サイド なぁくん
俺の住んでる隣の家にはサキュバスの女の子が住んでいる。
俺のことなんて放って置けばいいのに昔から俺のことを構ってきて、気がついたら俺は彼女のことが好きになってしまったようだ。
俺の種族は魔王。ほかの魔族たちを統べる種族だ。常に魔王という種族は1人しかおらず、先代の魔王が死ぬと新しく生まれるものらしい。何故か知識としてあったもので詳しくはわからないが。
ただ、俺は魔王として生きるつもりはない。人間も魔族も住み分けが出来ていて平和な世の中だ。なのに魔王が生まれたと知れたらまた戦争が起きるかもしれない。サキュバスをそんな戦いに巻き込みたくはないし、ほかの村人だってそうだ。だから俺は種族がわからない名無しと呼ばれることに甘んじている。
「ねぇ、なぁくんあそぼうよ~」
「俺はいい」
今日もほかの友達を連れて遊びに誘ってくれたサキュバスだったが、俺はその誘いを断った。
「今日は私達岩山のほうに行くから・・・来れたらきてね!」
魔王の特性・・・それは魔族に命令が出来ることだ。この能力は相手の無意識に働きかけ、あたかも自主的にそういう行動に出たように思わせてしまう。俺が住んでる家には俺以外誰も居ないが村人たちはそれに違和感を感じることもない。
だから俺は怖いのだ。俺がサキュバスのことが好きなのは自分のことだから間違いがない。しかし俺が彼女に告白してしまえば・・・
「好きだ、俺と付き合ってくれ」
付き合ってくれという言葉が命令として認識されてしまったら・・・サキュバスは自分自身では気付かないうちに命令によって俺のことを好きになってしまうのではないか?
無理やり捻じ曲げた気持ちで好意を告げられたって・・・俺はそれが怖くてなるべくサキュバスに近づかないようにしている。
夕方になると遊びから帰ってきたサキュバスが俺に今日何で遊んだかを報告しに来る。多分いずれ俺が彼らと仲良くなれるようにと配慮してのことなんだろう。サキュバスは優しいから・・・
「今日はね、岩山で遊んだんだ。グリフォン君が空飛んだりしてすごかったんだ!私も飛んでみたいな~、後はね、岩山に恋の叶う花が咲くんだって。女の子達が話してたんだけどね。素敵だよね~」
恋の叶う花・・・?そんなものがあるのか・・・そいつを渡すだけなら俺は言葉にしなくても伝わるんじゃないか・・・?
「あぁもう、わかったから、あまり遅くなる前に家に帰れよ」
「うん、それじゃあまた明日ね!ばいばーい」
俺が帰るように告げるとサキュバスは家に帰っていった。
サキュバスが帰った後、俺はその花を探しに岩山にやってきていた。俺は飛ぶことも出来るから岩山を飛び回りながら花を探し回る。そういえばサキュバスが飛んでみたいと言ってたたな・・・いつかあいつを抱えて空を飛べたら・・・・
夕方から探し始めたので視界も悪く、俺が件の花を見つけたのは明け方の明るくなってからのことだった。しかしどういう花かは聞いていなかったから、この花であっているかどうかはわからない。
とりあえず合っているか聞くのもついでにしてしまおうとサキュバスの家に行った。
かなり早い時間だったためかまだ少し眠そうなサキュバスに花を見せる。
「これ・・・昨日話してた花。岩山に咲いてた花はこれだけだったんだけどあってるか?」
「んー他の子の話を聞いてただけだからわかんないや・・・」
「そうか・・・まぁいい。これお前にやる」
「え?だってこの花は好きな人に渡すものって・・・」
「だから!お前にやる!」
俺の気持ちをわかってくれ!恥ずかしくなった俺は、サキュバスに花を押し付けるように渡して逃げ帰るように自分の家に入った。
サキュバス・・・さっちゃん・・・あぁくそ!恥ずかしくて呼べやしない!




