なつみ、今日はお昼ご飯、ホテルのバイキングに行くから、いい格好してちょうだいね」

 朝、ママが部屋に入ってきた。そう言いながらも、結局着る服をママが決めてしまう。いつものことだ。

 クーがママのひざに擦り寄っている。だけでなく甘えたような声で鳴いている。ママも始めはクーの事を受け入れてくれてなかったけど、今ではすっかり馴染んでいる。もしかしたら、わたしが可愛がるよりもっと、クーのことを可愛がっているのかもしれない。

「今日はクーはお留守番ね」


  クー。


 不満げな声を出す。でも、新鮮な魚をたくさん買ってくるからというママの言葉を聞くと、掌を返したように機嫌を直す。それどころか喜んでいるような素振りすら見せる。相変わらず現金なペンギンだ。でも、最近そこがかわいいと思えるようになってきた。


2月6日(火)

 遂に先生にクーの存在がばれてしまった。算数の時間だった。教科書の問題で、食べ物を使った問題があり、それにクーが反応してしまったのだ。とっさのことで、残念ながら隠すことができなかった。

「なんだ、今の声は」

 先生が厳しい顔をして黒板から振り向いた。微かなざわめきが教室に広がる。

「すみません。あんまり難しいんで、つい変な声を出してしまいま」


  クー。


 加藤君が言い終わろうとしたとき、またクーが鳴いた。わたしは思わずうつむいてしまった。顔から首にかけて赤くなる。加藤君の好意も空しく、先生はわたしのただならぬ様子に不審を抱いてしまった。

「斉藤、どうした?」

 わたしは観念した。もう隠し通せない。恐る恐るクーのことを話した。先生は始めこそ厳しい顔をしていたが、話が進むにつれて、興味深そうな顔に変わっていった。

「よし、それじゃ今年が小学校最後の年だし、このクラスだけの秘密として、今日から斉藤のペンギンもクラスメイトとすることにしよう。でも、いいか、普通はこんなこと許されないんだからな。だから分かってるな、他のクラスの子、それから他の先生方には絶対に気づかれないようにするんだぞ」

 意外や意外。先生はなんと、クーのことを認めてくれた。驚きのあまり、わたしは口を開くことができなかった。でも、すごく嬉しかった。


2月13日(火)

 先生がクーの存在を知ってから一週間がたった。この一週間は、何事もなく過ぎていった。授業中も、ホームルームの時間も、クーは珍しくおとなしかった。多分、食べ物の話が出なかったからだと思うけど、それでもわたしは安心して過ごすことができた。

 ただ、給食のときに、あの大食いぶりを発揮するのはやめて欲しいと思う。だって、一人前の給食をちゃんと全部平らげてしまうんだもの。それだけでも、ありえないことなのに、おかわりを積極的にするんだから、信じられない。飼い主として、わたしは恥ずかしい限り。みんな、気にしてないよ的なことを言っているけど、やっぱり恥ずかしいことには変わりない。


2月14日(水)

 今日はバレンタインデーだけど、今のわたしにはちょっと無縁かな。まず、そういう人がいないし、何より毎日をクーに振り回されて過ごしているのだもの。

「でもさ、加藤君にはあげたほうがいいんじゃない?」と、さっちゃん。

「なんで?」

「だって色々となっちゃんのこと助けてくれてるから」

 そう言われてみたら、確かにその通りだ。特にクーのことではかなりお世話になっている。でも、義理チョコというのが、ちょっと引っかかる。

 結局渡さないことにした。それが一番誤解がなくて、良い方法だろう。


2月16日(金)

 学校で誕生日会をしてもらった。もちろんわたしのだ。本当は明日が誕生日なんだけど、明日は学校が休みだから、代わりに今日、ということだ。

 時間は昼放課、場所は校庭。多数決でドロケイをやることになった。あの、警察と泥棒に分かれて遊ぶ、鬼ごっこみたいなやつだ。クーも当然のように参加することになったけど、あんなのろま足で、どこまでできるのか、少し不安でもあった。

 結果は意外としっかり参加できてた。わたしもクーも泥棒になって、逃げ回っていた。ついでに言うと、さっちゃんと加藤君は警察で、追いかける方。それで、後半はなんと先生も参加した。警察の方だった。楽しかった。思いっきり笑い、思いっきり駆け回り、たぶん最高の思い出になってるんじゃないかな、と思うくらい楽しかった。


2月17日(土)

 お昼ごはんに、さっちゃんを呼んだ。

「なっちゃん、誕生日おめでとう」

 そう言って、さっちゃんはプレゼントをわたしにくれた。すごくかわいいボールペンだった。嬉しかった。

「これ、わたしのとおそろいなんだよ。これからも、ずっと友達でいようね」

「うん。ありがとう」と、わたしは泣きそうになっていた。

 日が暮れるまで、一緒に遊んだ。楽しい時間だった。そして、夜は家族でホテルのバイキング。もちろんクーはお留守番。でも今回は珍しく聞き分けが良かった。

「あら、珍しい」

 いつもクーの聞き分けの悪さに手を焼いているママが言った。でも、クーは別に得意そうな顔をしなかった。それもまた、珍しい。今日のクーは、何か不思議だ。

 わたしも、もう12歳。全然実感が湧かないけど、来年から中学生かぁ。そう思うと、胸が締め付けられるような、何か変な気持ちになる。


2月20日(火)

 朝、教室に入ると、みんながひそひそ話をしていた。

「なに、なに。どうしたの?」

「ああ、なっちゃん。おはよう。あのね」

 説明されて、わたしは驚いた。先生の噂話だった。なんか、先生が今年限りで学校を辞めるそうなのだ。

「え、うそ!?なんで?」

「わたしさ、お母さんがPTAの役員だから分かったんだけど、なんか先生、職員室での人間関係に悩んでるみたいだよ」

 わたしはもっと驚いた。全然そんな風に見えなかったから。何より、先生は怒ると恐いけど優しいし、しっかりしてるし、そんな要素はないじゃないか、これがその話を聞いたときの正直な気持ちだった。

「でも、これはただの噂だからね。まだ本当かどうかは分からないよ」

 大人の世界は複雑で、よく分からない。子供の世界以上に、表と裏がある気がした。

「はい、みんな席に着けー」

 チャイムと同時に、先生が入ってきた。やっぱりいつもの先生だ。どこにも、悩んでいるような姿は見えなかった。

 やっぱりただの噂だったんだ、と、わたしは先生を見て思った。そして、下校時間が来る頃には、すっかり忘れてしまっていた。というか、今年で先生がこの学校を辞めたとしても、卒業してしまうわたしたちにはあまり関係がないんだよね。

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