我々ハ猫デアル2(にゃん)
「各員、腕は鈍っていないな」
ブリッジでは各々から威勢のいい声が上がる。まるっとしたボールにあんなに夢中だったロビンソンは、動体レーダーの動きを目まぐるしく観測し報告記録に余念が無い。カールソンが落ち着いた声音で、各所の状況を詳しく知らせてくれる。勇猛なハンプトンは、白兵戦になった場合にいつでもいける様に、汎用パワードスーツを着込んで準備万端だ。我は、満足の吐息を漏らすと、艦内に発令する。
「総員第一種戦闘配置のまま待機! 繰り返す第一種戦闘配置! これは訓練ではない。犬どもに見せてやれ我らが猫の力を!」
力強い鳴き声が呼応する。――そう、いざとなれば激しくもしなやかに、それが我ら【極東方面軍第08遊撃部隊】の本気であり、猫型星人である我々の誇りなのだ。
(=^ェ^=)(=^ェ^=)(=^ェ^=)
「センセーしってるー?」
「どうしたのだ? ミケ氏よ」
ミケランジェロこと、この星の先輩ミケ氏に、今日も町内の公園でまどろんでいる最中に話しかけられる。【センセー】とは、我が仮住まいしている家での我の呼び方である。
「なんかねー。裏山からねー。音がするんだってー」
むむ、そういえば船が不時着した際にそのまま隠している裏山。船は修理だけしてまともに寄ることも最近無かった。あまりにもこの地球という星の猫可愛がりレベルが高過ぎるせいで、落ち着いてしまっていたのだった。
「ぴーぴぴ凄いんだってー」
「それは有り難い情報である。ミケ氏よ感謝を伝える」
持っていた海洋生物の干物を進呈すると、我は裏山へと向かったのだった。
『太陽系第三惑星方面へ派遣中の小隊に緊急連絡。敵対勢力により”Despair makes cowards courageous作戦(窮鼠猫を噛む)”が発令されました。太陽系第三惑星は破壊の危機があります。方面軍は撤退を。緊急連絡……』
「なん……だと……」
連絡は一昨日。その翌日に届いたであろう最新情報は、隕石を大質量兵器として動かしてぶつけるというとんでもないモノであった。
「大雑把な作戦を立てたな敵対勢力めが……。コール!【二丁目空地の会】改め、【極東方面軍第08遊撃部隊】集結せよ!」
我は首に付けている鈴型通信機に叫ぶのであった。
「隕石の軌道を曲げてやるだけでいい。地球の引力圏内から外せばいいのです」
久々に起動した我らが宇宙船に皆で乗り込むと早速の作戦会議である。ロビンソンが丁寧に解説し作戦は立案される。隕石の軌道を最終的に決定するのは火星の手前。そこに犬の宇宙船もあるはずだとの予想を立てた。我々はステルスフィールドを張ったまま、超高速ワープで向かうのだった。
「モニター出ます。大質量隕石及び、犬軍の宇宙船一個小隊(6隻)確認!」
一個小隊とは猫を舐めているとしか思えない。我々には地球で得た対犬用兵器が幾つかあるのだ。
「カールソン、用意はいいな」
「イエッサーキャプテン。いつでもいけます」
我は大きく頷くと右の肉球を掲げ、攻撃を開始させたのだった。
「猫軍の船一隻が目前にワープを確認! 何か仕掛けてきます!」
「たった一隻で何が出来る! 適当に相手してやれ」
ブルドック顔の司令官がそう告げた時だった。宇宙空間を浸透するかの様に聞こえてくる波長に、総員耳を押さえてのたうち回る。
「な、なんだこれは!?」
「敵勢力の新攻撃です! 遮断出来ません。第二波来ます!」
何かが船体に着弾。それはじわじわと船内を侵食していく。
「今度はなんだ!?」
「わかりません! いい匂いがします! あ、クルーがパタパタと目を回して倒れていきます。行動不可能です!」
「キャプテン……大打撃与えてます……」
「これほどまでとはな……。今のうちに制御装置を奪うぞ、白兵戦の用意は……い、一応しておけ。見かけたら尻尾を引っ張ってやればいい」
まさか地球でヒントを得た【犬笛】と【アルコール爆弾】がここまで効果が絶大だとは……。戦争も軽々勝利してしまうのではないか……。我はそんな事を考えつつも隕石の制御装置を楽々掌握。地球の危機を難なく回避したのだった。
「あら、センセー今日は随分と疲れてるのね。はーいブラッシングよー」
「にゃー」
地球人も、先住の猫たちも知らぬ間に地球は救われた。捕えた犬共はこの町で鎖に繋いである。なに、今度は犬のペットブームが来るだけだ。我々はまた【二丁目空地の会】へと戻る。全て世は事も無しなのであった。
猫の日だから、にゃんとか投稿。