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SLS  特殊海難救助隊  作者: 月城 響
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第1部 A HARD DAY 【5】

 丁度到着していたSLSの救護ヘリにレナを運んでもらえたので、シェランはジュードや仲間達とライフシップでマイアミの港に戻ってきた。ジミーが船の操船を行なっていたコンピューターを借りて、エバが船を操って帰ってきたのだ。


 迎えに来ていた救急車が採掘場の怪我人を搬送していくのを見送った受験生達は、ホッとした途端、思わずその場にへたり込んでしまった。いつもムッとした表情を崩さないアズマも疲れきった顔をしている。


 こうなると気がかりなのは自分達の受験結果であった。試験の為の時間は、とっくに過ぎているだろう。太陽は既に明るいオレンジ色の斜光を彼等の顔に照らしかけながら、マイアミの町並みの向こうに消えようとしていた。


「やっぱ・・・もう、だめかな・・・」

「受験中に行方不明だもんなぁ・・・」


 落ち込んだように呟く受験生の後ろから、シェランが明るい声で言った。


「大丈夫よ。みんな凄く頑張ったもの。SLSだってちゃんと説明したら分かってくれ・・・」


 話の途中で急に力を失ったように、シェランはその場にしゃがみこんだ。側にいたジュードが驚いて彼女を支えたが、シェランは既に気を失っていた。エバやキャシーも慌てて彼女の側に駆けつけた。


 ジュードは最初訳が分からなかったが、彼女の背中が妙にぬるっとしていたので、自分の右手を見ると、血がべっとりと付いていた。シェランの服は黒だったので、血がにじんでいたのに誰も気付かなかったのだ。


「お前、まさかあの時・・・」


 海の中で鉄骨がシェランの背中を直撃した時、彼女は深手を負ったのだが、戻ってくるまではと気を張り続けていたのだろう。本人も気付かない内に出血していたのだ。ジュードの右手に付いた血を見てエバはぎょっとした。


「酷い血。輸血が必要かも」

「救急車は?」


 キャシーが叫んだが、全て怪我人を乗せて帰ってしまった後だった。


「SLSの本部に連れて行く。あそこなら医療設備もある筈だ」


 ジュードはシェランを抱きかかえると走り出した。






 SLSはその専用の港に面した位置にあるが、不慣れなエバが操船したせいで、本部から少し離れた港に彼等は戻って来ていた。ジュードはシェランの温かい血が自分の腕ににじんでいくのを感じながら懸命に走った。


「死ぬなよ、シェラン。絶対に死ぬんじゃないぞ!」




 本部隊員が出動する時に使う海側の入り口から中へ入ると、ジュードは叫んだ。


「誰か、この人を助けてくれ!」


彼の叫び声を聞いた本部の人間がすぐに連絡を付け、彼女は大勢の人々に囲まれながら担架で運ばれて行った。ジュードが激しく息を切らしながらその場にしゃがみこんでいると、25、6歳の男性がやって来て彼の肩に手を置いて微笑んだ。


「よく頑張ったね。彼女はもう大丈夫だよ。ありがとう」


 その男性が去って行った後、ジュードは壁にもたれて力が抜けたように笑った。


「ありがとう・・・か・・・」






 二日後、ジュードはシェランが入院したマイアミ市内の病院を訪れていた。シェランの事を尋ねる為にSLS本部に行くと、受付の女性がジュードの事を覚えていて、すぐに教えてくれたのだ。


 女性に花など買ったことのないジュードだったが、途中立ち寄った花屋で彼女のイメージにピッタリの花を見つけたのでそれを買った。純白のカサブランカだった。


 病院の案内所でシェランの入院している部屋を聞いて、そのドアの前に立つと、ジュードは緊張した顔でノックした。


 シェランはまだ身体を起こす事は出来ないようだが、目覚めていて、ジュードの姿を見ると嬉しそうに彼の名を呼んだ。


「よう、どうだ?怪我の調子は」

「うん。思ったより深かったみたいで、先生に怒られちゃったわ」


 それはそうだろうな。気を失うくらいだったんだから・・・。ジュードは苦笑いすると、ちょっと照れたように花をベッドのサイドテーブルの上に置いた。


「あんまり香りの強い花は駄目らしいけど、何となく・・・」

「ありがとう。カサブランカは大好きよ。香りも好き」


 彼女は嬉しそうに花に手を伸ばした。だが身体を横に向けることさえ出来ないようだ。その痛々しい姿にジュードの心はきゅっと締め付けられるようだった。


「背中を打ったと聞いたけど、本当に大丈夫なのか?」

「心配してくれるの?」

「当たり前だろ?友達・・・だし・・・」


 ジュードは少し赤くなってうつむいた。


「ありがとう。あなたがすぐにSLSに走ってくれたから、大事に至らずに済んだんですって。それに私は丈夫だから大丈夫よ。みんなには“鉄の女”って呼ばれているの」

「鉄の女?」


 どうもイメージじゃないなと思ったが、確かにアルガロンでレナを抱えて30メートルも下の海に飛び降りた姿はそれを連想させる。


「レナはすぐに良くなって親父さんの所に戻ったそうだよ」

「ええ、私の所にもお見舞いに来てくれたわ。それよりジュード。あなた家には戻らなかったの?合格発表まで2週間近くあるのに」


「他の奴等はみんな帰ったんだけど、オレは・・・もう家には帰らないって出てきたから・・・。だからもし落ちたら、こっちで仕事を探そうと思っているんだ」


 ジュードの様子に何か事情がありそうだとは思ったが、シェランは聞こうとはしなかった。


「落ちるって決めているの?」


「船ではみんなを奮い立たせなきゃと思って、合格発表後でもって言い方をしたけど、やっぱり難しいだろうな。オレ達は試験を途中ですっぽかしたようなもんだ。それはどんな事情があっても撤回は出来ない。今更ながら船にSLSの試験官が乗ってなかったことが悔やまれるよ」


「そうね・・・」


 シェランもジュードの言っていることが正しいと思ったのだろうか。病室に暗い空気が流れたが、ジュードはそれを振り払うように明るく笑った。


「でも、試験は楽しかったぜ。ショーンやジェイミー、エバやキャシー。いい友人に会えた。何かトラブル続きの一日だったけど、色々な事を教えられた気がする。きっとみんなも、これから別々の道を歩いたとしても、あの一日の事は忘れないと思う」


「うん・・・」


シェランも頷いた。


「シェラン、家は何処にあるんだ?」

「私はここよ。マイアミビーチに住んでいるの」

「そうか。じゃ、また会えるかな?」

「ええ、もちろん」



 シェランの笑顔を見てジュードは立ち上がった。ドアのノブに手を掛けて出て行こうとしたが、ふと手を止め、彼女を振り返らずに言った。


「シェラン。あの日、一番オレに色々な事を教えてくれたのは君だった。確率は凄く低いかもしれないけど、一緒に学べたら、嬉しいな・・・・」


 彼はものすごく照れている顔を見られたくなかったのか、そのまま出て行ってしまったので、シェランの輝くような笑顔を見る事はなかった。







 それから5日後、マイアミ市街の外れにあるモーテルの部屋で、求人のチラシを見ていたジュードの元に、コバルトブルーの封筒が届いた。SLSからの合否の知らせだった。


 彼はベッドの端に座って、封筒の隅に印刷された金色のSLSの文字をじっと見た後、決意したように封を切った。中に入っている白いカードを開くと、中にはたった一行、こう記されていた。


― 貴兄の入校を、心から歓迎する ―


「ィやった!」


 ジュードは両手を握り締めて思わず叫ぶと、ベッドの上に散らばった求人のチラシをかき集め、ゴミ箱の中に放り込んだ。






 それから更に一週間後は、SLSの訓練校で入校式が行なわれることになっていた。合格者は通知を受け取った後、寮へ入ることを許される。ジュードはすぐにモーテルを引き払って寮に入った。


 最終試験の日に同じチームになった仲間もみな入校式の前日には寮に入り、ジュードはこれから共に学ぶことになる仲間達と嬉しい再会をすることになった。


 そんなジュードにとってたった一つアンラッキーだったのは、あのケイ・アズマと同室だったことだ。入校式の前日に部屋で顔を合わせた2人は、一瞬で暖かいフロリダから南極に上陸してしまったように凍りついた。だがどんなに嫌でも部屋割りの変更など認められないだろう。何と言っても2人はチームメイトなのだから・・・。


「まっ、何とかなるさ」


 SLSに入学できたことでホットな気分のジュードは、そう思うことにした。





 入校式の朝、ジュードはショーンやジェイミーと待ち合わせて、共に式の会場に向かった。いつも明るいブルーのフロリダの空も、今日は一段と明るく見える。


 入校式は2週間前に皆で受験の説明を聞いたのと同じ、本館1階の大講堂だった。



 そこへ向かう道すがら、ジュードが「昨日一晩アズマと一緒に居て疲れ果てたよ・・・」と愚痴をこぼすとジェイミーが「お前なんかまだマシだよ。俺なんか2年生と同室だぜ。気を遣いまくって神経が磨り減ったよ。おまけに偉そうだしさ」と泣き言を言ったので、それは大変そうだなとジュードとショーンは顔を見合わせた。




 大講堂に入って一番に彼等を驚かせたのは、たった40名余りしか合格者が居ないことだった。試験の前にショーンが半分は落とされると言ったが、半分どころか8つあったチームはわずか3チームになっている。


 両側の壁際には1年生を取り囲むようにして2年生と3年生が座っているが、彼等も同じ3チームずつしかなかった。




 そしてさらに彼等を驚かせることが起こった。ジュードが自分の席に向かっていくと、待ちかねたようにエバとキャシーがやって来た。


「ちょっと、どういう事なのよ。ジュード」


 いきなりエバが怒ったように切り出した。めでたい入校の日に何をそんなに怒っているのだろうと思っていると、今度はキャシーが泣きそうな顔をして言った。


「シェランが・・・居ないの・・・」

「居ないって、他の奴等は全員揃っているぜ?その内来るんじゃないのか?」


 面食らったように答えたジュードに、エバとキャシーはうつむいて首を振った。


「違うわ。彼女の座るはずの席に・・・名前が無いのよ」

「何だって?」



 席の順は最終試験の日と同じ、彼女達の席はチームの真ん中辺りであったので、机の右端にシェランの名前だけ貼られていないのは何か不自然で、チームに穴が開いたように誰もが感じた。

 

 まさか、傷の具合が悪くて自分から辞退したんだろうか・・・。ジュードの頭の中に2週間前、病院で起き上がる事さえ出来なかったシェランの痛々しい姿が思い出された。


― 俺達の中で、ここにいるのが一番ふさわしいのは、彼女に違いないのに・・・ ―


 チームの誰もがそれを認めているだろう。入校式が始まっても、ジュードの心は暗く沈んでいた。





 ふと顔を上げると、丁度校長の話が始まる所だった。初めて会った時にも感じたが、ジュードは何故かこの校長には親しみを覚えていた。


― 貴兄の入校を心から歓迎する ― という粋な文章も彼が考えたのだろうか。



「おめでとう、諸君。今日は君達の人生の中で最高の一日になったんじゃないかな?君達に入校後の説明をするのはこの後、君達の担任になる教官に任せるとして、私はまず、君達に謝らなければならない事がある」


 校長の言葉に新入生達は皆、何の事だろうと不思議そうな顔をした。



「君達のようなまだ海に不慣れな人間を、ただ“全ての指示は無線を通して行なわれる”という言葉だけで、海に送り出してしまった事だ。君達にとってはとても不安な船出だっただろう。2週間前、君達に言った言葉を覚えているか?私はある程度の実力を見せてくれと言った。


 そこに居た128名の受験生の中には多くの資格を持ち、賞賛すべき経歴を有する人間も数多く居ただろう。無論それは、これから君達がライフセーバーとして生きていく上で、役に立つ知識や経験に違いない。だが私の言った実力とは、そういった目に見えるものでは無いのだ」


 校長はそこで一息つくと、新入生達の顔をぐるりと見回した。


「ここに居るのはAチーム、Cチーム、Fチームの諸君だが、他のチームも同様、一度も無線での指示は行なわなかった。それどころか、Cチームの船は座礁。無線も一切使えず、SLSの乗組員はオロオロするばかりで役にも立たない。


 Fチームも同様にエンジントラブルで機関は一切機能せず、おまけに乗組員はどこかに消えてしまっていたんだったな?確かAチームもそうなるはずだったが、思わぬシージャックに遭ってしまい、乗組員は全員負傷、君たちは人質になってしまった」



 校長の話を聞いていた新入生たちは声も立てられずに互いに顔を見合わせた。まさか他のチームまで同じ目に遭っていたとは思いもしなかった。


「まあ、他のどのチームも皆同じで、あるチームはそのまま流されて、無人島に上陸したり、深い霧の中に連れて行かれて、計器も何もかも狂って、やっと出会った船は幽霊船だったりと大変だったようだが・・・・」



 それもこれも全てSLSが仕組んでいたに違いない。人の良さそうな顔をして、とんでもないタヌキ校長だ。その証拠に彼は大変だったようだが、と言いつつ、にやっと笑っていた。だが校長はそんな生徒達の反応など、全く気にも留めずに話を続けた。



「皆同様に窮地に立たされていた。遭難という・・・。人は誰しも普段の生活では有り得ない状況に陥るとパニックを起こすものだ。だが冷静に対処し、皆で協力し合えば、その危機的状況から脱出する術はある。私が見たかったのは、君達のその為の実力だ。持てる力を駆使し、争いになりそうな状況を落ち着いて対処し、全員で力を合わせる。それがいかに大切な事か・・・。


 残念な事に他のチームは、あるチームは分裂し、小さなグループを作り、別々のやり方で脱出しようと試みた。結果、誰一人戻る事は出来なかった。無人島に降り立ったチームは、誰がチームのリーダーになるかを力で決めようとし、SLSの救助隊が到着した時には、半数以上の男子が血まみれで即病院送りだ。


 だがAチームは、無線が一切使えない状況でありながら自分達の身を省みず、石油採掘場での危険な火災に立ち向かい、要救助者の救助及び搬送を行い、多くの人命を救った。


C、Fチームも殴り合いの喧嘩が始まってもおかしくない程、心理的に追い詰められた状況で、一度も争わず互いに協力し、励まし合ってここに戻って来た。それがいかに見事な事なのか、君達には分かるかい?私は私の生徒である君達に、惜しみない拍手を送りたい」




 校長の言葉に答えるように、周りで彼等を見守っている2,3年生や教官達から拍手が沸き起こった。その拍手の中で新一年生達はいかに誇らしげな顔をしていただろう。ジュードも隣に居るショーンや後ろに座っているサムやダグラスと笑いながら頷き合った。


「では、これから君たちはAチーム、Bチーム、Cチームと新しい名で呼ばれる事になるのだが、そんな君達の担任となる教官を紹介しておこう。まずCチームの担当教官、ロビー・フロスト教官だ」


 ロビー・フロストの名前を聞いた時、何故か新Cチームのメンバーがざわめいた。


「何でCチームからなんだ?こういうのは普通Aチームからだろ?」


 ショーンが耳元で囁いたので、ジュードは軽く答えた。


「ああ、それでみんながざわめいているのか。多分Cチームが一番成績が良かったんじゃないのか?」




 上段の端にある青いカーテンの陰から現れた男は、色が浅黒く、がっしりとした厚い胸と太い腕がいかにもライフセーバーを思わせる体格で、彼はにやっと笑うと、その性格を表す様な真っ黒い剛毛をボサボサとかきながら、一番右端に座っているCチームの前に立った。


「すまんな、お前等。俺がCチームの教官だ。重に機動救難士の授業を受け持つ。まっ、言いたいことも色々あるだろうが、これから3年間、宜しく頼む」


 何だか妙な自己紹介だな・・・と思っていると、Cチームから拍手が沸き起こった。どうやら彼は今の挨拶で彼等のハートを掴んだようだ。



 次に現れたBチームの教官を見て、ジュードは思わず「あっ」と小さく叫んだ。シェランをSLSの本部に運び込んだ時、ジュードに“よく頑張ったね。ありがとう”と言った男だったからだ。


 彼はCチームのフロストと比べると、肌の色が小麦色なのを除き、全く正反対の雰囲気を持っていた。


 さわやかに揺れる金色の長い髪と薄いブルーの瞳はライフセーバーというよりサーフボーダーのようで、どちらかというと、女性に人気のあるタイプだろう。案の定エバは隣のキャシーに「ハンサムね」と囁いた。



「クリストファー・エレミスです。僕は一般なので、主に臨床救急医学などの授業に携わる事になります。君達もCチーム同様、色々言いたいこともあるだろうが、それはまた飲みに行った時にでもゆっくり聞こう。もちろん僕のおごりだ」


 最後の一言が聞いたのか、Bチームからも拍手が起こった。それにしても何故みんな“言いたいことがある”と言うのだろう。


 クリスは拍手をしたり、口笛を吹き鳴らしているBチームの生徒の顔を満遍なく見回して満足げに微笑むと、反対側のカーテンに手を差し伸べた。


「では、Aチームの教官を紹介しよう。ライフセーバーの中のライフセーバー。潜水士の中の潜水士。僕なんかとてもこの人には敵わない。みんなには大佐って呼ばれてる。大佐、何をやっているんだ?君のAチームが待っているぞ」


「もう、クリス。生徒の前でその名で呼ばないでって言っているでしょう?」




 カーテンの向こうから響いてきた声に、Aチームはハッとして顔を上げた。大佐と呼ばれた人物はどうやら遅れて来ていたのか、慌てたように壇上に出てきた。あっけにとられたように上を見上げるAチーム。ジュードは「ウソだろ?」と呟きながら頭を抱え込んだ。



「あっ、シェルリーヌ・ミューラーです。みんなには大変なことに巻き込んじゃって本当に悪かったと思っているわ。それにみんなを騙すような事をしてしまって。でもみんなとっても素晴らしかったわ。あなた達Aチームの教官になれてとっても嬉しい。みんな、本当におめでとう!頑張って一人も落第せずに卒業しましょうね!」



 新入生達は最後の一言が妙に気になった。そんなに落第率が高いのだろうか・・・?


 そしてAチームには何故2つのチームが教官を見てざわめいていたのかがやっと分かった。BとCチームの教官も、シェランと同じく受験生としてチームに入り込んでいたのだ。それは言いたい事もあるだろう。だが、クリスもロビーもシェランと同じように彼等の仲間として受け入れられていたのだ。


 きっと試験官としてだけでなく、仲間としてじっと彼等を見守っていたに違いない。それがあの拍手の意味だと考えながらジュードはシェランを見上げた。


「あーあ、せっかく恋に目覚めたってのに、残念だったな、ジュード」


 後ろの席からニヤッと笑いながらサムが顔を覗かせた。


「は?何の事だ?」

「相手が教官じゃなぁ。泣くなよ。男は失恋によって成長するんだ」

 

 サムの隣のピートも顔を出して片目を閉じた。


「はぁ?何言ってるんだ?お前等。誰が誰に恋してるって?」

「とぼけるなよ。気を失った彼女を抱き上げて『オレが本部に連れて行く!』って走って行った姿は、正に愛する女を守る男だったよなぁ・・・」


「あ・・あ、あ、あれは・・・・」


 ジュードは爪の先まで真っ赤にしながら反論した。


「だって手に血がべっとりだったし、側に居たのはオレだったし・・・」


 年上のチームメイトにからかわれているジュードの隣から、ショーンはにっこり笑って彼の肩を軽く叩いた。


「うんうん、分かってるって。俺は応援してるからな」

「ショーンまで何言ってるんだよ!オレはな・・・!」


 彼等のおしゃべりは、壇上のシェランの一喝によって収まった。


「こらっ、そこ!うるさいわよ。ジュード・マクゴナガルとその一味。あなたたちは覚悟しなさいよ。全くの無資格のあなた達には、山のように取らなきゃならない授業と資格があるのよ。私達がみっちり鍛えてあげるから、覚悟なさい!」


 うるさいチームメイトにうんざりしていたアズマは“ザマーミロ”という顔でにんまりと笑ったが、実は彼も無資格だった。


 会場中に響き渡る人々の笑いの中、5人は小さくなって呟いた。


「一味だって・・・」

「どうせ無資格だよ!」

とピートとサム。


「俺は無資格じゃないのに・・・」

「あの人に言わせりゃ持っている内に入らないんだろう」


 恥ずかしそうにむくれているショーンにダグラスが溜息混じりに答えた。


「くそーっ、シェランめ。見てろよ?山のように資格とって3年後には“あっ!”って言わせてやるからな!」


 ジュードの目標は決まったようである。





読んでくださってありがとうございました。

次はいよいよジュードの訓練校ライフが始まります。第2部は『試練』・・・え?入校していきなり試練すか?って感じですが、良かったらゆっくり読んでやってくださいませ。



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