第17部 海賊島のクリスマス 【3】
空港でシェランをさらわれてしまったクリスは、夕食こそ一緒に食べようと思っていたのにそれも断られ、非常に不愉快な顔で一人、ルームサービスに頼んだローストビーフを食べながら赤いワインを飲み干した。本当はシェランと共に食べる筈だったのだ。ワインの渋みがくっと喉に引っかかった後、クリスはボソッと呟いた。
「やっぱり、エバの言った通りだったな・・・」
以前、エバに「可愛い後輩が入ってよかったね」と言った時、彼女は溜息混じりに答えた。
「女の子の後輩なら良かったんですけどね・・・」
随分と妙な事を言うものだと思ったが、そういう事だったのだ。
リズがシェランに見せる執着心は、キャシーのような憧れではない。あれは恋だ。しかも飛行機を降りた時、僕からシェランを奪っていった手際の良さからいって、ずっとそのつもりだったに違いない。
さっきシェランを食事に誘った時、彼女は「ごめんなさい、クリス。今日はリズ達と約束しているの」と言った。こういう時、彼女は大抵『エバ達』とか『キャシー達』と言うはずだ。なのにリズの名前が一番に出たと言う事は、きっとあの子が「教官と一緒じゃなきゃ嫌」等と涙ながらに訴えたからに違いない。そして、それもたぶん彼女の計略の内なのだ。
「全く・・・。あれはジュードより厄介かもしれないな・・・」
今まで女性はすべて自分の味方だと思っていたのに、とんでもないイレギュラーの出現だ。ジュードはあと半年もすれば卒業だが、リズはまだ1年生だ。今シェランが担当しているAチームが卒業したら、彼女もやっと一息ついて僕との結婚も考えてくれるだろうと思っていたが、そうなるとあの子は徹底的に邪魔をしてくるに違いない。
例えその妨害を潜り抜けて結婚できたとしても、彼女のシェランに対する執着心がそう簡単に冷めるとは思えない。きっと新居にまでやって来て、「教官。エバ先輩達も卒業して居なくなっちゃったし、リズ、一人ぼっちで淋しいの。一緒に寝てもいいですか?」何て言いかねないぞ。
想像するだけで、思わず「わーっ!」と叫んでしまいそうになるクリスであった。
このままだとここにいる間、彼女はエバやキャシーと共にシェランに引っ付いて回るに違いない。
「どうすればいいんだ?」
クリスは好物のローストビーフも手につかないまま考え込んだ。
そんなクリスに朗報が飛び込んだのは、次の日の昼食をロビーと食べている時だった。一緒に連れてくる恋人も居ない独り身のロビーは、自腹でこんな高くつく旅行になど参加したくは無かったが、責任感の強い彼はCチームのメンバーがほとんど参加するので付いて来たのだ。
そんなお堅くて口下手なロビーは、クリスのような柔軟な男と昼食を食べながらするような話題は持っていなかった。訓練校内でクリスと話す事といったら、仕事の話以外には無かったし、今日はクリスの方も何だか考え事をしている様でずっと押し黙っている。
居心地が悪いまま食事を取っていたロビーだが、ふと昨日の夜、機動のメンバーから聞いた話があったのを思い出した。
「ここじゃ毎年この時期に、クリスマス・プリンセスとやらを決めるらしいが、うちの女の子達は出ないのかな?」
「クリスマス・プリンセス?何だい?それは」
クリスが興味を示したので、やっと会話の糸口を掴んだロビーは、昨日ジャックやビジーに聞いた話を始めた。
「ミス美人コンテストみたいなものらしい。優勝したら、劇に主役で出演したり、パレードに参加したりするんだ。ここには今何万人もの人間が来ているから、選ばれた女の子はさぞかし栄誉だと思うだろうなぁ・・・」
劇に出演?パレードに参加・・・?これは願っても無いチャンスじゃないか・・・。クリスは一瞬で名案を思いついた。これで、シェランをリズから引き離せるぞ。
その日シェランは、昨日見られなかったアトラクションを見た後、ジュード達Aチームのメンバーが居るであろう乗り物ゾーンにやってきていた。彼等と合流出来ればいいと思って乗り物を降りる度に辺りを見回していたが、園内があまりにも広いのと、たくさんの人々であふれかえっているのとで、他のチームのメンバーは何人か見かけたが、彼らの姿はなかった。
「おかしいなぁ、あいつら今日も乗り物ゾーンに居るって言ってたんだけど・・・」
エバが辺りを見回しながら言った。
「ねえ、あれに乗って探さない?」
キャシーが指差した方を見ると、大きな観覧車が回っている。この乗り物ゾーンを全て見渡せるような地上120mの観覧車は、40階建てのビルに匹敵する高さだ。
「高すぎて見えないかもしれませんわ」
エバやキャシー以外のAチームの男子に、シェランと一緒に過ごすひと時を邪魔されたくないリズの事は無視して、エバとキャシーはシェランの手を引っ張って観覧車に向かった。
『カリビアン・アイ』と名が付いているだけあって、頂上からはカリブ海が一望できるのだろうが、シェランはその高さを見て、思わず立ち止まって上を見上げた。幸い空いていたので、やってきたゴンドラにエバ、キャシー、リズの順に乗り込むと、係員がドアを閉めた。
「ちょっ、ちょっと待って。まだ教官が・・・」
リズがびっくりして窓際に走り寄ると、後ろのゴンドラにクリスがシェランの手を引いて乗り込むのが見えた。
「あのヤローッ!」
思わず下品な言葉を発してしまったリズは、びっくりした様に自分を見ているエバとキャシーに「おほほほ、全く困った方でございますわね」と言い直した後、悔しげな瞳で、窓越しにリズを見て軽く片目を閉じたクリスを睨んだ。
クリスは何がなんだか判らない顔をしているシェランに向かって微笑みながら、彼女の隣に座った。
「びっくりしただろう?」
「ええ。だっていきなり現れるんですもの」
シェランはもういつものように笑っている。彼はこういういたずらが好きなのだとシェランは思っていたが、クリスにとっては全てが真剣勝負だった。いかんせん自分にはライバルが多すぎる。彼にとって独身の男はみんなライバルだった。つまりロビーやほかの独身の教官も、それからAチームの男子も全員である。
おまけに、エリザベス・オーエンという女の子まで虜にしてしまうとは、全く君って人は・・・・。
クリスは内心の焦りを悟られないように、おおらかに微笑むと、周りの景色を見渡した。普通ならここで「こういうのはカップルで乗らなきゃね」等と言いつつ、相手の手を握ったりするのだが、シェランの場合、妙に意識させると逆効果だ。あくまでさりげなく、さりげなく・・・。
「君は高い所が苦手だろ?でも教官として生徒の前ではそういう所も見せられないし・・・。でも僕は友達だから、もし怖くなったら僕の肩にもたれて目を閉じていれば、あの子達には気付かれないよ」
「ありがとう、クリス。でも私、ジュード達を探さないと・・・」
― ジュード?何であいつが今話題に出てくるんだ? ―
クリスは内心ムッとしたが、もちろん顔には出さなかった。
「へえ?どうしてだい?」
「これからはみんなで回りたいの。せっかくチームで来ているんですもの。それに今夜は一緒に食事も取りたいし・・・」
Aチームと一緒に食事を取るという事は、当然クリスと食事は出来ないという事だ。冗談じゃない。一旦彼らの元に返したらシェランはもう戻ってこないぞ。
「ねぇ、シェラン。生徒は生徒同士、教官は教官同士の方がいいんじゃないかな?教官が居たら彼等だって気を使うだろう?」
― 気を使う? ―
クリスに言われてシェランは“確かにそうかもしれない”と思った。特にジュードはリーダーとして、いつも私の事を気にかけているのも確かだ。でも・・・。
「でも・・・彼らももうすぐ卒業だし、少しでも思い出を作りたいの。せめてここにいる間だけでも、チームの仲間になってはいけないかしら。教官として、本当はそんな事、駄目だってわかっているけど・・・・」
泣きそうなほど寂しそうな瞳で言われると、クリスは反論する言葉を失ってしまった。きっと彼女は彼等の事が大好きで、もうすぐ離れると思うと、寂しくて仕方がないのであろう。
ジュードの事もそれと同じ様に思っているのならいいんだが・・・・。クリスは優しくシェランの肩を抱きしめると、彼女の瞳をじっと見つめた。
「もちろんさ。彼等だって君と一緒に行きたがっているよ。そうだな、僕も今夜はBチームのメンバーと食事をしよう」
エバは外の風景にも目をやらずに窓にしがみついて、ぎりぎりと歯を噛み締めながら後ろのゴンドラを見ているリズを呆れた顔で見た後、遊園地側の窓からずっと下を見下ろしているキャシーに聞いた。
「どう?ジュード達、見つかった?」
「さあ、分からないわ。だって私・・・」
エバの方を振り返ったキャシーは目をぎゅっと閉じたままだった。
「あんた、まさかずっと目を閉じてたの?」
「5mくらいならヘリから海に飛び降りる訓練でよく飛んでるから平気なんだけど、さすがに30m超えるとちょっと・・・・」
だったら何も外を向いたままでいなくてもいいだろうと思ったが、きっとキャシーは怖くて動けなかったのだろう。
ゴンドラが頂上に着くと、シェランはクリスから目を放して、恐る恐る外を覗き込んだ。ゴンドラの左側はまるでおもちゃの王国の様に小さくなったジェットコースターなどの乗り物が、砂粒のように小さくなった人々を乗せて動いている。そして右側は遥か彼方まで続くカリブ海が、明るい日差しを受けて金色に輝いていた。
遠くに霞むように見える島々と、その島々を巡る白い帆を掲げて浮かんでいる帆船が、まるで絵の中の世界のようにシェランの目に映った。
高さも忘れて、夢見るように海を見つめているシェランの横顔を、クリスは溜息が出るほど美しいと思った。
「シェラン、クリスマス・プリンセスの話は聞いた?」
「え?」
外の風景に魅せられていたシェランは、一瞬、何の事か分からないような顔でクリスを振り返った。
「シェランが選ばれたら、Aチームの訓練生は自慢だろうなぁ・・・。彼らの為にも出るだろう?」
「い、いいえ。私はそんな・・・・。それに落ちたら反対に、彼らの恥になってしまうわ」
「君なら大丈夫さ。それにもし落ちたとしても、彼等はきっと君の事を誇りに思うよ」
シェランにはクリスの言っている事が良く分からなかった。どうして落選する事が彼らの誇りになるのだろう。
「そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど、もしまかり間違ってそんなものに選ばれてしまったら、みんなと一緒にいる時間が無くなってしまうわ。それに、たくさんの見知らぬ人と過ごすより、今の私は彼らと一緒にいる時間の方が大切なの」
シェランはそう言ってうつむいてしまった。どうやら話の選択を間違えたようだ。よくよく考えてみれば、彼女が選ばれたら確かにリズやAチームから引き離す事が出来るが、自分とも一緒に過ごす時間も無くなるのだ。
「悪かったね、君の気持ちも考えないで。ただ僕は君が、クリスマスに楽しい思い出を残せると思っただけなんだ」
「ええ、わかっているわ」
シェランは微笑むと、係員がドアを開けたので立ち上がった。先に下りていたリズが、さっと走り寄ってシェランの腕を掴むと、“油断も隙も無いわ”と言わんばかりの瞳でクリスの方をちらりと見た。
「教官、早くAチームの先輩達を探しましょ?」
さっきまで合流を拒んでいたくせに、クリス一人にシェランを独占されるくらいなら、Aチームの男子の方がましだと思ったらしい。
クリスは生徒達に囲まれて去っていくシェランをただ見送った後、口惜しそうに頭を抱えて呟いた。
「全く・・・。この僕ともあろう者が・・・」
せっかく二人っきりになったのに、つまらない話題で終わらせてしまったなんて、クリストファー・エレミス一生の不覚だ。これでリズは更に用心して、簡単には近づけなくなってしまった。おまけにAチームと合流したら、あいつが居るじゃないか・・・・。せっかくこの1ヵ月半の間、ジュードにシェランを近づけないようにしてきたのに、水の泡だ。
「さて・・・どうしてやるかな・・・」
暗くなる直前まで乗り物ゾーンでAチームのメンバーを探したが、結局彼らを見つけることが出来ないまま、シェラン達はホテルまで戻ってきた。
丁度、フロントで鍵を貰っている時、ウォルターが技術研修館の教官のマイケル・ウッドワースとアレックス・ロウと共に戻ってきていた。いい年をした男同士で、こんな所に来て楽しいのだろうかとエバやキャシーは思ったが、彼らの服にも自分達と同じ、1週間使えるフリーパスカードが下がっていたので、ご心配には及ばないらしい。
SLSの中でたった4人しか居ない女性が全員揃っているので、マイケルがここぞとばかりに聞いてきた。
「やあ、君達。クリスマス・プリンセスにはもう応募したのかい?」
思わず眉をしかめたシェランを見て、他の3人は顔を見合わせた。しかし、マイケルやアレックスは、シェランのそんな表情など気付くはずも無かった。
「みんな楽しみにしてるぜ。うちの女の子達はみんなレベルが高いから、きっと誰かが選ばれるって」
「中でも君は最有力候補かな?」
アレックスはシェランに笑いかけたが、シェランは腹の奥からムカムカとした感情が沸いて来て、いつものように愛想良く返答する事は出来なかった。
シェランはきりっとした顔をすると「そんなものには出ません!」と言い捨てて、あっけにとられているマイケル達に背を向け、エレベーターホールに向かって勢いよく歩いて行った。
― どうしてみんなしてクリスマス・プリンセスの話ばっかりするのかしら! ―
部屋に戻ってきたシェランは、胸まで上がってきたムカムカを押し留める事が出来ずに、部屋の隅に置いてあるスーツケースを勢いよく開いて、じっと中を見つめた。旅行前に片付けた筈のピンク色のリボンの付いた白いカットソーが入っている。それに合わせてピンクのレースの付いた膝丈のジーンズも入っていた。
やっぱり諦め切れずに持ってきてしまったのだ。だが着ていく勇気が無くて、今日もそのまま置いてきたのだった。それを見ていると急にジュードに会いたくなった。
彼は以前高校のミスコンに出なかった話をした時「いいんじゃない?そんなものに出なくても・・・」と言ってくれた。その後の台詞を思い出すと、今でもシェランは赤くなってしまうのだが、きっと彼なら今回もそう言ってくれるだろう。
高校の時は本当に嫌だったのだ。みんなから何故出ないのか、しつこいほどに問い正され、挙句『何か出られないほど身体に異常がある』とまで言われ、とうとう『鉄の女』とあだ名を付けられた。シェランは小さくため息をつくとその服を手に取った。
「ジュード、何処に居るの?」
こんな小さな島の同じ建物の中に居るはずなのに、ここに着いてから一度も顔を合わせていなかった。
ドアを遠慮がちにノックする音が聞こえてシェランが浮かない顔のまま出て行くと、エバとキャシーが立っていた。
「あ、あの教官、大丈夫ですか?さっき・・・」
エバが口ごもった。2人が心配して来てくれたのだと分かって、シェランは彼女達を招き入れた。
「さっきはごめんなさいね。急に帰ってしまって・・・」
「いいんですよ。全く、マイケル教官もアレックス教官もデリカシーが無いんだから」
エバは操船課の授業も取っているので、航空機課のアレックスや技術装備課のマイケルの事もよく知っていた。
「いいえ、私こそ大人気なかったわ。それよりルームサービスでも取りましょうか。今夜はここでおしゃべりしない?」
「はいっ!」
エバとキャシーの元気な返事を聞いて、シェランがベッドサイドの電話に手を掛けた時、キャシーが叫んだ。
「キャア、教官!この服、とってもキュートだわ!」
シェランはハッとして後ろを振り向くと、あわてて受話器を置いた。スーツケースの蓋を開けっ放しにしていたのだ。
「あ、そ、それは・・・」
シェランは駆け寄ると、急いでスーツケースを閉めた。
「ちょっ…ちょっと間違えて持ってきてしまったの。教官らしくないでしょ?」
「いいじゃないですか、せっかくリゾートに来ているのに、白のブラウスと黒のスラックスなんて変ですよ」
“変”という言葉に、シェランはドキッとして思わず自分の服を見た。教官らしく地味な服装を心がけたのだが、これは変だったのか・・・・。
「変・・・だったかしら・・・」
「変ですよ。ここは南海の楽園なんですから、もっと派手な格好をしたっていいぐらいです」
「だから、明日はこれを着て行きましょうね。ジュード達には今夜の内に、明日は一緒に回ろうって言っておきますから」
エバとキャシーには、シェランがその服を間違えて持ってきたのではない事がすぐに分かった。どう考えても、上下揃えた服を間違えて入れてくるはずが無い。シェランは2人に服を着る許可を貰えて嬉しそうに微笑むと、再び受話器を取ってルームサービスを注文し始めた。
「教官、きっとジュードに見て欲しかったのよ。かわいいわね」
エバがこそっとキャシーの耳に囁いた。
「何とかクリスとリズに邪魔されないように、2人だけにしてあげられないかしら」
「難しいわねぇ。クリスの方こそ、この期に教官とステディな関係になろうと思っているだろうし、リズは相変わらず、教官に近付く男は徹底的に排除するつもりだしね」
エバの言葉にキャシーは首をすくめた。
「正に前途多難だわ・・・」
その夜ジュードは、サミーや他のチームの1、2年生達と『ナイト&ナイトタウン』に来ていた。ここは夜の7時から営業を開始する大人の為の町で、たくさんのレストランやバーは全て朝5時まで営業している。そして、深夜0時には中央の広場でカウントダウンイベントがあり、午前0時から10分間、無料でビールが振舞われ、その後ダンスショーなどの様々なイベントを毎日行っているのだ。
中央広場の見える大きな屋根と柱だけで構成された、広いオープンタイプのレストランは今、人々の笑い声や話し声で溢れ返っていた。テーブルの上に山積みにされた食事や酒を飲みながら盛り上がっている訓練生達を見回して、ケーリーはいつものさわやかな笑顔と、手にはビールの大ジョッキを持って立ち上がった。
「いいか、お前等。ライフセーバーは水に強くなくてはいけないが、酒にも強くなくてはいかん。0時からの10分間で一番たくさん飲んだ奴は、その後の飲み代は全て俺が奢ってやるぞ!」
訓練生達の歓声を聞きながら、ご機嫌で大ジョッキのビールを飲み干したケーリーは、すでに自分の前のテーブルの上に空のジョッキを6つ置いていた。そのテーブルの向こう側に座っているリー・ヤンセンも穏やかに微笑んでいたが、自分用のアーリータイムズを一本買って、それをすでに3分の2ほど飲んでいた。
ピートやサム、他にも酒に強いと自負している者達は0時のカウントダウンまで待てず、ケーリー等と同じようにビールを飲んで盛り上がっていたが、ジュースならともかく、酒飲み大会に出場しても勝ち目の無いジュードやショーンは、酒より食い気に走っているマックスと共に、山盛りになったチキンバーやポテトを頬張って明日の予定を立てていた。
「明日はプールゾーンに行かないか?ここのプールは海賊の隠れ家風になっていて、たくさんの洞穴の中にあるんだって」
ショーンがフィッシュフライを丸ごと口に入れながら言った。
「波のあるプールじゃサーフィンも出来るくらいの高波が来るんだぜ」
マックスが海賊のドクロマークが焼印で押してあるビッグハンバーガーを食べながら言ったが、彼はもう3個もそれを食べていた。
「じゃあ、決まりだな。水着とタオルと・・・キャップはいるのか?」
ジュードの質問にショーンとマックスが首をかしげた時、「そんなもの、いるはず無いだろ?」と言いつつ、ノースがジュードの肩を掴んだ。
「残念だがプールは又今度だ。明日の予定はもう決まったぜ」
ダグラスがショーンの前にあるフライドポテトを、横から手を伸ばして掴み取った。
「今、エバから電話があってさ、もう怒り狂ってるんだ。『あんた達!一体今まで何してたのよ!ずっと電話してたのに!』って・・・。どうやら今日1日中、乗り物ゾーンで俺達を探し回っていたらしいんだ」
彼らの携帯は衛星回線を使っているとはいえ、こんな南海の孤島で通じるものではないので、皆部屋に置きっぱなしである。世界中何処でも使える携帯を持っているのは、Aチームではシェランとノースだけであった。エバはシェランの携帯でずっとノースの携帯に連絡をしていたのだが、遊ぶのに忙しかった彼の耳には届かなかったのだ。
ジュードとショーンは訳が分からずに顔を見合わせた。
「エバが怒っているのとプールが中止になるのと、どう関係があるんだ?」
「明日は教官も一緒にアトラクションゾーンに行くんだってさ。海賊城のミスコンがあるんだと」
「そんなものを見て、何が面白いんだ?」
全く興味の無いジュードは眉をひそめた。
「俺達の好みより女達の好みが優先なんだ。あいつらを怒らせると面倒だろ?それに、たまには付き合ってやらないとな」
ネルソンの言う通り、確かに彼女達を怒らせると後が面倒だ。
「でも、シェランはミスコンに出るのなんて大嫌いなはずだけどな」
「出場するのと見ているだけとは違うんだろ?とにかく明日は1日開けといてやれよ」
そう言った後ネルソン達は、そろそろカウントダウンイベントが始まるので広場の方に出て行った。
― シェランが来るって事は、当然クリスも一緒に来るんだろうな・・・ ―
そう考えると、マイアミのレストランで親密そうに手を握っていた2人の姿を思い出してしまう。うかない顔で30cmもあるジュースのカップに手を掛けると、広場から「ワーッ」という歓声が聞こえてきた。午前0時になったのだ。
色とりどりの紙ふぶきが舞い散る中、ビールのジョッキを持った人々がグラスを交わして一気に仰いでいる。
「ジュード、俺達も行こうぜ」
マックスとショーンに促されて、ジュードは立ち上がった。