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SLS  特殊海難救助隊  作者: 月城 響
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第18部 海賊島のクリスマス 【7】

 ホテルの部屋に戻ってきたジュードはシャワーを浴びた後、ほっとしたのかベッドに横になると、夕方まで眠っていた。まぶしい西日に眼を覚ました彼はサッパリした顔で起き上がり、昼間の出来事を思い出してくすっと微笑んだ。



 あの後、プリンセスとナイトの記念撮影を行ったのだが、ナイトの自分は(ジュリーもだが)普段着のまま、しかも爆発の煙のせいで服だけでなく、頬も真っ黒。プリンセスのシェランも王冠こそ綺麗なパールで飾られていたが、頭からずぶ濡れで、しかもドレスの裾は破れてボロボロだった。


― こんな姿で一生残る写真を撮るっていうの? ― 


 不満をあらわにしているシェランだったが「いいじゃないですか、教官。今日の記念ですよ」「シェランおねーさまはどんな姿でもお美しいですわ」(何故、おねーさまなんだろう?とジュードは不思議に思った)と言うエバやリズに引っ張られて訓練生の真ん中に座らされた。



 シェランとジュードの間にゲインの孫のジュリアスを挟み、周りには同じく汚れたままの普段着姿で訓練生全員が取り囲んで写真を撮り、今までとは一風違ったクリスマス・プリンセスの写真が海賊城の中に飾られる事になった。




 空腹を覚えたジュードは部屋を出て、下りのエレベーターを待っていた。3つあるエレベーターの1番左側が降りてきたので、その前で待っているとドアが開き、中にシェランが一人で乗っていて、ハッとしたようにジュードを見つめた。ジュードはにこっと笑いかけて乗り込んだ。



 2人きりの空間がなぜか妙に緊張した。1ヶ月以上もの間、まともに話をする事がなかったせいだろうか。そのまま彼らは何も話さずに立っていた。


 7階でエレベーターが止まった時、一組のカップルが楽しそうに話しながら入ってきた。腕を組んで仲良く話をしている見知らぬ男女の後ろで2人は気まずそうに立っていたが、やっとシェランが口を開いた。


「ジュード、夕食・・・食べに行くの?」

「うん・・・お腹空いたから・・・」


 “シェランは・・・?”と聞きたかったが“クリスと待ち合わせをしているの”と答えられるのが怖かった。なぜならシェランが又、レゼッタがプレゼントした服を着ていたからだ。


 少し肩の開いた紺色のブラウスと白いジョーゼット地のふわふわと揺れるように優しげなスカート。ブラウスの胸の部分にはパールの飾りが付いたブラウスと同じ紺色の大きなコサージュが付いていた。


― どう見ても、夕食デートだよな・・・ ―


 ジュードはかしいでいく気持ちを、顔に出さないように努めた。



「ジュード。もし一人だったら・・・私と一緒に食べない?」

「え?」


 はじめ、シェランの声がとても小さかったので、前のカップルの声にまぎれて聞き違いをしたのかとジュードは思った。


「オレは・・・一人だけど、シェランこそ誰かと待ち合わせしてるんじゃないのか?」

「いいえ。ちょっと散歩にでも出ようかと思って、降りてきただけだから・・・」



 散歩にしては妙に着飾っていると思ったが、彼女は今日クリスマス・プリンセスに選ばれたのだ。もしかしたら、あちこちから声が掛かるかも知れないので服装にも気を使っているのだろう。


 ジュードは勝手にそう理解したが、シェランは自分がプリンセスに選ばれた事などすっかり忘れていた。ただ、レゼッタからもらった服を着ていると幸せな気分になれるし、ジュードにも会えそうな気がした。まさか本当に偶然出会うなんて思ってもみなかったが・・・。


 レゼッタママのおかげかも・・・。そう思ったシェランは、思い切ってジュードに声を掛けてみたのだ。



 そのまま彼が返事を返さなかったので、シェランもじっと押し黙っていた。エレベーターが今居る場所を示すランプが1階の所で点り、ドアが開いた。前に居たカップルが相変わらずにぎやかに話しながら出て行くと、急にジュードがシェランの手を掴んだ。ドキッとしたシェランがジュードの顔を見上げる間もなく、彼はエレベーターの外に走り出した。


 淡いベージュの大理石で統一された広いホテルのロビーを走りぬけ、ベルボーイが客の荷物を載せて運ぶ銀色の台が立ち並ぶガラスのドアを出ても、ジュードは何も言わなかった。


「ジュ・・・ジュード、どこに行くの?」

「散歩!」


 彼はそれだけ答えた。


 いつもSLSで見ているのと同じ、西に傾く太陽が全てをオレンジ色に染め上げる大通りを走りながらジュードは考えた。


― この人を誰の眼にも触れない所に連れて行こう。そうしたらせめて、この夕日が沈み切るまで一緒に居られるから・・・・・ ―




 道行く人々が走り抜けていく二人を指差しても、アレックスとマイケルが「おや、プリンセスとナイト、二人で何処に行くんだい?」と話しかけても、ジュードは止まらなかった。


 ホテルやカジノが立ち並ぶ大通りを抜け、巨大な葉が生い茂る熱帯樹の小道を通り、やがて視界が開けると、濃紺のカリブ海が前方に広がる砂浜が見えてきた。


 マイアミビーチよりもずっと小さな浜だが、ほとんど人が訪れる事が無い為か、細かい砂の上には誰の足跡も付いていない。そのまっさらな砂の上に海まで一直線に足跡をつけながら走り抜けると、ジュードはやっと波打ち際で止まった。



― ジュードの散歩って、いつもこんななのかしら・・・ ―


 ブレードがジュードの事を“一日中走っているような奴”と呼んだのが分かる気がする。シェランはハアハアと息を切らせながら、同じく息を切らしているジュードを見上げた。


 彼が何故かシェランを見ようとはせず、目をそらしたまま靴を脱いで中の砂を振り落とし始めたので、シェランも同じようにパンプスを脱いだ。


「ここにはノースビーチみたいな座りやすい岩は無いな」


 そう言いつつジュードは砂浜に座って足を投げ出した。


「そうね・・・」


 シェランもジュードの隣に座ると、オレンジ色に染まった砂に打ち上げる波を見つめた。



「よくあんな高い所から落ちて打ち身だけで済んだな。あの男の子も抱えてたんだろ?」

 

 ふいにジュードが言ったが、シェランはすぐに今日の舞台での事を言っているのだと分かった。


「日ごろの鍛錬の賜物よ」


 シェランはいつものように笑いかけたが、ジュードはそれ以上言葉を繋ぐことが出来なかった。



 やっと二人きりになれたのに何故言葉が出てこないのだろう。波の音があまりにも優しげなリズムを奏でているからか・・・。それともシェランの金色の髪がオレンジ色のライトを浴びて、いつもよりずっと輝いているからだろうか・・・・。


「あの・・・何だか大変だったけど、結構楽しめたよな。昼間の舞台・・・」

「ジュードはもう少しで間違った答えを言って、下まで落ちそうだったしね」


 そういえばそうだった。それにしても、シェランはどうしてあの時オレが間違えるって分かったんだろう・・・。


「あれって、ズルになるのかな?」

「いいんじゃない?どうせ勝ったのはリチャードだったし。でもあのバッカスって本当に悪党よね。どうして最後に降りてきたからって私がプリンセスになるのかしら。おまけにびしょびしょのボロボロの姿で半永久的に残るような写真まで・・・」


「あれはあの場をうまくまとめるための彼の機転だろうね」


 そう答えつつ、やっぱりシェランはクリスマス・プリンセスにはなりたくなかったんだなとジュードは思った。


「それに写真も・・・。確かに海賊城の中に飾られるのは少し恥ずかしいけどオレ達一人一人に1枚ずつくれたし、いい記念になったじゃないか」

「いい記念ですって?」


 シェランは口を尖らせた。


「生徒のアルバムの1ページに、あんな姿の写真が残る事の何処がいい記念なの?私は嫌だわ、あんな写真!」


「そうか?あれこそがライフセーバーって感じでオレは好きだけど・・・。シェランのドレスがボロボロだったのだって、リチャードの足を固定するために破いたんだろ?もし誰かがあの写真を見て“こんなボロボロのプリンセス居ないよ”って言ったらオレは言うよ。“何言ってるんだ?これこそが本当のプリンセスの姿だろ?”って・・・」


 シェランが真っ赤になってうつむくのを見て、ジュードは微笑んだ。こういう時のシェランをジュードはとてもかわいいと思う。その横顔がとても好きだ。そしてそれはきっとクリスも同じなんだろうな・・・。



 クリスの気持ちを思うと、近頃ジュードは腹立たしいと言うより切なさを感じる。彼がシェランの事を愛しているのは確かで、もしかしたらこの先シェランの横にずっと居る事になるのは彼かも知れない。だからクリスがシェランのこの横顔も、明るい笑い声も、そのすべてを独占したいと思うのは当然なのだろう。



 だけど、オレだって大好きなのにな・・・。


 だから卒業までは、時々こうやってシェランを自分ひとりが独占してもいいと思っていた。シェランが生徒の事を何よりも大切にしているのを利用して・・・。


 だが、シェラン自身はどうなんだろう。オレと居て楽しいのだろうか・・・。夏休みだってオレゴンみたいな田舎に付き合ってくれたのは義務としてだろうし、さっき食事に誘ってくれたのも、たまたま一人だったからに違いない。でも・・・。



「シェラン・・・どうしてあの時、オレが違う答えを言うって分かったんだ?」

「え?ああ、サメのクイズ?だって、ジュードの背中から“はいはいっ。それはサンドタイガーだ!”って声が聞こえてきたんだもの」


 今度はジュードが照れたように横を向いた。いや、とても嬉しかったのだ。まさにあの時、彼はその通りの答えを言うつもりだったのだから・・・。



 ジュードは大きく背伸びをすると、上げていた両手を後ろの砂浜について空を見上げた。夕日は海とグレーに変わった空の間に暗いオレンジ色の帯を作って消えようとしている。すでに小さな星粒が徐々にその姿を現し始めていた。


「シェラン、クリスマスはAチームのメンバーだけで騒ごうって言ってるんだ。シェランも来てくれる?」

「もちろん行くわよ。というより、教官の私を差し置いて騒ぐなんて絶対許さないからね。リーダーさん」

 

Yesイエス,Trainer(トレーナー).(かしこまりました、教官)」





 23日の朝、ジュードはショーンを誘って、島の東側にある巨大なショッピングセンターに出かけた。チームを代表してシェランに渡すプレゼントを買うためだ。あくまでショーンにはそう言ったが、もちろん自分も彼女にプレゼントを渡したかった。


 そんな裏心もあり、恥ずかしかったので一人で行くつもりだったが、何を買っていいかさっぱり分からなかったので、自分よりずっと女心の分かっていそうな親友を誘ったのだ。


「やっぱりアクセサリーがいいんじゃないか?一番ポピュラーだし・・・」


 とショーンが言うので、たくさんのガラスケースの中にきらびやかな貴金属が並ぶフロアーにやってきた。


― 何だかどれも高そうだなぁ・・・ ―


 すぐ横にある縦長のショーケースに一点物で飾ってあるネックレスは、まるでどこかの国の女王陛下が身につけるような高価なサファイアとダイヤで飾られていて、ひときわ輝いているように見えた。


― げっ!24万ドル?旅先でこんな高級なネックレスを買う人間が居るのか? ―



 ジュードがそのネックレスの右下においてある値札を見て青ざめている間に、ショーンはぐるっと辺りを周って来て、ジュードでも買えそうなアクセサリーを置いてある店を探し出した。


「ジュード、こっち、こっち」


 ショーンに手招きされたのでジュードが行ってみると、ピンク色で統一された店のショーケースの中には、ほとんど輝石の入っていないネックレスやピアスが並んでいた。


― さすがショーン。オレの財布の中身じゃ、宝石つきのアクセサリーなんか買えないって事、良く分かってるよ・・・ ―


 ジュードはなんとなく情けなさを覚えながらも「ジュード、これなんかどう?教官、色が白いからぴったりだぜ」と言いつつ、彼が指差しているケースの中を見た。


 金やプラチナのリングがたくさんあったが、どれも大小2つずつ並んで展示してある。マリッジリングやステディリングであった。


「ショーン、そういう冗談はみんなと居る時だけにしてくれよ」


 ジュードがうんざりした様に言った。ショーンは仲間がジュードをからかっている時、一緒に加わってはいるが、親友として2人で居る時にシェランの事を持ち出したことは一度も無かった。


 ジュードが自分に相談してくれればいくらでも相談に乗るつもりでいたが、どうもこのお固い男はみんなにバレバレにもかかわらず、―こんな気持ちは、内に秘めておくべきだ― という信念を持っているらしい。


 

 確かに卒業したら戻ってくる確率の低いマイアミで恋人を作るのは、遊び半分と取られても仕方の無い事だろう。だからよくダウンタウンで遊んでいるサムやピートでさえ、本気で付き合う女性をあの街では決して作らない。


「マジになったら、お互い辛いだけだからな・・・」


 以前サムがそんな事を言っていたが、その後彼は、ジュードみたいに・・・と言いたかったのだろうか・・・。


「俺は冗談なんか言ってないぞ。ジュードはシェラン教官の事をちゃんとまじめに考えてるんだから贈ってもいいと思っただけだ」

「ショーン・・・」


 親友の言葉にジュードは困ったようにうつむいて、ショーケースの中に仲良く並んでいる2つのリングを見つめた。


「オレは・・・・」



 ジュードが何かを言いかけた時「あら、何?教官にリングでも渡すの?ジュード」と、元気のいい声が聞こえた。エバとキャシーがいつものように2人揃ってショッピングに来ていたらしい。彼女達の両手には、すでに色々な店の名前が書かれた大きな袋がいくつも握られていた。


「そんな物、贈るわけ無いだろ?リーダーとして教官へのプレゼントを買いに来ただけだ」

「リーダーとして?」


 キャシーが妙な顔をした。


「それって、どういう意味?」

「どういうって、SLSの訓練生はリーダーになったら、担当教官にクリスマス・プレゼントを買わなきゃならないんだろ?」

「・・・・・・」



 エバとキャシーの表情を見てジュードはやっと気が付いた。そんな話題を耳ざといこの2人の女の子達が聞き逃すはずが無い。


「ジュード、あんた又こいつらに担がれたのねぇ?」


 エバに言われるまでも無く、ジュードは隣で眼をそらしている親友を睨み付けた。


「ショーンー?」

「いや、ジュード、あれは・・・分かるだろ?みんなの気遣いなんだぜ?お前ら!笑ってないでフォローしろよ!」


 ショーンはニヤニヤ笑って見ているだけのエバとキャシーに助けを求めた。


「さーあ、どうしようかしらねぇ・・・。そうだ、キャシーにこの指輪のどれかを買ってあげなさいよ。あんたならたいした金額じゃないでしょ?」

「エ・・・エバったら何を言ってるのよ!ショーンはいい加減な気持ちでこんなものを女の子に送ったりしないわ」


 エバは冗談を言ったつもりだったが、キャシーは真っ赤になって否定した。ショーンも急にいつものお坊ちゃん顔になると意地悪な瞳でニヤッと笑った。


「その通りだ。たとえ高かろうと安かろうと、そんな事は問題じゃない。僕が指輪を送る女性は世界でたった一人だ。莫大なウェイン家の財産を受け継ぐ、この僕にふさわしい花嫁じゃないとね」


「あんた、それどういう意味?キャシーじゃ貧富の差がありすぎるとでも言いたいわけ?」

「どういう意味もこういう意味も無い。言った通りだ」


「分かんないから聞いてるんじゃない」

「エバ。君、本当にSLS訓練生か?」



 睨み合っているエバとショーンの横でキャシーが「ちょっと2人とも止めてよ。こんな所で・・・」とおろおろしている。その向こう側の店の前を、Bチーム一般のラスティン・フォースとトーマス・ミラーがショーケースの中を覗きながら、少し遅れて歩いてきた自分達の教官に呼びかけた。


「クリス教官、送るんならやっぱこれですよ。このでっかいダイヤのついた奴」

「こんなの送られたら、俺、即『結婚するわ』って言っちゃいますね」


 クリスは困ったように笑いながら「お前らなぁ・・・」と言いかけて、リングのショーケースの前でじっとこちらを見ているジュードに気が付き、いきなり不機嫌な顔になった。


 ラスティンとトーマスもジュードに気が付いて“ヤバイ”という顔で互いを見た。クリスは今トーマスが指差していたケースの中でひときわ輝いている一番大きなダイヤのついた指輪をチラッと見ると、値段も見ずに店員に向かって叫んだ。


「これをくれ!」

「きょ、教官。早まっちゃ駄目です。すごい値段ですよ、これ」

「構わん、それくらいの甲斐性はある。足りなければ、ローンを組めばいい」

「きょーかんんっ!」



 そんな彼らのやり取りに目を伏せると、ジュードは黙ってショーンの側を離れた。


「ジュード、待てよ!」


 ショーンが急いで彼の後を追っていく。キャシーはそんなショーンの背中をじっと見つめた。


― この僕にふさわしい花嫁 ― 


 何故かその言葉が胸に突き刺さったような気がした。



 沈んだ瞳でショーンを見送っているキャシーを見て、エバはため息をきながら頭に手をやった。


― 全く、厄介よね。恋って奴は・・・ ―






 クリスマス・プリンセスとナイトに選ばれると、クリスマス・メモリー・ナイトという舞台に出演する事になっていたが、使用する劇場がこの間の事故で警察の検分が済むまで使用不可となってしまった為、シェランとジュードはほっと胸をなでおろしていた。


 しかしイブの24日とクリスマス当日の25日には、アトラクション・ゾーンでデイ・パレードとナイト&ナイトタウンでミッドナイト・パレードがあるので是非お二人に参加してほしいと主催者からの依頼があった。


 当然人前で目立つことが大嫌いなシェランと、人々の好奇の目にさらされるのが苦手なジュードは丁重に断った。主催者サイドも事故を起こした引け目があるのか、それ以上ジュードとシェランに無理強いするような事は無かったが、ジュードの方は相変わらず仲間達にからかわれていた。


「何でパレードに出ないんだよぉ、クリスマス・ナイトー。せめてデイ・パレードくらい出ろよ。子供達が寂しがるぞー」

「そうだぞ、クリスマス・ナイト。ここは男らしく腹をくくって白いストッキングを履け」


 昼食をとっている最中にもニヤニヤ笑いながら言ってくるピートとサムに、ジュードは真っ赤になって反論した。


「何が白いストッキングだよ!王子様じゃあるまいし、ナイトはそんなもの履かないよ!それからオレの事をクリスマス・ナイトと呼ぶのは止めろ!」

「でもさ、もしパレードに出なかったら、クリスに一日中シェラン教官を独占されるかもしれないぞ」


 レクターの脅しにジュードは少し言葉を詰まらせた。


「別に・・・構わないだろ?シェランがそうしたいんなら・・・」


 ぷいっと横を向いたジュードの顔に、ジェイミーがコーヒーキャンディ色の瞳を近づけた。


「お前、シェラン教官が25日に俺達に付き合ってくれるって言ったから安心してるだろ。そんなもの、いくらでも覆せるんだからな。たとえば、クリスがレンタカー・・・、もちろんあいつが選ぶのはちゃらちゃらしたスポーツカーだが・・・、そんなものを借りてシェラン教官をさらい、どこかのホテルに連れ込んじまったらどうする?今夜はイブだし、明日はクリスマス。間違いなく教官とクリスは、帰国の日まで戻ってこないね」


 ジェイミーの鋭い指摘に、ジュードは思わずむせ返った。


「な・・・何言ってるんだ?クリスは敬虔なクリスチャンだぞ。そんな事するはずないだろ?」


 その台詞に仲間達は絶句した後、ジュードに聞こえよがしに額を寄せ合って話し出した。


「おい、今時そんな事を信じてる奴が居るんだな」

「敬虔なクリスチャンの家に生まれたからって、そうなるとは限らんだろうに・・・」

「あのクリスを見てそんな台詞が出てくるとは、俺達はリーダー選別を誤ったのか・・・?」



 最後にノースがにっこり笑って「なぁ、ジュード。敬虔なクリスチャンだって、やるときゃやるよ?」と締めくくった時、ジュードは思わず椅子の音を響かせて立ち上がった。


「何処に行くんだ?ジュード。昼飯、まだほとんど残ってるぞ」

「食っといてくれ!」


 そう叫ぶと彼は走り出し、仲間達はニヤッと笑いながら彼の残したチキンバーに手を伸ばした。








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