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SLS  特殊海難救助隊  作者: 月城 響
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第17部 鉄人競技会 【3】

 競技を行なっている海岸から少し離れた白いテントの下で、エダース校長は事務員が持ってきたコーヒーのカップに手を伸ばした。どんな暑い日でも彼はホットコーヒーを飲むし、こんな場所でも愛用のロイヤルコペンハーゲンで味わうのを止めなかった。


 わいわいと楽しそうな喧騒が聞こえてくるのをボーっと見つめながら彼はコーヒーを一口すすると、ふと思いついたように呟き始めた。


「いいなぁ・・・。やっぱりスポーツってのは見ているだけじゃ駄目だ。参加してこそ意義があると思わないかい?」


 誰に言っているのか分からなかったので、技術研修館の教官達は目を丸くしたものの、誰も返事をしなかった。


「参加されたいのですか?皆さん、とても楽しそうですものね」


 ウォルターの側に立っていた、事務員らしき女性が答えた。金縁の眼鏡が個性的で、太陽を受けてキラリと眼鏡が光ると、いかにも才女という雰囲気が漂った。


「うん、そうだな。ビーチリレーに出よう。誰か私と一緒にリレーに参加する教官はいないかなぁ・・・」



 ビーチリレーは4人1組になって、90mの直線を競争する競技だ。バトンの受け渡しが変わっていて、すれ違う時にバトンを渡すので、そこがポイントになる。


 受け渡しはスピードを殺し、受け取ったら直ぐにトップスピードを上げる。後は足の速さとチームワークが物をいう競技で、ここに居るライフセーバー出身でもない教官達では、どう考えても砂に足を取られてスッ転び、恥をかくのが見えていた。



 皆押し黙って何も言わないので、ウォルターの傍に立っていた女性が、にっこり笑って提案した。


「それでは、校長先生と一緒にビーチリレーに出る教官を放送で呼びかけましょう」

「そうしてくれ、ミス・ブラシェット」


 ミス・ブラシェットと呼ばれた女性は、再びにっこり微笑むと、潮風に金色の髪をなびかせながら本館に向かって歩き始めた。10cm以上のヒールを履いているのに、この砂浜をよろめきもせずに颯爽と歩いていく後姿に技術研修館の教官達は“彼女がリレーに出れば最強かもなぁ・・・”と思った。




 レスキューチューブ・レスキューレースを終えて、各チームが自分のチームに入った点数を見て盛り上がっていると、突然本館の方からサイレンの音が流れてきて、皆は驚いて押し黙った。


『競技を応援中の教官の皆様に御連絡いたします。次に行われるビーチリレーに、校長先生が参加される事になりました。あと、3名のメンバーを募ります。我こそはと思われる教官の方は、至急本部テントの校長先生にご連絡ください』


「校長先生って・・・あの校長先生?」


 訓練生達はびっくりしてひそひそ話し合った。


 レスキューチューブでビリになってしまったBチームの前に立ち、拳を振り上げながら怒鳴っていたアダムスは、その放送を聞いて鼻の上を歪めた。


― 何を考えておるんだ、あのお調子者のバカ校長は! ― 


 ぎりぎりと歯を噛み締めながら彼は頭の中で考えを巡らせた。周りの教官達はみな押し黙って、とても立候補する雰囲気ではなかった。このままでは校長は、あきらめる所か自分から選びに来るかもしれない。


 彼はぐるりと周りを見回した。


 あの男の事だ。自分に実力が無いように見られるのが嫌で、同年代の人間を選ぶに違いない。…とすれば私と、48歳のデリー、それとちょっと若いヤンセンって所だな。だが待てよ・・・。


 彼は更に海岸沿いに設けられたビーチリレーの90mのコースを見て考えた。


 あの気分屋がもし負けるような事になってみろ。『ドリーミィ・ワールドに無料御招待?そんな約束をした覚えは無いなぁ・・・』等と言いかねない。冗談じゃないぞ!もう孫にグランパ(おじいさん)が絶対に連れて行ってやるって約束したってのに!



 彼は自分のBチームにぐるりと背を向けると、サミーやザック等とわいわい盛り上がっているクリスの方へ行き、いきなり彼の腕を掴んでチームの中から連れ出した。


「アダムス教官、どうなさったんですか?」


 クリスがびっくりして聞いたが、彼は無言のままCチームの方へ歩いていった。そして今度はもう片方の手でロビーの腕を掴み、Aチームに向かって歩き始めた。



 まるで燃える闘牛の如く、アダムスが2人の教官を従えて(引っ張って)こちらに向かって来るのをシェランは悪い予感にかられながら見つめた。彼は無理やり引っ張ってきた若い教官達の腕をやっと放すと、3人に向かって命令した。


「クリス、ロビー、シェラン。お前達が校長と一緒に出るんだ」


「え?し、しかし、ここは校長先生と同年代のほうが…」実力も均衡しているし・・・とロビーが言おうとしたが、アダムスは遮った。


「ここは君達のような若者が行って、校長先生を盛り立て差し上げなくてどうする。さあ、行って来い!校長先生がお待ちかねだぞ!」


 彼等はアダムスに追いたてられるように、いや正に追い立てられて、校長のいるテントに向かった。




 テントで観戦している教官達は参加するつもりなど全く無かったので皆ジャージ姿であったが、3人がやってくるのを見た校長は立ち上がっていきなり服を脱ぎ始めた。周りに居る教官達があっけにとられて見ていると、校長はちゃっかり自分だけTシャツの下に水着を着込んでいる。彼は持っていたシャツを投げ捨てると高笑いをしながらシェラン達の方へ歩いていった。


「校長、やっぱり最初から出場するつもりだったんだぜ」


 航空機課のアレックス・ロウが隣に座っている、同じ課のフレッド・マクアニーに囁くと、彼も片目を閉じて笑いながら頷いた。


「ハッハッハッハッハ、良く来たな。3年の教官ばかりか、丁度良い。訓練生達に3年の担当教官の実力を見せてやれ」

「は・・・はぁ・・・」


 校長は高笑いを繰り返しながら、リレーのコース前に集まっている訓練生の所まで行くと、にやっと笑って選手らを見回した。 


「せっかく私が参加するんだ。よりおもしろくしてやろう。この私の『SLS最強校長チーム』(いつの間にか勝手な名前が付いている)に勝てたら、そのチームにご褒美として、追加ポイント20点を与えようじゃないか」


 訓練生達はざわめいた。20点といえば最高得点のアイアンマンレースと同じポイントだ。つまりこれに勝てばアイアンマンレースでの結果が悪くても、勝つ見込みがある。反対にどちらも点数を取れなければ負ける確立が高くなるのだ。



 訓練生達の目つきが変わったのを見てシェランはむっとした。


― まあ、この子達ったら、私達に勝つつもりね? ―


 クリスは内心にやっと笑った。


― 20ポイントか。じゃあ、もしBチームが勝てそうだったら、バレない様にちょっと手を抜いてやろう ―


 ロビーは悩んでいた。


― ここでわざと負けるのは教官として気が引ける。しかしチームの為には仕方がないのでは・・・ ―


 そんなクリスとロビーの心中を見透かしたように、校長は彼等の耳元でぼそっと呟いた。


「もしSLSの最高学年を指揮する教官が、みっともなくも訓練生などに負けるような事があったら…ドリーミィ・ワールドどころか、ボーナスの査定にもひびくだろうなぁ。フロリダは夏だが、懐の寒いクリスマスを迎えるのは辛いだろうねぇ」


― つまり、まかり間違って訓練生に負ければ、たとえチームが優勝しても置いてきぼりで、しかもボーナスカット・・・!何て恐ろしいんだ ― 


 クリスとロビーは息が止まったように青ざめた。


「大丈夫ですわ、校長先生。例え、天地が引っくり返っても、私達『SLS最強校長チーム』が負けるはずありませんもの。そうよね!クリス、ロビー!」


 後ろに居る彼らを振り返ったシェランの目は、まるでガスバーナーの炎のように一直線に燃え上がっていた。


「あ、ああ。そうだともシェラン。僕達の実力をあいつらに見せてやらなきゃね」

「お、おお。燃えるな!」


 もう後には引けなくなったクリスとロビーであった。



 それぞれのチームの出走順は以下の通りである。


Aチーム

1年  ハロルド・ポーター(潜水)

2年  ケビン・アスコット(潜水)

2年  ミシェル・グレイン(機動・副リーダー)

3年  ショーン・ウェイン(機動)


Bチーム

2年  マーティン・スチュアート(機動)

2年  エネディ・カートラー(潜水)

2年  ラット・ゲート(機動)

3年  ロバート・メイヤン(機動)


Cチーム

2年  ポール・デライトン(機動)

2年  バリー・ホールズ(潜水)

3年  チャック・ギブソン(機動)

3年  ビジー・シンプソン(機動)


SLS最強校長チーム

シェルリーヌ・ミューラー(3年Aチーム教官)

ロビー・フロスト(3年Cチーム教官)

クリストファー・エレミス(3年Bチーム教官)

ウォルター・エダース(校長)



 第1走者のシェランがビーチリレーやビーチスプリントの為に用意されたトラックに立つと、途端に訓練生チームが仲間を応援し始めた。


「行けーっ!ハロルド!」

「マーティン!鬼教官なんかやっつけろー!」

「シェラン教官なら絶対勝てるぞ!ポール!」


― あの子達ぃぃぃ・・・ ― 


 シェランはムッとしたように頬を膨らませた。Aチームの一番前で走り回っているジュードもハロルドを応援しているのを見て、シェランは更にムッとした。


「なによ、ジュードまで。もう、絶対に負けないんだから」



 チームの前で拳を振り上げながらハロルドを応援しているジュードの側に、ジェイミーとマックスがやって来た。


「ショーンを最終ランナーに持ってきて大丈夫かな。あいつ競技会ってだけで、だるそうだったからな」

「競技もこれしか出てないしな。ほら、この競技が20ポイント付いたってのに、全然やる気なさそうだぞ」


 ジュードがトラックに目をやると、確かにショーンは面倒くさそうな顔をして、首をひねったまま空を見上げている。


「おい、ジュード。お前、励まして来いよ。これに負けたらやばいんだからさ」

「大丈夫だよ。ショーンはああ見えても、やる時はやるんだぜ」


 ジュードはショーンを信頼して言ったが、マックスとジェイミーは彼の性格をよーく知っていた。


「確かにあいつは本気を出せば凄いんだろうが、本気を出すにはある一定の条件がいるんだ」

「一定の条件?」

「そうだ」


 マックスとジェイミーはジュードの顔に互いの顔を近づけた。


「ほら、見てみろ。あのいかにも僕はやる気ありませーんって態度を」


 ジュードがもう一度見ると、ショーンは他の選手のように準備体操をするでもなく、互いにけん制しあって睨み合うでもなく、何処を見ているのか分からないような目で空を見上げている。彼等の言う通り、本当にやる気がなさそうに見えた。


「分かっただろ?あいつがこの競技を選んだのだって、4人プレーだから責任も少ないし、無理しなくていいからに決まってるんだ。個人的にお前が激励に行かなきゃ、絶対やる気なんか出さないぞ」


「これを落としたらやばいんだからさ。行って来てくれよ、ジュード」



 マックスとジェイミーに言われて、ジュードはトラックに向かって走り出した。早く行かないとスタートの合図がかかってしまう。


「ショーン!」


 ジュードはボーッと上を見ている親友の名を叫ぶと、彼の両手を握り締めた。


「ショーン!お前なら絶対1位を取れる。オレは信じてるからな!」

「・・・」


 ショーンは黙ったままジュードを見ていたが、ちょっと横を向くと疑り深い目で彼を見上げた。


「ホントーに僕に勝って欲しいと思ってる?ジュード。本当はシェラン教官に勝って欲しいんじゃないのかい?ジュードが教官に勝ってほしいなら、僕は別に負けても構わないけど」


 ショーンは時々訳の分からない事を言う。彼は重要な責任や、絶対やらねばならない、という状況がどうも苦手な様だ。


「はあ?そんな訳無いだろ?大体お前の相手はシェランじゃなくて校長だぞ。いいか、絶対気を抜くなよ。あの人はタヌキだからな。何か企んでるかもしれないぞ」


 ショーンはにっこり笑うと「わかった」と答えた。


「頼んだぞ、ショーン。見ているからな」



 ジュードが帰りながら校長チームの前を横切ると、シェランがちょっと怒った様な顔でこっちを見ていた。彼は何食わぬ顔で走り抜けながら、彼女にだけ見えるように“がんばれ”とサインを送ると、そのまま走り去っていった。シェランは少し赤くなった頬を隠すように、鼻の頭を2、3回こすった。




 スタート地点の線上にハロルド、マーティン、ポール、シェランの順に並ぶと、辺りはいきなり静まり返った。


「レディ…」


 笛の音と同時に各チームから激しい応援合戦が始まった。余りの喧騒に誰が誰の名を呼んでいるのかさえ全く分からない状況だ。


 シェランはまるで砂の上を走っている事を感じさせないほど軽やかに、その俊足を生かしてトップに躍り出た。


 くそっ、女に負けてなるものか!


 ハロルド、マーティン、そしてポールは全速力で砂の上を駆け抜けた。ハロルドが2位に付けた途端、砂に足を取られてころがった。チャンスとばかりに2年のマーティンとポールが彼を追い抜かす。しかしハロルドは転がったが転倒せずに、まるで体操の選手が前方回転するように立ち上がると再び走り出した。


「ハロルド、ナイスだ!そのまま行けー!」


 その間にシェランは2往復目に入った。彼女はポールやマーティンも全く寄せ付けないスピードだ。


「こりゃ、負けないわよって豪語するだけはあるなぁ・・・」


 自分のチームの教官が頑張っているのを見ると、Aチームのお人好しメンバーはやっぱり応援したくなってしまう。最初はキャシーとエバの2人だけだったのが、いつの間にかシェランへの応援の声も混じってきた。


「シェラン教官!がんばれー!」

「それでこそAチームの教官だー!!」



 みんなの応援を受けてシェランは益々勢い付くと、あっという間に2往復目のチェンジオーバーゾーンに到着した。反対側からロビーが出走する。2人はトラック中央で見事といわんばかりのバトンの受け渡しをした。


 その後すぐにBチームとCチームも第2走者にバトンを受け渡す。Aチームはやっと今、第2走者が出た所だ。


 前方からケビンが走って来るのを見ながら、ハロルドは絶対にバトンを落とせないと思った。自分は一度ころんで遅れているのだ。二度と失敗は出来ない。彼は何度もリー教官に教えられたバトンの受け渡しのシーンを思い浮かべた。


 渡す手前で減速、第2走者が受け取った瞬間、すぐにトップスピードを上げられる様にうまく渡さなければ・・・。



 ケビンがもうすぐ走り込んで来る。彼はバトンを差し出して「ケビン先輩。行きます!」と叫んだ。


「おうっ!」


 答えるとケビンは今までの中で一番見事にバトンを受け取り、再びスピードを上げた。



 残念な事に、ロビーはシェランほど俊足ではなかった。彼は徐々に間を詰めてきた、エネディとバリーに2往復目で追い抜かされた。ケビンも負けてはいない。少しずつであったが、ロビーに追いついていく。ロビーもせっかくシェランが守った1位を取り戻そうと、ドカドカと足音を響かせながら必死に走った。


 4人がほぼ同ラインに並んだ時、第3走者も走り出した。Aチームは俊足のミシェルだ。


「副リーダー!頑張れ!」


 皆の声援に混じって、普段おとなしいリー教官も立ち上がり、両手を握り締めながら叫んだ。


「ミシェル!行くんだぁぁー!!」



「行かせるか・・・」


 バトンを受け取ったクリスは、にやっと笑うと誰よりも早くトップスピードを上げた。ミシェルもチラッと後ろの2人を見た後、ケビンから余裕でバトンを受け取り、クリスを目指してスピードを上げた。



 Bチームから第3走者のラットとクリスを応援する声が聞こえた。やっぱりチームの担当教官には負けて欲しくないものだ。ミシェルとクリスが並んだ。どのチームからも必死に仲間を応援する声が聞こえる。 



― あの人はタヌキだからな、何か企んでるかもしれないぞ ―


 ジュードの言葉を思い出したショーンが、ロバートとビジーの向う側にいるウォルターを見ると、その視線に気付いたのか彼も横を向いてショーンを見た。


― 俺に挑戦するのか?ひよっ子め・・・ ―


 彼の口元がそう動いたように見えた。ショーンはむっとしたように鼻先を膨らませると、右肘の下に左の拳を押し付けた。


― 受けて立つ! ―

 



 第3走者がチェンジオーバーゾーンに入った。クリスとミシェルがほぼ同時だ。その後をこれもまた同時にラットとチャックもユーターンする。ウォルターとショーンがスタートを切り、その後すぐにロバートとビジーが走り出した。ビジーの速さにロバートは徐々に遅れだした。



 ウォルターはどんなに若く見ても、50代前後で、ショーンより30才は年上のはずだ。なのにショーンはどうしても彼を追い抜くことが出来ずにいた。


 コーヒーのように濃く焼けた足の隆々とした筋肉が、砂を踏みしめる度にしなやかにしなっている。足と同じくらい太くたくましい腕を振るたびに、スピードが上がってきている様だ。



 ショーンは実の所、競技会なんて全く興味が無かった。もともと争いごとは余り好きではなかったのだ。こんな事で優劣を決めて何がおもしろいんだろう、とずっと思っていた。だが彼は今初めて、ジュードがやっていた特訓をもっとまじめに受けておけば良かったと思った。自分より30近く年上の人間に走り負けするなんて・・・。



― 冗談じゃないぞ。このまま負けるなんて絶対嫌だ。ジュードだってチームの仲間だって期待して見てるってのに・・・! ―


 ショーンは歯を食い縛ると、バトンを握る手に力を込め、更に腕の振りを早くした。


「負けないぞぉぉぉ!」


 3位のビジーも必死に追いついてくる。2回目のユーターンで、3人はほぼ同時に並んだ。応援団の声援も益々白熱していく。自分の荒々しい息が耳元まで迫ってくるように聞こえた。


― ブラックアウトしたっていい。勝つんだ! ―


 あと5m・・・!


 その時ショーンの瞳の端に、汗をきらめかせながら走る校長の背中が映った。



 勢い良くオーバーゾーンを走り抜けたショーンは、息を切らせながら倒れこんだ。その後ろでビジーとロバートも倒れこみ、激しく肩を揺らしながら砂の上にうつぶせになった。


「はーっはっはっはっは、まだまだ甘いな、訓練生諸君」


 彼らの後ろから現れたウォルターは、息も乱れていなかった。


「この私に勝って20ポイントもぎ取ろうなんて、100万光年早いと思い知っただろう。まッ、せいぜいこれからも励む事だな」


 再び高笑いを残して教官テントに引き上げていく校長を、砂の上にやっと起き上がったショーンやビジーは黙って見送った。普段ならこんな憎たらしい言葉を浴びせられたら、一言二言お返しに何か言ってやる所だが、もはや完敗としか言いようが無かった彼らは、ただハァハァと息を切らせるのが精一杯だった。


 そしてショーンは「凄いや・・・」と呟くと、再び砂の上に後ろから倒れこんだのだった。




 結局、校長チームが優勝した為に、どこのチームにもボーナスポイントは入らず、ゲームは振り出しに戻った。


 その後に行われたサーフスキーレースやビーチスプリント等も盛況のうちに幕を閉じた。現在のトップはBチーム。その後を2点差でCチームが追っていた。そして更に3点差でAチーム。どのチームも、一歩も譲らない体制である。



 CPRコンテストで、トーマスとスチュワートは3位、サム、エバ組は、Cチームのエネミー・テスとマイケル・ハーゲンに僅差で破れ2位だった。


「おかしいわね、私のCPR技能は最強なのに・・・」


 

 近頃エバは2度目の1級海技士試験に落ち、いい事無しだが、“開き直り”という言葉を覚えた彼女は気長に成長することにした。のんびり者の集まりの中に居ると、自分だけあせっているのがバカバカしくなるらしい。


 エバはもう出場する種目は無いので、後は応援に徹するのみだ。この後の競技は全て高得点の競技ばかりだ。現在の順位などすぐに覆せるし、又覆されたりするのだ。



「さあ、ヤロー共!これからが勝負よ!」


 エバは連合Aチームの前に仁王立ちすると、次の競技に出場する選手の名を叫んだ。


「ジュード!アントニー!カート!ラン・スイム・ラン!!」







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