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SLS  特殊海難救助隊  作者: 月城 響
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第18部 海賊島のクリスマス 【10】

 その頃シェランとクリスは、丁度前菜のオマール海老やアワビのマリネを食べ終えたところだった。


「本日のスープはアスパラとトマトのスープでございます」


 かしこまったような黒服の配膳人が運んできたスープを見て、シェランは思わず「まあ、綺麗!」と声を上げた。グリーンのスープの中に星型の赤いトマトゼリーが浮いている。まさにクリスマス仕様だ。


「味も最高だね」

「ええ」


 シェランはフランスパンをちぎりながら答えた。




 「味も最高だね」と言ったクリスであったが、実はこの後の事を考えると食事の味など二の次であった。 


― ちゃんと言わなければ・・・今日こそ・・・・ ―



 スープの次は魚料理である。イトヨリと貝柱のフォアグラ添えに舌鼓を打っていたシェランが「メインの肉料理が出る前にお腹が一杯になってしまいそう」と笑いながら外の夜景に目をやった後「あら?」と急に顔色を曇らせた。


「クリス、大変よ!人が溺れてるわ」

「なんだって?」


 シェランが指差したのは船の少し後方で、レストランの小さな窓からは暗い海の様子などはっきりとは見えなかった。


「見て、水しぶきがあがっているわ」

「魚か何かじゃないのか?」

「いいえ、違う。人間よ!」


 シェランは持っていたフォークとナイフを投げ捨てるようにテーブルに置くと、レストランを飛び出していった。




 デッキの上に上がって見ると確かに人が居るようだ。


「すぐに船員に知らせよう。誰かが落ちたのかもしれない」

「何言ってるの?ここに潜水と一般のライフセーバーが居るのよ」


 シェランは船の艫に走っていくと「今、助けるわ。頑張って!」と叫ぶとデッキの手すりに足をかけた。



「シェラン、待て」


 クリスが自分の腕を掴んで止めたので、シェランはわけが分からないような顔をした。


「どうして止めるの?早く助けないと・・・」

「違う。よく見てみろ。あれは溺れてるんじゃない。泳いでるんだ」

「は?」



 シェランは何をバカな・・・という顔をしたが、本当にクリスの言う通り、その人間は確かに船の後ろをしっかりと付いて来ている。しかも目が慣れてくると、それが誰だかはっきりとわかった。


「ジュード!何?どうしてこんな?」


 シェランは訳が分からなかったが、クリスには全て分かっていた。


― あいつめ、こんな所まで邪魔しに来るなんて・・・! ―



「何をやっているのよ。船のスクリューに飲まれたらどうするの」


 シェランは側にあるロープに赤と白の浮き輪を縛り付けると、ジュードに向かって叫んだ。


「ジュード。これに摑まって!くれぐれも水流には気を付けるのよ!」


 聞こえているかいないか分からなかったが、とにかくシェランは浮き輪を彼に向かって投げた。



「本当に、バカな奴だ・・・・」


 クリスはボソッと呟いた。そんなに彼女が好きなのか?どうせ実るはずも無い恋なのに・・・。後もう少しで、お前達は卒業するんだぞ?



 クリスはどうにもならない想いの為に、そこまで出来る彼が歯痒かった。だからこそ彼はクリスを焦らせる。どうにもならないのが分かっていて必死に、ただ一途にシェランを守ろうとする彼が・・・ジュードの存在が、クリスの心をどろどろとした妬みの感情で押しつぶしていくのだ。



「シェラン!!」


 クリスは叫ぶようにその名を呼ぶと、デッキに捕まって海の中のジュードの様子を見守っている彼女の腕を引っ張り、自分の方に引き寄せた。


「クリス?」


 シェランが離れていかないように右腕を彼女の腰に回した。


「クリス、離して。ジュードが海の中に居るのよ。見ていてあげないと」

「あいつなら大丈夫だ。Aチームのリーダーなんだろ?」


「でも、船の側はとても危険で・・・スクリューに巻き込まれたら・・・」

「そうなったらとても俺達には助けられない。それでも君は彼を助ける為に飛び込んで行くんだろう?だけど俺はそんな君をただ見ているわけにはいかないんだ」



 クリスの腕が更に腰に食い込み、彼の左手はシェランの顎をぐいっと上に持ち上げた。シェランは急にクリスが怖くなって小さく唇を振るわせた。


「離して、クリス。もうすぐジュードが上がってくるわ」

「構わないさ。あいつは唯の生徒だろ?」


 そうだ。唯の生徒に違いない。だがこんなところを彼に見られるのは、死んでも嫌だった。


「やめて、クリス、離して」

「それは命令か?だったら俺には効かない」


 シェランはその大きな瞳で、固まったようにクリスの顔が近づいて来るのを見つめた。




「シェラン!!」


 ジュードの声が響いた時、シェランは何も考えられないまま、その両手を前に突き出してクリスの体を跳ね除け、声がした方に走った。びしょ濡れになった腕の中に飛び込んだ途端、急に怖さが蘇って来て、涙が溢れ出した。


 シェランが何故泣いているのか、全てを見ていたジュードには分かっていた。シェランが自分に逆らえないのをいい事に、いきなり彼女に口付けしようとするなんて・・・!



 ジュードはクリスを睨みつけて、思いっきりののしってやろうと思った。しかし、彼がひどく悲しそうな瞳でシェランの後姿を見ているのに気が付いて、ジュードは何も言えなくなってしまった。


 自分と何が違うんだろう。ジュードはそう思ったのだ。今の彼の立場は何ヵ月後かの自分の立場かもしれない。



 クリスが寂しそうな顔で何も言わずそのまま姿を消したので、ジュードは小さく震えているシェランの肩に手を置いて、慰めるように優しく叩いた。


「シェラン、一緒にクリスマス・パーティをしよう。もうすぐみんなも迎えに来るから」


 シェランは返事の代わりに、小さく嗚咽を漏らしながら頷いた。




 それから5分もしないうちにAチームのメンバーを乗せたクルーザーが船の横に停泊し、びっくりしたような顔の船員達が見守る中、ジュードとシェランは仲間達の乗るクルーザーに乗り換えた。


「さあ、ナイトタウンに戻るぞ!」


 舵を持ったダグラスの掛け声に仲間達は『オーッ!!』と掛け声をあげ、シェランはやっとエバやキャシーの待つ店に到着したのだった。



 ジュードは辺りにある土産物を扱っている店で適当に服を買って着替えると、早速乾杯の音頭をとった。シェランもさっきの出来事はすべて忘れてしまったように明るい笑顔で皆としゃべったり、久しくカクテルを手にしていた。




 夜もふけて店の中央でダンスが始まるとピートとサムが 半分酔っ払った様な顔をして、シェランの所にやってきた。


「教官、教官、俺とダンスをしましょう」

「何言ってんだ、サム。潜水の俺のほうが優先だぞ」


「あれ?教官の専属パートナーはジュードじゃなかったっけ?」


 シェランが戸惑ったような顔をしているので、ハーディが気を利かして口を挟んだ。


「オレは別に構わないぞ。今日はクリスマスなんだから、みんなと踊るのもいいんじゃないか?」


 ジュードはシェランの気晴らしになればいいと思って答えた。


「それじゃあ、最初に誰と踊ろうかしら?」


 シェランがちょっとふざけた様子で周りの男子を見回した。


「そりゃあ、もちろん、潜水課一のダンディ・ダイバー。この・・・・」


 ピートが自分の名を名乗ろうとした矢先に「潜水課一のダンディ・ダイバーはこの俺だ」と言いつつ、ブレードがシェランの手を取って、中央のダンスホールまで連れて行ってしまった。


「あの野郎、いつもポケッとしている割には手が早いな」


 むくれているピートにサムがニヤッと笑いかけた。




 ホールで楽しそうに踊っているシェランを見て、ジュードが安心したように微笑んでいると、後ろから話しかけてくる声がした。


「大好きな女性が、他の男と楽しそうに踊っているのを嬉しそうに見ている男ってのもどうかしらねぇ・・・。ジュード、あんた教官のお父さんみたいよ」

「そう見えるか?」


 いつものエバのからかい言葉にもジュードは微笑んで答えたので、エバはそれ以上何も言わなかった。代わりにキャシーが声をひそめて、ジュードにたずねた。


「ねぇ、教官少し泣いていたみたいだけど、船の上でクリスと何かあったの?」


 さすがキャシーは目ざとい。ティムティムに到着した時にはシェランの目はもう赤くなかったはずだ。


「いや、別に何も無かったよ。シェランが帰るって言ったらクリスは何も言わなかったし・・・」


 実はあれからクリスには会っていなかったが、彼の名誉の為にも船での出来事は他の訓練生には伏せておいた方がいいだろう。もしかしたらあの後、彼は一人で食事を食べたのだろうかと思うと胸が痛む。まあプライドの高い彼の事だからそれはありえないか・・・。


「そう、それならいいけど・・・。もしクリスが教官に何かしていたら、明日飛行機の上から叩き落してやろうかと思ったけど・・・」


「おとなしそうな顔をして、本当に言うことが怖いんだ。キャシーは・・・」


 目の前のジュードではなく、後ろから響いてきた声にキャシーはびっくりして振り返った。ショーンがこんなくだけた場所でもきちっとしたスーツを着て後ろに立っている。キャシーは一瞬、声も出せずに青ざめたが、彼の『僕にふさわしい花嫁』という言葉を思い出して、ムッとなった。


― どうせ私は貧乏人で、みんなからは“深海の魔女”なんて呼ばれてる怖い女よ ― 



「あら、ショーン。何故こんな所に居るのかしら?あなたにふさわしいお金持ちのお嬢様でも誘ってダンスでも踊ってるのかと思ったわ」


 ショーンはわざとらしく頭を掻くと、キャシーから眼をそらした。


「うーん、そう言われると困るんだけど、俺、キャシーをダンスに誘いに来たんだ」

「え?」


 キャシーはびっくりして言葉を失った後、急に赤くなった。


「で、でも、私は貧乏人だし・・・それにダンスもまともに踊れないし・・・」


― あなたにはふさわしくないわ ― 


 その言葉を言おうとして、キャシーは飲み込んだ。分かってはいても言葉に出すのは辛かったのだ。


「あのさ、キャシー。ダンスを踊るのに金持ちも貧乏も関係ないだろ?俺と踊りたい。踊りたくない。どっち?」

「あ、あの・・・え・・と」


 真っ赤になってうろたえているキャシーの手を掴んで、ショーンはとっとと歩き出した。


「ああ、ちょっとくらい踊れなくても大丈夫。僕は5歳の頃から踊らされてるからね」



 まるで真っ赤な顔をした人形のようにショーンに引っ張られていくキャシーを見て、エバはにやりと笑った。


「さてと、私もリゾートにいらしているお金持ちそうなハンサムでもナンパしてこよっと」


 そんな彼等を見て、ジュードも微笑んだ。ふと窓の外を見ると、湖に張り出したデッキの上には誰も居ない。ジュードはガラスのドアを開けて外に出てみた。


 湖を渡ってくる風にはいつも嗅いでいるような潮の香りはしなかったが、水の上を渡ってくる風は肌に心地よかった。対岸に広がる色とりどりのライトが灯った夜景を見ながら、ジュードはさっきの船上での出来事を思い出していた。



 もし、あの時自分が来るのがもう少し遅れて、クリスがシェランにキスしているシーンを見てしまったら、オレはどうしていただろうか・・・・。


 もしかしたらクリスに殴りかかっていたかも知れない。いやきっとそうしていただろう。シェランが泣いているのを見たら・・・。


 さっきシェランは信頼していたクリスの行為にびっくりして泣いていたのだろうが、これで彼女は彼の思いを知る事になった。


 シェランはどうするのだろうか・・・。クリスが今まで友情ではなく、愛情で自分に接していたのだと知ったら・・・。


 それでもシェランは彼の事を疎んだりは出来ないだろうとジュードは思った。シェランにとってクリスはとても大切な友なのだ。それは今までの彼女を見ていたら分かる。


 さっき船の上でクリスの行為を撥ね付けられなかったのは、シェランがはっきりと拒むことによって彼が傷つくのを知っていたからだ。



 ジュードにはまだよく分からなかったが、シェランとクリスの間には友情以外にも、共に本部隊員だった時代からライフセーバーとして・・・否、それ以上の何かが存在するように思う。シェランがたった4年で本部隊員を辞めた事にも何か関係があるのかもしれない。


 以前、エバが言っていた、クリスがシェランを追いかけて訓練校に来たと言う話も、まんざらウソではないだろう。


 彼らの間にあるもの・・・。それがいつか愛情に変わらないとは限らないのだ。




「ジュード?」


 深い闇の中に沈んでいく心を浮上させたのは、透き通る様なシェランの声だった。この声で呼ばれると、ジュードはどんなに嫌な事があっても微笑んで振り向かざるを得ない。


「もうピートとは踊ったの?」

「ええ。ブレード、ピート、サム、レクターとまで踊っちゃったわ。あんまり疲れたから一休みさせてって戻ってきたら、あなたが居ないから・・・」



 思わず本音を言いそうになってシェランは口を閉じた。一体いつから私は彼の姿を探すようになってしまったんだろう。こんな事だからクリスに女として見られてしまうのだ。


 私はいつだって彼の友であり、彼等の教官でなければならなかったのに・・・・。



 それでも抑えきれない思いはある。そして、それでも隠し通さなければならない思いも・・・・・。



 シェランは木製の床に靴音が響くのを気にするかのように、ゆっくり歩いてジュードの隣にやってきた。


「風が気持ちいいわ」

「うん・・・」


 ジュードは返事をした後、少し振り返って中に居る仲間達の様子を伺った。みんな飲んだりしゃべったりするのに忙しいらしく、こちらに気付いている様子は無い。



「あの・・・、これ・・・」


 ジュードはジャケットのポケットから赤と緑のリボンに包まれた包みを取り出すと、シェランに渡した。


「まあ、これ、クリスマス・プレゼント?」

「うん、一応・・・、チームを代表して・・・」


 自分からだ言うのは恥ずかしかったので、ジュードはそんな言い訳をした。シェランが嬉しそうに包みを開けてみると、潜水で使うグローブが入っていた。


「色気は無いけど、実用的かなと思って・・・」


 ジュードは照れたように再び言い訳をした。


「ええ、嬉しいわ。丁度前に使っていたのが破れそうだったの」



 シェランは嬉しそうにそれを胸に抱きしめるとジュードに笑いかけた。実は彼女のグローブが古くなっていたのを教えてくれたのはキャシーだった。きっと買い物の邪魔をしてしまったのを気にしていたのだろう。


 シェランはグローブを両手にはめて「ぴったりだわ」と嬉しそうに笑いながらジュードに両手を広げて見せた。それを見たジュードが、まるで昼間見たナイトの扮装をしている時のように素敵に笑うのを見て、シェランはドキッとした。


 彼は本当に白いマントをさっと後ろに翻すように右手を後ろにやると、グローブをつけたままのシェランの右手を取ってその場に跪いた。


「それではクリスマス・プリンセス。僕と一曲踊っていただけますか?」


 シェランはにっこり微笑むとグローブを着けたままの左手を彼の背中に回し、金色のスカートの裾を翻した。




「踊ってる、踊ってる」

「それにしても、クリスマス・プレゼントがグローブとは、色気の無い奴だ」


 見ていないふりをしながら、ちゃっかり観察している仲間達は、やっと最初の目的を達したので満足げだ。


「ま、あいつの事だから、さっきキャシーが言った言葉の意味も気付いてないんだろうなぁ」


 ジェイミーの言葉にマックスも頭を掻いた。


「気付かない方がいいのかもしれないな。どうせ後7ヶ月だ」

「卒業したら、終わっちゃうのかな?」


 ノースが寂しそうに呟くと、サムが彼の肩をぽんとたたいた。


「さあな、後は2人の問題だ。俺達が出来るのはもうここまで。後は見守ってやるしかないんだから・・・・」



 ポツポツと小さな明かりの灯る静かな湖のほとりで、楽しそうにステップを踏む2人の姿を仲間達は優しく見つめていた。





 開けて26日はいよいよマイアミに帰る日だ。各チームのリーダーは休暇中だというのにチームの皆にバスの時間に遅れないよう連絡をしたり、飛行機のチケットを配ったりと朝から忙しかった。


「おーい、クリスマス・ナイトー!バスの出発は何時だー?」

「クリスマス・ナイト先輩!チケットまだ貰ってませーん!」

「クリスマス・ナイトッ、昼飯は機内食か?あんまり美味くないんだよなー」


「ええいっ!やかましい!文句を言うな!それからそのクリスマス・ナイトというのもやめろ!!」


 呑気者のAチームの世話をしているジュードは特に忙しかった。





 その日の朝、この旅行のマネージメントをしているシェランは、自分の方からクリスの部屋に連絡をいれた。きっと彼の方からはしづらいだろうと配慮したのだ。


 クリスはホテルの中庭にある池の前で会おうと言った。シェランは昨日の今日でどういう態度をとればいいか少し悩みながらも、綺麗な木々に囲まれた池の側のベンチに座って待っていた。池を泳いでいた白い鳥がバサバサと羽音を響かせて飛び去った後、彼がその向こうからやってくるのが見えた。



 クリスもすごくきまりが悪そうだったが、シェランの方から呼び出してくれた事に少しだけ心が軽かった。


「お、お早う・・・クリス」

「・・・お早う・・・」


 クリスはシェランに近づく事も出来ないようで、彼女から2メートルも離れた所で立ち止まった。シェランは昨日の事を責めるつもりは無かったので、すぐ話題に入ろうとしたが、クリスの方はそれではいけないと分かっていた。


「シェラン、昨日はごめん・・・。どうかしていたんだ。僕は・・・君にあんな事をするなんて・・・」

「も・・・もういいのよ、クリス。私は・・・」

「気にしてないなんて事は無いだろう?本当にごめん。君を泣かせるつもりなんて無かった。ただ、僕は・・・・・」


 ここで君に好きだと言ってしまったとしても、どうにもならないだろう。もっとちゃんとしなければ・・・。もっと、自分のくだらない心に打ち勝てる様になって、あいつに負けないように君を守れるような人間にならなければ、何も始まらないんだ。



 辛そうにうつむいてしまったクリスの側まで歩いていったシェランは、彼の両手を握った。


「本当にもういいのよ、クリス。私にとってあなたはずっと変わらない、大切な友達なんだもの」

「シェラン・・・ありがとう」




 これで全て元通り・・・と思っていたのは、シェランだけだっただろう。自分の気持ちがまさかAチーム全員(あまりにも鈍いジュードを除く)に知れ渡っている事も、ジュードやクリスの思いに少しずつ変化が生じてきていたのにも気付いていなかった。


 そして、やっぱり6歳児だと思い込んでいた彼の事も・・・・・。



 空港で全員のチェックインを済ませてホッとしているシェランの所に、彼女の名を呼びながら手を振り上げて走ってくるかわいい男の子を見てシェランは微笑んだ。


「ジュリー!」


 シェランはしゃがんで彼を抱き上げた。


「ジュリー、チェックインは済んだの?」

「そんなのは家族が全部やってくれてるに決まってるじゃないか。なんたってボクは6歳児なんだからね」


 相変わらず憎たらしい返事だ。さっきまでのかわいさはやっぱり演技なのだろう。そう思ってシェランはジュリーの鼻に人差し指を近づけた。


「ジュリー、もしかしてお爺様の前では猫を被っているでしょう。どうして私の前でだけは本当の姿を現すのかしら?」


 ジュリーはニヤッと笑うと、自分の鼻先に突きつけているシェランの人差し指を握り締めた。


「フフ、それはね。ボクがシェランの事を気に入ってるからさ」

「き・・気に入っている?」


 シェランはその小さな男の子の、黒く大きな瞳を見の前に感じながら目をしばたかせた。


「そう。シェラン、自分がどうしてクリスマス・プリンセスの候補に選ばれたか知らないだろう?あれはね、ボクがシェランを推薦したからだよ」

「な・・・なんですって?どうしてそんないらない事を・・・!」


「だから言ってるだろう?ボクがシェランを気に入ったからだって。ボクが舞台に出演する5人の子供達の中に残るのは分かっていたし(やはり凄い自信だ)後はシェランがクリスマス・プリンセスとして選ばれたら一緒の舞台に立てて楽しいだろう?まっ、舞台はアクシデントで潰れちゃったけど、その分パレードで楽しんだからいいけどね」



 シェランはもう、この小悪魔の様な少年に何も言う気が起こらなかった。彼は自分の目的を達する為には何でもやれるような人間になるのではないだろうかと心配になったほどだ。


「そうそう、それからもう一つ言っておくけど、シェラン。感謝のキスはボクじゃなくって、ちゃんと好きな男の子にしないといけないよ」

「な、なな・・・」


 彼はちゃんと知っていたのだ。あの舞台の上でジュリーの頬にしたキスは、本当はジュードにしたかったのだという事を・・・・。


 力が抜けたシェランの腕から彼はするりと舞い降りると、ニヤッと笑ってシェランの方を振り向いた後、まるで羽が生えているかのように軽やかに走り出した。もちろんシェランにはその羽が白ではなく、真っ黒な羽に見えていたが・・・。


「たった6歳の男の子に翻弄されるなんて・・・・。私って本当に教官失格だわ・・・」


 シェランは自信をなくしたようにがっくりと肩を落とした。




 そして彼らは懐かしいマイアミへと戻ってきた。マイアミ空港からそのまま故郷に帰るものがほとんどで、こちらに戻ってくるのは地元で生活をしている教官やウォルター、そして地元民のスコット・アズリートとジュードだけである。


 ・・・と言っても、SLSの寮に戻るのは、やはりジュードだけであったが・・・。



 行きと違ってクリスがほとんどシェランの側に居ないので(やはりまだ遠慮があったのだろう)ジュードはシェランとずっと一緒に帰ることが出来た。空港からは本当に2人きりになったので、ジュードは思い切って、残りの休みにシェランの家に遊びに行っていいかと聞くと、シェランはとても嬉しそうに答えた。


「ええ、もちろんよ、ジュード。試験問題を一杯用意して待っているわね!」


 ジュードの顔が、笑顔のまま固まってしまったのは言うまでも無い。







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