12月 出会い
本文で使われているペンギンの鳴き声は実際の鳴き声とは関係ありません。正直な話、筆者はペンギンの鳴き声を聞いたことがありません。そのため、これはこの鳴き声の方がかわいらしいと思ったための筆者の勝手な創作です。なので、鳴き声に関しては、あまりお気になさらないでください。
12月24日(日)
ペットが欲しい。でも、パパもママも許してくれない。わたしは、こっそりサンタさんにペットをくださいとお願いをすることにした。学校では、サンタさんなんていないという子もいるけど、わたしはいると思う。だから、絶対にお願いをしたら叶うはず。ペットなら何でもいい。本当に何でもいいから飼ってみたい。明日の朝、目が覚めたらどんな生き物が枕元にいるのだろう。それが楽しみ。
12月25日(月)
朝、変な声に起こされた。ちょっと高めで、何かをこすり合わせたような声。そう、クーって感じの声だった。サンタさんがくれたプレゼントはペンギンだった。わたしはちょっとびっくりした。だって、普通ペットといえば犬とか猫とかを指すんだから。パパもママもびっくりしたみたいに顔を見合わせていた。あまりのことに、開いた口がふさがらないという感じだった。
ペンギンは、のんきな目をしてわたしを枕元から見下ろしている。
クー。
まるで、何かをねだるような声を出す。くちばしを目一杯大きく開けている。お腹がすいているのだな、とわたしは直感した。
「お母さん、魚って余ってない?」
「そんなのないわよ」
そっけない返事が返ってきた。どうして、こういつもママは冷たい言い方しかできないのだろう。まあ、それはいいとして、早く魚を手に入れないとペンギンがお腹をすかせて死んでしまう。でも、どうすればいいか分からない。そこで、最後の手段に出ることにした。
「パパ、魚とか釣ってきてないの?」
パパはママに比べるとわたしの言うことをちゃんと受け止めてくれる。しかも、趣味が釣りときているから、こういうときには最適の人だ。もっとも、わたしの言う通りにしてくれたことは、ほとんどないけど。
「ごめんな。昨日は釣りに行ってないんだ」
がっかりする答えが返ってきた。
クー、クー。
お腹がすいて死にそうだよ、ペンギンはそう言っているようだった。早くしないと、でも、どこにも魚がない。焦れば焦るほど頭が真っ白になっていく。
「ごめんね。今、魚がないんだ」
わたしはそう言ってなだめることしかできなかった。そのとき、ふとある考えが浮かんだ。ペンギンを川に連れて行けばいいんだ。思ってみれば単純なことだ。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう。来年から中学生なのに、こんなのでいいのだろうか、そういう関係のないことまで考える余裕が、いつの間にか生まれていた。
「行ってきます」
そう言ってペンギンを散歩に連れ出した。実は、ペットを連れて町を歩くのが、わたしの秘かな夢だったんだ。でも、こんな形でその夢が叶うとは思ってもみなかった。
歩いていると、さっちゃんに出会った。さっちゃんはわたしの大親友。クラスも同じだ。
「あ、なっちゃんだ!おはよう。あれ、何連れて歩いてるの?」
わたしとペンギンのところにさっちゃんが駆け寄ってきた。
「おはよう。ペンギンが家に来ちゃって・・・」
「え、これおもちゃじゃないの?本物?すっごぉい!」
さっちゃんは異常にテンションが高かった。いつもは、もっと静かな子だったと思うんだけど。わたしは苦笑いを漏らすばかりで、どう説明したらいいか分からず、黙っている。
「ねぇ、ねぇ、ペンギンてさ普通に飼えるの?」
「分かんない。けど、今朝いきなりわたしのところに来たの」
結局、そうやって説明するしかなかった。
クー。
ペンギンが鳴く。すっかり忘れてた。この子は今、お腹が空きすぎて大変なことになっているのだった。
「ごめん。わたし、これから川に連れて行って、えさをあげなきゃいけなかったんだ。また、あとで詳しいことは説明するから、ごめんね」
そう言って、きょとんとした顔のさっちゃんの側をすり抜け、川へ向かって歩き出す。ペンギンもぺたぺたとついてくる。
川では、ペンギンはクー、クーと嬉しそうに泳ぎまわり、魚を食べまくっていた。その旺盛な食欲に、わたしは呆気にとられて突っ立っていた。だって、三十分くらい食べ続けているのだもの。
家に帰ると、頭に角を二本きっかりと生やしたママが玄関に立ちはだかった。
「なんで、連れて帰ってくるの!?そんなもの、家で飼えないんだから、さっさと捨ててこなきゃダメじゃないの」
「だって、この子すごくわたしに懐いてるみたいだし・・・。ねぇ」
わたしはそう言って振り返る。ペンギンは甘えたような声を出し、わたしの足に擦り寄ってくる。ママはそれを見ると、あきれたような顔をした。
「とにかく、家では飼えないからね」
「そこをなんとかできないの?」
「無理なものは、無理。早く捨ててきなさい」
ママはそれだけ言うと、ドアを閉めてしまった。つくづく、ひどい母親だと思う。わたしはがっくりと肩を落として足元を見た。そうして、妙なことに気づいた。ペンギンがいないのだ。
クー。
部屋の中だ。ペンギンはいつの間にか室内に忍び込んでいたのだ。油断も隙もあったものではない。同時にママが部屋の中を走り回る音が聞こえる。相変わらずドタバタとものすごい足音だ。ペンギンを追いかけているのだろう。でも、なかなか捕まえることができないらしく、ママの足音は途絶えることがなく、ペンギンの嬉しそうな鳴き声も途絶えることがない。
わたしは恐る恐る玄関の扉を開いた。そこから見えた光景は信じられないものだった。家の中がとても散らかっていた。ペンギンはわたしの苦労も知らず、やりたい放題しているようだ。
「なつみ、なんとかしてちょうだい。もうママじゃ無理だわ。あなたの言うことなら多分聞くでしょう。このペンギンのいたずらを止めてくれたら、家で飼うのを考えてあげてもいいから」
ママは床に座り込んで、わたしに懇願した。わたしも能天気でいたずら好きのペンギンに腹が立ち始めていたから、すぐに怒鳴り声を上げた。
「やめなさい!バカ!」
この言葉に全部の怒りを込めて叫んだ。すると、あんなにはしゃぎまわっていたペンギンも、少しおとなしくなった。こっちに来なさい、とわたしが言うと、素直に側までぺたぺたとやってきた。反省しているような様子はまったく見られないが、とりあえずおとなしくはなった。
「これでいい、ママ?」
ママは静かにうなずいた。続けて家で飼ってもいいかどうかを聞いたら、それにもうなずいてくれた。
ママのお墨付きがもらえれば、絶対大丈夫だろう。これで、わたしの家族がひとり、いや一羽増えることになった。わたしは単純に嬉しかった。